お父さんスピスピ
お月見の日、決まってススキを持ち帰るお父さん。いつもより早い帰宅に合わせてお母さんが夜ご飯と月見団子を作っている。
「おかえりなさい」
僕が花瓶を差し出すと、お父さんはススキをそっと花瓶に挿した。
「ただいま」
―――スピスピ スピスピ
お父さんが鼻を鳴らし、料理の匂いを嗅いでいる。今日はカレーだ。
大盛りカレーと普通盛りカレーを二つ、テーブルに並べて夜ご飯。カレーの脇には妙な白い塊が置いてあった。
「お団子余ったからカレーに入れてみたわ」
―――グニグニ グニグニ
「母さん……これ、もしかして強力粉こねた?」
「えっ?」
「弾力が凄すぎて食べられない……」
「あら、ごめんなさい。作り直すわね」
お母さんが台所へと向かう。僕はその隙に今まで聞けなかった事をお父さんに聞いてみた。
「―――ねえねえお父さん?」
「ん? なんだい?」
「お月様に兎さんが居るって本当なの?」
するとお父さんは人差し指を口へ近付け僕に合図を送った。
「……内緒の話だぞ? いいか、今から父さんが話すことは誰にも言うなよ?」
「う、うん……」
僕は思わず頷いてしまった―――
「昔々、お月様には二匹の兎さんが住んでたんだ。二人はお餅をつくのが大好きでな、いつもお餅をペッタンコペッタンコしていたんだ。
『何だかお餅がべちゃべちゃするぞ?』
『あ、ごめん。これ白米だった……』
そんな感じで二人は楽しく毎日を過ごしてたんだ。
『地球を見ながら食べる餅は最高だなぁ』
『そうね……一度行ってみたいわね』
丁度時を同じくして、宇宙ロケットが月に着陸。二匹はこっそり宇宙ロケットへと忍び込み、地球へと遊びに着てしまいました♪
おしまい―――」
「……何それ」
「意外と現実なんてそんなものさ」
「……それで、その兎さんは今は何してるの?」
「今ごろ何処かで団子でも食べてるんじゃないか?」
「二人とも~、出来たわよ~♪」
台所からお母さんが現れ、出来たての月見団子が―――
「母さん、何故団子がべちゃべちゃしてるんだい?」
「えっ!?」
―――モグモグ
「あ、ごめんなさい。これすいとんだったわ……」
「仕方ない、今日は月見すいとん汁にするか」
お父さんは何故か嬉しそうにお母さんと台所へ歩いて行きました―――
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