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生まれ変わりは突然に

ーー俺は勇者になりたかった。


きっかけは親が連れって行ってくれた子供向けのヒーローショーだったと思う。

たった一人で大勢の敵と戦い苦戦しても最後には必ず勝利する、そんなヒーローに憧れた。

小さい頃から友達付き合いの下手な俺はいつも一人だった。

だからこそ、一人で何でもできるヒーローになりたいと思った。

ヒーローになれば一人でも寂しく無いと、そしてどんな苦難でも乗り越えられるだろうと。


そして、小学校に上がる頃にはゲームの、特に魔王を倒す勧善懲悪なRPGの勇者になりたいと思うようになっていた。

将来、勇者になるため身体を鍛え魔術や悪魔学の本を片っ端から読んだけど、竹刀では何も斬ることができなかったし、本に書かれた魔法で雷や炎は一度も現れなかった。

いくら探しても魔獣も魔王も見つからなかった。

中学、高校と上がりこの世界に魔王も勇者もいないという現実を知ると、またゲームへ没頭するようになった。

そして大学二年生の今、勇者になりきってゲームをして楽しんでいる。



『ーーーTHE ENDーーー』


勇壮な曲が終わり、スタート画面がテレビに映し出されている。

ここは某大学近隣にあるアパートの一室、そして俺の部屋だ。

テレビとベッド、そしてテーブルが置かれた簡素な部屋。

テーブルにはゲームソフトが乱雑に置かれ、空き缶が何本も転がり酷い有様だ。

ゴミ箱も空の弁当箱が山の様に高々と積まれている。


「ふぅ〜〜〜、疲れた。しかし、今作も面白かったな。今回の魔王は六回も変身するとは」


超大作RPGを終え、疲れた身体を癒すためベッドで横になり一息つく。

今月も既に四本いや四回も世界を救った。


「ちょっと世界を救うのにも疲れてきたな……」


真っ白な電灯の下で目頭を抑えマッサージをする。


「一体今日は何曜日なんだ……」


閉じたカーテンが外と遮断し、ゲームをやり始めてから何日経過したかわからない。


ベッドに投げ捨てられたスマフォで確認すると既に三日が経過していた。


『夏休みも後二週間か……』

残りの日数を逆算していると突然睡魔が強襲する。


「ふあぁぁ、さすがに眠くなってきたなぁ……」


まだ魔王から救わなければならない世界が三本もある。

寝ている暇はない。

眠気を追い出すためテーブルにある缶コーヒーを手に取ったが「カラン」と軽い音が響くだけ。


「はぁぁ、空じゃないか……」


のそのそと冷蔵庫のあるキッチンに向かう。

冷蔵庫にもコーヒーの予備が無かった。


「そろそろ買い物に行かないとダメか〜。めんどくさいな……」


引き篭もってゲーム三昧だったため、食料のストックはもう無い。



「しょうがない。コンビニに買い出しに行くか」


怠い身体を鼓舞して立ち上がり、テーブルの上を漁り部屋の鍵を取るとアパートを出た。



階段を降りながら空を見上げる。

外は新月なのか空には月も無く、いつもより暗い。

不意に自分の意思とは関係なく瞼が落ちていく。

ガクンと膝が曲がり階段を踏み外しかけた。


「ヤバイヤバい……、寝落ちかけた」


頰をパチンパチンと何度か叩く。


「な、なんで目が覚めない……ん……」


何度叩いても消えない睡魔。


「ど、どうなってる……」


睡魔に完敗し瞼は完全に閉じられた。




あれから何日いや何週間かもしれない時間が経過した。

なんで曖昧なのかと言えば、

今日、初めて見聞き出来るようになったからだ。

目覚めると、どういうわけか赤ちゃんになっていた。

なぜか俺は生まれ変わっていた。


現在、視界に映るのは、お茶を啜るツノが生えた老人と、獣人のメイド。

そして、ダークエルフのメイドもいる。


これは異世界転生でもしたのだろうか。


ーーもし、本当にそうだとしたら!


心の底から湧き上がる歓喜。

『やったぁぁ。これで俺は勇者になれるかもしれない!』

身体を自由に動かせていたら飛び跳ねていただろう。



「どうだ、我が子の様子は?」


突然、渋い男性の声が聞こえた。

我が子と言うことは、父親が部屋に来たのだろうか?

残念ながら俺の位置からは全く見えない。


「順調でございます。まだ赤子だというのに膨大な量の魔力を持っておりますな。兄弟の中でも突出しておりますぞ。これは将来が楽しみですな。フォッフォッフォッ」


茶を啜ってた白髭の爺さんが品良く笑う。


父は「そうかそうか」と朗らかに笑い、そして続けて言った。


「それは楽しみだ。次代の魔王も安泰というわけだな」


「おぎゃぁぁおぎゃぁぁぁぁ(ま、魔王だとぉぉぉぉぉぉぉ)‼︎」


俺の絶叫(泣き声)が部屋にこだました。

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