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第六話「買い物・寄り道」

 


【さくら視点】


 春臣さんは急にムスリとして口数が少なくなってしまった。

 別に茶化すつもりはなかったんだけど、やっぱり茶化したんだと思われたかな……?


 でも、彼なりに真剣に考えて書いてくれたんだろうと思うからこそ、やけに滑稽に思えてしまうのよね。


「冷蔵庫、あまり食材が入ってないんですね?」


 私はとりあえず何処に何が収納されているのかのチェックと、冷蔵庫の中の食材チェックをしていた。

 春臣さん、ムスリ中だったし。


「そうなんです。日曜日は比較的冷蔵庫の中身が寂しくなるんですよ。そうしましたら、今から買い出しに行きましょうか?」

「そうしましょう。この辺のスーパーだったり見ておきたいし、案内お願いします」


 機嫌が落ち着いたのか、やっと通常モードに戻ったみたい、春臣さん。


 ☆☆☆


「こんにちはー」

「こんにちは」「こんにちは」


 マンションの入り口で同じマンションの住人とすれ違った。

 明らかに主婦って感じの若い女性だ。

 彼女はアイコンタクトで「ちょっとあなた、彼とはどう言う関係なの?」と私に告げて来る。

 私は「今日採用されたハウスキーパーですー」と、胸を張ってアイコンタクトで返しておいた。

 32回も不採用を経験しているだけに、今日という日が実に清々しい。


「少し歩きますが、ついでだからスーパー以外にこの辺を見て回りましょうか?」

「はい、お願いします!」


 とは言いつつも、180センチ程の長身の春臣さんの歩幅は大きい。

 154センチのちょこまかした歩きでは意外とついていくのが大変だ。

 小春日和も手伝って私の額には薄っすらと汗が浮いている。


「ここのお団子は意外と美味しいんですよ。やっぱり手作りだと食感が全然違うんですよね」


 こじんまりとした和菓子屋さんを指差しながら話す春臣さん。

 確か好きなものリストのスイーツ部門に、みたらし団子がランクインしてたな。

 うん。このお店、覚えておこう。


『あらあらあらあら、テレビで見てますよー。ちょっと中で食べてってくださいなー』

『ありがとうございます、今日はぶらぶら途中下車と言う番組のロケなんです。カメラは回して大丈夫ですか?』

『勿論よー。でも私は映さないでね。さくらちゃんより綺麗に映ったらマズイでしょー? あはははー』

『あー、これって野咲春臣さんのサインじゃないですかー!』

『あら、さくらちゃん野咲さんのファンだった? ほらほら、これよこれよ。これがあの野咲春臣を唸らせたみたらし団子よー! さくらちゃんもきっと唸るからねー』

『うわぁ、美味しそー。じゃあ早速いただきますね!』

『ああ、そんなに慌てて食べたら餡が落ちるわよ?』

『んーっ、ままままむめもいひぃー!』(んーっ、柔らかくて美味しー!)赤字テロップ


「食べて行きますか?」

「え?!」


 私の美味しい顔のアップから一転、次のカットでいきなり春臣さんのアップに切り替わっていた。

 いや、あれは架空の番組だ。

 目の前で春臣さんが「見えてる?」とばかりに手を振りながら笑っている。

 見えてますとも。今は。

 私の口の横には招き猫のようにみたらし団子を持ったままの右手があるけど。って言うか、お店の真ん前にいるんだな、私。


 またやってしまった……。


「いえ、また今度でいいです……」

「いや、そんな食べたそうな顔してたら放っておけませんよ。本当にここのみたらし団子は美味しいんで一本摘んで行きましょ?」

「すみません……」

「いえいえ、きっとさくらさんも美味しくて唸りますよ?」


 さっきの気さくなおばさんも言ってたよ……。

 しかし、実際朝から何も食べてなかったから嬉しい。

 でも、恥ずかしすぎる……。


「さ、早く入りましょう」

「あ、はい……」


 春臣さんに手を引かれてドキッとしてしまう。

 イケメンは罪作りな生き物だよ、全く。

 ゲイでもこんなにドキッとしてしまうんだから、ストレートのイケメンにこんなことされたら卒倒するな、私。


「あら、いらっしゃい。久しぶりねぇ?

 って今日は彼女連れじゃないのさっ! えー、とうとう独身生活も終わりを告げる日が来るのねー? なんだかおばちゃん嬉しくなってきたよう。ほらほら、今日はお代はいらないから二人でお食べ?」


 さっき見たおばさんだ。

 何気にお店の中にいるおばさんの顔を見ていたのだろうか……。


「いや、そんなんじゃないんですよ。ちゃんとお代は払いますからね?」


 春臣さんは笑いながらみたらし団子を受け取って、それを私に手渡してくれた。

 なんかいいかも。こう言うの。


「じゃあここでいただいちゃいますね?」

「ほらほら、彼女さん。そんなに慌てて食べたら餡が落ちるわよ? 逃げないんだからゆっくり食べなさいね?」


 デジャヴ?

 お腹が空いてたのでいただきますも言わずにパクついてしまった。

 しかし逃げないのはわかるけど、実際それどころじゃない。

 お団子が本当柔らかくて、この甘じょっぱい味付けの控えめな感じが絶妙なのだ。まさに何本でも食べられそう。

 飲み込んだら直ぐに次が欲しくなる。止まらない。


「でしょ?」

「…………」


 嬉しそうに見てくる春臣さんにアイコンタクトで大絶賛する。

 口の中が幸せいっぱいで言葉が話せない。


「ねえねえ、どこでこんな若い可愛い子を見つけたのさぁ?」

「いや、だからそんなんじゃないんですって……」


 春臣さんが頬を赤く染めている。

 私を持ち上げつつイケメンをこんな顔にさせるなんて、おばさんは団子作りだけでなくトークも一流ね。


「もう一本お食べ?」


 おばさんが新たなみたらし団子を差し出してくれる。

 気の利くところも最高。

 このお店、是非とも贔屓にしよう。


「まみまもうもまいまむ」(ありがとうございます)


 私は満面の笑みで遠慮なく受け取った。



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