第十八話「おもてなしdeアミーゴ」
またもやタイトル変更してますm(_ _)m
フォルダに表示し切れないので自分でも覚えられなかった笑
そして!
ブックマークが一つ増えておりました!
ありがとうございます!
【注意】
今回はさくらさんの妄想回ですのでいつもより長いです。
【さくら視点】
いやあ、目から鱗って出るのね?
それにやっぱり何をするにも一人より二人よね?
そして先輩には素直になんでも聞くのが一番よね?
それにしても本当、牛乳に感謝しなきゃだわ。
だって、あの特売の牛乳が無かったら蛍さんとは出会えてなかったんだもの。
今日は白い友達の日、牛乳記念日ね。
蛍さんの旦那さんと言うのは人が良いと言うか、ただ単に断れない人と言うか、とにかく会社の人だろうが学生時代の友達だろうが、家に来たいと言ったら連れて来てしまうそうで、飲み会の二次会で流れ込んで来たりも日常茶飯事だったそう。
今では二次会どころか一次会が蛍さんの家になりつつあるんだとか。
そんな急なお客さんのプロの蛍さんは、とてつもない経験による引き出しの持ち主だった。
正直、旦那さんの友達の気持ちがわかるような気がしたよ。
だって、聞いてるだけでも下手なお店行くより美味しそうなんだもん。
とりあえず蛍さんとは番号の交換とライン交換をした。
あれは後に振り返れば、私の人生にとって大きなターニングポイントになる歴史的な瞬間だったのかも知れない。
そのくらいの思いで手を震わせながら、ふるふるした。
まず蛍さんには、春臣さんがファション関係のお仕事をしていて、今夜はそのお友達が来るのだと伝えると、厳かにメガネのブリッジを押し上げ、神々しくレンズを光らせた。
「テーマが決まりました」
後光を発した蛍さんから出た言葉だ。
私が1時間以上も何も決まらずにスーパーをぐるぐるしていたにも関わらず、その言葉はほんの一瞬にして出てきたのだ。
次々と買い物カゴへ物を放り込む姿はまるで千手菩薩の如く。
沢山の手が蠢いているように迷いなく食材を入れて行った。
買い物はきっと10分もかかってない。
何を買えばいいのか、何が何処にあって、どの順番で買えばいいのかを、蛍さんの脳内コンピューターはあの一瞬で見事に弾き出したのだ。
私が驚きのあまりその買い物スタイルを褒めると、蛍さんは事も無げに、
「主婦は時間との勝負です」
と、煌びやかにメガネを持ち上げた。
私も伊達メガネをかけようと思ったくらいカッコよかった。
実際、帰りに買ってきた。
蛍さんモデルの大きめのヤツ。
そして今だ。
今は既に蛍さんとも別れ、春臣さんのマンションに帰って来ている。
そして、ついさっきから引っ切り無しに、ピロロリン、ピロロリン、ピロロリンと、ラインの着信音が鳴り響いている。
それは、各レシピとともに蛍さんが自撮りしたムービーメッセージ。
ムービーは後で見返して料理の手際に無駄がないかチェックするそうで、毎回撮っているのだとか。
凄まじい限りのプロ意識だ。
これから私は蛍さんにおんぶに抱っこのおもてなし料理に取りかかる。
ここまでしてもらって失敗は許されない。
私はゆっくりと黒縁メガネを装着する。
『蛍とー!』
『さくらのー!』
『『メガネごはーん!』』
『いやー、まさか蛍さんとこんな番組が持てるだなんて、私、このメガネ買って本当に良かったですー』
『さくらさん、メガネを買っただけでは番組なんて持てませんよ。さくらさんの境遇とおもてなし料理に対する熱意が、こんな素敵な番組を実現させたんですよ!』
『いやいや、私なんて……。もう料理は蛍さんの足元にも及びませんので、しゃべくり担当で頑張りたいと思います!』
『私だってしゃべくりには自信があるんですよ? だから今度さくしゃべにも呼んでくださいね?』
『もー、蛍さんったら他局の番宣しないでくださいよー。今日は蛍とさくらのメガネごはんの初回なんですからね!』
『うふふ、そうでしたね。二人でこのメガネ、流行らせましょうね?』
『いやいや、メガネの番組じゃ有りませんか……あ、メガネスイーパーさん、お待ちしてますよー! って、強引にスポンサー募集したところで、2人のメガネが仲良くお料理していく番組、ホタさくメガごはん、始まりますよー!』
『早速ですが、さくらさん。なんで世の男性は急に友達を家に呼ぶんですかね?』
『それなんですよ蛍さん。今日のテーマはまさにそれ。急なお客さんへのおもてなし料理なんです』
『そうでしたね、さくらさん。急なお客さんにも満足していただける、簡単で見栄えのするおもてなし料理でした!』
『とは言っても蛍さん。そんな都合のいい料理って本当にあるんですか?』
『ありすよー。まあお客様の好みにもよりますが、今日のところは少しオシャレな感じに持って行こうと思ってます』
『ほう、オシャレな感じですか?』
『ええ。さくらさんの旦那さんはデザイン関係のお仕事みたいですしね。そんな会社のお友達がいらっしゃるのならと考えたのが今日の料理です。題して、おもてなしdeアミーゴー! ……って、さくらさんもこう、拳を突き上げてですね……』
『あ、ごめんなさい。蛍さんが旦那さんとか言うから……。でもアミーゴってことはスペイン料理かなんかですかね?』
『するどい! そうなんです、さくらさん。スペインにはバル文化と言うものがありまして、ちょっとしたおつまみで一杯飲んではお店をハシゴするんですよ?』
『そ、そうなんですか……。でも私、お酒のおつまみってほとんど作ったことがないんですよね?』
『大丈夫です、さくらさん! おつまみと言ってもスペインではオリーブだけでも立派なおつまみなんです! 流石にオリーブだけでは番組になりませんので、今日は蛍の簡単タパスと鉄板メニューの締めのパエリアを作って行きますよー!』
『は、はい! このメガネに恥じないように張り切ってアシストして行きますねー!』
『ではさくらさん、早速そこの食材をどんどん出してください』
『あ、はい。生ハムにベーコン、マグロのお刺身とサーモン、クリームチーズにパルメジャーノレッジャーノ、プチトマトにキュウリ、パプリカにズッキーニ、マッシュルームに大葉とミョウガですか。他にもオリーブやらが色々ありますね?』
『はい。その色々が美味しいおつまみになるんですよー。ズッキーニはこうして長いまま薄くスライスしてっと。さくらさん、これを少しのオリーブオイルでソテーしといてくださいね。私はこっちでベーコンとパプリカをソテーしますね。そしてソテーしてる間に他の食材をピンチョス用に切って行きます……』
『手慣れたものですね、蛍さん』
『料理は手際が大切なんです、さくらさん。あ、軽くでいいですからね、少し焦げ目がついてしんなりする程度でいいですよ。あまり火を通し過ぎても食感が損なわれますから』
『は、はい……』
『では、こうして生ハムの上にピーラーで薄く削いだパルメジャーノレッジャーノと大葉を載せてクルクルと巻いて行きます。そうそう、さくらさんも同じ要領でサーモンにクリームチーズを塗って薄くスライスしたキュウリを載せてクルクルって……上手です、上手上手。綺麗に巻けたらこのつまようじで固定してくださいねー。ほら可愛いでしょー? その感じでどんどんクルクルして行きますよー』
『なんだか楽しいです!』
『でしょー? おもてなし料理は楽しく作ってこそですよー。ほら、さくらさん、そのズッキーニには塩胡椒してから、こうしてベーコンとパプリカを載せて包み込むようにして、最後にチュってつまようじですよー。そうそう、上手上手。あ、オリーブも一緒にチュってしちゃいましょうか?』
『なんだかゴージャスですね?』
『でしょー? 簡単なのに見栄えがしますでしょー? でもまだまだこれからですよ、さくらさん。そこのマグロのお刺身も生ハムと同じ要領で巻いてプチトマトも一緒にチュっと刺してくださいねー』
『巻き巻きクルクル巻き巻きクルクル……』
『このマッシュルームは耐熱皿に並べてっと……』
『それは巻き巻きしないんですね?』
『はい、これはアンチョビとベーコンを上にちょっと載せて、オリーブオイルをたっぷりかけておきます。あとは食べる前にオーブンで焼くだけなんですよ?』
『ほう。それもヤケに簡単ですね?』
『究極はこれですけどね?』
『あ、オリーブをつまようじに刺しただけのもアリなんですね?』
『アリもアリですよ。こうしたものがあってこそ他のおつまみが引き立つのです!』
『流石です……』
『ほら、そうこうしてるうちにいい感じにピンチョスが出来上がりましたね? 簡単でしょ?』
『はい。簡単だし、なんだかゴージャスです。巻き巻きの組み合わせを変えるだけで、こうも見た目が違って品数が多く見えるんですね?』
『それは言っちゃダメなヤツですよ、さくらさん』
『はい……』
『では締めのパエリア行きますよー』
『イエイっ、レッツ、アミーゴ!』
『らくらさん、そこはバモスと言いましょう』
『ラモス……?』
『なんでもありません。そこのお米を取ってください』
『はいはい、お米ですね……』
【あーあーあああああーあ、あーあーあああああー♪】
『今日は他人の財布と言うことで、ちょっと奮発して豪華な海鮮パエリアを作って行きますよー』
『あの迷いのない買い物はそう言うことだったんですか……』
『そんなことよりサフランを水に浸してくださいねー。その間に私はオリーブオイルで鷹の爪とニンニクを弱火で炒めで行きますー』
『あ、はい……。お米は研がなくていいんですか?』
『パエリアは研がなくていいんですよー。簡単ですねー。そしたらさくらさんは玉ねぎのみじん切りをお願いしますねー』
『あ、はい……』
『いい香りがしてきましたねー。こうして鷹の爪とニンニクの香りが移ったところで、このハマグリと海老、イカ、タコを炒めて行きます。ウフフ。海の幸せな香りがたまりませんねー』
『このメガネ、玉ねぎのみじん切りに打ってつけです!』
『でしょー? メガネは大きければ大きいほど料理に役立つんですよー。って、ハマグリが口を開いてきたのでここで塩胡椒で味を整えますねー。そして馴染んだら一旦取り出します。そしたらさくらさん、その玉ねぎをこのフライパンへ入れてください』
『あ、はい。おっ、油跳ねにも有効なんですね、メガネ』
『でしょー? だから大きさが大事なんです、メガネは。うん、準備はこのくらいでいいでしょう。続きは食べる前にパパっとやってくださいね』
『パパっと……?』
『そうよ。あとはここにお米を入れて、お米が透き通ってきたら白ワインにサフラン水、ローリエ、それと塩もお好みで振りましょうかね。レモンを搾って5分ほど煮たら、この海鮮具材を綺麗に並べて蓋をして、水分がなくなるまで煮込めば出来上がりよ。ね、簡単でしょ?』
『簡単です! ありがとうございます、蛍さん!』
【あーあーあああああーあ、あーあーあああああー♪】
『じゃあ、ちょっとだけ試食しながらサングリアも作っちゃいましょうか? 冷蔵庫にしまったブルーベリーとラズベリー、オレンジを出してください』
『えっ、もしかしてデザートも作るんですか!?』
『サングリアはカクテルみたいなものですよ、さくらさん。女性のお客様もいらっしゃるのでしょ? それにサングリアだったら、お酒が苦手なさくらさんだってきっと美味しく飲めますよ?』
『ほう、サングリアはカクテルですか……』
『それに、デザートはこのヨーグルトをコーヒーフィルターでこうして漉しておけばいいんです。余ったベリー類と一緒に蜂蜜をかければとっても美味しいんですよ』
『そのまま冷蔵庫で漉すんですね……。それは簡単ですね……』
『はい。ではこの容器に適当にベリー類とカットしたオレンジを入れてくださいね』
『は、はい。ベリー類は丸々でいいんですね……』
『そうです、そこへお砂糖とシナモンスティックを入れて良く混ぜ合わせます。あとはこの赤ワインを注いで冷蔵庫へ入れておきましょう』
『これまた簡単なんですね……』
『でしょー? だから言ったじゃないですか、案外簡単なんだって!』
『す、凄いです、蛍さん! このホタさくメガごはん、絶対長寿番組になりますよ!』
【あーあーあああああーあ、あーあーあああああー♪】
『あ、これ美味しい!』
『本当は一晩くらい寝かせた方がいいんですが……。ま、さくらさんが気に入ったのなら、それはそれですね』
『はい、気に入りました、サングリア!』
『でも味見くらいにしときましょうね?』
『はい! でも美味しくて止まりません!』
『いやいや、それ、お客様用ですからね……』
『はい! 簡単だからもうちょっと作っておきます!』
『そう言う問題じゃ……』
【あーあーあああああーあ、あーあーあああああー♪】
【春臣視点】
「野咲さん、まだ連絡つかないんですか?」
「ま、まあ……」
「もしかしてそのハウスキーパーさん、余りにも無理なお願いしたから逃げ出しちゃったりして?」
「そ、そんな事はないと思うんだけど……」
さくらさん、どうしたんだろう。
事故にでも遭ったのか?
「とにかく、せっかく早く仕事を終わらせたんですから、とりあえず帰りましょうよ?」
「そうなんだけど……」
「帰ってみて何も用意されてなかったとしても、この時間だったらどうにでもなるじゃないですか?」
「た、確かに……」
理由は別にして確かに池谷さんは頑張ってくれた。
そのおかげであとは社長のチェックを待つだけの状態だ。
社長から夜中に呼び出される事を考えても、今日のところは早く帰った方がいい。
帰った方がいいのだが……。
さくらさん、何故に電話に出ない?




