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第十五話「成り行き」

タイトル変更しました。(前のも残してます)

長くてアレですがわかりやすいかと……^ ^:

また変えるかも知れませんがよろしくお願いします。

 


【春臣視点】


「野咲さん、電話鳴ってますよ?」

「ああ、ありがとう」


 池谷さんが机に置いてあったスマホを持って来てくれた。

 結構な音量で鳴っているにも関わらず、集中していたせいか全く気がつかなかった。

 それにしても恥ずかしいくらいに鳴っているな……。


 とにかく渡されたスマホを見ると『スムースサポート高木』と画面に出ていた。

 ハウスキーパーの会社の人だ。

 急に来週からの予定をキャンセルしてしまったから、きっと驚いたのだろう。

 なんとか引き止める営業の電話かも知れない……。


「悪いけどこの絵型、もう一部コピーしておいてくれる?」

「はい」


 池谷さんにはコピーを頼んで電話に出る。


「あ、野咲さん?!」

「はい。この度は……」

「困りますよ野咲さーん」

「いや、でも元々週単位でお願いする事になっていましたし、今までも出張の時とか……」

「そんな事を言ってるんじゃありませんよ!」


 なんだか予想に反したテンションだ。

 てっきり引き止める為に猫なで声で話して来るのかと思ったら、その真逆で最初からかなり怒り気味の声だった。


「奥さんがいるんならそれならそうと言ってくださいよ!」

「え?」

「えじゃないですよ、えじゃ。許婚だから言わなかったなんて理由もよしてくださいよ?

 ウチの秋葉から苦情が上がって来たんですよ。精神的苦痛に耐えられなかったってね?」

「…………」


 話が見えない。

 秋葉さんとはウチに来てくれているハウスキーパーだ。

 人を悪く言いたくないが、雑な仕事をする人なのであまり信用の置けない人でもあるが。

 って、それはわかる。

 しかし何故奥さんとか許婚とかの話になるんだ?


 あ……。


 さくらさんだ。


 そう言えばウチにはさくらさんがいたんだ。


 だとしても何でさくらさんがそんな嘘をつくんだ?


「秋葉が仕事している後ろにピタリとつきまとって、いちいち小言を言われたって言ってましたよ? それにね野咲さん。小言どころか目も鼻も効かない女だのと言われて、終いにはあなたみたいに汚らしい女に大切な旦那の食事を任せられないって、こっ酷く怒鳴りつけられた挙句無理矢理追い返されたって、泣きながら電話して来たんですからね」

「…………」

「ウチも人材不足でシフトの遣り繰りが厳しいんですよ。秋葉はそれなりに経験のあるベテランですし、これで辞められでもしたらどうしてくれるんですか?」

「す、すみません……。とにかく帰ってから事実確認をしまして、明日にでも改めてお電話を……」

「事実確認も何も、こう言っちゃなんですが、きっと奥さんはそんな事を言ってないとか言うんでしょうし、こんなのは言った言わないの水掛け論になるのが関の山ですよ」

「で、ではどうすれば……」

「どうするもこうするも、秋葉は精神的苦痛を訴えて暫く休むとまで言ってるんですよ。だから水曜と金曜は人を出せませんって話です。こっちは秋葉に来週も出てもらう為に今週いっぱいは休ませて、その分の給料を出してるんですからね。それでも人を出せなんて言わないでくださいよ!」

「い、いや、言いませんし、ちゃんと今週分のお支払いはします……」

「いや、それは…………そうですか?」

「はい。それに、そちらではきっと来週も予定を組んでくれていたのでしょうし、そのくらいはさせてください」

「請求してから不法請求だとか言ってくるのは無しにしてくださいよ?」

「そんな事はしませんし、必ずお支払いします」

「わかりました。野咲さんとは今までのお付き合いもありますし、その言葉を信用しますよ。とにかく、人は出せないって話ですのでね。お願いしますよ?」

「はい、わかりました。ではお支払いはしますので、どうか穏便にお願いします」


 高木さんは「はい、はい、はいー」と早く切りた気な声を上げて僕との通話を終えた。


「もしかして野咲さん、借金でもしてるんですか?」

「ん?」


 コピーから帰って来て池谷さんが、絵型を差し出しながら心配そうな声を上げた。

 確かに最後の方の会話だけ聞けば、そんな風に誤解されても仕方ないか。


「私、その借金、全額お貸し出来ると思いますよ?」

「あ、いや、違うんだよ。今の電話は借金とかの話じゃないから……」

「本当ですか……?」


 池谷さんは九州の実家が地主さんで、かなりお金持ちのお嬢様だと聞いた事がある。

 しかし金額も聞かないで全額貸せるだなんて、どれだけなんだよ……。


「嘘はやめてくださいね、野咲さん。端たお金のせいで野咲さんのオーラが霞むなんてありえないですから」

「オ、オーラですか……」

「はい。その手から今も出てます」


 池谷さんはちょっとこう言うところがある。

 入社して僕のアシスタントになった日、僕がデザイン画を修正しているところを見ながら「わぁーっ」っと妙な声を上げて、キラキラの目でオーラがどうとか言い出した少し変わった子なのだ。


 雅也は入社して来た彼女を見た途端、「あの女には気をつけろ」と僕に耳打ちして来た。

 そして彼女の実家がかなり裕福な家だと知ると、益々警戒するように忠告して来たのだ。

 なので特に彼女の前では僕の彼氏アピールが半端ない。

 さっきもそんな訳で、彼女に見せつけるように僕にベタベタして来たんだと思う。

 まあ、雅也がベタベタしてくるのはいつもの事だけど、彼女が見ている時はそれを如実に感じる。


「ま、まあ、オーラは置いといて、本当に借金なんてしてないんだよ。だから池谷さんも貸すとかそう言う事は考えなくていいから」

「はい。でもお金で済む事なら少しはお力になれますから、絶対に遠慮しないでくださいね?」

「遠慮も何も借金はしてませんから大丈夫です」


 いまいち伝わらないと言うか、ズレがあるんだよね。

 やっぱり歳の問題かね?


 そう言えばさくらさん、池谷さんと同い年だな。


 やっぱり一回り以上も違うと、感覚にズレがあって当たり前だよな。


 とりあえず一緒に暮らす事になったけど、さくらさんは大丈夫だろうか……。


「あ、ここに切り替え線を入れて別布使いになるんですね? このぐちゅぐちゅは何ですか?」

「ん? ああ……」


 池谷さんがコピーしてきた絵型にバリエーションを描き込んでいると、彼女は興味津々と言った様子で聞いてきた。


「そうそう。このニットを別布にしようと思って。ここはブレードかリボンテープをたたきつけようかなって。池谷さんはどう思う?」

「可愛いと思います! 私、絶対買います!」

「そ、そう? まあ、商品化されたら着てね?」


 彼女は家が資産家なだけに毎シーズン驚くほどウチの服を買う。

 入社前はラック買いするほどの相当な上顧客だったらしく、そこの店長が上顧客を奪われたと、直接社長に文句を言ったとの話があるくらいだ。

 そして彼女は今でも給料以上の買い物をしている。

 社販でプロパーの半額以下で買えるとは言え、最初はちょっとした小さなショップの仕入れのような買い方だったらしい。

 経理担当者が何かの間違いではないかと問い合わせて来たくらいで、今では社販も給料を上限にされている。それでも異常だが。

 しかし彼女の物欲は止まることを知らず、それ以外で欲しいものはプロパーで買っているのだ。

 会社にとってはありがたい存在だけど、普通では到底考えられない。


「じゃあ池谷さん、この生地をパタンナーさんに渡して部分縫いをお願いして来てくれる? あと、ブレードやリボンテープのサンプル帳と良さげな在庫があったらそれもお願い」

「わかりました!」

「え?」


 生地では無く、ガシリと僕の手を掴む池谷さん。


「知ってます? 野咲さん」

「な、何をですか……?」


 僕が聞き返すと池谷さんは何故か妖艶な笑みを浮かべる。


「山峰さんが女性と関係を持っている事です」

「きゅ、急に何言ってるんだよ。い、今は仕事中なんだからそんな事を話す時じゃないでしょ?」


 僕がスッと池谷さんの手を振り解きながら答えると、彼女は肩を竦めはしたが、悪びれもせず嬉しそうに笑った。


「すみません。そうでしたね、お仕事中ですもんね。でも、どうやらその反応を見る限り、野咲さんはご存知だったみたいなので少し安心しました」

「安心?」

「はい。ですから私、野咲さんの力になります」

「ど、どう言う事……?」


 池谷さんが妖艶に笑う。


「山峰さんもやってるんですから、野咲さんだって女遊びしていいと思うんです。ですから私、その相手に立候補します!」

「い、いや、だから今話すような事じゃないし、僕は雅也と違って女性とは……」


 確かに雅也は僕に隠れて女遊びをしているようなんだけど、それはある意味営業の一環なんだとも思っている。

 違うか?

 とにかく、だからと言って、僕が当て付けのように女遊びをするとか有り得ない。


「じゃあ今夜、お時間をもらえます? 一緒に飲みに行きましょうよ。私が知ってる山峰さんの情報もお話しますし」

「いや、今夜は雅也と約束があるんで……」

「野咲さん、分かってます? 野咲さんは山峰さんに浮気されてるんですよ?

 とにかく今夜の約束はキャンセルして私を優先してください!」

「いや、もうハウスキーパーさんに夕食の用意を頼んじゃったし……」

「だったらそれは私と一緒に食べればいいじゃないですか。私は別に野咲さんの家でも構いませんし、むしろ野咲さんのおウチに行ってみたいです」

「いや…………」


 池谷さんの目は本気だ。

 立候補は置いといて本気で心配してくれているのはわかる。

 なんだか妙な展開になってしまったな……。


「とにかく今は仕事しよ?」

「は、はい…………」


 生地を差し出すと池谷さんは顔を赤らめ、今度は普通に受け取ってくれた。

 自分でも唐突に変な事を言ってしまったと気づいたのだろうか。


「じゃあ、がんばって終わらせましょうね!」


 池谷さんはそう言って生地を手に部屋から出て行った。

 違うな。

 別に変な事を言ってしまったなんか、これっぽっちも思ってないな。

 彼女は僕が了承したとでも思ってそうだ……。


 それにしても雅也だよ。

 雅也が女遊びなんかしなければこんな事にはならなかったはずだ。


 そうだ。


 どうせなら一層の事、今夜の食事に池谷さんも招待するか。

 そうすれば池谷さんも雅也のフォローで諦めてくれるだろう。

 それに、雅也をとっちめる意味でもいいかも知れない。


 ただ、さくらさんにオープンにする事になるな?


 まあ、きっとその内気づく事だろうし、さくらさんも僕がゲイであれ安心して暮らせるだろう。


 雅也には悪いが、早速さくらさんに連絡しておこう。


 って、さくらさんにも悪いか……。



お読みくださりありがとうございました。

ウィークデーは毎日更新しようと思っていたのですが、これ以上他の作品を放置するのも忍びないので、今週からは不定期更新とさせていただきます。

とりあえずは他作を火、水と更新しますので、本作の続きは木曜日に更新します。



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