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第一話「聞いてないよ」

このお話は【春臣視点】【さくら視点】と、二人の主人公の視点で進んでいきます。


よろしくお願いします。

 


【春臣視点】


「ネコちゃんマークの引っ越しセンターですー。搬入に参りましたー」

「は?」


 インターホンのモニターにネコマークの帽子を被った茶髪の若い男が映っている。


「ウチ頼んでないんで、多分部屋番間違えてますよ?」

「え? マジかっ……。あ、申し訳ありませんでしたー」


 若い男はモニター越しに帽子を取って頭を下げた。

 きっとドジなバイトの子なんだろう。

「またやってしまった」って顔が間抜けで可笑しい。


 と思っていたら、またインターホンが鳴った。

 モニターにはさっきのネコ帽子の若い男だ。


「えーと、こちらは15Aの野咲のざき春臣はるおみさんのお宅ですよね?」

「そうですが……。野サキ、で、濁らないんですけどね」


 部屋番号も名前も間違いなくウチだ。

 モニターに映るネコ帽子の若い男はホッとしたような顔をしている。

 もしかして……。


「依頼主って誰になってます?」

「あ、野サキ、美冬みふゆさんですー」


 やっぱり母さんだ。

 何日か前に休みの日程を聞いてきたのはこう言う事か……。


 母さんは10年ほど前に父さんが死ぬと、東京の家をさっさと引き払い、生まれ育った北海道へと引っ越してしまった。

 毎年夕張メロンを送ってくれていた友達と仲良くやっていたのだ。

 ただ、その友達は心臓の病気で去年の暮れに亡くなってしまい、少し前まで母さんは酷く落ち込んでいた。

 そんな事があったので、寂しくて僕のところへ来ようと思ったのかも知れない。

 僕としては母さん来る事自体歓迎する。


 だけど急すぎだよ、母さん……。


 母さんなりのドッキリのつもりなのだろうか?



「さぁせん。これで搬入終了なんで、ここにサインお願いしますー」


 思いのほかあっさりとした荷物だった。

 大きめのダンボールケースが四つ。

 家具の類いはない。


 僕は3LDKのマンションに住んでいる。

 ローンで去年購入したのだ。

 ちなみに僕は今年36歳になる穢れなき独身男。

 そんじょそこいらの独身ではない。既に生涯独身を貫く覚悟を決めている。


 何の迷いも無く匠な技を見せる独身の職人だ。


 話を戻そう……。


 3LDKに一人は広いのかも知れないが、暮らしていればそれなりにスペースは埋まるものだ。

 アポなしで転がり込んでくる人をそう易々と受け入れられる状態ではない。

 なので、内心ヒヤヒヤしながら作業を見ていたのだ。


 どうするかな……。


 伝票にサインをして考える。

 もし母さんなりのドッキリだとすれば、下手に連絡せずに本人の登場を待つべきなのだろうか。

 ただ、母さんの事だからうっかりも考えられる。

 単純に連絡するのを忘れている可能性もあるのだ。


 しかし急すぎだよ、母さん……。


「ありがとうございました。では失礼しますー」


 ネコ帽子の若い男はもう一人の相方と一緒に帰って行った。

 楽な仕事だったからか嬉しそうにしている。

 こっちは自由すぎる母さんのせいで頭が痛いと言うのに。


「もしもし、母さん?」


 結局電話する事にした。

 電話をとった母さんの焦り気味な「あっ……」に、うっかりを確信する。


「僕に何か言う事あるでしょ?」

「そ、そうなのよ。ちょうど電話しようと思って、携帯を手にしたところだったのよ……」


 すっかり忘れていたっぽい。

 完全に声が裏返っている。


「母さんね。こんな大事な事、何の相談もせずに勝手に決めないでよね……」

「あ、もう届いた?」

「届いたよ……」


 ピンポーンと、インターホンが鳴る。


「もしかして、これ母さん?」

「何が?」

「まあいいや。またすぐかけ直すから……」


 母さんは素でわかってなかったようなので、とりあえず通話を終えてインターホンのモニターを覗く。


「どなた様ですか?」

「あ……え、はい。私、ま、町中まちなかさくらと申します……」


 モニターにはもじもじしながら黒髪を弄っている若い女の子が映っている。二十代前半くらいだろうか。


「えーと、町中さん……? 多分部屋番間違えてますよ?」

「えっ? ごめんなさいっ……」


 さっきも同じようなやり取りをしたな。


 そう思いながら母さんへ電話をかけ直そうとした時、またまたインターホンが鳴った。

 案の定、今さっき町中さくらと名乗った女の子だ。


「あのう……。こちらは15Aの野咲のさき春臣はるおみさんのお宅ですよね?」

「そうですが……」


 デジャヴだろうか。

 でも今度は濁らずちゃんと発音してたか。

 女の子は背負っていたリュックの中から手帳のような物を取り出し、それをカメラへかざしてみせた。

 それには僕の名前と住所どころか、メールアドレスと携帯電話の番号も書いてある。

 なんだこれは。個人情報ダダ漏れじゃないか……。


「今日から同居させていただく事になってます、町中さくらです。えーと……。もしかしてお母様からお聞きになられていませんか?」

「へ…………?」


 母さんから?


 今日から同居?


 ど、同居だとぉぉおおおお!?




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