挿話 忍ばない忍者の本命
修二視点です
東の国の端には小さな墓地がある。
「ただいま。待たせてごめんな…さてと、今回は報告することがたくさんあるんだ」
俺はこじんまりとした墓石の前に胡坐をかいて座ると語り掛ける。
ここには俺――修二・リィル・モンドの最愛の女性、その遺骨が埋まっているのだ。
ここに来ると俺は彼女だけの修二でいられる。
何かある度に俺はここに足を運び、近況を彼女に報告していた。
「面白い族長に会ったんだ、女の子でさ。馬鹿みたいに一生懸命で……お前みたいだったよ」
今の俺をみたら彼女はなんていうだろか、きっと「馬鹿は余計です!」って怒るかもしれない。
生前の彼女が頬を膨らませる姿が容易に想像できてしまう。けれど声まではもう思い出せない。彼女がいなくなってそれくらいの年月が経ってしまっているのだから、仕方ない事だろうけど。
彼女は黒髪が綺麗な少女だった。
俺がちょっかいをかけるとすぐに赤くなってムキになって、それがとても可愛かった。
「もし私が死んだら、修二はどうする?」
冗談で彼女がそう聞いてきたので俺は半分本気で「追いかける」と答えたら急にまじめな顔をして
「ダメ、絶対最後まで生きて」
と言われた。
まさかそれが現実になるなんてあの時は欠片も思っていなかったけど。
「こうして思い返してみると、お前はどこかで分かっていたのかもしれないな」
思い返せば欲しいものやしてほしい事はないかと聞いた時、彼女は特別なことを望んだりしなかった。
いつも微笑みながら手を繋いで歩くとか、ただ傍にいて話をしていたいだとか。当たり前にしていることしか望まなかった。
「お前、欲がないな」
そう言うと俺の手をぎゅっと握って彼女は笑う。
「当たり前がいつ終わるかなんて、わからないものよ。当たり前だと思っている事がいつ出来なくなるかわからない、だから出来る今を私は望むの。無欲なわけじゃないわ」
彼女は知っていた、当たり前の大切さを。
失うことがいつか来るかもしれないという事を。
「…感傷的になってんのかも知れないな、俺らしくもない」
墓石の前に一輪の花を供える。
今、ここに彼女はいないかもしれないけれど何処かで俺の声を聴いているだろう。
感傷的になっていたら怒られるかもしれない、きっと俺には聞こえないけれど。
怒ってから、心配して…下手したら泣かせてしまうかもしれない。
それは困る。彼女の泣き顔は可愛いけれど苦手なのだ。
「あんまり心配しなくていいぞ、俺は…ちゃんと生きてるから。何とかやってるから。だから俺が行くまで…あと何年か、何十年かわからないけど待っててくれ。会いに行くから」
そう言ってここには居ないかもしれない人間に笑いかける。
『えぇ、待ってるわ』
幻聴だろうか。
風に乗って彼女の声が聞こえた気がした。
久し振りに声を聴いた気がする、彼女の声はこんなに綺麗だったのか。
「じゃあ、またな」
そう呟いて墓地を後にする。
次は彼女の為に甘いものでも買ってこよう、そんな風に考えながら。
彼女が亡くなった時、修二は任務の為看取ることも葬儀にも参加できませんでした。
それがとても悔しくて、彼は懐にずっと彼女の遺品である髪飾りを入れていたりします。




