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星と雪の輪舞《ロンド》  作者: アドミラル
王国編 第一章 伝承の御子
9/21

学年首席

 質問攻めの嵐から用を足すからと抜け出し誰もいないであろう裏庭の芝生に横たわった。森の木漏れ日とは違い太陽が眩しく感じる


「あの……星帝様ですよね」


「あ、うん。というか星帝様じゃなくてセイでいいよ」


「そうですかではセイとお呼びしますね。私エコル・リーンといいます。見ての通り獣人です」


 茶色の髪からぴょこんと犬耳が出ていた。獣人は本でしか知らなかったから実物を見たのは初めてだ。でも確か獣人って魔法が苦手だったような


「めず「珍しいですよね。こうして獣人が魔法を使っているなんて」


「あぁ身体能力に優れた獣人はわざわざ魔法を使う必要がないからな。それに魔力を使うのだって人間に比べて上手くない」


 女は魔力・男は身体能力。それぞれ秀でて産まれてくるのは性別の特徴であり“この世界の常識”だ。そしてその常識に当てはめるのなら獣人は身体能力がとても高く魔力はとても低いとなる。その中でもエコルは女だから多少なりとも魔力はあるが人間に比べれば遥かに少なくまた魔力操作も格段に劣るだろう


 獣人は魔法を使わずとも強い。身体強化した人間と同じどころかそれ以上に動けるやつだっていると聞く。なぜエコルはそれなのに魔法学院にいるんだ


「そうなんです。だから私に魔法を教えてくれませんか?」

「いや俺は教えるというか感覚的に魔法を使ってるからなぁ。どっちかというとユキの方が教えるの上手いと思うけど」


「星帝のセイじゃないと駄目なんです」

「そりゃあまたなんでだ?」

「全帝様に勝ったと聞いたからです」


「まあ確かにそうだけど…俺から学んで何をしたいんだ?帝になりたいのか?全帝を倒したいのか」

「両方とも違います。でも私はこの国で随一の宮廷魔術士になりたいんです。でもその頂点には全帝様がいるから」


 宮廷魔術士をざっくりユキに解説してもらった時は国お抱えの公務に携わる魔法使い・魔術士のことを宮廷魔術士と言っていた。研究職や親衛隊など幅広くに仕事というのはあるがその頂点にいるのがあいつというわけだ。広く分類すると帝もこの宮廷魔術士となる


 帝はそれぞれ特別な役職を与えられるがあいつはさらに特別な宮廷総括担当の任を得ているらしい。なんだそれもうあいつが裏の王と言っても過言じゃねぇだろ



「宮廷魔術士になりたいから魔法を教えて欲しいと」

「はい」

「でもこの学校を出たら割と簡単になれそうな気がするけどそれは違うのか」


 エリートが集う王立魔法学院ならその先の進路としたそのような道が用意されていてもおかしくは無い。むしろここから人員を取りたいと思う人間も少なくはないだろう


「確かにそうですが…筆記などの試験の他に上級魔法を習得するのが最低レベルになります。普通この学校を出ていればひとつやふたつ覚えていてもおかしくは無いのですが」

「それが出来ないと」

「はい……」


 上級魔法は騎士レベルの奴らが使う魔法だ。俺やユキの魔法は独特すぎて分類がないけど五大属性や光属性になると難易度によって初級・中級・上級…その他諸々と分けられる。これはまあこういう場において基準になったり教えやすくなるために分けられているのだが


「どこまで出来る?」

「ファイアランスなら完全詠唱で出せます」


 ランスを完全詠唱って中級の入門みたいな魔法だぞ。全帝が無詠唱や詠唱破棄で出してたみたいに手軽に出せるから便利なところがある魔法なのに完全詠唱で何とか出せるとかちょっと前途多難すぎないか?



「とりあえず中級を何個かまともに出せるようにならないとな」

「そうですね……一応術式の構成と詠唱などは全てきちんと頭には入っているんですがどうしても発動が苦手で」


 全て?あの複雑怪奇な術式をすべて読み込んで頭の中に入れたっていうのか。どうしてまたそんな遠回りをしたんだ?極端な話ファイアウォールという名前を知らなくても炎の壁さえイメージ出来れば発動できるのが魔法なのにそれじゃあ鞄の製造方法を見てから鞄を使ってるのと同じ理屈だぞ。いや魔法が苦手な獣人故のことなのか?


「ちなみにウォールは出せるか?」

「ハ、ハンカチ程度なら可能かと」


 それもう壁じゃねぇだろ。ファイアハンカチじゃねえか何を守るんだそれで鼻水でも拭くのか?


「そもそも量はどうなんだ。練習しても枯れないほどあるのか?」

「魔力量はへ、平均並はあると思います」

「よしじゃあ今からスっからかんにしてくれ」

「ふぇ?」


──────


 ファイアボールなどを乱発させて魔力を減らさせる。しかし形も悪いし蛇行しながら飛んでいくし初級魔法も危ういな。大丈夫か?


「はぁ……もう無いです。これが練習ですか?」

「いや」

「じ、じゃあ何が」

「“まだある”」


「?」

「身体中からかき集めたらまだあるだろ。四肢に散りばめられた魔力を息があがった状態で集めるだけで恐らくハンカチからは進むだろうぜ」

「わかりました」

「集中だ。ジャムの瓶を想像してみろ。底が見えて空だと思っても精一杯こそぎとれば匙いっぱい分位は取れるはずだ」


「でもどうすれば」

「エコルがランスから進めないのはそこだよ。知識はあるんだ。でも理解してるだけじゃダメだ。身体の魔力をもっと細かく感じ取れ。魔力は血であり空気だ。身体の中に絶対存在してる。身体の中の残った魔力でウォールを詠唱するんだ」


「む、無理です。初級魔法ですら詠唱できる気がしません」

「まあ最初の授業だから手助けするよ」

「わわわっ」


「分かりやすく星の魔力を同調(シンクロ)させたからこれならいけるだろ?」


 ぱあっとエコルが煌めきだす。日が照らす時間では星はそんなに輝かないけど少し眩しいと思ったのかエコルは目をぱちくりとしていた


「ひとつひとつは小さいけどこんなにも光るなんて」

「ほら集めてみな」

「はい」


 光が集まっていく。もうないと思っていた魔力が一点に集中する


「そうそうそれでウォール詠唱」

「汝我を護る炎の盾とならん!ファイアウォール」


 及第点程ではないけどハンカチよりは大きな壁が出来ていた。こうして着実に進んでいけば上級魔法も視野に入ってくるだろう


「これが魔力を細かく感じるってことだ」

「すごい。これが帝の力」

「どうした?」

「自分で悩んでたことをこんなにも簡単に解決されて嬉しいのか悔しいのか分からなくなっちゃって」


「まあ帝だからな」

「すごいです」

「エコルが目指す頂点にいるんだから当然だよ。努力は裏切らないからさ。きっとエコルが信念を持って続ければ夢は叶うよ」



 俺はそういうことしか言えない。ただ自分の経験談からの言葉を伝えただけだ。それでもエコルは嬉しそうだった


「あぁいたいたセイ!もっとお話しようよ!」

「悪い。授業はまた今度な」

「はい。ありがとうございました」


 ミュレンに引っ張られるようにしてその場を後にしたがエコルは見えなくなるまで頭を下げていた。礼儀正しいんだなと感心する


「なんかいい雰囲気だったねー」

「そうか?」

「うん。なんだかこう師弟関係みたいな」

「普通に教えてもらってる生徒じゃないのか?」

「えぇ?なんだか私には親愛を感じちゃったんだけど」


 は?首を捻った。あれは尊敬とか憧れに近いような感情だと思う。帝って称号を盲目的に信じているだけだけに見える。教室に戻る道すがらエコルについて色々思考を巡らせた。騎士や従者のような礼儀正しさということ。そして次に感じたのはエコルの自信のなさ。これは元々の性格もあると思うが魔法に対しての自信がないのだ。そのせいでせっかくの知識があるのにその実力を発揮できていないように見える


「どうしたの難しい顔して」

「エコルは頭がいいか?」

「うん。学年首席だよ。座学じゃ誰も勝てないんじゃないかなぁ」


 なるほどやっぱり優秀らしい。しかしそれなのに何故あんなに生き急いでるというか自信が無いんだ。俺の知らない何かがあるのか。そんなことを考えながら歩いているといつの間にか教室に戻ってきて扉を開けるとすっかりユキに懐いたらしいルルがダミアンを尻目に仲良く喋っていた


「おまえら席につけ。授業を始めるぞ」


 今日の朝に俺を連れてきた教師ノーラが入ってきた。少し遅れるようにしてきたエコルが端の方に座り全員が席に着くと早速授業が始まった。今日の内容は属性ごとの特徴や性質などの基礎的な内容だ。この授業に関しては既に知っていることも多く復習のようなものだったがエルフとの違いも感じられ少しの学びにはなった気がした。初日の授業はあっという間に過ぎ夕暮れ時を迎えた


「そろそろ寮に戻るか。太陽が傾いてる」

「えー夜まで語らいたいのに」

「いやいやミュレンまた明日があるだろ」

「寮に戻ったらまた喋ろうね!」


「ったく喋り魔だな。また後でな」

「うん!また後で!」


 ダミアン達3人が手を振るのを俺達も手を振って見送る。この感情をあのジジイに見透かされてると思うとちょっと悔しいな



「ユキ。何か不満げだな」

「不満じゃないよ。ただ同年代の子とお喋りするのが初めてだから緊張して」

「あぁそうか。これがジジイのいってた友達とか仲間ってやつなんだな」

「うん。向こうではみんなものすごい年上だったもんね」

「不思議な感覚だ。見た目はあれでも俺たちと同じか」

「うん。何だかそれで混乱してるのかも」

「とりあえず俺たちも帰ってゆっくりしよう」


 まだ日は沈まないが影が長く伸びている。空を見上げると雲ひとつなく綺麗なオレンジ色に染まっていた。森にいた頃は木々の頂上からしか見えなかった日が建物の影に隠れようとしているのは何だか奇妙な感覚だった

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