星王 抜錨
一時的に障壁が解除されたので観覧の場所からひょいと飛び降りた。ユキと土帝の試合を見てて頭も少し冷静になったから万全で挑めそうだ
「お疲れ様」
「お兄ちゃん……Vrng」
伏し目で申し訳なさそうにするユキの頭を撫でる。あの時は第二段階を使わなければ負けていたのだから使って当然だ。むしろあの一瞬で判断して切り替えたその勇気を褒めたいくらいだしな
「いや大丈夫だ。ユキの性質からしてバレはしない」
「そうだといいけど……想像以上に王国の帝は手強いよ。お兄ちゃん頑張ってね」
「あぁ任せろ。ぶっ飛ばしてきてやる」
「誰をぶっ飛ばすって?」
「おめぇだよ。仮面野郎」
見上げる形になったが指をこまねいて神経を撫でてやった。怪しい雰囲気だし強い匂いもぷんぷんする。さぁなんの属性だ……?特殊属性は多分ないだろうから水以外なら攻撃し合いの殴り合いになるな
「まるで獣ね。まあいいわ……私は全帝。五大属性を統べしこの国で最も強い帝」
「奇遇だな。俺もエルフの国で一番強い」
いや待てぜ、全帝?おいおい五属性とは洒落になってないぞ。本来人は属性を一つしか持たない。それなのにそれの五倍を保有しているかつ王級を纏うということはそれら全てを極めているということだ。ほとんどの人間が王級まで到達できないのにそれらを五属性はもう人外の域と言っていい。まあ強ければ強いほど俺の星も輝くからむしろ張り合いがあるってもんだ
戦いの邪魔になるローブを脱ぎ捨てた全帝は矢継ぎ早に仮面を外す。その素顔を見て俺はおもわずは?という声が出てしまうほど驚いてしまった。二つ結びの銀髪に赤と青の虹彩異色症。歳もユキや俺と変わらないように見えるけど何より男だと思ってたからまさかまさか女だとは思わなかった。仮面で声が篭ってたからなのか
「最強を語る重さを教えてあげるわ。井戸の中の蛙は大いなる海を知らず溺れ死ぬのよ」
「はっ言ってろ。女だったのには若干驚いたけどな。魔法戦ならともかく俺はこれメインだから大丈夫かって心配してるんだぜ?」
右手を軽く突き出すとその威力に風切り音が鳴った。軽い挑発のつもりだったがあまり乗ってはこない
「別に私が女だとしてもあんたには勝てるわよ。それくらい私は強いんだから」
「じゃあ俺の方が強いって拳で語るしかないな。来い星王!」
右手を上げ全身を覆うようなイメージで魔力を纏い星の霊衣を編み上げる。何度纏おうとこの感覚だけはたまらない。溢れ出る力が星の輝きと共に霊衣から溢れ出ているからだ。ふぅと空気を吐き出しながら全帝を迎え撃つ構えをとった。胸の鼓動から駆け巡る血と魔力は高揚感で吹き上がりそうだ
「田舎者に世界の広さを教えてあげるわ。全王」
そう言って全帝が纏ったシャボンの表面のような虹色の霊衣は肩までしか布がないし背中の防御力が皆無の格好をしている。腰から下の丈も短めなところから攻撃しやすそうだなぁなんてことを考えてしまうがそれでもこの溢れ出る闘気がただ者でないと俺に教えてくれた。最強の証明が今始まる。王国最強のあいつとエルフ国最強の俺がその誇りを賭けるのだ
お互いに仕掛けない静寂が場を支配する。戦いの前のこの瞬間は言葉にできない。無駄にいきり立つ感情や力む身体を脱力させるようにまたひとつふぅと息を吐いた
「いくぜ?彗」
脱力からの全力の振り幅。彗星の移動魔法が周りの景色を引き伸ばし己の最高速で全帝へと迫る。一瞬見失って全帝は戸惑ったようだが即座に反応し既に迎撃用の魔法陣を何個か用意している。でもそれでは間に合わないだろう。苦し紛れに無詠唱で放ってきた各属性のバレットを走りながら回避し右拳を思い切り握りしめた
自分より速い人間にあったのことがないって顔だな。じゃあ夜空を瞬く星の煌めきを教えてやろう。この右拳は挨拶代わりだ受け取っておけ
「星王崩拳!」
俺は崩拳を星の魔力ごと全帝に打ち込む。右腕でかろうじて受けたみたいだが彗の速度も乗ってか俺の拳は五色の衣を持つ全帝を軽々と闘技場の壁へと吹き飛ばした。ドゴッッッと大きな音が鳴り響きそこに巻き上がる砂がその姿を覆い隠すが魔力に変化が見られない
案の定というか砂煙の中からぴんぴんとしてまるでなにかされましたかとばかりに全帝が現れた。さすがにこれで倒れるとは思ってなかったが傷一つないとはな。五属性の中で防御寄りの土と水が受けの役割を果たしているわけだ
「おっとこれは植物の枝に延々と拳をいなされた時以来の難敵かもな」
「ふふっ難敵ね。私は生まれてこの方本気を出したことがないの。その意味あなたに分かる? ボルテックフレア!」
背中に冷や汗か何かが伝ったのもつかの間二重魔法が目の前を覆うほどの大きさで襲いかかる。雷と火属性の二重魔法か。両方とも攻撃に優れた属性だしそれを混ぜてぶっぱなすとは堪らんな。飛び上がりで回避し右腕に魔力を集中させ金色に輝く星を作り出した
「本気出したことないとか言いながら災害レベルの魔法をブン投げやがってちょっとは謙遜しやがれ。新星!」
新星は超新星爆発のミニチュア再現魔法。サイズ的には各種属性の初級魔法くらいだが威力は段違いで圧縮された魔力が炸裂する力は当たれば大きな木くらいなら消し飛ばす。普段なら乱発しない技だがこの場ではその限りでは無い
「殴るしか能がないと思えば身体強化以外も普通に使えるのね。まあでもどうやら属性はひとつみたいだけど」
風属性で浮き上がって回避され全帝はやはり自分の方が上だと言わんばかりに見下しながら鼻で笑う。今ので右腕に青筋が5個くらい出ちゃったよ。これ絶対てめぇにぶち込んでやるからな……
「あ? 基本属性“しか”使えないやつが何言ってんだ。俺の星の下にお前の五属性があるんだよ」
「口だけは回るようだしどうやら人の神経を逆撫でする才能はあるみたいね。バブルサンダー!」
今度は泡に雷を纏わせて連射してきやがった。雨みたいに振って来るが地面に落ちずにぷかぷかと浮かぶから視界を遮り設置魔法的な役割を果たしてやがる。最速で動くと当たってしまいそうだ。泡に当たらないように慎重に躱していく
その隙間から嫌がらせかの如く各属性のスピアが飛んでくるしウザったくて仕方ない。分類は中距離型ってところか?
「ちっ…基本属性だけとはいえ複合した魔法を合わせればかなりの攻撃パターンがありやがる」
「あら? 魔法だけだと思った?」
「てめぇ回り込んで……」
パリッっというその音に反応して視線を下に向けた時にはもう懐に潜り込まれていた。これは雷属性の移動魔法!ちくしょう泡やスピアは陽動でこれが本命か。わざわざ泡の向こうからランスを放ってきていたのは“向こうにいる”と思わせるためだったんだな。くそっ戦闘の基本を忘れるなんて俺の大馬鹿野郎が。煽っていたと思ってたら口車にのせられていた……!
「ボルテックスエンチャント。少しばかり痺れるわよ?シュート!」
魔力によって強化された回し蹴りが腹にクリーンヒットし受身を取れず地面を転がされた玉のように何度かバウンドする。およそ細身かつ女が蹴ったとは思えない威力で、思わずせり上がってきた口の中の血を吐き出した
「かはっ」
「終わりよ。真球」
砂埃をはらいながら上を見上げるが宙に浮く全帝の手におさまっている初級魔法程度の玉とそれを取り囲む五重魔法陣に瞳孔がぐっと開くのを感じる。新星なんて比じゃないものすごい魔力密度だ。“あんなものはこの世に存在してはいけない”そう思えるくらいにヤバい術式だ。これですらあいつがまだ本気でないとするといよいよ俺もやばくなってくる
「これは当たるとマズイな。彗!」
「また消えた!?」
「こっちだ。星王天斬!」
彗の速度には一瞬反応出来ない事が分かっていたから出来た背中に回り込んでの浴びせ落とし。これで終わりと言っていた通り油断しきっていたし、かなり効いただろう。あと予備に回していた魔力も少し使ってしまったが致し方ない。ずっと見下ろしてやがったから見事に叩き落としてやったよ。どうだ?地面の味は
「けほっけほっ……痛っ」
「さっきまでの余裕はどうした?本気を出したことがないんじゃないのか?」




