土帝対ユキ
光帝に連れられ城の地下へと来た。城にあるのに豪華絢爛とはとても言えない寂れた闘技場だが壁の削れや穴が歴戦を物語る。しかし王宮にこんな場があったとは驚きだな。まあ常態的に使われてるわけじゃなさそうだ。ところどころ埃をかぶった部分があるしな。ふっと掠め取った埃を吹き飛ばして手頃なところに腰を掛けた。すると光帝も魔力障壁を貼り終えたのか俺と同じように座り込んだ。何も目の前にないように見えるがこちらに最上級魔法を放ったとしても霧散するようにしてあるだろう。その障壁に協力していたはずの仮面をつけた奴は何故か立ったままでいた。不気味だな何を考えてやがる
「土帝エルデじゃ。わしはあまり戦いは好かん。戦は人の愚かな行為の極みじゃ」
「ユキといいます。私も戦いは好きではないです。白が赤に染まるのなんて見たくありませんから」
「しかし戦わないわけにもいかん。それが帝の選抜じゃからのぉ。地の精ノームよ土王」
俺たちは特殊な帝のなり方だが形式上このような帝選抜はやらなければならないのだろう。そうしないと王級が使えるかも分からないし戦力としても数えられないしな。まあ協定を把握してる以上は力の度合いを測っておかないとってところか?
白く美しいユキの髪の毛がゆらゆらと揺れ表情がどんどん引き締まる。そんなユキに比例していくように土帝の魔力が上がっていく。これはあの2人が魔力障壁を貼ったのも当然と言えるな。こんなの普通に野放しにしてたら地響きが王宮に響き渡り続けるぞ。そのくらい魔力が高い
「雪王来て。Knn ch d zwt S bntzn?(お兄ちゃん。あれは使っていいの?)」
「王国語じゃない言葉で喋るとは2人の出身からしてエルフ語かの。どうやらエルフ国の伝承の御子は御伽噺じゃなかったようじゃな。ほほっ長生きとはしてみるものじゃ」
“あれ”は多分俺たちしか知りえない情報だろう。大っぴらにするにはあまりに怖すぎる。どうしても使わないといけないならそれはかなりピンチの時以外ありえない
「S dürfn jdch d zwt S ncht vrwndn(ユキ。あれはまだ使うな)」
ユキはコクりと首を縦に振った。喋らなかったあたりここから先は戦うからということだろう
“王級”を纏った土帝とユキが静かに対峙している。属性魔法の極地であるこの王級は限られた者にしかなれない姿だ。これこそ“帝”の条件であり属性魔法を極めた証。緻密な魔力操作と膨大な量の魔力を操り精霊の衣を編み上げるこの魔法は術者に驚異的なまでの力をもたらすのだ。
さらに不思議なところがありこの王級の霊衣は服の上から纏うというか服を上書きして存在する不思議な衣だ。全身を覆う鎧を着ていたとしても霊衣を纏えばその形になるし肌も出る。王級の謎の一つだが何故服が消えてその上から霊衣が纏われるのかエルフですら知らないらしい。
薄く透けて白い肌が見えるレースドレスをたなびかせるユキと鎧とローブを合体させたような錆色の霊衣を纏った土帝は静かに佇んでいる。水が貼られた杯に波紋が無いようにひたすら揺らぎのない空間が続く
「そのような王級は見たことがないが…おそらくそれが雪属性なんじゃろう。ではまずこれで手遊びじゃ創成 ゴーレム」
「いきます!雪魔法 ゴーレム」
両者のゴーレムが複数体対峙する光景は巨人大戦のようだ。まあこんな風に物を創り出すのは土と雪の名の通りお互いにお手の物だろう。基本属性の中で魔力に形を持たせて纏う身体強化がやりやすいのは土と言われているがそれは土がイメージとして掴みやすいからだ。元々形があるものにイメージを乗せるのは別に難しいことではないしそれはそのままこのゴーレム戦にも直結する話だ。想像しやすい分詠唱や魔力消費など術者の負担が減るというのならそれだけで属性間の有利が取れているとも言える。
ここでの2人の差はそのイメージの差と言うより土と雪では少しだけ魔法の仕組みが違うところだろう。土は創成土から作れるものを創り出す魔法だが、ユキの雪魔法は雪で再現できるものを何でもコピーして出す力だ。どこか差がなく同じに見えるが似ているようで違う。その差が今ここで分かるだろう
「土塊よ」
「雪塊よ」
「「動け!!」」
ゴツゴツとして強そうに見える土帝の生み出したゴーレム達はユキの出したゴーレムに殴りかかるが全て避けられあるいは受け止められていた。ユキの作ったゴーレムは土帝のゴーレムに比べると小さく動きも少し遅い。しかしユキの作り出したゴーレムには細かく指示を出されているように見えた。まるで自分の手足のように操っているのだ。大駒としてゴーレムを使う土帝と人形として使うユキのどちらが優れているのかという勝負になっている
この場自体が震えているような音がゴーレムが衝突する事に鳴り響く。多角的な視野でゴーレムを見つつ相手からの魔法攻撃も防がなければならないというのはかなり困難なはずだ。しかもそれに加えて自分から攻撃するのに詠唱もしなくちゃならないし格闘戦のような殴り合いの感じではないが、これは見た目以上に過酷なのだろう。土帝は岩の硬さでゴリ押ししているようにも見えるがユキは的確に土帝のゴーレムをあしらいながらその攻撃を防御したり避けたりとなかなか良い戦いをしている
「ジジイになると身体が動かんでかなわん。儂もゴーレムも歳をとった」
「その衰えともとれる発言。全盛期はどれほどの使い手だったのかが気になりますね」
「なに子供の頃の土遊びをそのまま続けているだけの事。軽く岩の雪崩じゃほれ」
「これが土遊びですか王国中の土魔法使いが泣いてしまいますね。スノウウォール」
「やりおるのぉマッドボム。からの創成ゴーレムスタンプじゃ潰れるがよい」
「避けたところの頭上に別の魔法を用意してるなんて!雪魔法 プロテクション」
上手い。ユキも膨大な数の戦闘を繰り返してはいるがそれ以上に相手の土帝が一歩先を行っている。能力や魔力や属性といった生まれ持ったものではなくただ純粋な積み上げた時間がものをいっているのだ。それをユキはどうにかしなくてはならない。
「雪魔法雪将軍 斬り伏せる一刀!」
「ぬぅ若いのにやるのぉラウンドロック!」
「雪…違う。スノウコフィン!」
雪将軍を一瞬にして作り上げるユキにも驚いたがそれを見るやいなや地面からいくつもの土の塔を生やして撃退する土帝にはさらに驚かされた。でもユキの反応はそれよりもよく崩れていたスノウゴーレムの破片から雪の棺を創り出し上手く土帝を閉じ込めたようだ。雪魔法で生み出すより周りにある雪塊を操作した方が早いと考えたのはユキのセンスが光ったな
「まだまだ甘いぞ小童ぁ」
「自分ごと叩くなんて信じられない力技ですね」
「ぬははまだ終わっとらんぞい」
土の手を作り出して合掌するように雪棺を叩き潰した。年寄りのじじいかと思えばこういう力ずくの戦い方してくるし、見ていて参考にはなるがユキのことを思えば少し頭が痛いな
「ええそうみたいですね。吹きすさべスノウブリザード!」
「土壁よ。さらにお返しの礫じゃほれ。たんまりとくらうが良い」
「まるで種機関銃のよう。やっぱり一筋縄じゃいかないなぁ」
そんなこと言いながら撃ち落としてんじゃねぇかユキ。咄嗟に雪玉を無詠唱でつくって礫に正確に当てるのもなかなかできることじゃねぇぞ。でもここからどう攻める?
「ほほうこれはどうじゃ。クエイク」
「雪魔法 竜の顎」
地ならしをゴーレムの残骸を踏み台にして空中に飛び上がることで回避し大樹をも噛み砕く竜の咬合弾を撃ち出した。空中での詠唱はリスクもあるし、不安定な場所でただでさえ狙いにくい。そのうえ回避後の不利な体勢となれば尚更に難しいのによく打ったな…変に気が強いというかユキの強かさには驚かされる
「竜の顎か……なるほどのぉ。連なる土の力よ我が求めるは巨なる岩なり ストーンヘンジ 」
「これだけの巨石を並べられたらさすがに貫けない。防御力は私負けてるかもしれません」
元が火属性の魔法だけあってあの魔法はそれだけ攻撃力があったはずだがそれ以上の防御魔法で無理やり止めやがった。あのジジイ防御力がありすぎる。俺と違って防御寄りのユキには少し分が悪いのか…?
「岩よ砂よ大地よ我が元へ集え ガイアインパクト」
「くっ詠唱が早くて間に合わない。雪魔法 スノウマン」
「逃がさんぞい。創成グランドハンマー」
雪だるまで上からの最上級魔法は防いだがそれによって横からきているグランドハンマーの逃げ場が塞がれている。たとえ今すぐシールドを創りだしたとしてもこれほどまでの魔法を防ぐことは出来ないだろう。うーん負けかこれは。ユキは遠距離で戦う前に封殺するタイプだしこういうサシの勝負は少し苦手にしてるのかもな。顔を伏せ諦めたかと思ったがもう一度顔を上げた。透き通るような白髪の前髪の奥。緋色の瞳が怪しく光る
「雪兎。時が凍る。全てが消える。私以外の全ての時間が」
ん!?待て!その詠唱は
「一体何が起きたと言うんじゃ」
「私の勝ちでいいですか?」
土帝の周りに数えられないほどの槍や槌が生成されている。脂汗か冷や汗か分からないが土帝の額を水滴がつーっと滴った。少しでも動けばこれがあなたに突き刺さるとユキは目で語りかけているようだ。はぁ…しかしあれを使っちまったかどう言い逃れるかな
「待っとくれこれに説明が」
「超高速で移動しただけだよ爺さん。もういいだろとっとと次を始めさせろ」
(超高速ですって?いいえあんなの時が止まった以外ありえない。土帝は“不動の要塞”と並んで王国の防御を担った御方。そんな人が反応すら出来ないなんて有りうるの?)
「では次は私が選抜を」
金髪の年増がしゃしゃり出てきたがそれを制止し仮面を被ったやつに向き直る
「てめぇは違うな。いちばん強いやつが出てこい」
お前強いだろ。わかるぜその魔力からしてあの爺さんやそこの金髪よりも格段に上だ
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Secret
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雪王の????による超常の力。雪の華が手に触れてから消えるまでの短く儚い時間。しかしその時間だけは誰もこの霊衣に触れることは出来ない




