死の行進
術式の維持でこれをやった犯人だけはここから逃れられていないはずだ。そいつを見つけて締めあげなくてはならない
「さてさて誰がっと……!?」
その死神の双眸が捉えているのはエコルだった。頭脳明晰であり座学で右に出るものはいないと言われるエコルならこの掟を知らないわけはない。間違いかそれとも誰かに仕組まれたかそう思いたかったのだが
「死神さん私の使い魔になってほしいんです」
少し笑いながら語りかけているその一言で俺の希望は全て砕け散った。その言葉は間違いでもなく誰かに仕組まれた訳でもない。自分がやりましたと言っている事に他ならないのだから
「なんでこんなことをしたんだ。お前ほど賢い奴なら禁忌を犯したらどうなるかぐらい分かってただろう」
エコルは乾いた笑みを浮かべながらこちらに視線を向ける。絶望と焦燥と虚無を含んだその瞳が俺を貫いた。なんて悲しい目をしてるんだ
「強くて困らないセイには分からないでしょうけど私は……強くならなくちゃいけないんです!獣人初のSクラスでみんなから両親から期待されて私は頑張って!でも私がどんなに頑張っても実技はみんなに追いつけなくて。座学だけの女って陰で言われてるのも知ってました。だからセイあなたに頼ろうと思ったんです。私と同じ歳なのにあなたは帝だったから!」
それはエコルの魂の咆哮なのだろう。声を震わせ目に涙をためもがき苦しんでいた。一般的に獣人は魔法が得意ではない。獣人は人間より身体能力は秀でているのだがその分魔力操作が劣っているのだ。人間だと魔力操作は手で裁縫をするという出来る人は出来るものが、獣人になると足で針を掴んで縫うくらいのものになるだろう。それくらい種族の魔力操作には決定的な差があるのだ。その中でエコルには才能があった…ただし“獣人の中では“だが。それでもSクラスにいるということは並々ならぬ努力をしているということ。俺はそれをよく知っていた
だからこそまさか焦りから努力の矛先がそんな方向に向いていたなんて思いもしなかったんだ
「エコル……」
「術式を書き換えた賢しい娘よ。その提案は飲めん。私はただ魂の冒涜行為を刈り取る執行者。私を使い魔にする前に早急に死んでもらう必要がある。懺悔する間もなく貴様の首は地に落ちるだろう」
禁忌を犯したものを捉え続ける双眸は怪しく光り、振りかぶった鎌をエコルに向け襲いかかる。それを敏感に感じ取ったのか防御の魔法をエコルは詠唱する
「ひっ…な、汝我を護る炎の盾とならん!ファイアウォール!」
詠唱破棄もせず術式の組み方も全く問題ない火属性壁魔法。教科書にのっているかのような魔法の発動でこれを学業の場では完璧と呼ぶ。でもここは戦場。その魔法は完璧ではない
「消えろ。愚かな娘よ」
炎の壁は容易く割かれ、エコルはただ大きく目を見開いていた。死を目の前にすると悲鳴すら出ないのは全人種共通だろう。でもエコルとの最後があんな慟哭で終わるなんて寂しすぎる。なぁ?星王
これは贖罪だ。エコルに対する。俺の償いだ
「悪いな死神。使い魔になる前に死ぬ必要があるとか言ってたがその前に俺もエコルにしなくちゃならないことがあるんでな」
その鎌をすんでのところで蹴り飛ばし、エコルの前に立つ。その目が俺を捉えるやいなや紅く光った。おそらく俺を敵と認識したのだろう。それでもすぐに動くわけではなくただ肌にべっとりと張り付くような空気だけがその場を支配していた
そうだ。俺はただただ教えることしかしていなかった。表面の魔力コントロールの問題ばかり見て、なぜそんなに必死に教えを求め努力を続けるのかということが見えていなかった。俺は馬鹿すぎたんだ。きっとエコルを突き動かしていたのは向上心などという綺麗なものではなく、焦燥以外の何物でもなかったのだろう。期待に追われ続けるその辛さをまったく理解していなかったのだ。その事を謝りそしてその根底の問題を解決する。それが俺のすべきことだ
「はぁクラスメイトの避難が完了したわ」
リューカからその旨を聞くと魔力をさらに解放する。そういえば星王になるのはこの目の前の女とやり合った時以来か。その次に肩を並べて戦う日が来るなんて思いもしなかったよ
「ありがとうゼンちゃん恩に着るよ」
「ゼンちゃんって呼ぶなホシクズ」
「恩が今ので全部吹き飛んだよリューカ。この件が終わったら絶対消し飛ばす」
帝選抜戦での戦闘以降どちらが早く倒れたかで全帝とはいがみ合っている。まあ全帝の方が早く倒れたからあの勝負は俺の勝ちで間違いないのだが、全帝は俺が早く倒れたと言って譲らない。ユキ曰くほぼ同時に見えたらしいけどこの間なんてリューカの方が太いから早く倒れるはずだろ?HAHAHA!と言ったら本当に殺されかけた。軽い冗談だったのに
「上等よなんなら今から文字通りの星にしてあげようか?」
「俺は元々星だぞ」
「皮肉が通じないわ……全王」
全帝も霊衣を纏い戦闘モードに入った。その五色の衣は全属性を統べる王だとばかりに圧を放ち輝いている。前みたいな相手を舐めるような空気は一切ない。まあ敵が神だから当然か
「お兄ちゃんもリューカさんも落ち着いて相手は死神でしょ?」
「「!」」
既に霊衣を纏っていたユキが間に入り全帝と俺は少し距離を取った格好になった。この数秒間、ユキは第二段階の力で時を凍らせていたのだろう。その驚きと雪の冷たさで頭も少し冷えた。でもその登場の仕方は肝も冷えるから普通にやめて欲しい
「ユキに言われたら仕方ないか。セイ足引っ張らないでよね」
「こっちのセリフだよリューカ。俺とリューカが前衛でユキが後衛でいこう。エコルはユキのそばに居るんだいいな?」
旧使い魔召喚場のここ次元競技場は万が一に備えて俺たちの世界とは違う次元に作られている。それ故に魔力障壁がなくとも俺たちは全力を出せるのだ。全帝との闘いも肉弾戦メインかつ光帝と土帝が障壁を貼っていたから影響なかったけどそれが無ければ城ごと吹き飛んでたらしいからな
「精霊の衣を纏うか。人間にしてはなかなかの魔力量だな。さらに2人はエルフ族の御子。これはなかなか骨の折れる仕事になりそうだ!」
死の魔力が解放され、それが恐怖や怨念と共に俺たちに圧となって襲いかかる。何て黒い魔力してやがるんだ。ユキが守ってなかったらこの解放だけでエコルの意識が飛んでたんじゃないか?
「今回ばかりは本気を出さないといけないわね。紫電」
全帝は雷に重きを置いた形態に変えたようだ。それは前に本気と言っていたやつだろう。あれだけ俺の時は出し惜しみしてたのにこいつ相手には簡単に出すとは少しこの死神に嫉妬してしまうな
ほぅ……と何か驚いたような声を出した死神は指をそっと空になぞりルーンをえがくとその手に鎌が吸い付くように握られた
「死神さんよ。骨が折れそうならその骨をボロボロに折ってやるよ!星王瞬掌!」
最高速で空を蹴りあがって飛び上がり掌底を打ちこみ、追撃の蹴りを背中に浴びせ落とした。だがそれを地面に落ちるすれすれで堪えて、俺が追撃で撃った連続の新星を鎌で容易く切り裂いた。狙いをこちらに完全に切り替えたのかこちらに向かって飛び上がり縦横に鎌を振り回す。狙いは的確で確実に急所を狙ってきている。あんなに鋭利な鎌なら一撃で胴体と首がさよならだ
「テンペストフレイム!」
全帝の二重魔法に合わせ一度下がる。打ち込んだのは掌底だがそれでも腕全体にズキリとした痛みが走った。まるで分厚い鋼の壁を相手にしたようなそんな痛みだ
「雪魔法 ヒール」
腕が冷やされ急速に痛みが引いていく。流石自慢の妹タイミングがバッチリだな。リューカも俺の動きを見ていたのか肉弾戦を控え中距離を意識して戦っている。しかしあの死神は鎌の近距離戦闘だけじゃなくて魔法の打ち合いでも相当の実力があるな。現にあの全帝と魔法を打ち合って互角以上とは“神”の名は伊達ではないということか
「来い星桜!」
出し惜しんでいる暇はないと判断し第二段階を発動する。自らを熱する流星の如き輝きは血が蒸発することによって桜色に煌めき出す。あまり時間はかけられない分威力は桁違いだ。しかし無理やり身体能力を上げているから長時間はきつい。前みたいにならないようさっさと決めるしかない
「まだ上があったか。随分と無理をしているように見えるが」
「長くはもたないからさっさと引いてくれるとありがたいんだがな。星桜双打!」
星桜に引き上げた魔力を纏わせ双撃を放つ。インパクトの瞬間死神に触れた手の骨がまるで音を奏でているかのように響き、つい苦悶の声が出そうになる。拳を主体にするのはあまり得策じゃないな。体重を乗せきれてかつ反動も少ない蹴りをメインに使うしかない
「今の一撃は久方ぶりの痛みだ」
意に介していない様子でそう言葉を紡ぐ。それでも痛みを感じる程度なんて嘘だろ
「撃てば小さな山なら砕ける威力だぞ。ちょっとは応えやがれ」
「私は死。山より深く深淵より高いものだ。星の御子よこの鎌を避けながらでは私を倒す隙をつくるのは容易く無かろう」
「あぁそうだな星桜天斬!」
鋭利な魔力を纏わせた蹴りでも大ダメージにはならないか。文字通りの必殺技 超新星を撃てば倒せないことはないだろうが3人を巻き込んでしまうことになる。どうにかしてそれを撃たずに済ませる方法を考えなくてはならない
「放電轟雷!」
「サンキューリューカ!七星結ぶ空の剣 グランシャリオ!」
広範囲に雷を落としてくれたからそれを無駄にする訳にはいかない。相手もそれを避けるので精一杯だろうから七連の流星群はその避ける場所を無くすほどのサイズを撃ち込んだ
「雪魔法 雪大筒!」
「小癪な。死の羽音」
「あまり効いてなさそうだよお兄ちゃん」
「死の魔力で魔法を弱らせてんだ。特殊な属性ならそういうことが出来ておかしくない」
明らかに星の輝きが目減りしたのが分かった。純粋に死を与えるのもあるが死を実感又は予感させることで相手を縛り脆弱にさせる属性という訳だ
「何か手はないの?奥の手でしょそれ」
「1つだけ手がある。お前らを逃がしたあとに俺が超新星で奴を倒すことだ。要は自爆ってことだな」
「でもそれじゃああんたは」
しかもそれは確実じゃない。全力で放てば勝てるかもしれないが今まさにこの瞬間も魔力は減っていってるから間違いなく勝てるという保証がないのだ。こいつらを逃がしてただ俺が無駄死する可能性もある
「そうだよお兄ちゃんまだ何か手が」
手が無い。これほどまでに勝てないかもしれないと思ったのは初めてだ。奥の手である星桜まで発動してこの結果なんて笑えてくるぜ




