死の足音
この世界から強制的に退場させられる。そんなイメージが明確に形となって現れたような存在。おぞましいほどの死の恐怖が俺の身体を支配する。黒く染った眼孔と圧倒的な魔力量でその正体はすぐにわかった。声すら出ない状況で口を抑えながら俺は一歩二歩と後ろに後退する。俺の本能が逃げた方がいいと言っている。それでも俺が逃げないのは森で|家族を失った過去があるからだ。もう二度とそんな経験をしたくない
「お兄ちゃん」
「セイ」
大丈夫だ負けない。この二人がいるなら戦える。俺は星の御子だ。その“覚悟”なら家族を守ると誓った時に決めた。いけるな?星王。死の行進。始めようぜ
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今回の授業は次元競技場での実戦訓練だ。前にしごきにしごいた三人はクラスの中でも見違えるほどの動きを見せていた。ダミアンはより効果的に攻撃を受け、ミュレンは器用に立ち回ることで威力不足を補い、ルルの隙も狙いにくいほどに減っていた。鬼教師ノーラもいつもは同じ属性のダミアンに厳しいけど今日は割と静かだしな
「ダミアン。やるじゃないか」
「嫌味ならお断りだぜ。ソワン」
「まさか。本当に言っているんだよ。短期間で見違えるほどになったと思ってね」
ダミアンの相手はソワンという土使い。前の的当ての時に超精密な魔力操作を見せたやつだ。土属性という防御向きな属性でダミアンを相手にしているが顔をしかめるほどに良い狙いの狙撃がダミアンを襲っていた。ただその苛烈なまでの弾幕もユキの吹雪にも見えた雪玉の嵐に比べれば砂埃みたいなもんだろ。もう一歩踏み込んだ攻めをみせれば守りもいきてくるぞ
「ロックブラスト!」
「ファイアウォール」
動きながら壁を展開して守り一辺倒を脱したか。剣の間合いに入れば身体能力が高いダミアンが有利だ。この石礫の連発を乗り越えて一撃を入れろ!
「きゃっ何!?」
「何だ。この音は」
急にギィィンと大きく耳を痛ませるような音が鳴り響く。もう反応しないはずの召喚魔法陣が反応していたのだ。そんな魔法陣から這い出でるように頭が獅子のキメラの腹を裂き、骸骨頭の死神が現れる。ボロきれみたいな黒い布の奥からカラカラっと骨が軽く鳴る音がした。なんてヤツが召喚されてんだ
まずい。本当にまずいぞ。死神は禁忌と呼ばれる血の重複召喚や召喚術式の書き換えをおこした者の魂を刈り取る執行者……らしい。ここでの確証がないのは死神に会ったものは残らず殺されているから。ただの人では相手にならないほどの魔力を持つ最強の処刑人いや処刑神だ
そいつが今目の前に現れた。それは誰かが召喚場の魔法陣を書き換え複数の血による使い魔召喚をしたということ。そんな馬鹿みたいな真似をするやつがこのクラスにいるとは到底思いたくなかったが現実にはそれが起きてしまっていた
「全員早く逃げろ!ユキとリューカは指示をしてくれ!殿は俺がやる!」
俺の声に悲鳴をあげながらクラスメイトが門の方へ吸い込まれていく。ここにいるのは王国の中でもエリートだ。だからこそこの“異常な魔力”に勝てないというのが分かるのだろう。
「みんな落ち着いて次元門の方へ!大丈夫よ私たちがいるから」
「何を言っている!お前たちも逃げろ!教師の私が囮になる」
「いや常識的に考えて帝の俺たちが残るに決まってるだろ。何のための帝だ」
「帝か……すまない。今はお前たちに頼らせてもらう」
ノーラが申し訳なさそうな顔をして次元門の方へ向かっていった。先導役のリューカに連れられこの場を離れるのを確認し死神に相対する。このヤバい状況で鼻で少し笑ってしまった。少し前までは人間を狩っていた俺が人間を守っている事が少し可笑しく思ってしまったのだ




