遺跡調査
座学だけの地獄の週を終えた休日。エコルの特訓をしようと待ち合わせをしていた。しかも今回は学院の敷地じゃなくて別の場所でやりたいらしい。数分待つとやけに装備が整ったエコルが現れた。なんだモンスターでも狩りに行くのか
「行きましょう」
「そりゃまた何処に」
「ギルドでクエストを受けに行くんです。じゃないとここに入る時に衛兵に止められるから。クエストを受けてたらその許可証だけで通行できるから便利なんです」
そういえばここに来た時も衛兵に1度止められたっけその事をすっかり忘れてた。まあ確かに毎回毎回入る度に門番に止めらるのは面倒くさいからな。そう思いながら街に出てギルドへ向かった
中に入るとがやがやとあちこちで話す声が聞こえる。相変わらずここは賑わってるな。俺達みたいな学生もいれば鎧を着た冒険者っぽい奴もいるし魔法使いみたいなローブ着てる人もいる。まさしく王国の中心と言ってもいいくらいの騒がしさだ
「うーん……混んでますね」
「そりゃ仕方ないだろ。それよりどんなクエストを受けるんだ?」
エコルが入手してきた遺跡の調査依頼書を見せられた。最近この街の近くの森の奥にある遺跡の一部が崩れてしまい正確な状況が分からないらしい。しかしその依頼書を見るにこれはSランクからしか受けられない依頼だ。騎士相当の実力を持たなければなれないランクだがエコルにそんな実力があるとは思えない
「ちなみにギルドカードのランクはいくつですか?」
「いやそんなの持ってねぇよ。そもそも帝はSランクはおろかSSランク以上の実力があるからカードなんて無くても依頼が……」
そこで俺は気づいた。まさかとは思うけどダシにされてる?この依頼エコルがやりたいだけだよな?だって明らかに装備が整ってるし何よりエコルの目が輝いている気がする。なるほどそういうことか……まあ最初に別の場所でやるってことを了承してるからいいけどさ。とりあえず受付に行って話だけでも聞いてみるか
「キヨウ。この依頼について詳しく聞かせてくれないか」
俺が話しかけるとキヨウは一瞬驚いた顔をしたがすぐに笑顔になった。少し引き攣ってはいるが前のギルドマスターとの一件からなんかずっとこんな感じなんだよな
奥の部屋に案内され俺達は遺跡調査の依頼の詳細を聞いた。まず遺跡は森の最奥にあり入り口には強力な結界が施されているため普通の人では入れないようになっているらしい。まあこれは俺が魔力で突破すればいいだけだ。調査はもちろんだが遺跡内は至る所が崩れているというおまけ付きらしい。どう考えてもこの依頼を受けられるのはSランク以上の奴だけだろうな。ただ気になる点が一つある。なんでわざわざ危険を犯してまで遺跡を調査しようとするのかだ。キヨウに礼を言い外に出た俺はエコルに質問をする
「エコル。どうして俺を連れてきてまでこれがしたかったんだ」
「もちろん特訓のためです。困難な環境じゃなきゃきっと私の魔法は成長出来ないと思ったんです。あともう一つは将来は宮廷魔術士の研究部門に進みたいのできっとこの依頼の経験が役に立つはずだと思い……まして」
それに関しては素直に納得できた。つまり自分の力を試したいのと知識を得るための遺跡探索ということか。目的に向けて一直線に走るエコルらしいといえばらしい
街から出て2時間ほどで到着した俺達は森に入り奥へと進んでいった。道中はそこまで強くないが、たまにブラッドウルフなどの中級程度のモンスターが現れる程度でエコルの中級魔法の成長を見つつ俺が援護する形で突破していった。遺跡の入り口に到着する頃には既に日は頂点を回っていた。遺跡の中に入ると予想通りかなり暗い。
「星明かりよ」
手を前へかざし数歩先は見える程度の光の玉を作り先へ進むことにした。しかし中は迷路のように入り組んでおり、分かれ道が多く迷ってしまった。今日はただの特訓だと思ってたからな。こうなるのなら探知や探索が得意なユキがいれば困らなかったのにな。しかしそんな無いものをねだっても仕方がない。しばらく進むとある部屋に出た。部屋の中央には何か巨大な生き物がいたような跡があり、地面は陥没して穴が空いていた。するとエコルは急にしゃがみこみ地面に這うように手を置いた
「うん。多分ここですね。何か大規模な戦闘があってここの下が崩れたんです。微かに鉄の匂いと血の匂いがします」
池に落ちた数滴のワインを嗅ぎ分けるという獣人の鼻はそんなことまで分かるらしい。広い空間に空いた中心の穴は光を照らすと数m下にまたひとつ空間があるとかろうじて分かるほどの暗さだ。しかし周りを見渡せばあちこち崩れているほどの戦闘か。一体何と戦ったっていうんだ
「まあそれは置いといてとりあえず下に降りて調査をしよう。撤収することも考えたらあとここに入れるのは数時間もないぞ」
そうして地下の部屋へ降りていくとそこには信じられない光景が広がっていた。壁一面に刻まれた見たこともない術式や楔に似た記号、ひとつの壁には壁画が描かれている。これはエルフの文献にも無かったものだ。そして真に驚くべきは床全体の巨大な魔法陣
「これは……召喚術に似た構成だな」
「使い魔召喚の術式ってことですか?」
「いや似ているだけだ。多分そういう系統だと思う」
召喚系の魔術式は術者の魔力に応じた魔物や精霊を呼び出し使役する魔法だ。でもそれは数百年前に滅んだ技術と聞いている。だからこそまだ解明されていない謎が多い。しかし今までの俺の知識では理解できないものだ。ここに来てこんな魔法に巡り会えるとは思わなかった
「とりあえず魔力を通して見るか」
魔法陣に手を触れ思いっきり魔力を込めた。しかし何も反応しない。血も流してみたがうんともすんともいわなかった。エコルはその間に調査書に魔法陣と壁に描かれた記号や壁画を写しているようだ。それより考えたいのはこの部屋の壁にある壁画の方だろう。まるで誰かが後世に伝えなければならないことを描いたかのように描かれている。これは過去に起こったのものなのか?それとも未来に起こるものなのか? 俺はその壁画のある部分を見て思わず目を見開いた
「これは俺だ」
「え?」
「いや正確には星の御子だ。何となくだけど分かる」
古い壁画で掠れているから分かりにくいが確かに俺に似ているし、服装は霊衣そっくりだ。しかしそれ以上に驚いたのはこの絵の構図だ。この星の御子を俺とするなら反対側にいる白い髪の人間は雪の御子のユキということか?なぜ反対側にいるんだ。向かい合った中心部分は大きくえぐれていてそこに何があったかは分からない。ここの画が残っていればまだ少し考察できたかもしれないが今出来るのはここまでだろう
しかし依頼の通り調査だけならこれだけで十分だな。この遺跡には何かある。街に戻ったら少し古い文献でも当たってみるか。
「よし帰ろうエコル。調査書には召喚術式に似た魔法陣と壁の記号と壁画についてだけ書いてくれ。魔法陣は魔力と血に反応無し。あと俺の話は書かないでくれたら助かる」
「そうですね。今日は私に付き合わせちゃってごめんなさい。特訓といってもやっぱりセイが背後にいると思うと少し気が緩んでいたとも思うんです」
「そう思うなら帰りは少しスパルタで行くぞ」
エコルは苦笑いを浮かべながらわかりましたと言った。学院での特訓を思い出していたのだろう。それにしてもまさかこんなところで伝承の御子関連のものに出くわすとはな。しかも対立してる構図となるとユキにはまだこのことは話さない方がいいかもしれない。もし本当に敵対関係になるんだとしたらあいつを巻き込みたくない。エコルは魔法陣と壁画の調査報告書を手早く書き終えるとすぐに街へと戻る支度をする。もう日が落ち始めている頃だろう。急いで戻らないと夜の森で彷徨うはめになる。俺たちはすぐに来た道を戻り始めた
「あの壁画に描いてあったのは結局何だったんでしょう?」
「分からない。ただの想像だが、多分過去の出来事だと思う。それもかなり昔のな」
「じゃあなんであんなにはっきりと描かれていたでしょうか」
「それも分からん。あれが過去にあったとして味方であるはずの御子同士が対立しないように忠告している絵かもしれないしな」
「そうだといいんですけど」
「どちらにせよ、今は情報が少なすぎる。また時間がある時に調べてはみるよ」
「私も少し調査してみます。なんだかあの絵には惹き付けられる引力がありましたから」
……
…
もう日も沈もうかという中でまだ森から出られていない。より一層周りを警戒したいが探知はあまり得意じゃないから周りの空気から気配を読みとり周囲を警戒する
「左前方。デカイなグリズリーだ」
鋭利な爪と牙を光らせ歩く熊の魔獣。こっちに気づいていないようなのでそのまま気づかれないように後ろに回り込む。ちょうどいい特訓だとハンドサインで指示しエコルは無詠唱で火矢を放った。左腕に命中したようで悲鳴をあげ暴れ回る。まだ仕留めきれていない。エコルはもう一度無詠唱で今度は連続2本の火矢を放つ。ひとつは外したがもう一本は見事右腕に命中した。これでしばらくはまともに動けないだろう。しかしこのままだとまずいな。こいつは牙だけで大木をなぎ倒す。ここで仕留めなければならない
「エコル。火矢じゃ致命傷にならない。大火球で仕留めてくれ」
「大火球!?うぅできるかな……」
エコルは術式を展開し両手に魔力を集めていく。しかし魔力を練るほどに顔色が悪くなる。やはり今のエコルのレベルでは難しいのか?いやそんなことはないだろ。エコルの知識量と術式理解度を鑑みれば大火球程度の中級魔法は撃てるはずなんだ。俺が見守っている中、ついに完成したのか両手を前に突き出した。しかしそこから動かない。くそっまだ縮こまってるのか。怒りに火の恐怖を忘れたグリズリーが立ち上がり突進してきた。俺は咄嵯に走り出しグリズリーの頭に一撃を入れて失神させる
「エコル!今だ!」
「大火球!」
命中した大きな炎の塊が一気に広がっていく。一瞬にして辺りが灼熱と化した。炎は巨体のグリズリーを余すことなく燃やし尽くす。やがて炎が止むと炭になったグリズリーがはらはらと崩れ風に流されていった。森火事にならないように燃えカスを踏み潰しながらエコルの方に向き直る
「よく頑張ったな」
「今度の今度こそ魔力も空です」
「いい特訓になったか?なんならあの学院の時みたいにここからウォールの詠唱特訓に入ってもいいんだぞ」
「本当に空です。もうボールの1つも放てません…」
エコルの表情から察するに相当疲れているようだ。これでエコルが強くなるならいくらでも付き合ってやろうと思う。遺跡調査したいと言い出した時はどうかと思ったけど最後の魔法を見てそれも吹き飛んだ。実りのある1日だったと言えるだろう。それから街に着くまで魔力切れのエコルをサポートしながら帰るのだった
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「調査依頼お疲れ様でした。報告書を預からせていただきます」
ギルドに帰ってきた俺達はキヨウに報告書を手渡した。疲労困憊で街の門をくぐった時には大きなため息が出たほどだ。エコルも勉強だけど周りから揶揄されているがこうして努力もしているしガッツもある。どうにかしてこの努力が報われて欲しいとは思うが
「報酬はこの報告書の精査の後にギルドカードの口座に支払わせていただきます。エコルさんはお持ちですがセイさんはどうなされますか?」
前に説明されたがギルドカードには身分を証明するものの他に貯蓄する蔵の役割をギルドが担ってくれたりする。だから報酬なんかを高頻度で受けるのなら一々金を用意しなくても報酬を授受できるから便利なのだ。これは森にはなかったものだな
「俺は今度来た時に手渡しで頼む」
「了解致しました。それではまた完了した時にお知らせ致します。改めて調査依頼お疲れ様でした」
キヨウは引き攣りがマシになった笑顔でいつものように頭を下げたあとカウンターの奥へと戻っていった。エコルにお疲れと別れの言葉を言い寮へと戻ることにした 寮に戻った俺は食事を取ろうとも思ったが今日は特に疲れているからさっさと汗を流したい。いつもはこれしたら怒られるけど何故かユキが居ないので服を即座に脱ぎ捨てタオルを持って浴室に入った。
「おかえりセイ」
「おうルル。お前も風呂か?」
「うん。ユキが誘ってくれた。ミュレンもいる」
「おぉそうか…そうか…そ…」
思わず声が出なくなった。そこには裸のユキとルルそして湯船に浸かるミュレンがいた。いや待って?え?ユキ居ないんじゃなくて風呂入ってたのかよ!きゃーっ!と言う甲高い悲鳴を背に慌てて目を瞑り浴室の外へ出た。
はぁ…これはまたユキにどやされるな。 汗流したかったのにまた汗かいちまったよ。とりあえずほとぼり冷めるまで街に出るか。宿とってもいいんだけど金勿体無いし。月明かりを頼りに少し肌寒くなった風を感じながらゆっくりと歩き出した




