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7 初めての狩猟(仕掛け)

 本日のやることメモ。罠を作って仕掛ける。以上。


 昨日は整地に時間をかけすぎてしまったので、細々とした道具作りをして一日を終えた。罠の材料になる木片や、ちょっとした生活用品などだ。


 その時にも「道具」の補正には驚かされた。小物入れにでもなればいいと思って、板材にほぞを切って組み木の箱を組んだ時の事だ。

 板と板を組み合わせた途端、繋ぎ目が視認できないほど強固に組み合って水を通す隙間もない程ピッタリと繋がったのだ。多少の力では全くびくともしなかった上に、「解体」しようとして木槌で叩いたら簡単に外れた。こりゃ便利だ。


 俺は早速、バケツ大の木の(ます)と石臼を作った。本当は桶が作りたかったが、現状の道具では構成するパーツが多い物を作るのはできなくはないが面倒くさい。

 石臼といっても、大きめの石に穴を掘っただけの物だが。それに合わせて、木で蓋も作った。


 これは水瓶として利用する。これまで飲み水を作るのには、川で水を汲んでからチタンカップで煮沸消毒して川の水で冷やすという作業が必要だった。作業効率はともかく、最大でカップ一杯分の水しかキープしておくことが出来ず、必要になる度に水から汲まなくてはならないのは手間だった。

 重たいので、洗うのが少し面倒くさいのは難点だな。木で作っても良かったが、水を溜めておく性質上腐食する可能性がある。いずれ土器が作れるようになれば解決するので、当面はこれでよしとしよう。


 一々川まで行かずとも、何か作業をしながらお湯を沸かして水瓶に貯めることができるようになるので今までよりはかなり楽になる。

 でも結局、お湯を沸かす道具が小さなチタンカップしかないのがボトルネックになっている訳で……早いところ飲める湧き水でも見つけたい所だ。

 今日はそれを探すのも目標の一つにしよう。



「よし、行くぞ」

「いくぞー!」


 準備を終えた俺はステラと二人で森のあるほうに進んでいった。

 俺の持ち物は棒と石の穂先を縄で合成した石ヤリと、くくり罠用のいくつかのパーツ、かろうじて刃がついている尖った石片に縄で持ち手を作っただけの石ナイフ。


 最初に漂着した海岸から最初に夜を過ごした崖のある方面に向かって、崖沿いに進んで川を渡る。しばらく進むと右手にあった岩壁が陸地の奥の方に向かっていき、俺たちの前には鬱蒼と茂った森が現れた。

 今拠点にしている、海岸沿いの林の中よりも明らかに植生が濃いし生物の気配も感じる。絶好の狩場になるだろう。


「ステラ、離れるなよ。離れたら置いていくからな」

「わかった! ぜったいはなれない!」


 正直、ステラは邪魔になるので拠点に置いておきたかったがステラが嫌がった。

 それに目を離している間に何かあっても寝覚めが良くない。仕方なく連れてきたが、逆にステラのおかげで危なさそうな場所で無理に進もうとは一ミリも思わなくなったので、セーフティとして役立っている気はしなくもない。


「うーむ……この感じだと森のAかBだな……。森ウサギか、カエル辺りが採れそうな感じか」

「うさぎさんいるの?」

「分からんけど、多分な。ステラは森ウサギを知ってるのか?」

「じぃがよんでくれたほんでみたよ」

「そうか」


 うさぎ探しに役立つかと思ったが、直接見たことはないのか。まあ、元々アテにはしていないが。


 ここの植生からして、この土地の属性(バイオーム)はおそらく「森A」か「森B」だ。森の中でも最も普遍的な属性であり、これといった特徴もない。生物も特に害のないものが多く、一部を除いて凶暴な生物もいない。

 毒持ちの蛇が多い「森D」「熱帯雨林B~E」や、人食いワニのコロニーが多数存在する「マングローブF」、SFパックで追加された「樹海の遺跡」辺りは探索するのに注意が必要だが、特徴も分かりやすい。森Dには至る所に特定のタイプのキノコが生えているし、熱帯雨林B~Eにはそこにしかない目立つ植物がある。

 マングローブは……まあ、どう見てもここはマングローブではないし、Fタイプのバイオームはそもそも特定の木のみで構成されたマングローブになっているので一発で分かる。樹海の遺跡は古代超文明のロボット等に襲撃される初見殺しオブジェクトの存在するバイオームで「森A~B」に近い構成をしているが、遺跡らしきオブジェクトに近づかなければ無害だ。


 CWでは罠を置く位置にこれといった制限や意味はなく、獲物の取れるエリアであればどこに置いても一定の確率でかかるようになっていた。

 とはいえ、この世界が完全にゲームと同じではない事は分かっている。少しでも成功する確率を上げたいのであれば、罠を仕掛ける場所はよく考えたほうが良いだろう。




 念のため周囲を警戒しながら獣道を探す。獣道といっても大型動物のものではなく、小動物が通っていそうな草むらの中の小道のようなものだ。


「……この辺りか」


 くくり罠の構造は単純で、「捕獲部」「動力」「動力保持機構」「トリガー」の4つから構成されている。まず紐の先端に輪っかを作り、そこに紐を通して「引っ張ると締まる輪っか」を作る。これが捕獲部だ。


 次に、捕獲部を「動力」の役割になる何かに繋げ、テンションをかけた状態で固定する。

 今回は、近くに生えていた一本の細い木をぐぐっと曲げて引っ張ってきた。この木が元に戻ろうとするバネのような力を動力として利用する。


 しならせた木を手で押さえたまま、その先端に輪っかの反対側の紐をくくり付ける。このままでは手を離しただけで輪っかが吹き飛んでいってしまうので、たわませた木に別の紐を括り付けて引っ張った状態で固定しなければならない。

 そのための紐が動力保持機構。つまり「動力」である木のバネの張力(テンション)を保持するために使うものだ。今回はこの紐をテンショナーと呼ぶ。


 くくり罠ではテンショナーを軽い力で外れるような状態にするのがの大事だ。

 今回の場合はテンショナー側の紐の、木とは反対側の先端に割り箸大の枝を縛り付け、その状態で小道の脇にある細木の根本に紐を軽く巻きつける形を取る。

 手を離すと巻きつけた紐は一気にほどけ、しなった状態で固定されていた木は元に戻ってしまう。

 テンショナーにはかなりの力がかかっている状態ではある。しかし木に巻きつけた部分の摩擦力のおかげで、先端にくくりつけた枝の端を軽い力で押さえておくだけで固定できてる状態になっているのだ。


 別の細い枝一本を地面に突き刺し、紐の先端にくくりつけられている小枝に対してつっかえ棒となるような感じで固定すると、これがトリガーになる。

 あとは、トリガーになっている棒に別の紐をくくりつけ、小道を通ったら足を引っ掛ける感じで張ればOKだ。


 小動物が道を横切って紐に引っかかると軽い力で固定されていたトリガーが外れ、テンショナーの紐がリリースされる。するとしならせてあった木(バネ)は一気に元に戻り、同時に先端に括り付けておいた「締まる輪っか」がついている紐は勢い良く引っ張られるのだ。



挿絵(By みてみん)



 長々と説明したが、逆さにした籠に棒を一本つっかえ棒として噛ませて、鳥が下に入ったら棒にくくりつけた紐を引っ張る罠を想像してもらって、あれを少し複雑にしたものだと思ってくれれば大丈夫だ。おおまかな原理は変わらない。


 ちなみにこの手の罠は現代日本だと法に触れる可能性がある。罠に関連する法律は意外と細かく、獲物を宙吊りにしてはいけなかったりと色々な制約があるし、そもそも罠猟をするのにも免許が必要だ。

 じゃあなんで知っているのかって? まあ……うん、極限状態に陥ったらそんな事も言っていられないだろうし、知識として知っておくのは悪いことじゃない。実際、今現在役に立ってるわけで。まあ、それは今はどうでもいい事だけど。一応ね。


 紐を引っ掛けてから輪っかが跳ね上がるまでには微妙にタイムラグがあるので、先端の輪っか部分を大きめにしてマージンを取る。跳ね上げるのは一瞬なので多少先端のサイズが大きくなっても問題はない。これも現代日本ではできない事なんだよな。人間がかかったりしないように、先端の輪のサイズには制約があるのだ。


 これでくくり罠の設置は終わりだ。あとはこれを沢山仕掛けて獲物のかかる確率を高めればいい。

 動力を木の枝に引っ掛けた大きな石にしたり、それぞれの場所に合った罠を作っては仕掛けていく。トリガーがリリースされると微妙なバランスで保持されている石が木から落ちて、輪っかが釣り上げられる仕組みだ。仕組みさえわかっていればどうとでもなる。

 トリガーや保持機構に使えるように、ワークベンチを使ってY字にしたり井桁型に組んである木片を幾つか用意してきているので、色々なシチュエーションに対応したくくり罠の作成が可能だ。

 ほどなくして、10近い数の罠を設置することが出来た。


「かかるといいなあ……いい加減肉が食いたい」

「おにく? おにくたべられるの?」


 そういえば、ステラはエルフだった。肉食文化とかあるのかな。そもそも種族的に食べられるのだろうか。


「ステラは肉とか食べるのか?」

「おにくだいすき! でも、おにくはたまにしか……たべられないの……」


 肉好きなんだ。ステラの暮らしていたところでは肉は貴重だったのかな。


「そうか。もし獲物が取れたら、肉が食えるぞ」

「やったあ! いつ? いつとれるの!?」

「早くて明日だけど、獲れないかもしれないぞ」

「うぅ……おにく、たべたいよ……」

「じゃあ寝る前にお祈りしとけな」

「わかった!」


 明らかにテンションが上がったステラを見て、俺も何となく沢山捕れるといいなあ、と思った。


 あ、帰り道で湧き水を見つけました。森の入口の岩壁付近から水が染み出している場所を発見。冷たくて気持ちが良いし、口に含んでみたら生臭さや変な雑味もない澄んだ味がした。多分、飲めるだろう。

 このあたりは、意外と水源が豊富なのかもしれないな。ログハウスからはそんなに距離があるわけではないが、水を抱えて往復することを考えると少し遠いので引っ越しを視野に入れてもいいかもしれない。どうせ道具によるチート能力で拠点なんか一日で建つ。


 その晩は明日に備えて早めに就寝した。明日はステラが寝ている早朝の間に罠を見回るつもりだ。

 しかし、ヤコメの実もさすがに飽きてきたな。初心者救済要素なだけあって栄養素が不足している感じはあまりしないが、味と飽きばかりはどうしようもない。ステラが美味しそうに食べてくれているので、最悪俺が我慢すれば問題はないが……。


 肉、捕れると良いな。





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