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4 道具を造ってみよう

試験的に改行のしかたを変えてみています。

「……魔法? 違うよ、こいつは道具を使ったんだ」

「そーなの?」

「そーだよ。俺は魔法は使えない」

「そうなんだ。おとーさん、どこかのおうさまかなのかなってびっくりしちゃった」

「王様?」

「うん、まほうがつかえるのはおうさまだけなんだよ!」


 話が見えない。血統とかそういう要素だろうか。そんなのCWクラフティングワールドにはあったかな? というか、魔法を使うなら地位より種族とかの方が大事なんじゃないだろうか。


「エルフは魔法は使えないのか?」

「エルフはまほうをつかわないよ。しぜんをたいせつにするためだってじぃやがいってた!」

「なるほど……?」

「にんげんはまほうのために、だいちをあらすからよくないって」

「魔法を使うと、大地が荒れるのか?」

「そうだよ。にんげんがもりをあらすから、エルフとたたかいになったこともあったって」


 そういうことか。おぼろげに話が見えてきた。


 CWクラフティングワールドには、いくつかの拡張パックが存在する。

 初期のCWクラフティングワールドは、一つの惑星で完結していた。そこから更に要素を追加していき、今のバージョンになった。


 最初の拡張パックは、宇宙開発をして他の惑星にも到達できるようになった通称「アストロパック」。

 他の星系にある文化圏との交流――敵対的なものも含めて――が出来るようになり、あくまで現代技術の延長にあったアストロパックよりも遥かに進化した技術が解禁された「SFパック」。

 このSFパックに含まれる情報は実に膨大で、現在でも未発見の要素がネットで時々報告されるほどだ。


 そして、ごく最近のアップデートで追加された拡張パック。それが「魔導パック」だ。

 これは少し変わり種のパックで、「魔法という技術が発見されていたらどのように世界は進歩していったか」というif(もし)の世界を楽むのがコンセプトだ。これまでのような既存のCWクラフティングワールド世界の枠が広がるタイプの拡張パックではないので、新規ワールドの作成が強く推奨されており、既存のワールドにこのパックを適用する場合はバックアップを必ず取るように、と明言されているほどだ。


 俺はSFパックの入り口にようやく到達した程度だったので、この魔導パックの要素にはまだ殆ど触れていなかった。しかし、情報サイト等を見てどのような要素なのか、どういうシステムなのか、といった内容は把握している。


 CWで魔法を使うシステムは単純だ。おおざっぱに説明すると、大気中に存在する「マナ」を吸い上げて「変換器」を通すと「魔法」という現象になる。そして発現するのがどのような魔法になるかは、変換器によって変わる。

 魔法を使うのに才能や能力は関係がない。「マナを集め」「変換器にマナを入力し」「魔法として出力された現象を適切に出力する」というプロセスを踏めば、誰にでも扱える技術。それがCWにおける魔法という存在だ。


 例えば「火花」の魔法がある。これを行使するには、まず「火花」の魔法を出力してくれる「変換器」が必要になる。この変換器を、その見た目から魔法結晶と呼ぶ。


 この魔法結晶は、キャラクターのインベントリ内にあるスロットに装着する事ができる。それだけで、そのキャラクターは「火花」の魔法を使えるようになる。ちなみに、スロットの数は数百個ほどあるので、装着するというよりは「魔法を覚える」という感覚のほうが近いかもしれない。


 しかし、そのままでは大したことはできない。一応、大気中に漂っているマナを集め、魔法を出力することはプレイヤー単体でも可能になっている。ただ、その状態では手のひらから火打ち石程度の火花を散らす事ができるだけだ。


 魔法らしい魔法にするためには「マナの集積(魔法結晶へのマナの供給)」「魔法結晶から出力される魔法を適切な形で実行する」という事を実現するための道具が必要になる。


 だいたいの場合、マナ集積には衣服(魔道士のローブ、のような物)やアクセサリを用い、魔法出力までの機能は杖のような道具を使うことが多い。


 それらの道具を用いると、どうなるか。マナを集積する事で魔法結晶は動力を得て、十分な出力が発生する。しかし、そのままでは術者の周囲で、ただ無制御に火花がバチバチと飛び散るだけの結果に終わってしまう。


 そこで、「魔法が一定の出力を保って先端に集中する」という性質を持った杖を使う。そうすることによって、「十分な出力を得た火花の魔法が、杖の先端から一定の威力で出力される」という現象が実行される。

 そうしてはじめて、「杖の先端からバチバチと火花が飛び散る」という魔法が成立するのだ。


 車に例えるなら、「ガソリン(マナ)」を「エンジン(魔法結晶)」に流し込み、それだけではただ回転するだけの力を「ギアや車軸を通して最終的に車輪に伝える仕組み(魔道具)」で望む形、つまり「自走する」という結果に変換する、という感じだろうか。


 これがCW世界での魔法の基本だ。


 もちろん、技術を進化させて応用していくと「電池のようにマナを蓄積しておいて、大気中のマナ濃度に関わらず魔法を発動させる」とか、「アンプのような増幅装置を使って出力を強化する」とか、「魔力結晶や魔道具を複数リンクさせて複雑な魔法を行使する」といった事もできるようになる。


 特に最後の要素については、魔法開発において重要だ。

 例えば「可燃性のガスを杖の先端に生成」し、「大気操作でそれを前方に噴射」させ、「前方の空間に火花を散らす」という感じで、複数の魔力結晶から出力された魔法を適切に操る事で「火炎放射」といった出力を実行することができる。

 「自分の手で魔術を創造する」楽しみ方が出来るので、一番盛り上がる部分ではあるんだけれど……説明を始めるとキリがないのでその辺りの話は機会があればにしよう。


 話は戻るが、今言ったように魔法を行使するためには「魔法結晶」と「適切な道具」が必要なのだが……これの作成難度が基本的には非常に高い。


 魔力結晶の元になる魔力の塊、魔核は強力なモンスターがその身に宿しているか、レア鉱石として手に入る事が多い。

 それを入手するだけでも大変なのに、それを精錬して魔力結晶にするための素材……これもまた集めるのが大変なものばかりだ。

 例えば巨大な鉱山を掘って、それでもなお一握りしか集まらないような希少な素材を潤沢に使ったりする。大量の燃料を消費したりするし、有毒な素材を扱ったりもする。


 CWのプレイ日記を読んでいれば、「今いる大陸から一つの植物が消えた」「中間素材を精錬していたら拠点にしている国が公害で滅びた」「薪に使った森が消滅した」という話は枚挙に暇がない。


 これがゲームであれば、このあたりの話は何も問題にならない。山が消えようが、森が消えようが、替わりになる土地はそれこそ星1つ分ある。大地が毒に侵されても、有毒素材には使い道が多いので逆に役立つ。山も森もなくなった見渡す限りの平地は、だだっ広い真っ白なキャンバスだ。そこに何を建築しようか、考えているだけでも楽しくなる。


 しかし、ここが現実でありながら、CWの世界でもあるとしたらどうか。


 ゲームと違い、おそらくこの世界の人々は死んでもすぐに蘇る(リスポーンする)ような事はない、と思う。根拠はステラの語る海難事故の内容と、それに対するステラの反応だ。蘇り(リスポーン)が前提であれば、あんなに悲しそうな反応にはならないだろう。俺だけは主人公補正のようなものが効いていて、死んでも蘇る可能性が無くはない。ただ、それを確かめるために死ぬのはさすがに出来ない。


 となると、危険な領域の開拓も、レア素材を入手するための探索も、モンスターとの戦闘も、リスクのある内容を含む研究も、全ては命がけという事になる。ゲームであれば「やっちまった」と蘇生(リスポーン)すれば済む出来事も、命に関わる。それでもなおこの世界で魔法を手にするのであれば……それは、多大な犠牲の上に成り立っているとしか言えない。


 つまり、この世界にCWと同じ魔法が存在するとすれば、それ ――魔法に限った話ではないが―― は、一人の天才や神が開発して人々に広めるような技術ではない。大量の資材とマンパワーを投入して開発を行った上で、一握りの者に与えられる力だ。

 普通に考えりゃ、国家事業だよな……。王家で独占、なんて話になっていてもおかしくないって事だ。


 なるほど、と納得をするも同時に少し落胆もする。魔導パックの存在に思い至った時、少し期待してしまっていたからだ。何のってそりゃ……俺にも魔法が使えるんじゃないかっていう、淡い期待だった。


(……でも、よく考えたら初歩のしょぼい魔法なんかはそこまで難しい内容じゃなかった気がするぞ? それこそ、"火花"みたいな魔法は)


 確かに、空を自由自在に飛び回る「飛翔」のような魔法に繋がる"重力操作"や、攻撃手段としても派手な"爆発"の魔法結晶、それらを活かすために必要な魔道具を作るためには大量の希少な素材が必要になる。

 山一つ切り崩しても見つかるか怪しいレア素材や、古代竜といった強力なモンスターを倒し、なおかつ最先端の魔導工房と設備、希少な触媒、危険な薬物といった物だ。


 しかし、初歩的なものである"火花"や"送風"といった魔法結晶の精錬にはそれほど高度な技術が必要ではなかったはずだ。それこそ、鉄を使えるようになる頃には、同じ炉や燃料を使って精錬できたはず。


「なあステラ、"火花"の魔法が使えるのは凄いことなのか?」

「すごいよ!! ものがたりにでてくる王様みたい!」


 "火花"ですらそんなレベルなのか。

 もしかしたら、この世界全体の魔法に関する技術レベルはそこまで進んでいないのかもしれない。確かに、情報サイトもなにも見ないでプレイした人が色々な科学技術やゲームならではの要素に全く気付かず、触れないまま文明を発展させていった(プレイログ)はある。ましてや魔法は追加された要素であり、一癖も二癖もある。真っ当にやっていてはそもそも発見すらできない事すらあるのだ。

 何十万人ものプレイヤーが何度も死んだり蘇ったり(リスポーン)しながら攻略Wikiにまとめ上げた技術郡を、現実世界で再現するのには大変な時間が必要なのかもしれない。


 この島の外の世界がどうなっているのか、文明レベルや技術レベルがどの程度進歩しているのかが少し気になったが、考え込んでいる間に火が安定してきた。一旦思考を棚上げにする事にする。


 焚き火のお陰で岩場は温かな空気に包まれた。

理屈は先だって説明したとおりだが、これが岩場の近くで火を焚くメリットだ。


 どんな遠火でも、火の熱に当たっている面以外は意外と暖まらないものだ。ハロゲンヒーターのような熱され方を想像すると近いかもしれない。


 遭難モノの漫画などで、毛布をかぶりながら両手を突き出して焚き火にあたっているシーンを見たことはあるだろうか。あれは火にあたっている面を温めながら、背中側の冷えを防止しつつ、暖かな空気を毛布の内側に溜めて身体全体を温めるという、とても理にかなった行為だ。


 暖を取るのならば火の熱に直接あたるのではなく、小さくても良いので空間をあたためる事。これは基本だ。キャンプなどで焚き火をする時にそういう事をしないのは、キャンプの焚き火は「熱と火そのものを楽しむ遊び」だからだ。実際に秋キャンプや高原キャンプなどでは、火にあたっている顔や手の火照りに騙され、身体全体を冷やしてしまって風邪を引く人が沢山いる。


「あったかいね……」

「ああ」


 ステラが火に魅入られたかのように、とろんとした目でうっとりと呟く。……いや違うな、これは多分眠いんだろうな。


 火には不思議な魅力があり、穏やかな炎を眺めているととてもリラックスできる。なんだかんだ言って、ステラも今日の出来事は緊張の連続だった筈だ。身体も温まり、穏やかに燃える火を眺めていたら、これまでの緊張が一気に疲れとなって出てきたんだろう。


「俺はもうちょっと火を見てるから、ステラはもう寝ろ」

「うん……」


 眼をこするステラをワラのベッドに寝かせ、上からワラをかぶせる。ここは直接風が当たる場所ではないし、焚き火と輻射熱のおかげで、この程度でも十分な暖は取れそうだ。

 ワラに潜り込むと既に眠気が限界だったのか、寝床を整えてやっている間にステラはすうすうと寝息を立て始めた。


 ステラが眠るのを見届けたので、火の番をしながら集めて来たいくつかの素材を弄る事にする。作業中に聞こえるのは風と木のざわめき、薪が時折爆ぜる音と……ステラが寝返りのような身動ぎをする音くらいだ。一応確認したところ、寝顔は穏やかだったので大きな問題はないだろう。


 何となく手を止めて、その幼い寝顔を見た。一時は助けられる訳がない、と見捨てようとした少女の寝顔。忘れかけていた罪悪感が蘇ってくるような気がする。

 ただ、同時に妙な安心感のような物もある。

 一度ステラをの姿を見失った時に感じたものはまぎれもなく後悔だった。俺は現状を考え、自分にこの哀れな少女を救う力はないと考え、積極的には助けないと決めた。


 しかし俺の願望としては、やはり……助けてやりたかったのだろう。それは決して、俺が温かい人間だからという訳ではない。日本で生まれ育ち、友人達とはそれなりに仲も良く。主観で見れば波乱万丈ではあったが、他人から見ればきっとごくありふれた普通の人生を送ってきた。そんな俺は、多分……「この子を見捨てるという後味の悪い行為」をしたくなかったんだ。


 ここに無限の食料や水と、住める家や服があったとしたら。それこそ俺が小説のヒーローのような型破りな能力(チート)持ちで、日本にある物を取り寄せられたりだとか、強力な身体能力などで狩猟採集を思いのままに出来るのであれば、ためらいもなくステラを助けていた。しかし、そんな物はなかった。


 自分さえどうなるかわからない状況で面倒を見ようとするのは優しさではなく、無謀なだけだ。それでも、「出来る/出来ない」と、「したい/したくない」は別の話だ。したいことが出来ないなんて話は、生きていればいくらでもある。そう考えれば、ステラを助けるという事は「やりたいが出来ない」事だったんだろう。


 だが、状況が変わった。水ととりあえずの食料は確保できたし、今後必要な食材や生きるための知識は俺の持っている物でなんとかなりそうだ。うまくいけば、俺はこの哀れな子供を助けてやれる――いや、見捨てるという後味の悪い気分を「俺が」味わわなくて済むかもしれない、という表現が正しい。


「まったく、人間が小さいというかなんというか」


 作業の手を止めて、ため息を付く。

 今日は後味の悪い思いをせずに済んだ。しかし、明日もうまく行くとは限らない。現状は、問題を先送りしているに過ぎないのかもしれない。いつか、ステラを見捨てなければならない時が来る可能性は低いわけではない。その時俺は、どんな気持ちになるのだろうか。


「はぁ……」


 火の始末をしてからステラの側に積んでおいたワラのベッドに潜り込む。冷えを防ぐのであればくっついて寝る方が効率的ではあるが、俺は寝床をあえて二つに分けた。子供とは言え男女だからとか、ステラの事を思いやって……という訳ではなく、情が移るのを避けるためだ。

 助けられるうちは助けてやりたいとは思う。が、いずれ「その日」が来るかもしれない事を考えると、深入りをする気にはなれなかった。俺は、死んだ時の事を考えてペットを飼えないタイプの人間なのだ……。

 なんとなくステラの側に背を向けて目をつむると、俺も疲れていたんだろう……瞬く間に意識は闇に落ちていった。









「……おい」


 目が覚めた俺は困っていた。多少身体は痛いものの、酔っ払ってアスファルトの上で寝ていた時ほどではない。ワラのベッドが思いの外優秀だったのは嬉しい誤算だ。

 俺を困らせていたのは、目覚めた時に腕の中におさまっていた温かい塊……というか、ステラだった。


(……いつ潜り込んだんだ、全く気づかなかったぞ)


 ベッドを分けていた筈だったが、ステラは幸せそうな顔で俺の腕の中に収まっている。一体いつこんな状況になったのか……。抱きまくらのように抱えていた手を解いて離れようとしたら、ステラの両手が俺の胸元をしっかりと捕まえていて、離れる事もできない。


「おい、起きろ……起きろって」

「んぅ……?」


 声をかけて揺さぶると、ようやく開いたステラの眼が俺に向く。とろんとした眼の焦点が合ってくると、花が開いたような笑顔を浮かべた。


「おはよ!!」

「ああ、おはよう」


 挨拶が元気なのはいいことだ。いいことだが、とりあえず手を離して欲しい。ステラの手は、寝ぼけていた時よりもしっかりと俺にしがみついている。


「なあ、いつこっちの寝床に来たんだ?」

「んー……」


 急にもじもじしはじめた。照れている……のか? それとも、何か後ろめたいことでもあるのだろうか。


「あのね……」


 しばらく上目遣いで俺を見ていたが、ようやくステラは顔を赤くしながら口を開いた。


「よるね、ちょっとさむくてめがさめて、さみしかったから、おとーさんのほうにいったら、あったかくて……あと、あと、おとーさんといっしょにねてみたくて……」

「……なるほど?」


 要は寂しくてくっついてきてしまったらしい。寒かったとかそういうのは、多少は事実なんだろうが照れ隠しのようだ。本人的には結構恥ずかしいらしい。


「も、もういいでしょ! 」

「はいはい」


 機嫌が悪くなりそうな気配を感じたので、追求はここまでにする。






 水を飲み、ヤコメの実を適当に確保して食べる。蛋白質が足りないが、とりあえず糖分とビタミン的な物は取れていると思いたい。

 簡単な朝食を済ませたら、行動開始だ。今日は衣食住のうち「住」を確保するために動こうと思う。


 「住」、すなわち住む場所についてだが、昨晩拠点にしていた岩場をベースにするのもいいように思える。しかしああいった岩場は短い時間を過ごすならまだしも、長期的な拠点にするのは少し怖い。あの崖の上に何があるか分からないからし、どの程度強度のある岩壁なのかが分からないからだ。

 ガレ場になっている訳でもなく、一見すると落石や鉄砲水の危険があるようには思えない。だからこそ仮拠点に選んだ訳だが、やはり「確実に」安全であると確認できないうちは長期的な拠点にしたくはない。

 万が一、一年に一度だけ水が溢れてくる、というような場所だったりしたら、一年以内にその「一度」で全てを失う可能性がある。


 住居を構えるに辺り、最低限、寝床になる部分は床から浮かせる必要があるだろう。とすると、最小構成は高床式の寝台と屋根、壁になる。使える素材は加工できる程度の細い木、石、土くらいか。

 それらの条件を加味して、俺が造ろうと考えているのは簡易的なツリーハウスだ。といっても、高い位置に作ってはしごを掛けて登るような物ではない。単純に既に生えている木を大黒柱にしてしまおうという簡単なものだ。


 現時点で加工できそうな木材は、俺の手でへし折る事が出来る程度のものだ。それらで骨組みを作るだけでは、風雨に耐えられるか不安が残る。更に建物の基礎の問題もある。


 割り箸だけで箱の骨組みを作ると考えてみてほしい。筋交いを入れたりして強度を上げる事はできるが、一番建物を頼りたい台風のような天候に対して逃げ込める場所になってくれるかというと、不安が残る。一箇所が崩れるだけで全体がベシャッと潰れてしまうし、そもそも基礎がちゃんとしていないので、まるごと吹き飛ばされる可能性だってある。


 しかし、その骨組みのうち二箇所がしっかりと根を張って自生している木になればどうだろうか。

 力がかかってもその力を受け止めてくれる箇所があると、構造物としては遥かに強くなるし、基礎に関してもしっかりと根を張っていてくれるので、すっぽ抜けたりはしない。いい感じの木が二本あれば、安全を確保できるシェルターを"建築"できる。


 これは壊れるかもしれないし、自然地形に比べれば耐久力が低いかもしれないが、潜在的なリスクという面で見れば圧倒的に優れている。地震が起きたりしても突然振ってきた岩に潰される可能性はないし、洞窟のような地形で起こりうる不意の落盤の可能性もない。それが無い、と断定できるまで自然地形を調査するだけの力が今の俺にはないので、これを避けたいならば自分でシェルターを建築する以外の選択肢はない。


 それでも家が吹き飛ぶような暴風雨が来たりした場合、緊急時には自然地形に依存した拠点に逃げ込むのもいいだろう。今の仮拠点で十分だ。屋根こそないが、余裕ができた時に木の葉や棒で作った板状の構造物を作って持ち込んでおき、奥のくぼみで丸まっていれば暴風雨くらいであれば凌げる。あくまで長期的に利用することを考えるとリスクが無視できないだけであり、短期的な利用であれば自然地形に頼るのが最も簡単で信頼性も高いのだ。もちろん、そういう天候に対して危険な状況が発生しない事を確認してから、ではあるが。


 耐久性に優れているが潜在的なリスクのある自然地形を緊急避難所として、日頃は手作りの建築物の中で生活する。

 これが俺の考えているプランだ。


 という訳で、それを実現するための手段を今、用意している。

 具体的には道具作りだ。昨日の夜、ガサゴソと作業をしていたのはこのためだった。


「おとーさん、それなに?」

「石斧を作ってるんだ」

「斧……?」


 首を傾げるステラ。どうやら斧自体は分かるようだが、ステラの考えている斧と随分と違うために納得できていないらしい。


 俺の今作っている石斧は、見た目で言えばピッケルに近い。L字をした棒きれの、短い方に石を当てて裂け目を作り、そこに昨日作っておいた長方形の石を挟み込む。そして、昨日の夜作っておいた、(ひも)。これでぐるぐる巻きにして、挟み込んだ場所を固定する。


 この紐は、適当に生えていた蔓を加工したものだ。採取した段階では蔓をそのまま紐として使おうと思っていた。使いやすくしようと石で叩いて柔らかくしていた所、ほぐれた蔓が縦方向に繊維状に裂ける事がわかったので、それをより合わせて編むことで紐に加工した。こうすると、そのまま使うよりも強度が跳ね上がる。


 「(ひも)」は大事な存在だ。紐があるかないかで出来ることは変わってくる。以前も少し触れたが、二つ以上の素材を組み合わせると道具を作ることができる。その「組み合わせ」に使える最も原始的な触媒、それが紐だ。それだけでなく、何かをくくりつけたり、ぶら下げたり、吊り下げたりとあらゆるシーンで活躍する。俺がカラビナにパラコードを括り付けているのもこのためで、紐はサバイバルにおいて意外と「なくてはならない物」の一つだ。


「よし、出来た」


挿絵(By みてみん)


 とりあえず出来た。これを使って集めたいのは、ゲーム中では「細木」と呼ばれて一纏めにされていた木材だ。俺が親指と人差指で輪っかを作ったよりも少し太い程度の幹をしていて、まっすぐ生えている、高さが3~5メートル程度の植物だ。

 基本的に「棒」に加工するために使われていた素材で、俺が今作った石斧や槍の柄として使う事が多かった。これを建材に使う。


 細木と言っても侮ることなかれ。金属製の道具がない今、これを超える太い木は素材として加工するのは難しい。細めのものであれば手で曲げることも出来、石斧で切れ目を入れれば任意の場所で折る事も出来るこの素材は、現時点では理想的だ。紐で括れば板にもなるし、数本をまとめて縛れば柱としても機能するだろう。


「よし、試し斬りと行こうか」


 少しウキウキしながら林に入る。


「おとーさん、たのしそうだね」

「そうか?」

「うん! なんかにこにこしてる」


 そうだろうか。そうかもしれない。やはり男子たるもの、棒状の物を握るとテンションが上ってしまうのだ。それが一応、武器にもなる物であればなおさら仕方がないのかもしれない。


「お、これなんかちょうど良さそうだ」


 目の前に生えているちょうどよい木。真っ直ぐ生えていて素材としては理想的で、太すぎず細すぎず。


「このサイズなら受け口とか追い口とか、そういうのも関係ないよな……」


 斧やチェーンソーで木を切る場合、倒す方向の制御とか、木材の芯を傷めないためだったりとかで、色々とやり方がある。ただ、このサイズの木はそんなものは関係ないだろう。まんべんなく周りから切り込みを入れて、行けそうな所になったら体重をかけてへし折ればいい。

 道具も所詮は石斧。鉄の斧のように斬り込める訳ではなく、どちらかといえば表面をゴリゴリ削っていくイメージだ。道具の耐久度もどの程度あるのか分からないので、最初から思い切り打ち込むのはやめて、徐々に力を入れていく感じで行ってみよう。


「よーし、じゃあちょっと離れてろ。……行くぞ」


 斧頭がすっぽ抜けたりする可能性も考えてステラを少し遠ざけてから、石斧を振りかぶり――叩きつける。


 スコン。


 記念すべき一打目。5割程度の力で打ち込まれた斧は、見事に細木の幹を切断(・・・・・・・・・・)し、何の抵抗もなく振り抜ける。


 バサバサバサ……。


 細木の幹の軸がずれ、地面に着地する。支える根を失ったその細木は、枝を周りの木にこすりつけながらゆっくりと倒れていった。



「……は??」



 なんだこれ?

 何が起きた?


 唖然として倒れた細木と、石斧を見やる。細木とは言うものの、とても素手で折ることはできない程度の太さがある。ましてや生木だ。最初の一撃では樹皮がめくれれば上等だ、と思っていた。

 石斧だって特別な物じゃない。磨製石器ですらない。ただの割れた石……打製石器ですらないまがい物だし、黒曜石のような鋭い切れ口を持っている訳もない。指で撫でてみたが、当然刃が付いているわけもない、ただの尖った石だ。

 しかし、そんな石斧は細木を一発で切り倒した。


 わけがわからないので、近くに生えている細木にもう一度斧を振るってみる。

 スコン。ドサッ、バサバサバサ……。

 切れた。今度は倒れた木が適当な長さになるように斧を入れる。

 スコン。切れた。


「……どういう事だ?」


 全くもって意味が分からない。

 混乱した頭で何となくステラを見ると、またしてもステラはキラキラした目で俺を見つめていた。


「……おとーさん、すごーい!! いまのどうやってやったの!?」


 あ、やっぱこれすごいんだ。どうやってやったのかは俺にも良くわかりません。

お盆休み後から急に職場環境が変わり、しばらくプライベートが死んでいる状態が続きました……。長らく放置してしまってすみません。

月が明けてから多少は落ち着いたのですが、まだ元通りとは行かない感じです。週一くらいで更新できればいいなと思いますので、宜しくお願い致します……。

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