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3 寝る場所を決めよう

(17/08/22)前話にあたる1章1話、2話を大幅に改稿しており、主人公の性格等が変わっています。改稿前の2話からはお話があまり繋がっていない状態になっています。お手数ですが、ご確認宜しくお願い致します。

 少し日が傾いてきた。


 今日の間にやらなければならない事は、寝床(シェルター)造りだ。


 場所は最初にステラを寝かせていた地点から滝に向かう途中の岩壁。ここは海岸から十分に離れていて、地面が砂地ではなく、地面もそこまで固い土ではない。岩壁から伸びている岩がちょうどカタカナの「ト」のような形で伸びており、そこの間に入れば2方向を岩壁に守られる形になる。理想的とまでは言わないが、かなり条件のいいキャンプポイントだ。ここを本日の拠点とする。


 滝の近くであれば水の回収も容易だが、鉄砲水や増水の心配がある。崖の上の様子がわからない以上、水に近づきすぎるのは危険だ。


 また、やわらかい砂浜で眠るという選択肢も無くはないが、現状では却下だ。満潮時にどれだけ海面が上がってくるか分からないし、急な高波に攫われるかもしれない。


 それに……ここがもしクラフティングワールドの世界であれば、夜の海には……稀に、出るのだ。攻撃的なモンスターが。


 奴らは海から出られないが、ある程度の距離は投擲などによって攻撃を加えてくる。浜辺で寝ていては危険かもしれない。もし奴らが存在しているのであれば、昨晩は幸運だったとしか言いようがない。



 という訳で、背を預けられて崩落の心配のなさそうな岩壁を今晩の宿とする事にした。ここに草のベッドを敷き、火を焚いて夜を過ごそうと思う。


「いいか、水がポコポコしてきたら教えるんだぞ。絶対に触ったり近付きすぎたりしないように。コップが倒れたり、火が消えたりしたら俺を呼べ」


「わかった! ちゃんとみてるね」


 少し前に焚いた火の残り火があったので、作業と並行して水の煮沸消毒をする事にした。俺が枯れ草や薪を集めている間、ステラには火の番を任せる。火の番とは名ばかりの、お湯が湧いたら鳴るタイマーだ。必要な役割ではないのだが、何か役割を与えておかないとステラはチョコチョコと俺の後ろをついて来る。


 それはそれで和む光景ではあるんだが、ステラの歩くペースに合わせるとどうしても効率が落ちる。ステラが見張りをする事により、水が湧いたらすぐに冷やして飲めるシステムを構築し、作業中の水分補給ルートを確保。更にはステラを一箇所に留めおくことが出来る、一石二鳥の作戦だ。


 欠点は、俺の姿が長時間見えなくなるとステラが泣き出す事。泣きながら見当違いの方向の林に突っ込もうとしているのを目撃してしまって以来、ある程度目の届く範囲で資材を集めることにしている。


「しっかし、こんな感じになってたんだなぁ」


 目の前に生えている植物を根元あたりから毟りながら、感心する。これは「ワラ」だ。嘘じゃない。ちなみに英語名も「wara」だった。製作者のセンスが時々わからなくなる。


 日本で言う本物の藁は、稲刈りをして脱穀した後に残る乾燥した稲の茎の部分だ。しかし、クラフティングワールドのワラはそこらへんの地面に生えている。それを刈り取ることで瞬時にワラの束になるのだ。主に家畜の寝床造りや、序盤の簡易ベッドに使う。


 藁がそのまんま地面から生えてる訳ねーだろ、というツッコミもあったが大半の人間は全く気にも留めていなかった。俺もそうだ。


 しかし、こうして実際に目にしたワラは……何というか、なるほど、ワラだなぁ……という感じ。黄色の茎が地面から生えてはいるものの水分が殆ど含まれておらず、手で折ると「ペキペキ」と乾いた割れ音がする。断面を見るとストロー状になっていて、うん、これは確かにワラだ。ワラとしか言いようがない。


 大量に集めて地面に敷くと、かなり柔らかい。もちろん布団やベッドのような柔らかさではないが、地面に直接寝るよりは遥かにマシだ。更に、断熱効果も期待できる。地面というものは特別冷たいわけでもないが、一定の温度から変わることもない。布団などであれば寝転がった部分から徐々に体温が伝わって温まっていくが、地面に直接寝転がると延々と体温を奪われ続けてしまうのだ。


「おとーさーん! みずがぽこぽこしてきた!」


 小さいチタンカップなので、水はすぐに湧いた。ステラに呼ばれる度にカップを太い木の棒2本で挟んで回収し、川の水で冷やす。水を二人で分けて飲んだら、作業に戻る。この繰り返しだ。


 一時間ほどでワラのベッドは完成し、薪や目的の素材も十分に集まった。海岸の一部に山ほど流木が堆積している場所を見つけたので、しばらくは薪集めも楽ができそうだ。


 ヤコメの実もいくつか回収した。林のあちらこちらで見かけたが、乱獲はできない。ゲームでのヤコメの実は序盤用の救済アイテムのようなもので、探せばいくらでもある代わりに、一度採取すると同じ場所には二度と生えない。


 「これが無くなるまでに生活基盤を整えなさいよ」という製作者の意図が伝わってくるかのようだ。


 なんだかんだでまた生えてくるのではないか? と、楽観的に考える事も出来たが、現状で頼れるのはクラフティングワールドでの知識だけ。一応節約しつつ、緊急用に近場のヤコメの実もある程度残しておこう。





 そうこうしているうちに夕暮れが訪れた。一日の最後、とある素材を求めて海岸の岩場に向かった俺とステラは、砂浜に差し掛かった途端目の前に広がる光景を目にして、思わず足を止めた。


「わぁ……!」


 ステラが声を上げる。俺達の目の前では、赤く輝く太陽が今まさに沈んでいく所だった。


「きれい……」


「そうだな……」


 拠点前の海岸は、地球上の方角で言えば南東向きだったらしい。真正面ではないとは言え、水平線に沈んでいく太陽と真っ赤に染まった空はとても美しかった。中天を仰ぎ見ればそこには星々が瞬いており、少し冷たくなった風が頬を撫でる。


「いかんいかん」


 景色に見とれている場合ではなかった。沈む夕日を見て呆けているステラは、少しくらいならば放って置いても大丈夫だろう。少し離れた場所にある岩場で目的の物を見つけた。ハンドボールサイズの石で、クラックが入っている。


「これをこの岩場に向かって……よいしょぉー!!」


 少し離れた岩場に向かって、それをブン投げた。ガチンッ! と音を立てて石が割れた。なかなかいい感じだ。大きい方の石を掴んで、再びそれを繰り返す。うん、ちょうどいい感じのヤツが出来た。


「おとーさん、なにしてるの!?」


 音にびっくりしたらしいステラが、慌ててこちらに駆け寄ってきた。


「ああ、コイツを作ってたんだ」


 俺はその成果物を掲げ見せた。


「いし?」


「違うな、これは割れた石だ」


「いっしょじゃない……?」


「一緒じゃない」


 そう、これは割れた石。クラフティングワールドにも存在しない、本当にただ割れただけの石だ。細長い長方形で、(タガネ)のような形をしている。


「明日からの生活に必要な物だ」


 ドヤ顔でステラに石を自慢する俺に返ってきたのは、ステラのジト目と不満げなリアクションだった。


「おとーさん、ムードがないよ……」


 6歳児に雰囲気作りをダメ出しされた。ちょっとショックだった。



挿絵(By みてみん)



 川で水浴びをした後、寝床に戻って火を焚く準備をする。ステラは恥ずかしがっていたが、そもそもステラも俺も、昨日の漂流のせいで海水でベタベタだった上に砂まみれだったから強制だ。焚き火は服を乾かすだけではなく、体温の低下を防ぐと同時に獣除けにもなるし、虫除けにもなる。一石二鳥どころの騒ぎではない。


 寝床に岩場を選んだのは、実は熱の効率も考えての事だ。平地で焚き火をしても熱は拡散していってしまい、火にあたっている面だけが温かい状態になる。


 それに対して岩場の側などで火を焚くと、熱が岩場などで反射して、より効率的に暖を取ることができる。


 夏の涼しい夜くらいの気温なので、そこまで気にしなくてもよいのではないかと思うかもしれない。しかし、ここには掛け布団も敷布団もない。かろうじてあるのは粗末なワラのベッドだけだ。一晩ならともかく、こんな状態で毎晩過ごしていたら早晩風邪を引いてしまう。医者にもかかれない状況で風邪を引いたら大変なので、夜寝る際に暖を取るのは大事なことなのだ。


 更に言うと実は、昼間に水の煮沸消毒をしてからステラを見に戻る時、焚き火に石を放り込んで焼石の選別をしていた。


 焼石は暖房器具としても、調理器具としても優秀なアイテムだ。そのまま置いておくだけでもしばらく熱を発してくれるし、直火が使えない土器や岩のくぼみに水を張ってから焼石を放り込めば、お湯をわかすことも出来る。


 ただし石を加熱すると、中に空気が含まれていた場合に膨張して爆発する事がある。そのため、予めそれっぽい石を焚き火に放り込んで焼石として使えるものを選別していた訳だ。


 ワラのベッドに引火したら堪らないので、寝る前に火は消すことになる。その後ベッドの近くに盛り土をして、焼石を埋めておけばジワジワと温めてくれる事だろう。本当はベッドの下の土に埋めたいのだが、地面を掘り返すいい道具――木の棒――が見つからなかった。



「ほら、奥行ってろ。火熾すから。そのワラが積まれてる場所がベッドだから、あんまりぐちゃぐちゃにするんじゃないぞ」


「わあ……きょうはここでねるんだ……」


 どうやらワラのベッドはお気に召した模様で、飛んだり跳ねたりはしないものの、座ってみたり、潜ってみたりとそれなりに楽しんでいるようだ。お嬢様育ちっぽいのに、意外と適応力あるな。


「でも、どうやってひをおこすの?」


「まあ、見てろ」


 興味津々のステラに笑みを返すと、俺はメタルマッチを取り出して、ほぐしたワラ屑を火口にして着火した。


 ワラ屑、ワラ束、小枝、流木……少しずつ太くしていくのがコツだ。学生の頃はマッチを使い切っても火が付かなかったものだが、今では失敗する気がしない。こんなもんは慣れだ。


 後ろを振り向くと、キラキラした目でステラが俺を見ていた。やっぱり火熾しスキルはアウトドアでは持て囃されるんだなあ、と思っていた俺に、感極まったようにステラが抱き付いてきた。



「すごい、すごいよおとーさん! おとーさんは、"火花"の魔法がつかえるんだ!!」



 ……そっち? っていうか、魔法?

 またお父さん、困惑する要素が出てきたよ。










少し間が空いてしまいましたが、再開します。宜しくお願いします。

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