第二話の二 お金を稼ぐのはとても難しい
「ファアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアックッ! ファック、ファック!」
「お、落ち着いてニニエちゃん! 他の人見てる!」
元女神とは思えない言葉を大声で連呼し、ニニエは俺に引きずられて商業ギルドを後にした。理由は簡単、ギルドの受付に仕事の話すらしてもらえなかったからである。しかも受付のめっちゃ美人なお姉さんにブタみたいな匂いしますよ(笑)などと言われて元女神の堪忍袋が爆発した。
「あんのクソ女、絶対いつか服燃やして貧民街の広場につるし上げてやるううううううううううううううううッ!」
「元女神さま、あの人の言っていることは本当です! 俺達しばらく風呂に入っていないからマジで臭いんですって!」
「それはそうでも言い方があるよね! 後元女神止めて。せめて元見習いって呼んで」
よっぽど元女神というフレーズが嫌なのか、それとも女神自体が嫌いなのか、とにかくニニエはそう呼ばれるのをひどく嫌っていた。
「……というかニニエさん、アンタマジで臭いから風呂入ってきて。お前の近くにいると目が痛くなる」
「女子に言う言葉じゃないよね!? 僕女の子!」
「女の子なら自分の体に気を使ってどうぞ」
俺はうんこみたいな匂いに鼻をつまむと憤怒に顔を真っ赤にしたニニエは銭湯を目指して行ってしまった。
それを確認すると俺は討伐ギルドの方に足を向けた。市民権を持っているとはいえ、よそ者が就職するには専門技術が必要となる。しかし俺はそれを持っていないので仕方がなく討伐ギルドで食いつなぐことにしたのだった。勿論機会があればすぐにでも足を洗うが。
街の討伐ギルドまで足を運ぶと初めて来た時と違ってギルド職員はゴミを見るような目であしらうのではなく、しっかりと受付まで案内してくれた。市民権を持ているのもそうだが、見た目が変わったのも大きいかもしれないと思いつつ俺は受付にたどり着いた。
「いらっしゃいませ。どのようなご用件で?」
「五歳児でも勝てるようなモンスターの討伐依頼とかありませんか?」
「もしかして仕事を舐めていらっしゃいますか?」
軽い冗談のつもりで言ったのだが目の笑っていない笑顔で受付のお姉さんに言い返され、背筋が凍り付いた。
「ごめんなさい。一番いい仕事を頼む」
「はい、ではボスガレオンの討伐などはどうでしょうか? 賞金は一億ガランで致死率九割ですが」
「すみません、一番簡単な仕事でお願いできますか?」
危うくとんでもない依頼を受けるところであった。
お姉さんはいくつか資料を漁った後、一枚の紙を俺に手渡した。
「コガレオンの討伐などは如何でしょうか? 現状このギルドにある依頼で最も簡単なものなのですが……」
「……めっちゃ強そうなんですが」
「はい、とても強いです。しかし賞金は高いですよ。なんせ依頼主が商業ギルドですので」
これを受ければ商業ギルドに恩を売れるという事になるかもしれない。という事なので仕方がなく俺はこれを受けることにした。
「分かりました。無理なら途中で切り上げます」
「はい、承りました。では新規の方という事なので市民表の提示とここにサインをお願いできますか?」
「うっす」
目の前に出された契約書にサインをし、討伐ギルドの会員カードを受け取った。
「では良い報告をお待ちしております! 行ってらっしゃいませ、スズキ様!」
俺は受付のお姉さんに見送られてギルドの出口をでる。そう、この時俺の異世界生活が本格的に始まったような気がした。
今までは日本でもあるような労働の延長であったがこれからは違う! まさに異世界でしかできない仕事が始まり、俺の新しく輝かしい人生が始まるのだ!
「おいおいあれ、まただぜ」
「コガレオン討伐に向かった奴だろ? ありゃ助からんな」
ふと聞こえた話し声の方を俺は向いた。
そこには担架で運ばれるズタボロの男がいた。しかも話によるとその男はコガレオンにボコボコにされたらしい……。
「あ、いたいた。おいこのブタ野郎、勝手にいなくなるんじゃねえよ……って、どうしたの?」
「い、いやあああああああああああああああああああッ!? 殺されるのおおおおおおおおおおおおおおおッ!?」
もしかして俺は死ぬかもしれないと、俺はその光景を見て思った。