第二話 家が欲しいだなんて贅沢な
俺は過去の出来事を思い出し、まさかこのような展開になるとは思っていなかったため完全にこの元女神にどう反応を返せばいいか分からなくなっていた。
痩せたら急に美少女になるとかいうのはアニメなんかではよくある話なのだが、まさか目の前でその光景を見ることが出来るとは思ってもいなかった。
「……まあいいや。飯、飯だ。食いに行くぞ。今日は奢ってやる」
「ほんと? やった! ただで飯が食える、これこそ僕の喜びだ!」
「中身は変わっていないのね」
こうしてデ○モンも真っ青なメガ進化をした俺達は行きつけの食堂に行くことになったのだった。いつも通り飯の時だけは浮足立つ二人であった。
「おいコラデブ、てめぇ一番高い奴頼みやがったな」
「お前が奢るって言ったんだろうが。それにこれは一番ボリュームがあるの。デブはお腹空いていると死ぬんだからな」
「お前もデブじゃない……」
「心は肥えている」
くだらねえと思いつつ俺も席に着く。そして、ご飯を食べ始めたころに今回の本題を切り出すことにした。
「ニニエ、俺はついに目標であった五十万ガランを手に入れた。これでこの国、シド共和国の市民権が購入できる」
「ん? そうだね。市民権ないとギルドどころか利用できる店すら制限されるからね」
そう、異世界に来たばかりの俺達を最初に苦しめたのはモンスターでもなければ魔王でもなく、この市民権の有無であった。
俺の転生先であるシド共和国はつい最近まで帝国であった国であり、その体制を引き継いでいる。それもあってかこの国には市民とそれ以外と言う括りがあるのだ。そして、その市民以外の人は市民権を買い取らないとまともな職に付けないと言う制約に俺達は絶賛苦しめられれていたのだった。
「五十万ガラン、昔はこの十倍もしたらしいからずいぶん安くなったとはいえきついよね。……それで、スズキはどうするの? 市民権を得たら。ギルドで魔物と戦う?」
「は? 何言ってんだこいつ。俺の能力言ってみろよ」
「無理か。ま、つい最近までデブだった奴じゃ武術も期待できないしその方が賢明だね」
「そうそう。だから商業ギルドの方を利用しようかなって」
「なるほど。安全に稼ぐならそっちの方がいいか」
ここまで話をして俺は元女神の無関心さが気がかりになった。なぜならば俺が討伐ギルドに行かないというのはニニエに取ってかなりの痛手になるからだ。
「お前は良いのか? 四人の大悪魔を倒さなきゃ天界に戻れないんだろう?」
この元女神がなぜここにいるのか、それは俺の受け取ったチケットに関係があった。細かいことは省略するが、あのチケットは本来天界の議会で正式に決定を下さなければ使えないものらしいのだ。しかしそれが俺の手に渡ってしまい、それを人間界に流した犯人としてニニエが疑われてしまったらしい。そしてそのせいで彼女は女神見習いとしての地位をはく奪された。
「別に、すぐに出来る問題じゃないし。お金は必要でしょ?」
ニニエは視線を合そうとはしなかった。俺は何となく察した。こいつも元の世界に帰りたくないようだと。
彼女は先ほど俺が言った四人の大悪魔と言うのを倒し、その悪魔の持つ宝玉を集めて帰還のお守りを作るのが天界に帰る事が出来る条件とされていた。帰還のお守りがあると俺は元の世界に帰る事が出来る。彼女も帰る事が出来る。つまりはそれで全てが元通りになるという事なのだが……。
――ぶっちゃけると俺はここに永住する気でいた。
だって日本に帰っても引きこもるだけだし? 世間の俺を見る目は厳しいし、それに俺なんてもう死んだ事になっているだろうと思った。家族は俺の事なんてもうどうでも言いようで声もかけられなくなっていた。出来る弟がいるからそっちの方が大切に違いない。
だから俺はここに残る気満々だった。当然そうなると危険を冒して四人の大悪魔など倒す気も起きないわけで……。俺は早々に異世界での目標を放棄した!
「ま、その通りだ。だから商業ギルドで荒稼ぎしてやろうとな!」
「この引きこもりデブやっと働く気になったのね」
「お前は俺の母ちゃんか! それにもう働いていただろ!」
俺の抗議の視線をかわしてニニエはご飯を口に押し込んでいく。その姿は紛れもなく女神のそれではなく、誤解はあるがデブがものを食べている時のそれだった。しかしなんだか寂しさもあった。
その時俺はデブの時のニニエがブタみたいにご飯を食べている姿が親近感あって意外に好きだったことを理解した。あの光景が見れないとなると正直寂しかった。
「……なんか物凄く僕に失礼なことを考えていないかな? このブタ男」
「な!?」
腐っても元女神、洞察力は中々の物であった。