第五話 攻勢
ウルリス商会ブレイン、セルゲイ・ウルリスは資金調達に目途がついたため上機嫌に朝からワインを飲んでいた。これほどの怠惰を尽くせるのも、彼がアネモネ軍と裏で手を結ぶことが出来たからであった。
「ふふ、奴らは自分の敵をより多く殲滅でき、我々は武器を売れる。素晴らしい関係じゃないか」
アネモネに情報をリークしてその攻撃地点の町に武器を売却、そして混乱に乗じてその場所から金品を略奪するという方法で彼は多額の収益を獲得していた。しかも誰にもばれていないと思い込んでいるので、まるで勝ちが決まった賭け事をしているかのような気分に浸っていた。
「次はこのマギナ市だ。ここで武器を売って、後はここの金品を略奪すれば……」
もはやこんな悪行も眉一つ動かさずに出来る様になった彼は本社の置かれているマギナ市すら射程に入れていた。つい先日見つけたリラ・ユーストルニッグという少女を利用して市の住人に危機感を与えて収益も増えている。そしてそこからさらに騒動を起こせば更なる事業拡大が見込めるのだ。これほどうまい商売はないと思っているのだろう。
しかし、そんな彼の幻想は午前九時を持って打ち砕かれた。
突然ウルリス商会本部、彼のいる本社で爆発音が鳴り響いたのだ。
「な、何事だ!?」
「ウルリス様! 大変な事態になりました!」
ウルリスは部屋に飛び込んできた秘書から新聞を手渡された。そこにはウルリス商会が行った不正の数々が列挙して上げられていた。
「な、なんだ、なんだこれはッ!?」
新聞に掲載されている情報は一言一句間違いなかった。これはもう、内部から情報が洩れているとしか考えられないほどに。
「ウルリス様、ラント商会、商業ギルド、マギナ市がこの不正を大義名分に我々への攻撃を開始しました! ここ本部は包囲状態に置かれ、戦闘が始まっています!」
「何だと!? 敵の、総数は!?」
「ラント商会二百、商業ギルドとマギナ市が百五十です」
「何ともならない……。数の差が違いすぎる……!」
突然の襲撃にこちらの手持ちの五倍の戦力差、とてもではないが耐えられない。
すると何を思ったのかウルリスは部屋の置き鏡の前にに立った。
「アネモネ、返事をしろアネモネ!」
彼はアネモネの名を呼んだ。するとただの置き鏡のはずのそれが光初め、褐色で顔を布で隠した女が映し出された。
「何ようか。くだらぬ要件と言う様子ではないようだが、少し落ち着いてはどうだろう」
「これが落ち着いていられるか! ラント商会の奴らが我々の結託を察知し、攻撃を開始した! 支給増援を送れ!」
「構わないが、到着は先鋒が早くて五時間後だが」
「ご、ごじかッ……、構わん。何とか持ちこたえよう。では、頼んだぞ」
ウルリスは通信を切り、外を見ることのできる窓に張り付いた。そして憤怒の形相で罵倒を捲し立てた。
「あのクソ役ただずの売女が! 五時間後だと? ふざけるな! クソ、こうなることを予想してなぜ兵力を近くに置いておかなかったのだ! 何が一蓮托生だ、ふざけやがって!」
頭を掻きむしりながらウルリスは部屋の中をうろつき始める。そして、ピタリと止まったかと思うと秘書に向かって言い放った。
「私はここを脱する。地下通路があるからな。そこを通って……」
「お言葉ですが、ウルリス様。地下通路は占拠されております」
「……何だと?」
「敵戦力は外に展開する部隊と地下通路から侵入した部隊の二つがあります。その両者も今は押しとどめていますが、時間の問題です!」
「……このッ! この役立たず共が! なぜ私の思い通りに動かんのだ、チンカスが! もういい、火を放て!」
「何を仰いますか!? まだ戦っている部隊もおります。それを殺すおつもりですか!?」
秘書は何とかウルリスをなだめようとする。しかし、ウルリスは剣を引き抜くと秘書を切りつけた。そして通路に出ると通りかかった従業員に同じ命令を下した。
従業員は困惑しつつも頷き、命令を伝達しに行った。
「さて、私の部屋は強固なシェルターでもある。五時間、それなら持つはずだ……」
彼はブツブツと呟きながら部屋に戻ろうとした。
しかし、その時ウルリスの執務室がある場所にたどり着いた俺達は閉ざされようとしたドアを押さえた。そして執務室の中に突入する。
「なッ!? 警備隊は何をやっていたのだ!」
「全員倒した。俺以外の人が」
「なに? 貴様何者だ!」