第四話の三 アウトローズ①
たった今明かされた衝撃の真実に俺達はひっくり返りそうになった。まさか強大な敵の娘が目の前にいるとは思っても見なかった。
「お、お前ボスキャラの娘だったのか!?」
「そうよ。驚いた?」
「ああ、すっげえ驚いた」
「……そう」
リラは俯く。彼女にとってこれはあまり話したくない事であったのだろうかと考える。
するとここで一つ俺に疑問が生まれた。
「……それが今回お前が逮捕された理由なんだろうが、ならおかしくないか? なんで憲兵隊はそれを知ってたんだ?」
「憲兵隊だけじゃない。この町の住民はほぼ全員知っているはず」
「それならなおさらだ。……それを元々知っている奴ってどれくらいいるんだ?」
「私とお母さんしか、知らない……」
そこで俺は彼女が暗い表情を見せている理由に気が付いた。アネモネが突然襲来して討伐隊を皆殺しにした。そしてその後リラはアネモネの娘だと判明。つまり彼女は実の母親に裏切られたのだ。
「……」
「分かったでしょ? 私とは関わらない方がいい。エーデ族は危険なの」
何とフォローすればいいのか分からず俺は黙り込んでしまった。こんな時気の利いた言葉を掛けられればいいのだが、元引きこもりデブな俺には難易度が高かった。
そして三人ともだんまりで共同宿舎に戻った所、待っていたのは宿舎のオーナーだった。
「……鈴木さん。強制退去です」
「は? 何で……」
「その悪魔の娘と仲間のあんた達を宿舎には置けない。出て行ってくれ」
「はあ!? ふざけんじゃない、僕たちは何も――」
「出て行け!」
こうして、俺達は二か月間住み込んだ共同宿舎を追い出されてしまった。オーナーに怒鳴られて逃げ出した俺達は公園で途方に暮れていた。
「……ごめんなさい」
「お前のせいじゃないよ。でも、どうする元女神?」
「復讐よ! あのクソオーナーをムッソリーニのように街頭上つるし上げて鞭で叩きつけるの!」
「野蛮ッ! そしてお前は元気だな~」
しかしいくら元気とは言え、お金もないし住居もないんじゃどうしようもなかった。俺は早速ピンチに追い込まれていた。
そしてさらなるピンチが俺達の目の前に現れた。
「お、おい……。あの集団こっちに来てないか?」
「え? ってマジだ……。僕たちの方来ている。松明持ってみんな顔怖い……」
その集団は俺達をすぐに取り囲むと口々に俺や元女神、そして何よりリラを罵倒し始めた。今にもリンチを受けそうな状況に俺達はいよいよどうしようもなくなった。
「……私が、私が道を開くからお前たちは逃げろ」
「リラ?」
「全て私のせいだ。この責任は、しっかりと果たす……」
「お、おい! そんなの許さないぞ!」
リラは今にも暴動集団に殴りかかりそうになっていた。俺はそれを必死に止める。
まさに絶体絶命。ここでリラが暴れようが暴れまいが、もう俺達だけではどうしようもない状況であった。
元女神は諦めたのかだんまりとただベンチに座っていた。
もうおしまいだと、そう思った。
「おうおう、随分と物騒なことになってるじゃねえか」
集団がその声に振り返った。俺達からは集団が壁になってその声の主が見えなかった。
その声の主はどんどん近づいてきているようで俺達は息を呑んだ。
「てめえら、消えな。そこにいるやつらに用があるのは俺様よ」
「何だと!? 我々はこの悪魔の娘を浄化するためにいるのだ! 討伐隊はこいつの裏切り行為によって死んだのだ!」
俺達を取り囲む集団の一人がそう言うと口々にほかの人もその言葉を肯定する。しかし、すぐにその声が聞こえなくなった。
「もう一度だけ言うぞ? 失せろ」
その一喝が決め手となったのか、ぞろぞろと集団が俺達を恨めしそうに見つめながらもすごすごと退散していった。
そして残ったのは毛深く背の低い男性と思われる、まるでドワーフのような見た目の男性だった。
「……商業ギルド所属、ルーデンドルフ・ゼフィラントというものだ。君たちはスズキ君、ニニエさん、そしてリラ君で間違いないね?」
俺は取り敢えず助かりそうなので全力で頷いた。するとルーデンドルフと名乗った男はにこやかな表情を浮かべた。
「我らラント商会、君たちとの商談を行うためにここに足を運んだ。よろしければ我々の本拠地まで、ご同行願えないだろうか?」
「「「しょう、だん?」」」
突然で理解不能な言葉に俺達は顔を見合わせて首を傾げた。