第八話
普通を目指すには基準値が異なると非常に困難になるというのを実感しているのだが。
それ以前に私の周りに当たり前の基準を持ってる人が居なかったって話になるわけで。
何処にあるんだろう。普通の基準。
リチャードと一緒に私は冒険者ギルドに向かった。
街の中心街から若干奥側にその建物はあった。石積みのよくある建物だ。
建物の扉に入ると割と広い室内に奥には窓口が3つほどあって、右横に掲示板がある。
左手はテーブルと席が幾つかあって、屈強な如何にも冒険者な方々が座っている。
だが、私というよりもリチャードの姿に視線が行っている。
「これはこれは、副会長が直々にどういった依頼かね。」
窓口の奥にいた中年の、細身のようでいて明らかに鍛えられた男性がリチャードに向け声を掛けた。
「今日は依頼ではなくてお願いしたい事があってね。冒険者として推薦したい人間を連れてきた。」
リチャードの言葉に。そして私を見て一瞬周囲がざわつく。
「ちょっと待ってください。未成年の本登録は基本的にお断りさせて頂いてます。」
窓口にいた職員が慌てて止めに入るが、リチャードは平然とした様子だ。
「見た目で判断すると痛い目を見るぞ。我々を襲った犯罪者たちを捕まえたのはこの方だ。」
「副会長と家族の乗った馬車が襲われた話は聞いていたが、あれはそちらの護衛が捕まえたのでは?」
「残念ながら襲撃者たちは護衛よりも数が多く、危うい目に遭ったがこの方のお蔭で難を逃れた。」
職員たちは私をじろじろ見てるが流石に仕方ない。
私の国の出身者は童顔で若く見られると言われるが、元々子どもだから余計にだ。
これが大人びてるとかだったらともかく、そもそも鑑定とか魔法とかある世界に詐称は無理だろう。
「一度試験を受けさせてみては如何かな?実力については保証する。」
「副会長の推薦とならば私が見定めよう。ここでは狭すぎるから訓練場まで来て頂こう。」
奥の中年男性が立ち上がり、カウンターから出ると左手の奥まったところにあった扉に向かう。
私とリチャードが男性に続き、その後ろから冒険者たちがこぞってやってくる。
冷やかしとか色々あるかもしれないが、こっちとしては説明の手間が省けて助かる。
確かにあの男性は実力はあるとは思う。久しぶりに剣を振るっても大丈夫な相手だと良いなと。
何しろ出会った野盗たちは剣を振るう必要性を感じなかった。
まだ魔族たちの方がと思ったんだけれど、邪神相手だとそれどころじゃなかったし。
おかしいな。相手の基準がずれてる気がする。考え過ぎかな。
冒険者ギルドの中庭は訓練場となっていた。
そして、剣を持って構える私と男性。窓口の職員の一人が審判役で立っている。
そこから距離を置いてリチャードと冒険者とギルドの職員の面々が私たちの様子を見ている。
「始めっ。えっ。」
開始の合図と同時に私は男性に向かって接近した。
ひとまずゆっくりと接近する。本気で走ったら危ないだろうし。
簡単に剣を振るったがやっぱり受け止めてくれてすぐに距離を取ろうとする。
うん、久しぶりにまともに戦える相手だ。
ただ、うっかりやりすぎないように剣を重ねるだけなんだが。
にしてもどうしたものか。何処で止めるか。
「ちょ、ちょ、ちょっと待った。判った。判ったから。止めてくれ。」
10回も剣を合わせないうちに審判から終了のコールが掛かった。
観戦してた人たちがリチャードを除き唖然としているのが見えた。
まあ、そりゃそうかなあと。これ以上やったら剣が持たなそうだもんな。
軽くやってるつもりでも、この剣多分次使ったら折れるだろうな。
「動きが見えない。急に姿が消えたかと思ったら剣の音がした。」
「5回?数えるのも一苦労というか、なにやってるか全然わかんねぇ。」
「ギルマスも凄いが本当に何者なんだ?」
私を見る雰囲気は明らかに変わってた。
でもね。私そもそも精霊使い・・・魔法メインなんだけどね。
もっとも、回復や補助系じゃないと街が吹っ飛びかねないのは内緒だけど。
専門だからと精霊術を使って見せたらランクどうしようとか協議に入ってた。
訓練場を解体したうえで使いやすいように改築しただけなんだが。
あくまでもリフォームと呼びたいところだが、原型留めてないとか言われたし。
武技の練習場所と魔法系の練習場所と訓練前後に使えるような部屋を作っただけなんだが。
ちゃんと更衣室とシャワールームも作ったよ。普通いるでしょ?
「本当に我が商家の子にならないか?」
「申し訳ありませんが、やるべき事がありますので。」
混乱の中、何とか私を抱え込もうとするリチャードと丁重にお断りする私。
一応無事にギルド登録は出来た。ギルドカードはランクC。
実力的には上位のカードを渡したいところだが、経験年数と試験を受けないといけないらしい。
ただ、Cランクでも十分各地を回れるそうなので問題はないかなと。
そういえば、倉庫に保管してた魔獣の死体とかって売れるのかな。
確か素材とか色々使えるから冒険者ギルドで買い取ってもらえるみたいだけれど。
例の邪神たちの軍勢と攻防戦やった時に他の精霊たちが防衛してたところが凄い事態になってて。
後始末で倉庫に山積みになる位、魔獣の死体が発生しちゃったみたいで。
仕方ないから窓口に説明して物を出していったら・・・ギルドの人に泣かれてしまった。
物量で場所が取られるだけじゃなくて、高い値段が付いた魔獣が多かったらしい。
一度に支払いができないという事で分割払いでまとめた。
それでも倉庫が整理できたので良かったかなと。
さて、身分証明書も手に入れたし何処に行こうかな?