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ぼっちは勇者を目指さない。  作者: タネモリ チコ
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第一話

中学生になってから数か月が経つ。

仲良しグループが出来たり、大体において人間関係が成立している中で。

私はぼっちだった。

担任が能力的に力不足な所もあって、残念ながらいじめもあった。

私はぼっちなだけでいじめの標的にはされてなかったんだが。

何度も止めたんだ。ある事情で私は標的にならない事は知っていたけれど、気分が悪いから。

ちょっと考えたら判るはず。犯罪だし、証拠集めて弁護士用意したら勝てるし。

子どもだから責任能力無いって?それ周囲の大人が責任被ることになるんだよね?

そうでなくてもそんな治安の悪い学校生活とか嫌だよね。

いじめって言うから軽く考えるけれど、窃盗とか恐喝とか強盗とか暴行とか傷害とか。

あら不思議、言葉を置き換えただけで犯罪都市ならぬ犯罪学級の誕生だ。

実にめでたくない。


そして、何の対策も、何の反省もなかった私の居たクラスはそのツケをきっちり払うことになる。

私の居たクラス。担任も生徒も全員まとめて地獄のような世界に叩き込まれたのだ。


見知らぬ大地の草原で化け物とか悪魔とかと表現するのが相応しい存在が多数。

そんな存在たちに囲まれて、平和で豊かな環境に居た三十人の中学生と一人の大人が穏やかには居られず。

半狂乱になって悲鳴を上げてたり、逃げまどったりしてる担任と同級生を異形の存在が捕まえていく。

私はその場に立ち止まっていたが、異形の存在は私を明らかに無視していた。

私以外の全員が捕まえられ、組み伏されたところで黒いローブを羽織った一人の青年が歩いてきた。

服装こそ違えど、私を含めそのクラスの生徒全員が見知っている顔だ。

顔立ちは整っているが、線が細くて小柄な暮明影人。

両隣に長身の人の様な美しい女性の様な存在を侍らせ、影人は私たちを見据えた。

「久しぶりだね。会えてうれしいよ。」

優し気に語り掛けるその言葉の孕むナニカに、私は背筋を凍らせた。

だが、影人は私を見るなり興味なさげな表情を見せた。

「ああ、君には用はないんだ。ここから去ってくれるとありがたい。」

「それって、今から復讐を始めるって事なのかな?」

「ここに連れてきてしまったのは申し訳ないが、君を対象にする程僕はまだ壊れてないからね。」

影人が私に向かって手で払うような仕草をした次の瞬間、私の体は飛ばされていた。


さっきも思ったんだが・・・本当にここ何処なんだろう。

今までいた街や学校ではなく、明らかに違う場所なのは判るとしてもだ。

先ほどの異形の存在といい、影人のことばといい、考えたくない事が頭に浮かんでるんだが。

先ほどの草原から違う場所に居るんだが、どうも見たことのない植物が生えていて。

少なくとも私が今まで見た事のある植物とはかけ離れてるものが普通に存在していて。

どっからどうみても、ここそもそも私の居た国なのだろうかと首をかしげていて。

大体普通に学校に居てた筈がいきなり草原で次は違う場所。

落ち着かないどころか、完全に学校以外でもぼっちかと頭を抱えたくなって。

それ以前に・・・どうしようこれ。

でも私に悩んでる時間は与えてくれなくて、影人の横に居た女性の様な存在の一人が私の前に現れた。

「あのお方にも困った物ね。全員生贄として用意したのに。」

私の顎を掴み、顔を向けさせる。

「悪いけど、生きていては困るのよ。消えてくれるかしら。」

次の瞬間、私の体は空高く飛ばされていて、ひたすら落ちていった。

影人は私を見逃そうと離れた所に飛ばした。それを乗じるようにあの存在は私を消そうとしている。

島が一面の大地となり、豆粒のようだった地形がはっきりと見えていく、このままでは確実に死ぬ。

やがて、森の様な場所が徐々に迫って行き・・・。


そんな時、私の体を光が包んだ。それと同時に落下の速度が徐々に緩くなり、何時の間にか止まった。

そして、脳に響く不思議な声。

『悪いんだけど、あの森に落ちられると困るんだよ。』

「好きで落ちてる訳ではないんだけど。」

『それでも困るから一緒に来て貰うよ。』

ゆっくり森の中に降下していく私の体。

大地に足が着くと、私の体を包んでいた光が消える。

私は足を踏みしめるように確認して、辺りを見回した。

『こっちに来てくれるかな。』

私の前に野球ボール程の白く輝く球体が現れると、ついて来いと言わんばかりに動きを見せる。

仕方なしに球体の後を追うと、森の奥深くに進んでいるような感じがした。

暫く歩くと、私の前に巨大な樹が聳え立っていて、巨大な虹色の球がゆっくりと降りてきた。

虹色の球は人の様な形をとると、私に向かって頭を下げた。

『ようこそ、精霊界へ。私は精霊神。貴方を保護します。』

「それはどういう事かな?」

『貴方と同じ世界から来たものが他の人間を生贄に邪神になろうとしています。』

私は自分を殺そうとした存在のことばを思い浮かべた。

「私も生贄の一人って事か。」

『貴方が生きている限り、邪神として完全な存在になる事は出来ないでしょう。』

影人は私を殺さない。彼からすればいじめを止めようとした私は復讐の対象外になるからだ。

だが、周りはそうではない。これからも私を殺そうとする存在が出て来る筈だ。

『時が経てば、ここに攻め込んでくるでしょう。その前に貴方には力を付けて貰います。』

赤、青、緑、橙、白、黒の光球が私の前に飛んでくると、それぞれ人の形に変えた。

光球と同じ髪の色をした六人の男性が私にお辞儀をする。

『彼らは六つのそれぞれの属性を統べる精霊王。貴方を鍛え、導いてくれることでしょう。』

「どうしてそこまでしてくれるのでしょうか?」

『邪神と魔族たちの目的は世界の滅亡。この世界を守るためには当然の対応です。』

私は頭を抱えた。これは嫌な予感がする。元の世界で読んだ小説で結構あった展開だ。

「それって、私に勇者になれって事でしょうか?」

『残念ながら、貴方は勇者にはなれません。ですが、近い位に鍛えることは可能です。』

「勇者になれないってどういう事ですか?」

精霊神は悲しそうな感じのことばを呟いた。

『貴方は魔族たちに生贄として召喚された。故に勇者としての素質が無いのです。』

私は驚きつつも、実を言うと想定はしていた。生贄が力を持っていては召喚者にとって都合が悪い。

だからこそ無力な状態で召喚されたのであり、私以外の人間は恐らく残念な事態に陥ってるのだろう。

『素質が無くてもこの世界で鍛えれば、身を守れるだけの力を付けることは可能です。』

私に選択肢はなかった。今のままでは確実に命を狙われて殺される。

そうなる前に使えるものは全部使わないといけない。

今後の事を考えるのも大事だが、今は目の前にある問題に対応しないといけない。

「わかりました。宜しくお願いします。」


その後、私は名前を聞かれた。本名をそのまま名乗るのも考えたが、ここは異世界のようだ。

なので私は何故か一部で呼ばれていたあだ名を使うことにした。

リンド・ローム。これならあまり浮くこともないだろう。

人間としてぼっちが続いてる私の異世界生活が幕を開けた。

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