〜序章〜
どうも、こんにちは!赤城あやとです! 今回の作品は一話一話の内容を濃くしようと思って頑張りましたw
どうぞ、最後まで読んでください!
「だから君は何度言えば分かるんですか…!」
ウェミニアの南大門付近、比較的弱いスライムなどが多いこの場所で、黒魔道士の装備に身を包んだやや背の低い女が言った。
「え?ダメなの?」
「君ね。その小さな頭にちゃんと脳みそ入ってますか?」
「見たことないが、入ってるかな?」
「…だったら少しは学習して下さい…!!」
呆けた顔で黒魔道士を見上げる手には片手剣と盾が握られていた。どこにでもあるような装備で、彼が新米剣士であることが伺えた。
剣士になったばかりの彼が、彼の所属しているギルドから下された最初の依頼は、南大門付近にいるソルモット(ネズミの大きいやつ)を討伐することだった。大抵の新米剣士は、それくらいの依頼は簡単にこなせるのであるが、彼は違った。
ソルモットに攻撃を仕掛けるべく、剣を振るったのはいいものの、それをきれいに躱され反撃を食らった。予想していなかった反撃に、新米剣士は慌ててその場を走り回っている所、通りかかった黒魔道士に助けられたのだった。その黒魔道士が、先程、新米剣士の頬を引き伸ばしている人、その人だった。
「剣士志望なんですよね?だったら少々敵が攻撃してきても怯えたり怯まない事。広範囲の攻撃を仕掛けてくる時だけ避ければいいんです。」
「なんでだ?当たったら痛いじゃないか」
きょとんと目を瞬かせながら剣士は黒魔導士を見上げた。
「ですから…。剣士ならゆくゆくはナイトになるんでしょう?」
「だな。ナイトってかっこいいな」
「君がナイトにどんな印象を持っているかは知りませんが、ナイトは防衛と呼ばれる役割を担うんです。それがいちいち敵の攻撃を避けていては他が崩れてしまう…」
「え。防衛…?嫌だよ、痛いじゃん」
「それを受けるのが防衛です。ちゃんと回復役もいるから傷の心配はいりません。なので、しっかり敵の注目を集めながら殴られておいて下さい。」
「えーだから…俺、痛いの嫌だって…」
「痛いのが嫌なら魔法使いや僧侶にでもなればいいじゃないですか。遠距離タイプだったらまあ、敵の攻撃は当たることないですよ」
黒魔道士が杖の先で土に記号や印を書きながら戦闘においての役割を説明してやる。それを剣士が首をひねりながら聞いていた。
あまり理解力がない剣士だと、説明をしながら思った黒魔道士は、「では、もう一度」と実践でなんとか理解してもらおうと腰を上げた。
広く荒れた平野を見渡して近くを歩くソルモットを指し示す。
「兎に角、初手の攻撃は必ず当てること。広範囲の攻撃以外は避けないこと。この二つだけでいいので守ってやってみてください。」
「俺が攻撃されたら誰が回復してくれるんだ?お前は見るからに黒魔道士だけど…」
「回復は専門ではありませんが、簡単な回復魔法なら使えるので心配ないです。君の傷位なら治せますよ」
「ほー。なら、まかせた!」
剣士はそう言うと、盾と剣を抜いてソルモットの方へ勢いよく走りだした。
勢い良く走り、剣を大きく振りかぶり、相手に向けてそれを振り下ろす。
がんっ!と多きな音と共にソルモットがよろめく。不意を突かれたことにより、相手の攻撃が一瞬遅れているようだった。
おお。やればできるじゃないですか。
と黒魔導士が少し離れた場所でそれを眺めている。
ソルモットの反撃を盾で受け、空かさず剣を振り下ろす。一番初めと比べると中々様になってきている様子だ。
何度かソルモットの反撃を防げず直に受けるが、剣士は怯まず攻撃を続ける。
小さな体で小さなソルモットと対峙する姿は、傍から見れば微笑ましいものにも見えるが、当の本人たちは真剣そのものだった。
ガンッっと大きな音を立ててソルモットが後ろへ弾き飛ばされる。ついに動かなくなったソルモットを見て、剣士はその場にへたり込んだ。
「…!?な、だ…大丈夫ですか?」
後ろで見ていた黒魔道士が慌てて駆け寄る。
へたり込むほど傷を負っていたのかと焦り、回復魔法を唱えようと杖を構える。
と、へたり込んだ剣士の肩がくつくつと揺れだした。
「……ふふっ、はははっ!なんだ、俺、やれば出来るのか!?」
「……??」
突然笑い出した剣士に黒魔導士は訳が分からず、目を見張る。
「ははっ、すげー。な、黒魔道士、今の見た?俺出来るんだよ!」
「そうですね。出来ましたね。まあ、最初に比べればいい方じゃないですか?」
「すごい痛かったけど、ちゃんと出来たぜ。俺、結構強いんじゃね?」
「強いかどうかは些か疑問ではありますが、笑うことができる位でしたら、回復はいらないみたいですね。」
剣士となってきっと初めて倒したであろうモンスターにへたり込んだまま腹を抱えて笑っていた。その表情はとても嬉しそうだった。
黒魔道士はため息をついて剣士へ手を差し出す。
「そんな所で座ってないでさっさと立って下さい。任務は3匹なんでしょう?まだ1匹目ですよ」
「おう!俺なら3匹なんてあっという間だ!見てろよ!」
「はいはい。」
差し出された手を力強く握り、勢いをつけて剣士は立ち上がった。
そのまま威勢よく次のモンスターを倒すべく、剣士は走り出していった。
「叩いてもへこたれない位の精神は持ち合わせているようですね。」
たまたま通りかかったとはいえ、剣を握ったことのない黒魔道士でも分かる程、無様な剣捌きをする名前も知らない新米剣士に声をかけたのは気まぐれだった。それがどうだ。一時間程度と思っていたがもう日は大きく西へ傾いていた。
黒魔道士は、大きな時間ロスをしたと思うが、今日は特にこれと言って用事がない事を思い出した。これも一つ、暇を潰すにはいいだろう。そう思ったのだった。
ふと、黒魔道士は辺りの景色を見やる。
さっき走り出した剣士が見当たらないのであった。
「……?どこへ行ったんでしょう…?」
不審に思い、辺りを見渡していると、遠くの方からさっきの新米剣士が全速力でこちらに走ってきた。
「どこまで行っているんです?ソルモットならこの辺りに……――」
「やばいいいい!助けてくれっ!!!!」
「はい?…って…!!!」
全速力で走る剣術士の後ろには山のような巨体のジャイアント・トロールが、目の色を変えて剣士を追いかけていた。トロールという足の遅そうな名前なのに、かなりの速度で追いかけてくる。
「ちょっと、何やって…!」
「いや、なんか、気づいたら追いかけられて…!」
物凄いスピードで黒魔道士の後ろへ回り込んだ剣士。勝てない相手と認識したのだろう、早々に黒魔道士に助けを求めた。
「やばい。あれには勝てない…!」
「当たり前です!なんでソルモット以外を攻撃したんですかっ!」
黒魔道士が杖を握り直し、呪文を唱えた。黒魔道士の周りに円形の呪符が出現し、剣術士は思わず一歩下がった。瞬間、黒魔道士が杖先をジャイアント・トロールに向けると、追いかけてきたジャイアント・トロールが一気に炎に包まれた。瞬きをする間もなく、ジャイアント・トロールはその場に倒れ動かなくなる。
呪文を唱え終え、黒魔導士が杖を軽く振りそれを収めた。
「まったく…。勝てないと分かっててなんで攻撃したんですか…!」
本日一番大きなため息を付き、黒魔道士が後ろに隠れた剣士へ向き直る。
すると、そこには、目をきらきらと輝かせてた剣士がいた。
「す…すごい!?お前、強いんだな!!!」
「え…あ、…まあ、これくらい」
さっきまでの焦りはどこに行ったのか、剣士はぴょんぴょんと跳ねながら黒魔道士をほめちぎる。
「さっきの。変な光が出てきてばーんって燃えたやつ!あんなでかいの、一発で!」
「君の語彙力がないのは十分に分かりましたので、とりあえず落ち着いてください。」
「な!さっきのはやっぱ黒魔法なのか?俺、初めて見た!すげーな!!」
「自身の杖に込めて魔法に変換するんです。はしゃぐのはそれくらいにしないと、傷に響きますよ」
「すげーな!俺、魔法とかよく分からんけど、に強いのは分かった!すげーな!」
「…いいから落ち着きなさい!」
いつまでたっても興奮を抑えきれない剣士を落ち着かせるべく、黒魔導士は剣士の頭を上からぐっと押さえつけた。
ぐえっと潰れるような声と共に「やめてくれ!縮む!!」と剣士は猛抗議をしたが、黒魔導士は無視した。
「私が強いのはもういいですから。何故ジャイアント・トロールに攻撃を仕掛けたのか答えてください…!」
「うぅ…。なんで怒ってるんだよ?」
「君が相手も選ばず攻撃を仕掛けるからでしょう?勇敢と無謀は全く違いますからね…!」
「分かったって。謝るから…もうしませーん。」
「相手の強さと自分の強さをちゃんと比較してから攻撃してください…。防衛が逃げて攻撃役の後ろに隠れるなんて論外ですよ…」
「でも、お前は強いじゃん。」
「そういう意味ではなくて、君の命がいくつあっても足りないと言っているんです。」
黒魔道士が腰を折って剣術士と同じ目線になる。
ジャイアント・トロールから逃げてきたときに付いたであろう小さな傷がちらほらと顔や腕についていた。黒魔導士が杖を振って回復魔法を発動させ、それを癒す。
「おぉ…!魔法って便利だな!」
「利点ばかりではありませんけどね。さ、今日はこれくらいでいいでしょう。」
はあっと疲れたように黒魔導士が頭を押さえる。
剣士がそれを不思議そうにのぞき込んで見る。
「疲れたのか?」
「あなたに物を教えるのは疲れるんですよ。私の想定範囲外の事ばかりするんですから…」
「そうなのか?まあ、なんとかなったし。ありがとうな。手伝ってくれて。」
剣士がにっと笑い、深々とお辞儀をした。
「俺の名前はアデス。ここで会ったのも何かの縁だと思うし、これからも頼むぜ。」
真新しい装備を砂だらけにした剣士、アデスはそう言って黒魔導士に右手を差し出した。
黒魔道士は、差し出された手を少し見た後、それに自分の右手を出して握った。
「いえ、見ていられないものだったので…。そうですね。これも縁かもしれません。よろしく、アデス君。フィルと呼んで下さい。」
「おう!よろしくな!フィル!」
大きく傾いた西日が沈んでいく。
夕日に照らされたアデスの気持ち良いくらいの満面の笑みに、ふっとフィルもつられて笑ったのだった。
どうでしたでしょうか?コメントやアドバイスなどがあればぜひぜひよろしくお願いします!
今回、僕がこの話を作ろうと思った理由はRPGのような壮大な世界観に憧れたと言うのが一番の理由です。中々やりごたえがあったのですが、文章がおかしくならないように構成を考えたりなど一話だけで三時間くらいかかりました(^^ゞ
なので、投稿ペースは比較的遅いです。
が……
並行して「死に損ないの勇者(二等兵)が行く魔王討伐」も投稿していくので、そちらもよろしくお願いします!(こちらは投稿ペースははやめなので)
では、二話でまたお会いしましょう!