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世にも奇妙な異世界転生  作者: えろいむえっさいむ
特殊サンプル【異世界に転生する対象が知人同士である場合】
9/32

『危機感知』身近に迫る危険を事前に察知することが可能になるスキル

主人公:男、社会人、イケメンで優しいモテ男

   異世界転生物の小説はほんの少しだけ

「お主は現実の世界で死んでしまったのだ。しかしその若さで命を失うのはあまりに惜し……」


「こ、ここは!? どこだここは! 安全なのか? や、奴はいないか……?」


 男はキョロキョロと周囲を見回した。顔面が蒼白になっている。まるで怯えた小動物のようなその男は、整った顔立ちを恐怖で歪めていた。


 白く光り輝きながら空中に浮いていた老人が、その様子を訝しんだ。


「よくわからないが、ここは安全だ。ここは魂が集う場所。死したお主の魂が、輪廻転生の(ことわり)に従い、ここにや……」


「ちょっと待て! 魂が集う、ってことは……死んだ人間は必ずここにやってくるのか? もしかして……や、奴もくるのか!?」


 二度も台詞の途中で声を荒げた男に対して、白く光る老人はだいぶイラついた様子だった。最初のときよりだいぶぶっきらぼうな口調で男の質問に答える。


「奴、とは誰か私にはわからぬ。だが、その者が死したならば、いずれ此方(こなた)へとたどり着くだろう。さあ、お主には異世界へ転生する権利がある。もし転生を望むのならば、欲しい転生スキルを……」


「や、奴が来るだって!? それは困る! 転生って言ったよな? は、早く転生させてくれ! 頼む!」


 わざとやってるんじゃないか? と三度も台詞を遮られた白い老人はすでに怒りの表情だったが、男は気づいている様子はない。老人に掴みかからんばかりの勢いで急かしてくる。


「もう何でもいい! 早く転生させてくれ! ここにいたら奴に追いつかれるかもしれないんだ! 頼む、早くしてくれ!」


「……わかった。じゃあこの中から好きな転生スキルをえら……」


 白い老人が広げたリストをろくに見ないで一つのスキルを指さす。そして光を漏らしながら開いていく扉を見て、ろくに確認もせずその光の奥へ飛び込んでいった。何とも忙しない、と白い老人は愚痴をはく。


「……せめて挨拶くらい残してけよ」


 そうして白い老人は、次の転生希望者を迎え入れた。





 次の転生希望者は女性だった。黒くて長い髪が綺麗な美しい女性だった。今度の転生希望者は落ち着いている様子だったので、白い老人は安堵のため息をついた。いつもの台詞を言う。


「お主は現実の世界で死んでしまったのだ。しかしその若さで命を失うのはあまりに惜しい。お主に異世界への転生するけん……」


「ねぇ、ちょっと聞きたいんだけど。私が死んでしまったってことは知ってるの。ここって、死んだ人が来る場所なの?」


 お前もか、と心の中で毒づく。だが女性は気にした様子もなくこちらを伺っている。なんとなくその視線に粘っこい物を感じて、背筋がゾクリとする。白い老人は慌てて答える。


「そうだ。ここは魂が集う場所。死した者の魂が、輪廻転生の(ことわり)に従い、ここにや……」


「ねぇ、死んだ人が来るってことは、私の前に男の人来なかった? 私と同じくらいの年齢で、結構格好いい人」


 当たり前のように台詞を遮ってくる女性に、白い老人は苛立ちを込めてため息をつく。ただその女性は白い老人の様子などお構いなしにペラペラと男性の特徴を話していた。目元に泣きボクロがあり、髪の毛は真ん中わけだけど旋毛が二つある。車関係の大手企業に勤務していて性格は温厚誠実。他に実家の家族構成や好きな食べ物なんかを教えられた。そんなことを嬉しそうに語られたって知るわけもない。容姿の情報だけでなんとなく想像ついたので、長々続く男の詳細説明を遮る意味をこめて答えてやる。


「ああ、確かに直前に来た者だな。彼はすでに異世界に転生して行った。もしお主も異世界への転生を望むのなら、転生スキルを……」


「私も、彼と同じ異世界とやらに転生させてちょうだい」


 先ほどの男といい、人の話を最後まで聞かない地域の人間なのだろうか。白く光る老人はすでに諦めの境地だった。感情を殺して機械的に答える。


「わかった。では転生スキルを選ぶといい。このリストの中から好きなスキルを……」


「……待って、彼もこの中のスキルとやらを選んだの? 何を選んだか教えてくれない?」


 白い老人は小さい声で「苛立ったら負けだ、苛立ったら負けだ」と呟いていた。女が「早く教えろ」と鋭くこちらを睨んできている。はあぁっ、と盛大にため息をついて、男の選んだスキルについて教えてやる。別に守秘義務はない。


「……この『危機感知』というスキルだ。効果は、身に迫る危険を直前に感知することができ……」


「わかったわ、ありがとう。じゃあ私はこの『転移転送』というスキルにするわね」


 白い老人ははやく立ち去ってほしい気持ちでいっぱいだったので、「わかった、じゃあスキルを授けるからあっちの扉に」と手早く伝えることべきことを伝える。女はもう一度「ありがとう、色々助かったわ」と最後だけ素直に感謝を述べて光る扉へと消えていった。


 一人取り残された白い老人はその背を見送ったあと、痛む頭を抑えて呟いた。


「……今日はなんか疲れた……もう寝よ」





…………





 そこには以前転生した整った顔立ちの男がいた。目の前には白く光る老人。珍しく空を飛んでいない。白く光る老人が労わるような口調で男に声をかけた。


「その、大変でしたね。転生した後も、いろいろと……」


「……ああ、うん。そうだね」


 男は完全に憔悴しているようだった。立つこともできずに項垂れている。彼の異世界での生活を知っている白い老人は、完全に彼に同情していた。まるで己がことのように悲しそうな表情をしている。


 白い老人は、本来しなくてもい謝罪をした。


「その、すまんね。君も気付いているだろうけど、あの後、その、あの女の人が来て、君が行った転生先と同じ場所への転生を希望したんだ……ごめん、あんなことになるなんて、その、思わなくて……」


「……ははは、別にいいですよ。そういうお仕事みたいですしね。仕方ないですよ、そう、仕方なかったんだ……ははは……うっ、ううっ……」


 男はそういうと泣き崩れていった。よほど怖かったのだろう。白い老人はその気持ちがとてもよく分かった。画面越しに見ていたはずなのに白い老人の背筋は何度も凍りつき、鳥肌が立っていたほどだった。同じ男として同情を禁じ得ない。


 結論を言ってしまえば、女は男のストーカーだった。しかも、かなり悪質な。


 その行動は常軌を逸していた。はっきり言って異常だった。男は両腕で自分を抱えながら、己が転生した後の生活について淡々と語る。


「最初のうちは……そう平和だったんだ……モンスターとか盗賊とかいて怖かったけど、『危機感知』スキルのおかげで逃げるのは簡単だった……それに今思えば、モンスターに追われてる間の方がよっぽど安全だったんだ……あいつが、あいつに見つかったときから、俺の地獄は始まったんだ……くそ、あの時あの村にさえ行かなければ、まだ良かったのに!」


 男は震える体を一生懸命抑えようとしているようだった。白い老人はその痛々しい姿に思わず涙した。


「あいつは……相変わらず俺の後をつけてきた。ふと気づくとあいつが後ろにいた。でも最初のうちは何もしなかったんだ……最初のうちは俺の『危機感知』が発動するから、すぐ逃げられたし、たぶん逃げられるくらいなら見ていた方がマシだって思ったんだろうな。あの女も必要以上に近づいてこなかった。だからまだ良かった、精神が磨り減るだけで実害はないんだから……問題は『危機感知』が反応しなくなってからだ……」


 男の歯ぎしりが聞こえる。確かにあの時は怖かっただろう。見ていた白い老人も心臓が止まるほど驚いた。男の背後にあの女がいたにもかかわらず、『危機感知』が反応してなかったからだ。


「あいつ……俺のスキルが発動しなくなるのを待っていやがったんだ。俺があいつを"危機"に感じなくなるくらい、姿だけを見せて、それ以外何もしないで、ただ待っていたんだ……それで気付いたら……俺は暗い部屋に閉じ込められて……その後は……もう嫌だ、思い出したくない!」


 その後の事は口にしたくない気持ちはわかる。あれは、確かに酷かった。あの女は『転移転送』スキルを存分に使って男に色々なことをしていた。例えばろくでもない物を送りつけたりとか、男の排泄物を自分の手元に取り寄せ処分したりとか。他にも言えないような狂気じみたことを喜々として行っていた。最初のうちは物珍しがって見ていた白い老人だったが、気付いたら寒気が酷くて様子を見ることができなくなっていたほどだった。


 しかも監禁場所は『転移転送』スキルがないと行くのも帰るのも難しいとんでもない場所だった。逃避と救助の芽を潰すという念を入りようである。女の執念の恐ろしさを垣間見て、白い老人は恐怖でその日は眠れなかった。


 しかし男は隙を見て女から逃げ出すことができた。自殺、という手段を使って。


 肩を落とし、泣きじゃくる男の肩を白い老人がポンポンと叩く。そして彼に救いの言葉をかけた。


「君の不幸は理解している。とても、辛かったな。しかもその原因を作ったのは私だ。だから君にもう一度だけチャンスをやろうと思う。本来は異世界で死した者の魂は転生させないのだが、今回ばかりは特別だ。もう一度転生させてやろう。そして、君を脅かすあの女を同じ世界に転生させないことを誓おう」


「そ、それは本当か! ありがたい! 頼む、もうあいつのいる世界は嫌だ! あいつがいない世界ならどんな厳しいところでも構わない! 頼む、逃がしてくれ!」


「わかった」


 そう言って白い老人は厳かに男の頭に手を翳す。先程までの恐怖の涙と、今は感謝の涙でせっかく整っていた顔が酷いことになっている。そして白い老人は男を再度転生させた。


 次は、できるだけ不幸にならないようにと願いながら……

女「フフフ、逃がさないわ」


 初の続き物です。明日投稿します。




※連載終了のはずなのに、ポイントや感想が嬉しいからってどんどん話を作る浮かれ作者ですドーモ。


 日間総合218位、日間異世界転移86位ランキング入りしました! ありがとうございます! みなさまのおかげです!

 レビューや感想を書いてくださった方々や評価やブクマを入れてくださった皆様のおかげです。本当にありがとうございます! 初ランキング入りでめっちゃ喜んでます!

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