『生命流転』任意の魂を新たな生命として転生させることができるスキル。また転生の際、一定の魂の加工が可能
主人公:男・学生・思考はかなり幼稚
異世界転生物の小説はかなり熟読
「ふぅ……これで今日はおしまいかな。もう疲れたー」
僕はぐっと背伸びをしながら一人で愚痴を零す。先程光る扉を抜けて転生していった少年の明るい表情を思い出しながらため息をついた。
「趣味のため仕方なくやり始めたお仕事とはいえ、こんなに大変だとは思わなかったなぁ」
僕は黒くて見えづらくしてある台座から地面に足を降ろしてスイッチをオフにした。眩しいくらいだった後光のライトが消える。そして老人の顔のマスクを外して本来の顔に戻した。そこにはどこにでもいそうな平凡な男の素顔があった。
こんなどこにでもいそうな僕も転生スキルを持っている。スキルの名は『生命流転』だ。これは死者の魂を強制徴用して、望んだ異世界に転生させることができるスキルである。しかも転生するときに、その相手に好きな能力を付与することができるという、まるで神様のようなスキルだ。もちろん僕は神様ではなく、神様は別に存在している。その神様にこの転生業務を委託され、ついでにこの能力をもらうことができた。
僕は一つ大きく伸びをすると、部屋の隅の方に歩いて行く。そこはただの壁にしか見えなかったが、実は後光の明るさで隠していた隠し扉があった。その扉を開くと、その先にはこれまた平凡でどこにでもありそうな部屋と繋がっていた。僕の自室だ。
昔から使っている古い勉強机の前に座ると、机の上に置いてあったラップトップ型のパソコンを起動させた。すぐに画面が立ちあがると、慣れた手つきでマウスとキーボードを操作し、見慣れたウェブサイトを開く。
『小説家になろう!』
それはインターネットで個人の小説を投稿して色んな一般読者に見てもらうというサイトだ。小説家になるのも、読者になるのも、その両方になるのも自由なサイトである。僕はパスワードを入力して自分のホームページへと移動する。そして、自分が投稿した小説のアクセス数や評価数を調べた。
「うーん、ぜんぜんポイントも読者さんも増えてないなぁ。僕の文章力が悪いんだろな。厳しいなぁ……」
掲載された小説のタイトルを見ながら、僕はため息をついた。『投稿済み小説』タブに掲載されている小説のタイトルは、次のようなものだった。
『転生したらバクテリア!? 僕の異世界40億年生活』
『奪取スキルを持って転生したらいきなり投獄された件について』
『カエル転生 ~知識チートしたかったけど両生類も楽じゃない~』
『婚約破棄令嬢、平凡な日常編』
『オークの魔王の成り上がり』
なかなか面白いタイトルと内容の小説を書いたつもりだったのだけれど、あんまり人は見てくれないようだ。物語自体は実物をこの目で見たため、凄くリアリティのある仕上がりになっているはずなのに、どうにも誰にも読んでもらえない。正直少し辛かった。
気を取り直して僕は新しい小説を書こうとする。先程転生していった少年の様子をパソコンの画面に映して眺めながら、その行動を逐一文章化していった。少年の右往左往する様はなかなか滑稽で、見ていて面白かった。もちろんバカにする気など全然ない。彼の行動の全てが僕の小説の糧になるのだ。むしろ全力で少年を応援している。
一通り彼の行動を見終わって、僕は小説の下書きを見なおした。うん、まあまあの出来だ。あとはこれを面白い展開になるように脚色して、それを小説サイトに投稿するだけだった。満足げに頷く。
そしてここで僕はいつも悩んだ。タイトルとあらすじだ。この手の投稿サイトは、よほど人気のある作家でない限り、あんまり人に読んでもらえない。そりゃ面白いかどうかわからない作家の小説なんて誰も読みたくないわけだから仕方ないと思う。だからこそ、面白いタイトルと惹きつけるあらすじは重要なのだ。
僕は「うーん」と背伸びして悩みながらタイトルを考える。
「とりあえず転生してたくさん転生者がいる異世界に送られちゃって、困った結果普通のサラリーマンになったって話でしょ? サラリーマンを適当に勇者かなんかに変えておくとして、タイトルは『転生総60億人生活』とか? それとも『転生者だらけの世界で勇者を目指します』とか? これはインパクトないな。他は……あっ、『ドキッ、転生者だらけの異世界転生 ~チートもあるよ~』なんてどうだろ。アホっぽくていいかも」
そう思って僕は先程書いた小説に『ドキッ、転生者だらけの異世界転生 ~チートもあるよ~』と題打って投稿した。今回はどの程度閲覧者が増えるかとても気になる。それと同時に、僕は次の小説のアイディアを考えることとした。
「うーん、転生者だらけの異世界転生はやったから、次は何が良いかな。言葉が通じない場所への転生……は以前モンスターだらけの転生をやったことがあったからなぁ。人間が一切居ない場所への転生? 機械文明が発達しまくった場所への転生とか、面白そうかも。よし、次の転生希望者はそれにしよう」
僕はそう考えると、先程の隠し扉を通って、次の転生者を迎え入れる準備をしはじめた。
主人公「さて、次の僕の小説の主人公候補はどんな奴かなー」