『奪取』対象のスキルを奪い取り、自分の物にすることができるスキル
主人公:男・学生・自己中心的・思慮足らず
異世界転生物の小説はそこそこ読破済み
「君は現実の世界で死んでしまったのだ。しかしその若さで命を失うのはあまりに惜しい。君には異世界への転生する権利をや……」
「『奪取』! 『奪取』スキルをください! 『奪取』スキルさえあればあとは自分でなんとかします!」
「……わかった。では『奪取』スキルをやろう。さあ転生するがいい」
「やった! 話が早く助かる! ありがとう!」
…………
「……うわぁ、ここが異世界か。お城かなこの部屋? あ、こんにちわ……」
「おお、お主が異世界からの勇者か。して勇者よ。お主はなんのスキルをもって転生してきたのかな?」
「あ、俺『奪取』スキル貰ったんですよ! 凄いでしょ! 最強の勇者になってみせますよ!」
「……そうか、それは素晴らしいの。あとは別の者に案内させるから、勇者殿は彼についていっておくれ……いつもの対応を」
「ハッ……では勇者殿、こちらへ」
「あ、はい。ところでいつもの対応って? 転生者って結構頻繁に来るもんなんですか?」
「……ええ、そんなところです。こちらです、勇者殿」
「あ、はい……あの、どこまで行くんですか? これって地下の通路なんじゃ……」
「ええ、お気になさらずに……やれ」
「え、やれって、ぐあっ」
どかっ、バタン。ずるずる……。
…………
「……あれ、ここはどこだ? なにこれ? 目隠しされてる? 手が、あれ、足も……」
「……おう、落ち着けや。慌てたってなんもできねーよ。ただ牢屋に放り込まれただけだよ」
「え、牢屋? なんで!? 俺何にもしてないのに!」
「お前、『奪取』スキル持ちだろ?」
「な、なんでそのことを……」
「俺も『奪取』スキル持ちだからだよ。んで、転生してからずっと牢屋暮らしだ」
「……はぁ!? なんでだよ。え、俺も牢屋生活? せっかく転生したのに? え、まだ何もやってないんだけど? なんでだよ!」
「……そうキャンキャン吠えるなよ、うるせーな。頭痛いんだから静かにしてくれ。事情説明してやるよ。"オレ"も最初は理不尽だって転げまわってたからな。気持ちはわかる」
「……すんません、うるさく喚いて。事情教えてください、お願いします」
「……『奪取』スキルは他人のスキルを奪うことができる、そう神様みたいな爺さんに教えられただろ? あの光っててちょっと空中に浮いてる奴」
「あ、いや、俺転生できるって聞いて舞い上がっちゃって。特に説明聞かずに『奪取』スキル選んだ感じっす」
「……まあ、あんたの様子だと説明聞いたところで同じ『奪取』スキル選んでそうだから違いはないか。まあいい。『奪取』スキルは他人のスキルを奪うことができるんだ。たしかに便利な強スキルだと思うよ。相手を弱体化させつつ自分を強化させることができるんだからな。選びたくなる気持ちもわかる。"わし"もそうだった」
「……あの、ならなんで牢屋行きに? 転生したら勇者呼ばわりされたってことは俺らは強ければ強いほどいいんじゃないですか? なんで強い『奪取』スキル持ってて牢屋行きに?」
「簡単だよ。強すぎるんだ。『奪取』スキルは他人のスキルを奪うことができる。それはどんなスキルでも奪えちまうんだ。いろんな属性魔法のスキル、剣術スキル、料理スキル、腐敗魔術スキル、空間操作スキル」
「おお、すげー。そんなスキルも奪えるんだ!」
「投擲スキル、筆記スキル、言語スキル、日常会話スキル、二足歩行スキル」
「……え?」
「呼吸スキル、視界確保スキル、心臓自動操作スキル、筋肉操作スキル、生存スキル」
「……なんとなく、わかりました」
「そういうこった。『奪取』スキル持ちがその気になれば、世界を納めるなんて簡単なんだ。王なりなんなりの権威スキルを『奪取』しちまえばいい。人を殺すのも簡単だし、拷問するのも簡単だ。っていうか『奪取』スキルをうまく使えば相手を洗脳するのも容易い。感情の自由制御権を奪っちまえばいいんだからな。まあ"私"はやり方はわからんが」
「……マジか」
「強いっちゃ強いが、強すぎてどうしょもないのが『奪取』スキルってこっちゃ。自由にさせると、何するかわからないってのが『奪取』スキル持ちってことだ。いわゆる個人で核ミサイル持ってるようなもんだな。俺らが本気出せば魔王だろうが神だろうが殺せるだろうけど、殺した後どんなとんでもない事が起こるかわかったもんじゃない。あまりに危な過ぎるから、捕まえて牢屋で飼い殺しにしとくくらいしか使い道がないんだわ」
「……じゃあ、俺は一生牢屋なの?」
「ああ、それは安心しろ。たまに牢屋から出れるぜ。行き先は拷問室だけだがな。重要犯罪人の記憶を奪って証人代わりに使われることがたまにあるんだ。ちなみにその時余計な記憶奪ったり、犯罪者のスキル奪って逃げようとしたら即死刑だから気を付けとけ」
「……最悪じゃないか。ただの道具扱いじゃないか。それのどこに安心すればいいんだよ」
「記憶の『奪取』は脳みそにすげー負担がかかるんだ。3回もすれば発狂して死ぬ。安心しろって言ったのはそういうこった。"オレ"ももう2回やってるから、たぶん次行ったらそのまま死ねるかもな。実際いまもかなり頭が痛い。2人分の余計な人生の記憶が頭に残ってるからな。正直、自分の名前もわかんなくなってきてる。確か、ええとサイトウだっけ? サイモンだっけ? ルナリアだっけか」
「……マジかよ。ルナリアって女の名前だろ……まともな人かと思ってたのに……」
「まあ諦めろ。どうせ足掻いたってなんもできねーよ。暇だし、日本の話でもしてくれよ。なんか記憶が混濁しててな。昔のことがいまいち思い出せないんだ。冥途の土産に聞かせてくれ」
「……ああ、わかった。もう、いいや、どうでも。ははは。うぐっ、うっ、ううっ……」
光る爺さん「このスキルちょっと強すぎだなぁ。まあ別にいいや」
※この小説は7/10に短編で投稿したものです。主題が同じ短編が複数あったので、連載としてまとめました。短編の方をご覧になった方はご不便をかけて申し訳ありませんm(_ _)m