『召喚術』生物を含む特定の物体を異相空間から呼び寄せるスキル
主人公:男性、小学生、やんちゃな男の子
異世界転生物の小説の存在は知っているが未読
7月24日 晴れ
今日から夏休みでした。とても楽しみです。
プールに山に海に行く予定があります。家族みんなで行きます。友達とも遊びの約束をしてます。お祭りにも行きたいです。
すごく暑かったので、クーラーの利いた部屋で冷やし中華を食べました。美味しかったです。
…………
7月25日 晴れ
近所の友達の家で遊びました。ゲームをしました。
ぼろ負けしました。練習をたくさんしている友達の方が強いのはズルいと思います。
すぐに飽きた僕がちょっと古いゲームをしようって誘ったら、意外と楽しかったです。狩り最高!
…………
7月26日 晴れ
お父さんが海外旅行に連れて行ってくれるそうです。凄く楽しみです。
飛行機に乗るのは初めてなので、今から緊張しています。
ただ、お仕事の都合で1カ月以上後になるそうです。海外旅行に行く前に夏休みの宿題を終わらせないと連れていかないと言われました。
なので今日から宿題を頑張ろうと思います。
…………
7月27日 ?
変な白い老人に会いました。暗い部屋の中一人だけピカピカ光っていて、しかも空を飛んでいるように見えました。怖かったです。
「転生」とか「惜しい」とか色々言われましたが、意味がよくわかりませんでした。ただ「スキルをやろう」という言葉だけは理解できたので、スキルをいっしょうけんめい選びました。
僕は『召喚術』というスキルを貰いました。なんとなくモンスターとかを呼び寄せたら格好良いなぁと思ったからです。この前の狩りゲーのようなモンスターを召喚したかったのです。
『召喚術』スキルを貰ったら、白い老人が「では異世界に行くが良い」と言って、僕を光り輝く扉へと向かわせました。そうして僕は異世界に転移したみたいでした。
最初から最後までずっと怖くて心臓がドキドキしていました。
…………
たぶん7月28日 こっちの世界では晴れ
見も知らない草原に一人取り残されて、すごく寂しかったし怖かったです。
しかも動物園で見た事ないような変な動物がそこら中に普通に歩いていて、しかも顔が怖そうな奴に限ってこっちに襲いかかってきます。
本当に怖かったです。死ぬかと思いました。これに比べたらもうジェットコースターなんて怖くありません。
ただ、対策方法がわかってきたら結構なんとかなりました。
途中大人しい動物で、角が生えたウサギみたいな生き物がいました。基本的に草をむしゃむしゃ食べてたりお昼寝してたりするだけなのですが、近くに自分たち以外の生き物がいると、後ろ足を2回グッと踏みしめてから一直線に飛びかかってくるんです。
咄嗟に避けたのですが、最初はお腹に角が刺さりかけて怖かったです。
その角ウサギを僕が貰った『召喚術』スキルで召喚しまくりました。こっちに襲いかかってくる怖いモンスターも、角ウサギ数十匹を召喚して突撃させると普通に倒せました。気分はシューティングゲームです。
初めて倒したモンスターが血まみれになって動かなくなったのを見て、凄く気分が悪くなったのを覚えています。田舎のおじいちゃんがニワトリ料理を作ってくれたことがあったけど、きっとこんなことをしてたんだろうなぁと思います。おじいちゃんのいた田舎に帰りたいです。
…………
たぶん7月29日 曇り
いろいろ大変でしたが、いろいろできるようになりました。
テント無し明かり無しの状態でのキャンプは本当に死ぬほど怖かったです。真っ暗な洞窟の中一人きりで、ただ時が過ぎて朝が来るのを待つだけの時間は本当に、本当に怖かったです。お化け屋敷なんてもう目じゃありません。
でも、様々な種類のモンスターを見て行くうちに、僕のできることがどんどん増えて行きました。変な話だけど、怖かったのと同時に昼間は結構楽しんでいた気がします。
例えばゲームのスライムみたいなぬるぬるモンスターを召喚できるようになったら、木の上からそいつを落としてモンスターを足止めしたり捕まえたりできるようになりました。
尻尾が燃えているトカゲみたいなモンスターを召喚できるようになったのは今思うと凄く大きかったです。ライター無しで火をつけ放題でしたから。
角ウサギでも倒せないような体を鎧で覆ってるモンスターや、象より大きいモンスターに襲われたときの対策は意外と簡単でした。崖とかぬるぬるモンスターをたくさん入れておいた落とし穴とか、そういうところに目の前のモンスターを直接召喚すると確実に倒せました。思い付いた時は自分を天才だと思いました。
そんなこんなで、森の中で一人サバイバル生活を続けています。でも、できれば家に帰りたいです。
…………
おそらく7月30日 雨、ってか嵐?
人を助けました。雨の中で商隊からはぐれた人らしいです。
雷の音のせいでぎりぎりまで気付けませんでした。でも悲鳴と「誰か助けて」という言葉が聞こえて、僕は思わず洞窟から顔を出しました。
そうしたらこの森の中でたぶん一番強いでっかいカニみたいなモンスターに襲われている女の子がいました。こいつ角ウサギでも傷一つつかないし穴に落とされても這い上がってくるので、本当に強いんです。
でもこいつの倒し方は簡単です。同じカニを一匹召喚すれば、あとは勝手に同士討ちして片方は死んでくれます。残りもう片方も怪我をすると住処に帰るみたいで、ひとしきり暴れた後はすぐ平和になるのです。だから今回もカニを召喚して事無きを得ました。
助けた女の子にお礼を言われ、怪我をしていたので服を破って包帯代わりにし、色々話していくうちに「雨が止んだら一緒に近くの村へ行こう」ということになりました。商隊がもしかしたらいるかもしれないから追いつきたいそうです。
僕は久しぶりに会えた人に嫌われたくなかったので協力することにしました。本当です、別にその子が可愛かったわけではないです。ただ嫌われたくなかっただけです、本当です。
…………
7月31日だっけ? 晴れ
次の村で商隊に追いつくことができました。
森の中は巨大なめくじに乗って移動していきました。ちょっとぬるぬるして気持ち悪いんだけど、僕くらいの子供なら乗せても怒らないし、自転車より早く動くので結構便利でした。でも降りるとき服が全体的にぬるぬるしちゃってて気持ち悪かったです。
同じくぬるぬるになっていた女の子を商隊の人に引き渡すと、僕はさようならをしようとしたのですが、なぜかその商隊の人に仲間にならないかと誘われました。どうやら女の子が僕の『召喚術』のことを話しちゃったようです。別に秘密じゃないからいいけど。
それから久しぶりにお風呂に入って垢を落とせてさっぱりしましたし、ちょっと汚いけどお布団で寝れて凄く気持ち良かったです。ぐっすり眠ることができて幸せでした。
でも家にいれば、もっと安心できたんだろうなって思います。お母さん心配してないといいけど……。
…………
8月3日だと思いたい 晴れ
あれから僕は、商隊の護衛として仕事を任されています。
よくわからないけれど、商隊を襲ってきた鎧を着たクマみたいなモンスターを角ウサギミサイルで倒したのが良かったみたいです。大人の人達にたくさん感謝されて、ちょっと嬉しかったです。でも背中がバンバン叩かれて痛かったです。
特に護衛隊長って人に気に入られたみたいで、同じ馬に二人乗りさせてもらって色々な話を聞きました。波の無い海の話。モンスターの暴走とそれから村を守った話。悪の魔王の話。美味しい料理と自慢の奥さんの話。空飛ぶ城の話。
夜に商隊のみんなでキャンプをしているとき、僕が助けた女の子に護衛隊長さんの話を聞かせてあげました。でもずっと不貞腐れた顔をしてました。なんでだろう? 面白くなかったのかな? 僕は面白かったんだけど……。
やっぱり日本の話や、その海外の話の方が面白いのだろうか。僕は海外に出た事はまだないんだけど。夏休みの終わりに海外に行く予定だったのに。帰りたい。
…………
みんな死んだ。
…………
8月10日くらい
商隊を襲った魔物の群れの正体は、魔王軍と呼ばれる凶悪な存在だそうでした。
僕が森で暮らしているときに、その先兵であった巨大カニを倒しちゃったのがいけなかったようです。そういえば一匹だけやたら強いカニがいました。群れのボスだと思ってたら、魔王軍の手先だったようです。
その関係で、僕は警戒対象になって尾行されていたらしいです。召喚術を駆使してなんとか撃退できたのですが、被害は酷かったです。
僕に良くしてくれた商隊の隊長さんは巨大なモンスターに踏みつぶされて死にました。格好良い剣さばきで弱い魔物なら軽く一刀両断にしていた護衛隊長さんは真っ二つになって死にました。僕のことを胡散臭い目で見てた会計係さんは、馬と一緒に食べられてしまいました。
あの、女の子は
とにかく生き残ろうと必死で、森の中を突っ切り川をワニみたいな召喚獣で渡りきり崖を鳥の背に乗って飛び越えて、ようやく安全だと思える距離まで来た時、僕は倒れ伏しました。
そして今日、目が覚めたので日記を書いています。こんなことがあったのに日記なんて書いて何してるんだと思うかもしれませんが、忘れないために書きます。
僕は、絶対に、魔王軍を許しません。
本当に、本当に死ぬほど怖いけど、素敵な商隊のみんなを笑って殺していたあいつらに、一矢報いないと気が済みません。
早く家に帰りたい気持ちもあります。正直に言うと、こんな怖いこの異世界からもう一刻も早く離れたいです。
でも、あの子の仇だけは、せめて……。
…………
8月18日か19日 なんか変なのが降ってる
僕は仲間を集めようと思っていたら、逆に仲間に誘われました。彼らも魔王軍に恨みを持っていて、倒そうとする人達でした。
僕はまだ子供ながら、特殊な技法で戦う戦士として認められました。ラビットマンって呼ばれてます。英語は難しいのでよくわかりません。
仲間は3人います。剣も魔法も使いこなすカリスマのあるリーダー、詠唱さえ唱えられれば誰にも負けないほど強力な魔法を使いこなす魔法使い、どんな傷でも癒してくれる凄く美人でおっぱ……ええと、美人な聖職者さんです。
まだ仲間に入れてもらって1週間しか経っていませんが、色々な事が起こり過ぎて目が回りそうです。
街の回りを荒らしている盗賊団を全員捕まえて、森を荒らしている魔物の群れを倒して、無実の罪で捕えられてるおっぱ……美人の聖職者さんを助けました。他にもいろいろあったのですが、もう毎日本当に忙しくて日記に書けませんでした。ごめんなさい。
時間ができたら追加で書きくわえようと思います。もう夜遅いのでここまでにし
何か外が騒がしいです。着替えて外に出ます。
…………
8月29日らへん 暗闇
ようやく魔王城につきました。ここまで長い旅路でした。
深夜に四天王を名乗る魔王軍の幹部が襲撃してきたので撃退したら、やっぱり僕たちが目をつけられてしまったようです。あれから何度も酷い目にあわされました。
でもこちらとしては願ったり叶ったり。敵があちらからやってくるので皆で力を合わせてなんとか倒しました。
罠にかかったりあらぬ悪評をたてられたりして辛い思いもしましたが、今まで日記に書いてきた通り、どれもぎりぎりで生き残ることができました。おかげで皆との絆も深まった気がします。
作戦は完璧に整えました。用意できる限り最高の武器や防具を身につけ、考えられる限り最高の薬を持てるだけ持ち込んで、みんなができる技を把握したうえで最適な作戦をいくつも立てました。絶対に勝ちます。
僕も新しくいくつも召喚できる魔物が増えました。実は魔物以外の物体も召喚できることがわかったので、僕はもっぱら後方支援兼汎用火力です。必要な道具などを即座に出して陣地を築きつつ、後ろから角ウサギを飛ばします。
え、まだ角ウサギ使ってるのだって? だって他の強い魔物も召喚できるけど、ウサギが一番使いやすいし、慣れてるし、扱いやすいし……。
と、とにかく! 魔王を絶対倒そうと思います! あの子の仇をとるために今夜はしっかり英気を養います。おやすみなさい。
…………
きっと8月30日
魔王を倒しました。激戦に次ぐ激戦でした。
魔王はとても強くて、僕の角ウサギ戦法はほとんど歯が立ちませんでした。なのでその場の思いつきで『今まで戦った魔物のうち厄介だった奴100選』を魔王にぶつけてみたら、結構効果がありました。
僕たちにとって随分手こずらされた魔物は、魔王側でも厄介な奴だったようです。
そして魔王は傷つくと、別の世界へ逃げるとか言って変なワープホールを潜って逃げ出しました。一瞬慌てた僕らでしたけど、僕の召喚術で魔王自体を近くに呼び寄せて、すぐにタコ殴りにしました。みんなの全力攻撃が凄くて聖職者さんのおっぱ……城が大きく揺れました。
魔王をちゃんと倒したことを確認してから、僕たちは喜びながら街へと帰りました。僕も凄く嬉しかったです。街へ帰るとお祭り騒ぎで、みんなが僕たちのことをすごいすごいと褒めてくれました。
そしてその夜遅く、みんなから勇者と呼ばれ始めたリーダーさんが僕にある考えを教えてくれました。
僕は少し躊躇いましたが、その提案を受け入れました。明日、試そうと思います。
…………
「と、いうわけなんですよ先生! 僕この夏休み物凄く大変で、だから、その……」
「……はぁ、お前は真面目な生徒だと思ってたんだがなぁ……。まさかこう来るとは思わなかったぞ」
「……え? な、なんで?」
「却下だ却下。こんな創作ファンタジーみたいな話、誰が信じるって言うんだ。お前な、嘘をつくならもう少しマシな嘘をだな……」
「嘘じゃないですよ! 本当に僕異世界に行って、魔王倒してきたんですから!!」
「……お前小学生なのにネット小説なんか読んでるのか? 小説を読むこと自体は悪くはないが、もう少し題材を選べ、な? 全く、夏休み中お前がいなくなったってご家族の皆さんに心配かけさせた挙句、その言い訳がこの妄想日記とは……」
「本当にあったことなんですよ! 信じてください!!」
「まあご家族も安心したようだし、大騒ぎを起こしたお前が各方面にきちんと謝罪したから、その件について蒸し返すのはやめてやるけどな。でも、よりにもよって夏休みの宿題をしなかった言い訳にこんなものを書いてくるなんて……。お前もしかして全然反省してないのか? だとしたら、もう一度親御さんに相談を……」
「だから、本当に異世界に行って来たんですって! 日記を書いてきたのも、宿題をしなきゃって思ったけどあの時手元に日記帳しかなくて、仕方なく異世界で体験したことを……」
「……まあかつて類を見ないほどに小学生の日記にしては圧倒的分量と濃度だけどな。でも内容がいくらなんでも突飛すぎるだろう。最低限書いてあれば日記として認めてやるつもりだったが、これじゃさすがに……」
「もう、なんで信じてくれないんですか! 本当にあったことしか書いてないんですよ!?」
「じゃあ聞くが、なんでお前今ここにいるんだ? 異世界に行ったはずのお前が、日本の、学校の、俺の目の前に?」
「……それは、その……。別の次元に行った魔王を召喚することができるんだったら、自分の元いた世界の物品も召喚できるんじゃないかって、リーダーさんにいわれて……。それでその召喚した物を逆召喚……送還するときに一緒に自分もついてけば元に戻れるんじゃないかって……。試してみたら本当にできて……」
「……なんだそのご都合主義は。まあいい、じゃあ何でもいいから俺の目の前で召喚してみろよ。そうすれば信じてやるから」
「……実は元の世界に戻れることを知ったリーダーさんたちが『俺たちも見てみたい』ってお願いされて、今一人召喚中なので……。召喚は大きさにもよるけど、人間は一度に一人しか呼べないから……」
「……じゃあ何か? やっぱり証明できないんじゃないか。はぁ、もういいや。お前、宿題ちゃんとやってこいよ。行方不明になってたことを勘案して一週間待ってやるんだから。日記も書きなおしな」
「え! そ、そんなこと言わないでくださいよ! 僕、あっちの世界でまだやることがあって、今週末また戻らないとダメで……」
「ああ、はいはい。遊びの予定が詰まってるのか。夏休みの間中さんざん自由にしてようなんだし、宿題終わるまで遊ぶの禁止な。今度の期限はきちんと守れよ」
「そ、そんなぁ……。何とか頑張って帰って来てみたら海外旅行キャンセルしたって言うし、田舎のじいちゃん家行くの楽しみにしてたのに行けなくなるし、夏休み終わっちゃってるし、さんざんだ……」
「はいはい、嘆くのはいいけど宿題は小学生の義務だからな。諦めろ……それにしてもお前、凄く体つきがたくましくなったな。筋肉がついてるのか? 一体行方不明になって何やってたんだ?」
「……そこの日記帳に書いてある通りです」
「……まあいいか。おや、誰だ、校庭にいる女性は。すっごい美人だけど、変な服着てるな。学校の関係者じゃなさそうだけ……」
「あっ! ちょ、勝手に外出ないでって言っておいたのに! す、すみません先生! 失礼します!!」
「お、おい! お前の知り合いか!? ってもういなくなっちゃったよ。まあいいか、伝えるべきことは伝えたんだし。それにしてもあの美人さん、すげぇな。まるでマンガみたいだ。歩くたびにプルンプルンしてやがる……」
白い老人「感動した! お前は子供なのによくやったよ。ううう、鼻水が止まらない……」