表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世にも奇妙な異世界転生  作者: えろいむえっさいむ
失敗その2 原因:こちらの世界にまで干渉することができてしまった
15/32

『翻訳』言語体系の存在する意思疎通手段を解し、利用することのできるスキル

主人公:学生、女、正義感が強い

   異世界転生物の小説は少しだけ

 わぁ、ここが異世界かぁ。あ、あれが街だな。ちょっと怖いけど行ってみようかしら。


 第一村人発見! こ、こんにちわー……あ、こんにちわって言い返してきた。やっぱり日本語じゃないのね。

 でも言葉は理解できたわ。文字が頭の中に浮かんでくる。なんか字幕表示の映画を見てるみたい。すごいわこの『翻訳』ってスキル。面白いー。


 え、あ、うわ、ヤバそうな人に目を付けられた。どう見ても強盗です、本当にありがとうございます。

 え、傭兵? お困りのようなら俺らが案内してやる? いやいや、どう考えてもか弱い乙女を良いようカモろうとしてる悪者にしか見えないわよ。まあ指摘して逆上されたらたまったもんじゃないから黙っとくけど。

 ヤバイなー、早速変なのに絡まれたし、どう切り抜けようか、あれ?


 ……「こいつカモだぜ、賭場に連れて行こう」って?


 こいつらが私を懐柔しようと上っ面だけ丁寧な言葉とは別に、2重音声が重なったみたいに違う言葉が聞こえた? なんだこれ。これも『翻訳』の効果? よくわかんないや。

 それにしても賭場ってなんだろう。聞いてみて……いや、口に出したらマズイ感じがするわね。なんか嫌らしい目つきしてるし。黙っとこう。


 あ、まずい。このまま賭場ってところに行く流れになってるこれ。どうしよう。知り合いがいるからとか言って逃げる? いや、こいつら無駄に頭いい。狭い路地をそのでかい図体で前後をふさいでやがる。げ、逃げれない。きゃー、どうしよう!?


 し、仕方ないわね。このまま一緒に行って、チャンスがあったらそのままトンズラしよう……。




…………




 トンズラできませんでしたー。


 なんとか断って逃げようとしても、言葉巧みに誘導され、あれよあれよと気付いたら賭場の席につかされてました。

 しかも血判で変な書類にサインまでさせられちゃった。あいつら契約書を碌に見せないようにしながらサインさせやがったけど、私は知ってるんだからね! これ、私の体を代償に借金させて、払えなかったら奴隷にするって契約書でしょ! もう見抜いてるんだからね!


 あ、なんで見抜いたかっていうと、私が白く光る老人からもらったこの『翻訳』スキルの正しい使い方がわかったからなのよ。

 どうやらこのスキル、人の話す言葉だけじゃなくて、手で簡単に行うハンドサインやそれとない目配せなんかも効果範囲内らしいの。


 そんでもってこいつら、私がどうせわからないだろうからって手話や暗号で言いたい放題! やれ「こいつは間違いなくカモだ、良い値で売れるぞ」とか、やれ「いつもの返済不能になったら奴隷になる契約書にサインさせろ」とか、やれ「首輪つけたらまず俺が味見だ。貧相なガキだが、まあたまにはこんなのも良いだろう」とか言いたい放題! なんか腹立つわー、特に最後! 貧相とはなんだ貧相とは! これでもBなんだぞ!


 内心激怒していることは隠して、表面上は穏やかなやり取りを行った。賭場の中で私を案内してくれたナイスミドルは「せっかく出会えたんだし、なにかしらの博打で遊んでいかないか」みたいなことを穏やかな口調で優しく丁寧に教えてくれた。

 ダンディなおじ様の声はとてもとてもいい声色だったが、その博打「実はお金がかかってて、その借金の方は私自身の体であること」とか「策略にハメる気満々で、裏で指示していること」とかはもちろん言わなかった。当たり前だけど、人間の裏表を見せられたようでちょっとショックだった。


 こうやって私みたいなうら若い美少女を食い物にしていたのね! ホント腹立つわ! でもホント良い声! もっと囁いていいのよ!


 というわけで博打に参加させられた。内容はブラックジャックみたいなゲームだった。簡単なルールだったので一回聞いただけでなんとか理解する。ゲーム開始。


 ……ほほぅ、「最初は気分良くさせてやれ、勝たせろ」ね。


 あいつらが裏でこっそり送っているハンドサインや目配せ、手で机を叩く回数に後ろにいる見張りの何気ない行動なんかのサインを全て見抜いて、私は渡されたコインをいきなり全額ベットする。さすがに賭場にいる全員がその思い切りの良さに驚いたようだった。でも勝ちは勝ち。


 いえーい、初戦一発で5倍になったわー。もう帰っちゃおうかな?


 そのあとダンディなおじ様に耳元で囁かれ「素晴らしい決断力と勝負運ですね。もっとやっていきましょう!」と煽ってくる。ナイスなミドルボイスにちょっとうっとり。

 いや、本心はわかってるよ? 私の見えない場所で手を振って「次から搾り取れ」って合図してる。ウンウン、わかるわかる。負けてお金取られたら話にならないものね。じゃあ次の勝負いこうかしら。


 へへーん、そりゃ負けるとわかってる勝負、本気でやるわけないじゃない。何言われても最小額しかベットしないわよ。


 その後6連続で負けたけど、負け金額はごく微小。最初の勝ち分の1割にも満たない。まあ負けが込んでるし、相手がもう仕掛けてこないなら、負け続けを言い訳にして帰っちゃおうかなぁってあ、早速来た!


 ハンドサインで「次は勝たせて機嫌を取れ」ですね。はいはい、わかりました。ありがとうございまーす。


 最初はいつも通り出し渋り、また負けそうだなぁという雰囲気を出しつつ、カード決定してもうどうしようもないというところで残りの金額を全額ドン!


 ひゃっふー、ありえないくらいのコインの山! 最初の30倍近くのお金になったんじゃないこれ!? 私一人分のお値段がいくらかわからないけど、どう考えてもも大金でしょこれ!!


 あ、これはこれでヤバイ。調子に乗りすぎた。今サインで後ろについている見張りに「こいつを今から店を追い出す、出たところをヤレ」って言ってる。「ヤレ」はどっちの意味なのかちょっと不安。どっちにしろよろしくない意味ですよねきっと。おー、怖い怖い。


 私は後ろの見張りがこっそり扉を出た瞬間を狙った。机の上のコインを全部……は無理だったので半分くらい一気に奪い取るとそのまま扉に向かってダッシュ!

 ダンディ他ムサイ男たちが呆気に取られてるうちに逃げ切り先行! 後ろから「追え! なんとしてでも捕まえろ!」との怒鳴り声! くそ、そんな声でも良い声なのが悔しい! でも逃げる! 捕まったら何されるかわからない!!


 そして私は街の中を突っ走り、人の出入りが多いある建物の中に入った。

 建物についている看板は読めなかったけど、その扉の前に突っ立ってるゴツイ男が別のゴツイ男に手を振っていた。

 単なる別れの挨拶なのだろうけど、それも『翻訳』スキルの対象だったらしくて、その手の振り方が「また明日、冒険者ギルドで会おう!」という意味だったのを理解したからだ。

 冒険者ギルドと言えば金さえ払えば何とかしてくれる場所のはずだ。そして金なら懐に大量に持っている。

 私は「助かった!」と安堵しつつ、受付へと走り寄って行った。




…………




 その後は、まあいろいろあった。


 賭場にいた全員を通報して捕まえてもらったり、お金を使って最低限の衣食住揃えたり、なんだかんだで世話になった冒険者ギルドが気に入ってそこで受付嬢として仕事を始めたり、色々あった。


 私は『翻訳』スキルを使って地味に活躍していた。

 仲間同士だけに伝わる暗号という側面があるからか、ハンドサインや目配せなんかはいろんなところで使われていて、しかも使ってる人の大半は悪人っていうのが面白い話だった。

 だから私が何気なく日常を過ごしているとき、話し声が聞こえないのに『翻訳』スキルの翻訳済みの言葉が聞こえたら、だいたいそこに悪人が潜んでいやがった。


 だから私は、冒険者ギルドで着服していた会計と監査の人を密告して更迭し、奴隷商人の誘拐実行犯の根城を特定して壊滅させ、不正を疑われている街の伯爵様の身の潔白を証明してみせたりした。

 どれも悪人さえ特定できれば、あとはその近くにそれとなく人を配置しておけば、その人は悪行を知られたくないからハンドサイン出し放題、目配せやり放題になる。そして私はそれを盗み見し放題なので簡単に証拠を押さえられるのだった。チョロい仕事である。これなら冒険者ギルドで煩雑な書類仕事してる方がよほど大変だった。


 さらに、私の『翻訳』スキルは進化していた。使い慣れたからかもしれない。

 例えば朝起きたとき、眩しい太陽に顔を顰めながら背伸びをしておき、外からの喧騒が聞こえ、鳥たちが飛び立ち、朝食何にしようかなと考えてるとき、ふと「魔物の大群が接近中」という言葉が脳内に響き渡った。驚いたよ、そりゃ。

 そしてその予言のごとき天啓は事実になった。魔物の群れが街を襲ってきたのである。街の方では、私が予め「魔物の大群が来るかもしれないから気を付けて」とギルド長に進言しておいたおかげで、戦力を固めて余裕の対処することができた。だが、それは今どうでもいい。あの予言の言葉は一体何だったのだろうか。


 当時はいろいろ考えたし悩んだけど、結論から言えばこれもやっぱり『翻訳』スキルのせいだった。

 どうやら『翻訳』スキルが人の明確なサインだけでなく、街の中に存在するわずかな気配や異変すら察知するようになったらしい。魔物の大群についても、鳥のような小動物の反応や、人間には感知できないほどのわずかな地鳴りを翻訳して、その意味を教えてくれたのだ。

 わかったときはそのとんでもなさに驚いたね。で、わかったらわかったで私は『翻訳』スキルを良いように使いまくったね。

 今までは足を棒にして歩き回って不正をする連中や犯罪を犯しそうな悪人をとっ捕まえていたけど、今は街の喧騒を感じるだけで、どこで誰が何をやっているかがだいたいわかるようになった。そしてその全能探知がごとき力をもってすれば、街の平定なんてお茶の子さいさいである。気分は街の平和を陰で守るヒーローであった。


 そして、やっぱりというかなんというか、私の異常性は影で噂されるようになり、気付いたら王室御用達の参謀長官の秘書にまで大抜擢されていた。

 しかも秘書なのに、一定の軍隊を動かす権限まで付与されている。意味がわからない。わからないが、わからなくもない。

 だって王様が宰相に目配せで「こいつは自分で動かさせた方がきっと役立つ」って言ってたもん。いや、否定はしないけどさぁ……。


 そうして私は、敵軍隊のわずかな動きから相手の策略を看破し、地域の気象変化から魔物の異常発生(スタンピート)や干ばつなどを予想し、王城内で悪事や不正を企む者を見逃さない稀代の策謀家として名を馳せることとなった。まあ、正直やりすぎた気はしないでもない。


 最近、「あの娘を他の国に取られるわけにはいかん、誰か高級士官に娶らせよ。なんなら王子の一人でもつけようか」と王様達がこっそり打ち合わせしているのを何とか回避しようと必死になっている。

 高級士官はだいたい野心家で私を政治の駒にしか見ていないのは『翻訳』で知っているし、王子様は、その、ちょっとアレなのだ。愛のない結婚も体重差が倍以上あるお婿さんもいらない。せめて良縁があるまでは独身でいさせてほしい。


 私はなんだかんだ言いつつ、今日も王宮で楽しく過ごしていた。




…………




 ふふふ、見てるんでしょ? わかってるわよ。ふふふ、ホントに不愉快で、ホントに腹立たしいわ。


 私の人生見てて楽しかった? 世界の外側で、なんの苦痛もなく。

 私が苦労して異世界を過ごしていたり努力して結果を勝ち取ったりする様子をそこから見てたんでしょ? 私が右往左往する様を笑って見てたんでしょ?

 ああ、実に気持ち悪い。虫唾が走る。最低の気分よ。


 もしかして気付いてない振りをしているの? そんな無駄なことしなくてもいいわよ。

 そっちが気付いていることを私も気付いている。だから無駄。無駄なのよ。


 気付いているんでしょう? 私の『翻訳』スキルが、とうとう世界規模を超えて、この世界の(ことわり)まで読み解けるようになったのよ。この異世界の異常性も、ね。


 あなたがここに私を送り込んだんですものね。冷静に考えればすぐにわかる話だったわ。むしろ、今までわからなかった私がバカみたい。


 あなた、私を異世界に送り込んで、その人生を覗き見していたんでしょう?

 私がどんな気持ちだったかも全て見透かして。本当に、本当に気持ち悪い!


 世界の意思を『翻訳』したらすべてがわかったわ。あなた、他にも何人も異世界へ転生させているんでしょう?

 私みたいにスキルを与えて。私にしたようにその人生を覗き見して。目的はよくわからないけれど、恐らくただ自分が楽しみたいがために。


 なんて悪趣味。なんてクソ野郎。なんて恥ずかしい。お前は、神にでもなったつもりか?


 ああ、ああ、わかってるでしょ、私が何をしたいのかは。

 私はあなたを殺すわ。あなたは人の為にならない。元いた地球の人間にとってあなたは最悪の存在よ。

 だから私があなたを殺す。殺さなくちゃいけない。あなたが死ぬことが地球も含めた世界のためよ。


 ……あなたはまだ気付いていないようね。『翻訳』スキルからの返事がないってことは、世界からの反応がまだないってことだしね。それとも今こっちを見てないだけかしら?


 まあいいわ。あなたのところに使いを送ったわ。その使いがきっとあなたを殺してくれる。

 あなたの居場所を知りたがっていたし、彼女は彼女にとって愛しい彼のためならきっとあなたを殺してくれる。私があなたの居場所を教えたからね。


 なかなか『翻訳』スキルを使ってもあなたの居場所を探すのは手間取ったわ。でも把握できた以上すべて終わり。

 あなたはあの壊れた彼女に殺されるの。そしてあなたが死んで私たちは本当の意味で解放されるの。

 ああ、早く、早く殺されてちょうだい。お願い、お願い。




 ……ねぇ、----君?

白い老人「……なんか最後に気持ち悪いこと言い残してったなこいつ。俺に言ってるの? ってうわ、な、なんだこの女!?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ