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世にも奇妙な異世界転生  作者: えろいむえっさいむ
サンプル8【転生対象者がただ自己顕示のために能力を使いだした場合】
12/32

『カリスマ』目標を明確にした場合に限り、高確率で他者から協力を得られるスキル

主人公:男、学生、自己顕示欲が高い

    異世界転生物の小説は少しだけ

「やった、魔王を倒したぞ!」


「やったわ、さすが勇者よ! 恰好良かったわ!」


「さすがです、ご主人さま!」


「……ぐっじょぶ」


「フッ、まさか貴様がここまでやるとはな。見直したぞ、勇気ある者よ」


 俺は血に濡れた伝説の剣を掲げて、勝ち鬨を上げる。魔方陣が力を失い、代わりに神々しい光が剣から放たれた。そして俺の仲間たちが追従して喜びの声をあげた。


 俺は日本から転生したとき、白く光る老人から『カリスマ』なるスキルを貰った。本当はもっと強くて恰好いい『全属性魔法』や『成長率強化』のスキルが欲しかったのだが、なぜか見せるだけ見せて貰えなかったのだ。心底腹が立った。でも今は感謝している。


 この『カリスマ』スキルは俺が目標を設定すると、周囲の人間がその設定した俺の目標が成功するように協力してくれるようになるのだ。変な言い方だが、集団で洗脳しているような状況だが、明らかにおかしい目標だとさすがに誰も従ってくれなかったので、たぶん「善意の」洗脳と言ったところなんだろう。


 例えば「村の近くに巣を作ってるオークの村を全滅させるぞ!」と大声で宣言すると、それに協力してくれる人たちがワラワラと集まってきて「俺もやる!」「私も手伝う!」と人だかりができる。

 また、戦えない人達は「俺のところの武器を持って行ってくれ! 後で返してくれるなら全部使っていい!」とか「うちの回復薬は全部やるぜ! あそこの森が解放されれば薬なんて作り放題だ!」とか「私たち何の役にも立たないけど、せめてお弁当だけは作ったの! 後で食べてください!」などと都合の良い事を言ってくれて全面的に協力してくる。

 相手との力量差が相当あるのならともかく、大抵の場合は人数と兵装のごり押しでなんとかなってしまう。人の集団の力というのはバカにできない。

 そして何より面白いのは、その結果得られた功績は全て俺の物になるのだ。最初に声を上げた人間として評価されるのである。

 実際やってることは、最初に声を上げて、あとは周りのみんなに任せるがまま、そしてちょっと行動を共にして最後に美味しいところを頂けば、あとは全て他の人がやってくれるのである。何とも楽な話だ。


 そうやって俺はゴブリンの集落を壊滅させ、飢饉で苦しむ村を救い、盗賊団を制圧し、竜の谷を越え、伝説の武具を復活させ、とうとう最悪の魔王を倒す事ができた。どれもほぼ仲間の力であるにもかかわらず、俺は稀代の勇者として担ぎあげられているのである。何とも気分が良い。


 そして仲間である、巨乳で美人で治癒の奇跡を使いこなせることができる僧侶ちゃんや、元拳闘奴隷で誰よりも早い瞬発力と格闘技術を持っている猫耳獣人ちゃん、普段は無口なのに召喚生物とは語り合うことができる召喚士ちゃん、そして魔術の研究に明け暮れていた隠遁する黒髪の魔術師ちゃんに褒め称えられ、俺はご満悦だった。

 実際はほとんど影に隠れていたところを邪神を復活させようとしていた魔王を4人が弱らせ、俺は最後の最後にちょっとだけ前に出て魔王に伝説の剣をサクッと刺しただけだ。だというのに4人はまるで俺のおかげだと言わんばかりに尊敬の眼差しで見ている。俺は謙遜するような素振りを見せながら、内心ではドヤ顔をしていた。


 そしてみんなを諌めるように手を振ると、俺はいつものセリフを、半ば演技、半ば本心で言った。


「これは僕一人の力なんかじゃない。みんなの力を合わせたからこその勝利だ!」


 そして仲間たちの歓声を聞きながら、俺はご満悦だった。




…………




 そして俺は城に行き、王様から勇者としての称号や様々な褒美、そしてお姫様を妃として頂き、俺はこの国の王太子となった。

 その際、美少女の仲間たちと一悶着あったが、俺が「この国の王となって、再び最厄が起こらないように気を配る。そして最高の王国を作って見せる!」と目標を宣言すると『カリスマ』スキルの効果でみんな従ってくれた。仲間たちと美しい姫を得て、俺は幸せの絶頂だった。


 また、先程の宣言を聞いた者達がどんどん国を良くする方策を考えてくれた。さすが知恵者が集まる城である、俺が何も言わなくても素晴らしい政策がガンガン決まって行く。そしてその全てが、何もしていない俺の功績になっていくのだ。笑いが止まらない。

 俺自身は姫さまとイチャついたり、元仲間たちとこっそり密会したりして遊んでいるというのに、王都や周辺の国々からは「稀代の真王であり、そして最高の勇者」と言われているのだ。言われてる当人がわけわからないが、とにもかくにも良い噂というのは気分は良い。


 そんな感じで俺は、まるでクリックして放置するだけで結果が見えるゲームのような感覚で、王都をどんどん良くしていった。




…………




 ただ、だんだんと俺の評判は陰りを見せてきた。


 最初は、ちょっとどこかしら調子が悪いのかなと思っていただけだったけど、気付けば明確に俺の良い噂が減って行った。なぜ、と思って調べてみると、色々な事がわかった。


 まず王都の治世が思っていたほど良くならなかったのだ。もちろん俺が王子になったときよりは良くなっていたが、それは政治が腐敗していた部分や、規則と実務が上手く噛み合わさっていなかった部分を修正したから良くなっただけで、一通り膿を出したあとはさほど変化することがなくなったのだ。

 考えてみれば当たり前で、元々政治なり規則なりはより良くなるために設けられたものなのだ。汚職や不正が取り除かれれば、その場で最も良い形式にあっさりと収まるに決まっている。そして一度馴染んでしまった善政は、当然のものとして受け入れられるのだ。良い評価なんてすぐに得られなくなる。


 また俺の宣言自体も良くなかった。

 「最高の王国を作って見せる」という宣言通りに、すべての人民が最高の王国を作るために働きだしたのだ。これは良いことだ。文句などありはしない。

 そして、そのおかげで人々から不平や不満というものがなくなった。全員が良い生活をするために善人になったのだ。そのため暴力事件も起こらず、犯罪もなくなり、不正を行うものもいなくなった。お互いのすれ違いがあってもすぐに話し合いで相互理解を深めてしまうため、家庭内でのちょっとした口喧嘩すらなくなったのだ。これも良いことだろう。理想の楽園だ。

 ただ、気が付けば人々から活気がなくなっていた。理由はすぐにわかった。問題がないからこそ平和な国を作ることができたのだが、その問題のあまりのなさに日常が平坦になってしまったのだ。

 どこへ行っても笑顔の人々、仕事もすべてスムーズに済ませられる、不正をするものもおらず危険もありえない毎日。最初は誰もが平和を享受していたのだけど、その平和すぎる毎日がみんなから何かを為そうという気概をなくしてしまった。

 事件というスパイスをなくした毎日は、ただただ甘いだけのお菓子を食べ続けるようなものなのだろう。やがてその味に飽き飽きしてしまう。


 さらには、この重度の平和ボケした王国に思わぬ影響も出てしまっていた。それは危険がなくなったことによる仕事の放棄だ。

 街を危険から守るために衛兵がいる。だけど皆がそろって素晴らしい王国にしようと躍起になり、一切争いを行わなくなってしまった結果、衛兵の仕事が実質的になくなってしまったのだ。彼らもまた王国を良くしようと考えているため、衛兵としての職務はきちんと行っているけれど、どんな訓練をしようがどんなに真面目に見張りをやろうが「結局問題なんて何も起こらないのだ」と気付くと、ものすごい虚脱感を覚えてしまうようだった。そして、より人々の活気がなくなっていく。平和という薬が毒になった瞬間だった。

 この話は何も衛兵だけではない。不正を監視するための監査員しかり、人員を管理するための人事係しかり、街の中の縄張りを取り仕切る地回りしかり、ありとあらゆるところで職務が放棄されはじめるようになった。気付いた時にはもう手の施しようがない状態になっていた。


 次代の王として、俺は手を付けないわけにはいかなかった。


 まずは隣国や、遠くの帝国などをライバル視することで国民のやる気を上げようとした。これは一応の成果が出た。

 はっきり言って俺の国の方が圧倒的に良い国になっているのだが、それでも見るとこを見れば他の国も良いところがある。例えば「漁業が我が国の倍は発展している」とか「あそこの国の織物は他に類を見ないほど素晴らしい」とか「あの国は平民たちも自作の小説を書いて面白い物語が溢れている」などである。

 俺の国を「最高の国」にしようとしている国民たちは、俺の煽りをモロに受けてライバル国より良い技術や文化を育てようとやる気を出した。そして「やはり王は目の付け所が違う」やら「国を良くするための方針を考えるのは王が最も優れている」などと褒めそやかした。


 ただ、その効果はどれも数年でまた元通りになってしまった。

 より良い国づくりのために本気を出した国民たちは、技術の研鑽を全力で励み、新しい知識も貪欲に受け入れ、また他国への留学も積極的に行い、国を良くしようとした。

 そして全員が本気だからこそ、気付けばライバル国を上回る物を得てしまっていた。そうすると元の木阿弥、またやる気が薄れてしまうのだった。

 仕方ないので次から次へと他の国をライバル視するように扇動した。だけどどんどん技術や文化のレベルが上がっていき、いつからかライバルになりそうな国がなくなってしまっていた。ものすごく困った。


 次に魔物狩りを推奨した。「より良い国を作るために害獣がいては問題だ!」と明言したのが良かったのか、国を挙げて魔物狩りが行われるようになった。これは少しだけ上手くいった。

 魔物は俺の守る対象外だ。なので遠慮なく敵として処理することができる。明確で絶対的な敵である以上、その処理は必須であり、誰もが全力で取り組もうとした。

 そして酷い言い草だが、死傷者が出るのも良い方向へ効果が出た。

 怪我人が出るからこそ治療を専門とする医者が活躍し、また怪我をしないために武器や防具などへの工夫も行われるようになった。それに死ぬ危険性があるため魔物退治の専門家が生まれたり、また戦えないものは前線に出る者たちのためにサポートに徹する役目も生まれた。人々の間に活気が生まれていく。


 しかしこれも長い間は続かなかった。

 技術の発展したせいで人間側の武力が増していたため、よほどの魔物相手でもない限り簡単に殺処分できてしまうのだ。そして魔物を全滅させたあとは、その森や荒野を切り開いて新しく街を作っていった。

 おかげでどんどん人の住む領域が増えていき、そして魔物がどんどん減っていった。今では高山や海向こうでもない限り魔物を見ないようになってしまった。今となっては魔物が絶滅危惧種になっていた。


 ならば人の国同士で争おう、そう思って戦争を提案したら、これは上手く受け入れられなかった。

 『カリスマ』スキルの唯一の欠点である。人々の賛同を得られた場合は協力してもらえるが、そうじゃないとみんな言うことを聞こうとはしないのだ。

 「最高の国」を作りたいからこそ戦争が反対なのか、それとも争い多い土壌だった過去があるからこそ戦争を忌避するのかわからないが、とにかく『カリスマ』スキルだけでは扇動できなかった。むしろ戦争を仄めかした王として悪評が立ったのを消すためにものすごく苦労した。


 俺は悩んだ。なんとかして国民のやる気を出させつつ、国をさらに良くするようにして、さらには俺の評判を上げるためにはどうするか。

 戦争はダメ、ライバル方法はもう使えそうな国がない、絶対悪である魔物はもういない。その上で俺の評判を上げるためにはどうすればいいか。ものすごく難しかった。さんざん悩んだ。


 名案を思い付いた。




…………




「……本当は止めるべきなのでしょうけれど、あなたの覚悟が本当ならそれに従いますわ」


「……ねぇ、こんなことやるの? やめようよぉ」


「……私はオススメしない。でも勇者のためなら……」


「勇気ある者よ。本当にこれはお主がやりたいことなのか? 私にはそう思えぬ。だが、何か意味があるのだろうな」


 俺は元魔王の城に来ていた。そして『カリスマ』のスキルをフル活用して、なんとか仲間たちだけでも協力を取り付けることができた。全員嫌々だったけれど、一緒に戦った仲間ということもあってついてきてくれた。


 外部に敵がいれば王国の国民は一丸となってそれに対処する。そして活気が沸けばその分国土が潤い、俺の評判が上がる。さらに『カリスマ』スキルを使ってその陣頭指揮を執れば、以前のように俺が人気者になれる。


 ならば、外部に敵を作ればいい。そう考えたのだ。


 俺は魔王が復活させようとしていた邪神復活の魔方陣を起動させる。俺自身には魔法を使う才能はないけれど、大量の強力な魔石や王国民から徴収した大量の魔力で何とか補てんした。もちろん「王国のために使う」と嘘をついて必要なものを全て掻き集めたのである。


 直近の護衛は俺の仲間たちに頼る予定だが、他の細々とした戦力は別に任せることにした。魔物どもである。人間に住処を追われた竜やハイオークどもなどの強力な魔物たちを「人間に復讐したければ邪神を復活させる俺に協力しろ」と『カリスマ』で扇動したのだ。おかげで数こそ以前より少ないが、固体戦力は遥かに強力な軍勢を従えることができた。


 俺は魔方陣に魔力を注ぎ込みつつ、邪神復活のための呪文を唱える。そして一人心の中で呟いた。


「俺が邪神を復活させるんだ。それで俺がこいつを倒すんだ。それで……俺は……」


 自分が矛盾したことをしていることに、俺はこの時はまだ、気付いていなかった。

白い老人「ああ、こいつも魔王化しちゃったかー。まあいいか、前とは過程が違うし」

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