『成長率強化』トレーニングや一定の戦闘経験により得られる身体性能の向上率を上昇させるスキル
主人公:男、成長期、虚弱
異世界転生物の小説はほんの一つ二つ
いつもよりちょっと長いですし、文章形式変えてみました。ご注意をm(_ _)m
「『成長率強化』のスキルで良いのだな? では今すぐそのスキルを君に与えよう」
「はい、ありがとうございます」
「ではスキルを得たお主は、あちらにある転生の扉を潜るが良い。さすれば異世界に転生できる」
「はい、わかりました。行ってきます」
僕は頭を一つ下げると、白く光りながら空中に浮いている老人を背に、同じく光り輝く扉へと歩いて行った。これからの冒険を想像するとウキウキする。
恥ずかしながら自分は勉強ばっかりの頭でっかちのお坊ちゃんだ。身体を動かすのは凄く苦手なのだ。
だけど、苦手だからこそ凄く強い人に憧れる。巨大な剣を軽々振り回したり、自分の何倍もある敵に殴りかかったりする姿はとてもとても興奮する。
そんな僕のためにあるようなスキルがこの『成長率強化』だ。きっとこのスキルがあれば、虚弱な僕でも強くなれるはず。僕はこのスキルを使って、最強の男になるんだ。
僕は意気揚々と光る扉を潜って行った……。
…………
目を開けると、そこは草原だった。どうやら安全に異世界に辿りつけたらしい。
僕はさっそく懐から学生証くらいの大きさの金属プレートを取り出した。
これは光る老人から貰ったプレートだ。
『成長率強化』スキルの影響で自分がどの程度成長するかをステータスという数字でわかりやすく表記するものだった。
僕の身体能力が上がると、このプレートの数字も自動で書き変わると言っていた。僕は、初期値である今のステータスを見た。
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学生Lv1(次のLvまであと経験値10)
HP30/30 MP100/100
筋力・6
体力・7
耐久力・3
知力・21
魔力・0
器用・7
幸運・15
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ステータスプレートにはそう表記されていた。そのゲームのようなステータス表に僕は興奮した。
なるほど、これが今の僕のステータスか。
自分のステータスについて検証してみる。
学生だから知力が高めなのかな? 他のステータスが低いのを見ると、察するにもしかしたら10が普通の人の平均値なのだろうか。確かに僕は力は強くないし、体力もほとんどない。器用さはもっとあってもいいんじゃないかと思ったけど、世の中には僕なんか比べ物にならないほど器用な人はたくさんいる。
そう考えると、この数字も妥当な物に見えた。
僕はとりあえず近くの村に行こうとして、すかさず目についた近くのチョウチョを叩き落して踏みつけた。
無害そうなチョウチョだったが、ちょっとした実験である。
ボロボロになって羽がちぎれたチョウチョが死んで動かなくなったのを確認すると、僕はプレートを見た。
次のLvまであと経験値9になっていた。どうやらあんなムシケラでもほんの少しは経験値はあるらしい。
僕はニヤリと笑うと、近くの街を探しながら虫を殺して歩いていた。
ちょうど10匹目のキリギリスを踏みつぶしたところでレベルが上がった。喜んでステータスを見る。
すると、筋力、体力、耐久力の値がそれぞれ12・14・14と、Lv1のときの2倍になっていた。
これは大きいのか少ないのかわからないが、凄く成長した気がする。
なんといっても2倍だ。元が非力とはいえ、倍になればかなり力は変わるはず。
僕は嬉しくなってガッツポーズをした。
再び街を探して歩き出すと早速違和感を覚えた。
体が軽い。
まるで運動選手が準備運動で軽く走ってるかのような躍動感がある。
自分の身体を見降ろすと、そこには痩せぎすの体と筋肉の引き締まってないゆるいお腹があるはずだったが、今の自分の身体は体中が凄く引き締まっているように見えた。
腹筋は触ってみると硬かったし、太ももも贅肉が無くなっているように思う。
腕もひ弱そうな細い腕ではなく、ちゃんと筋肉がついている逞しい腕になっていた。
鏡はないからちゃんと見えないが、たぶん痩せマッチョと言われる体型になっているように思える。
これがレベルアップの効果か、と僕は嬉しくなる。ただ虫を潰していただけなのに、僕は以前の世界ならすでに理想的な肉体を手に入れていた。顔がニヤける。
若干背も高くなったのか、見晴らしのよくなった草原で全力疾走してみた。
凄く早い。
自分の足で走っているのに、まるで自転車に乗ってるかのような速度だった。
しかもなかなか疲れない。前はほんの数十メートル走っただけで息を切らしていたのに、今は凸凹の多い草原を400メートル近く走っても少し息が切れる程度で疲れはしなかった。
心臓のバクバク音も、足を止めるとすぐ収まった。身体能力の高い奴ってこんなに快適に運動ができるのか、と感動しながら実感していた。
僕はやっと街を見つけた。
そこで冒険者ギルドに登録し、薬草採取の依頼を受け、すぐに草原へと取って返した。
この時点で僕はLv3になっていた。鏡がないのでやはりわからないが、周囲の人が物凄く僕に注目してくるので、もしかしたら凄く強そうな見た目なのかもしれない。
そう思うと薬草採取なんて初心者向きの依頼をムキムキマッチョが受けたことになるのか、と言う事に気付く。ちょっと恥ずかしい。
依頼を終えてお金を受け取り、安めの宿をとって寝ることにした。
色々あって凄く疲れていた。でも身体は休みを求めているのに、頭はギンギンに冴えていた。
明日からどうやって強くなろう、わくわくしながら自分の育成方法を考えながら、僕は夢の世界に落ちて行った。
翌日から、僕の破竹の快進撃は始まった。
最初のうちこそはあまり強いモンスターと戦えなかったけれど、レベルが1上がるごとに一気に強くなるため、どんどん強いモンスターに挑戦するようになっていった。
最初は村周辺の小さいウサギみたいな魔物、次は集団で襲いかかってくるゴブリン、その次は身の丈が僕より大きいグレズリー。
レベルが上がるごとに一気に強くなり、すぐ強くなるからこそレベルも上がりやすいという良い循環ができていた。
武器や防具もすぐ揃えられた。
強い魔物1匹倒せば、安めの装備品を全身一式くらい簡単に買えてしまう。
そして武器を使いだして初めて気付いたが、どうやら武器を使ってレベルを上げることで器用さが上がるらしい。やっと上がった器用さに少し満足する。
今までLvが上がっても器用さが上がらなかったのは、素手でモンスターを無造作にぶん殴っていただけなので、器用さが活躍する場面がなかったのが原因なのだろうと推測した。恐らく間違いない。
それがわかると、僕は積極的に様々な武器を使い始めた。剣、弓、斧、槍、短刀、投石。今まで上がっていた筋力や耐久力だけでなく、器用さもメキメキ上がって行った。
たぶん魔力や知力は、魔法なり策なりを利用して敵を倒せば上がるのだろうが、今のところ武器で斬りつけるだけで大抵のモンスターは倒せてしまう。そのためどうしても上がりづらいステータスだった。
でも、正直筋肉馬鹿でも僕はそれで良かった。だって肉弾戦で凶悪なモンスターと戦うなんて恰好いいじゃないか。魔法も憧れるけど、2の次でいい。僕は自身の身体を鍛え続けた。
身体を鍛えて行くうちに、少し不思議な事が起こった。
いくら僕が強くなったとは言っても、一人では冒険が大変なのだ。モンスターを倒すだけでなく、野営の準備をしたり、モンスターの素材を剥ぎとったり、雑事は山ほどある。なのでよくパーティーを作って狩りをしていたのだが、その相方が変なのだった。
最初は、ただの荷物持ちの小僧だった。報酬の一部を分けてくれるならその他の雑用全部引き受けますと言って、料理や剥ぎとり、夜の見張りの交代や武器の研磨など何でもやってくれた。最初のうちは胡散臭くて距離を置いていたが、今ではお互い信用して狩りに協力し合える仲になった。
ただ、最初のうちは干し肉をナイフで斬るのすら力んでいたその相方が、ある日、虫型の魔物を素手で殴り倒したのだ。これには僕も、殴り倒した当人も驚いていた。気付けば僕だけでなく、その相方もレベルが上がっていたようだった。
ゲームなんかで、パーティーが一緒だと戦わなくても経験値が分けられるのは良くある話だ。なので、相方が強くなったのはそのせいだろうと説明したところ、思いもよらぬ返事が返ってきた。
「レベル? なんのことですかい、兄貴」と相方が言ってきた。僕は驚いた。ステータスプレートを最初から持っていた僕はレベルはあって当然の物だと思っていたけど、実はレベルと言う概念はこの世界になかったらしい。
違和感はあったが、その時は特に言及しないでおいた。「たぶん毎日僕についてきて大変な思いしてたから力がついたんだろうね」と誤魔化して笑っておいた。なんとなく、レベルについては深く質問しない方が良い気がしたのだ。
その後、僕は相方と狩りを続け、次第に相方も戦力となるくらいの強さになり、僕ら二人は街で一番有名な冒険者となった。
そしていつしか僕はLv10になり、すでにこの最初の街の周辺にいるモンスターでは、傷一つつかないくらい強くなっていった。
問題が発生してきたのはその当たりからだろうか。
色々細かいところで問題が起きてきた。初めのうちは気のせいかと思っていたのだが、どうやら違うようだった。
宿の出入り口に何度も頭をぶつけた。僕の装備を見繕ってくれた先輩冒険者を、前は見上げていたのにいつの間にか見下ろしていた。僕を見上げる人たちの目が、なんとなく恐れているような気がした。
原因はすぐわかった。僕の身長が伸びている。
転生前はせいぜい150cmくらいだったし、転生直後もそのくらいだったが、今は軽く2mを超えている。いくら成長期と言ってもおかしいくらいに身長が伸びていた。
しかも成長しているのは身長だけでなかった。
考えてみれば当たり前の話だ。僕はレベルアップにより筋力や耐久力、体力も上がっているのだ。ならばそのステータスに対応した身体の部分が成長していてもおかしくない。
僕の腕は丸太みたいにこんなに太かっただろうか? 腹筋が6つに割れているだけでなく、皮膚が鋼鉄のように硬いのはなぜか? 全速力で走っているのに息切れ一つしないのはなぜか?
もしかしなくても、このすべての原因は間違いなく『成長率強化』だ。おそらくレベルアップすると、ステータスだけでなく身長の伸びや身体のいろいろな性能も強化されてしまうのだろう。
つまり、レベルが上がれば上がるだけ身長が伸びるし、身体も筋肉ムキムキの凄い身体になってしまうということだ。今はまだ2mと少し背が高い人程度の認識だが、これ以上背が伸びたら……
僕は自分を強化するのをやめた。
だが、生活というのはままならない。
僕は積極的にモンスターを狩るのをやめたが、それでも生活費を稼ぐためにはモンスターを狩らねばならなかった。
それでも今までの貯金があったので、しばらく宿に引きこもって生活していた。冒険者仲間や相方がひっきりなしに僕の事を心配してくれたが、それに応えることはできなかった。下手に外に出て、虫でも踏み潰したらレベルがまた上がってしまうかもしれない。
料理でレベルが上がらないのだけが幸運だった。だから僕は食っちゃ寝をするだけの堕落した生活をしていた。自分で言うのもなんだけど、2mを超す筋肉ムキムキの巨漢が、日がな一日布団に横になって食っちゃ寝だけしている姿は衝撃的だと思う。
でも仕方ない。下手に外出すると何が起こるかわからないからだ。
だが、そんな日々がいつまでも続くわけがない。とうとうお金が尽きてしまった。
仕方ないので久しぶりに冒険者ギルドに行く。薬草採取のようなレベルが上がらないで済む仕事でお金を稼ごうと思ったら、まさかのギルド長に呼ばれてしまった。嫌な予感。
嫌な予感というのはどうして的中するのだろうか。近くでオークの大群が現れたらしい。腕利きの冒険者を何人も雇っているそうだが、成果が乏しいそうだ。是非参加してほしいと言われた。
断りたかったが、すぐ処理しなければならないオーク討伐を断って誰でもできる薬草採取のクエなんて受けられるわけがない。そしてお金はすぐに稼がねば宿を追い出されてしまう。仕方ないのでオーク討伐を受けることにした。
相方はその時、別の用事で出かけていたらしい。今から思うと、これは運が良かったのか、悪かったのか。
結局僕は、オークたちを一人で全滅させた。やってしまった、と思った。
久しぶりにステータスプレートを取り出す。そして恐る恐るプレートに並ぶ数字を見た。
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学生Lv30(次のLvまであと経験値65536)
HP3,000,000/3,000,000 MP100/100
筋力・6,442,450,944
体力・7,516,192,768
耐久力・3,221,225,472
知力・21
魔力・0
器用・234,881,024
幸運・15
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ありえないくらい高い数字が並んでいた。僕は目の前がくらくらした気がした。
でもなんとなく予感はあった。最初はオークと同じくらいの背の高さだったのに、最後に倒したオークジェネラルは子供のように小さかったのだ。軽く蹴っただけで跡形もなく吹き飛んだのもそうだ。僕は成長しすぎた。
僕は街に戻った。でもそれは失敗だった。みんなが僕の姿を見て顔を恐怖に染めた。そりゃそうだ。オークジェネラルすら見下ろすほどの巨体の僕が、なんらかの別の化け物にみえたのだろう。怖がって当然だ。
僕は自分の腕を見る。以前は丸太のように太い腕だったが、今では大樹の幹のように太くてがっちりした腕になっていた。
筋肉が多すぎて張り裂けそうだったが、その鋼の肉体は破裂するわけでもなく、泰然としてそこにあった。
街の人間は、僕を新しい化物と認定したらしい。たくさんの冒険者が武器を持って街から出てきた。
僕の装備を整えてくれた先輩冒険者や、同じ宿で世話になった口の軽い剣士、凄く魅力的でギルド内でも人気の女魔法使いや、他にも様々な人たちが僕を敵意の眼差しで見ていた。
その中には相方もいた。僕はその敵を見るような鋭い眼差しに泣きそうだった。
僕は逃げた。徹底的に逃げた。野を超え、山を越え、川を一跨ぎし、どこまでも逃げた。
人間はいつまでも追いかけてきた。おそらく僕をとんでもない怪物だと思ったのだろう。数人の狩人集団が、街の自警団が、国の王宮戦士隊が僕を追いかけてきた。ほとんど気の休まる日がなかった。
僕は体力はとんでもなくあったから逃げることに疲れはしなかったけど、いつまで逃げればいいのかという不安感には耐えられなかった。辛かった。
そして逃げるのもかなりのデメリットがあった。足元の見えないところにいるたくさんの生き物。小さい虫、小動物、鳥、たまに大型の獣。そういった動物たちを知らず知らずのうちに踏み潰してしまうせいで、僕の経験値がどんどん溜まって行き、気付くとレベルがどんどん上がって行ってしまった。とんでもない誤算だった。最初の頃虫を無残に踏み潰した罰があたったのかもしれない。後悔してももう遅い。
一度誤って、人間の村に突っ込んだことがある。山の合間にあって見えなかったのだ。急いで足を止めたけど遅かった。そのまま素っ転んだ僕の巨体が村一つを覆い尽くし、そのまま全てをぺちゃんこにしてしまった。僕の胸にこびり付いた血の跡に吐き気がする。ごめんなさいごめんなさいと泣きながら、潰れた村から走って逃げた。
しかも人間は、虫や小動物なんかより経験値がたくさんあるみたいだった。おかげでレベルが上がって、また身長が伸びてしまった。もう嫌だ、家に帰りたい。あの宿に戻って頭から毛布を被って眠ってしまいたい。今戻ったところで、あの宿には足一つで潰してしまうだろうし、毛布なんて親指の爪を覆い隠すことすらできないだろうけど、心底宿に帰りたかった。
ご飯の心配はなかった。僕の耐久力は胃袋にも及んでいる。お腹が減ったら適当な山に入り、そこの樹を直接食べればいい。なんなら土ごと食べても大丈夫なのだ。喉が渇いた時は湖を一つ飲み干すくらいしてしまう。たしかにこれだけ大規模な食事をすれば人々から恐れられても仕方ないだろう。正直、僕はそう思ったが、食事を止めたら死んでしまう。僕は死にたくなかった。
最近は竜騎士隊という最強の空軍と、魔導結社という組織が手を組んで僕を追い詰めてくる。大規模な魔術や目などの弱点への直接攻撃はやめてほしい。僕はいつまでもそいつらから逃げ続けた。
そして何年も逃げ続けたあと、僕はこの星を滅ぼしてしまった。
僕の重さに耐えきれず、地面が陥没し、大陸が裂けた。それだけならまだいい。大地の裂傷が大きな地震となり、たくさんの人を殺した。これが問題だ。僕は、また大量の経験値を手に入れてしまった。
僕が大地を裂く事で地震を起こし、それで人々が死ぬ。人が死ぬと、僕に良質で大量の経験値がはいってきて、レベルが上がる。レベルが上がると、また身体が大きくなり、僕の重さに耐えきれず台地が裂け、今度はより大きな地震がより広い範囲で行われた。もう最悪な循環だった。
ただただ僕がレベルアップすることにより、台地が裂け、地面が揺れ、津波が襲いかかり、天候が荒れ、強風が吹き荒れ、モンスターが暴れ始め、そしてそのすべての死が僕の経験値となり、レベルが上がった。
全てが死に絶えた世界で、僕は一人呟いた。その目は虚ろで何も映していない。僕は心の底から、神様に対して謝った。
本当にごめんなさい。僕のせいで、星が一つ壊れてしまいました。
…………
「よぉ、久しぶり。最近調子どうよ?」
「おぉ、お前まだ死んでなかったのか。おい、聞いてくれよ。この前割とつえーモンスター倒してさ、その討伐報酬で今財布がウッハウハなんよ。しかもレベルも上がったしな。今気分がいいし、なんだったら奢ってやろうか?」
「お、マジか。そいつはありがてぇ。こちとらアホなジジイに構ってたせいで今日は儲けがゼロなんだ。わりーけど一杯だけ奢ってくれねぇか?」
「いいぜいいぜ、飲んでけ飲んでけ。姉ちゃん! エール一杯ね! ……そんでどうしたよ? いつも金に汚いお前が金儲けしないで一日ブラブラしてたとか珍しいじゃねぇか。何があったんだい?」
「へへ、ずいぶん余裕だねぇ。自分の自慢話はしなくていいのかい? すげーモンスターって、例の南の街道に出たっていうアレだろ? わざわざ王国の戦士隊が出張ってきたっていう。1日遊んでいようが、オレの情報網は鈍っちゃいねーぜ」
「んだよ。知ってるんだったらやっぱり話すことなんてねーじゃねーか。はいはい、オレはただの補給係でろくに戦わなかったんだよ。まあ戦わずして経験値貰ったし、危険手当もがっぽり貰ったからこうやって気分良く奢れるんだけどな」
「ははは、じゃあお零れに預かれて光栄さ。じゃあ俺が今日仕入れた情報を対価で払ってやるよ。つっても、大した話じゃねーんだがな……お前、この世界がどうやってできたか知ってるか?」
「は? 世界がどうやってできたか? 確か宇宙の中心でビックバンがなんたらとか、そう言う話か? 詳しくは知らねーけど」
「ああ、オレもそうだって聞いてたんだけどよ、実は……お、姉ちゃん、エールありがとな。愛してるぜー……えっと、なんだっけか、ああ、この世界は一匹の巨人の死体が地面になってできてるって話だぜ」
「……はぁ? なんだそりゃ、おとぎ話か?」
「まあまあ最後まで聞きなさいって。冒険者の常識っていうかルールでさ、『冒険者となれる年齢は生まれてから15年経ったものに限る』ってのと『冒険者になるまでレベル上げを禁ず』ってのがあるだろ? これ、なんでだか知ってるか?」
「いや、規則があるのは知ってるが理由については知らねーな。っていうかこんなのにいちいち理由なんてあるのか?」
「一応あるんだよ。15歳未満で下手にレベル上げしちまうと、成長期の身体が変に影響受けて、とんでもないことになるらしいんだ。例えば身長が異常なほど伸びちまうとか、筋肉が気持ち悪いくらい盛り上がるとか」
「へぇ、そりゃ初耳だな。でもそれホントか?」
「ああ、これについてはホントだ。昔なんかの孤児院にゴブリンの群れが襲いかかったときがあるんだけど、そんとき孤児の一人がゴブリンを殺しちまったらしい。そしたら身の丈3m以上の巨漢になっちまったらしい。今の王国戦士長の話だ。有名だろ?」
「……ああ、あの人は強いからあんな偉丈夫立ったのかと思っていたら、そんな理由があったのか。知らなかった……」
「でな、さっきの巨人の話に戻るんだが、そいつは15歳未満でもあるにも拘らず、モンスターを殺しまくったせいで、世界を踏みつぶす勢いで背がでかくなっちまったらしい。んで、最終的に本当に世界を踏みつぶして壊しちまったんだと」
「なんだよそれ、本当か?」
「さあな、そんでその巨人は自分の住む世界がなくなっちまったんで、そのまま死んで丸まってたら、今のオレたちがいる世界になったって話だ。どうよ、面白い話だろ?」
「信じられねぇな。証拠はあるのかよ」
「証拠とはいえねぇかもしれないが、レベルが上がるのはその巨人の恩恵だって話だ。レベルが上がると身体能力が向上したり、パーティー組むと経験値もらえたりってのはその巨人が初めだったって話だぜ。証拠にはならねぇけど、ちょっと信憑性が増しただろ?」
「……誰だよ、その話の情報源は」
「スラム街の小汚いボケ爺さん」
「……プッ、アッハハハハハハハ! なんだそりゃ、デマ確定じゃねーか! おいおいおい、くっだらねぇなー!」
「アハハハハハ、オレもそう思う。アホみたいな話だよな。まあ、情報量はエール一杯だしな。酒場のバカ話にはちょうどいいかと思ったのさ」
「アーッハハハハハ、そういうことか! いやー、相変わらずお前話が上手いなぁ。よっしゃ、今日はもう俺の奢りでいいや。好きなだけ食えよ!」
「まじかよ、うれしいじゃねぇか。よっ、さすがレベルアップ直後の大将は気前がいいね。乾杯しようぜ乾杯」
「ああ、じゃあそのボケ爺さんに」
「ボケ爺さんに乾杯! アハハハハハ!」
「アッハハハハハハ!」
光る老人「小さくてスマートでイケメンな最強能力者より筋肉ムキムキマッチョメンのが好きです」