crimson candy
就職の面接を受けに来たはずだった。
書類選考を通過して、気合を入れて面接に臨むはずだった。
なのに、今私がいる場所は広さ二畳半程の薄暗い独房の中。
私の他にも同じように女性が閉じこめられている。
何故こんなところにいるかと言えば…面接を受ける為食品製造会社を訪れていて、面接をする部屋には男性が3人、1人2つづつぐらいの質問に応じた後、一つの飴玉を渡された。
「この会社で作っているものです。
最後に、この飴玉の感想を教えてください」
言われるがまま飴玉を口の中に放り込む。
特に変わった味がするわけでもなく、どこにでもあるふつうの飴玉のような気がした。
それから、感想を言おうとしたあたりから記憶が飛んでいて、気がつけばこの場所にいる。
持っているものは身につけていた時計だけ。
時間は深夜2時を迎えようとしていた。
「離してーーーッッ」
あぁ、今日も始まった。
独房の外から女性の叫び声が響き渡る。
叫び声のすぐあと、エンジン音と共に鈍い音がする。
叫び声は悲鳴へと変わる。
耳を閉じる。目を瞑る。
強く、強く……
しばらくすると音は止まっていて、代わりに独房中に鉄の臭が立ち込めるようになる。
あぁ、きっと今日も、誰かが死んだ。
ここに来てから毎夜続く出来事に、いよいよ心が限界を迎えつつあった。
響き渡る悲鳴と、鉄の臭い。
耳に残って消えない悲鳴が頭の中を駆け巡るようだった。
ふと、支給された食事に飴玉があることを思い出す。
今日はもう下げられてしまったけれど、明日の食事の時は取っておこう。
甘い物をタ食べれば少しは気分転換になるかもしれない。
そう思ったことが、間違いだった。
翌日の朝、トレーには食パンと苺のジャム、牛乳、そして飴玉。
飴玉はその場で食べることなくポケットの中に。
昼はトマトクリームのピザと飴玉
夜はカレーライスと飴玉。
飴玉はポケットの中に。
そして、深夜2時、悲鳴とエンジン音と鉄の臭い…
響き渡る悲鳴に心がすり潰されるような感覚をわすれたくて
、取っておいた飴玉を一つ口の中へ。
すると、不思議なことにさっきまで頭がどうかなりそうだった感覚が一気に吹き飛んだ。
一気に心が楽になった。
楽になったと思ったら、急激な眠気に襲われた。
意識が戻ったのは、翌日の夕方の事。
そして、夜の食事の時間。いつもならトレーには何かしら食事が置いてあるはずが、今日は違った。
「これに着替えて、そしてついて来なさい」
これ、と言われて広げたものは、服というには物足りない、寧ろ布と言って良いぐらい頼りない物だった。
言われるがままに着替えて独房を出る。
すると、何かのステージの舞台袖にたどり着く。
そこには、黒で統一された男性が数人、皆一様に仮面をつけている。
怖い……
何が始まろうとしているのか、ただただ怖い。
そして、「大人しくしていれば、すぐ終わる。」という声がしたかとおもうと、口の中に何かが放り込まれ、意識が遠のいた。
しかし、遠のいた意識は雑踏によって引き戻された。
体が固定されている。目も覆われていて何が起こっている中わからない、
すると、威勢の良い声が聞こえてきた
「さぁ、これで最後!皆様お待ちかねのー!」
勢い良く覆われていたものが外され、急に目の前が 明るくなる。当てられているライトの光が痛い。
ゆっくり目を開ける。するとそこには、たくさんの人、人、人。
頭がまっしろになった。
「お待たせしました、最後はこの美しい両目です!!!
なかなかに、美しい、こちらは5百万からです、さぁ、どうですか!?」
「……!?」
すると、耳を塞ぎたくなるほどの声が飛び交う、
数字がどんどん上がっていく。
気がつけば、両目に当てられた数字は6千万に膨れていた。
カンカンっという木材の音が終了を告げる。
拘束を解かれ、自由になった身体。
しかし、言うことを聞かない。動かない。足が震えている。
ガタイの良い男性に担がれて、その場をあとにする。
男性が向かった先は、鉄の臭いでいっぱいになった部屋。
中央には台が置かれていて、周りにはたくさんの機材や薬などが置いてある。
そして、いつも耳にする音の正体……
「いやだ、はなして!!!!」
ジタバタと暴れて抵抗したが、それも虚しく、私の体は台の上に仰向けにされ、手足を拘束、頭も動かないように固定されてしまった。
「あら、今日はまたずい分綺麗な子ねぇ。気合が入るわぁ。」
女口調の男性が私を見て言った。
そして、丁寧に身体を消毒液のようなもので拭いていく。
拭き終わると、男の手は歯が赤黒く染まったチェーンソーへ。勢いよくエンジンがかかる。
体が震える、全身が震える。
怖い、怖い、怖い。
だれか、タスケテ……
歯の回転音がゆっくりと近づく……
「ぎゃぁぁぁぁぁ!いたい、痛い痛い痛い」
「すぐ終わるから、我慢なさい♪」
我慢なんて言うレベルではない、回転する歯が皮膚を抉り、骨と肉を断つ。痛みが全身を襲う。そして、自分の顔や体、さらにはチェーンソーを握る男の手や顔にも、私から溢れた血で汚れている。
飛び散る血を見てこんなことを思ってしまった
(意外と私の血の色は鮮やかな色をしているんだな…)
断たれた腕は拘束を解かれ、何処かに運び込まれていった。
同じように、足も、もう片腕も、私の支配から離れて行った。
息も絶え絶えながらに、中途半端に意識が残っている。
そんな私から発せられるのは「殺して」の一言。
「殺せって言われてもねぇ、今までの子は両足を切った時点でショック死してる子がほとんどなのに、しぶとく生きているあなたが悪いのよ?」
何故私が悪いのか理解出来ない!
理不尽だとか思っていると、上下の瞼を限界まで引っ張られた。
「やだ……やめて」
「残念だけど、それはできないわ。あなたの体の部位は物好きなコレクターによって一生大事にされるの。私は、そのお手伝いをしているの。ごめんなさいね。」
悪びれる様子もなく男は言った。
そして、嫌な感覚と共に、私の右目は景色を失い真っ黒になった。
素早く左目にも同じ感覚が襲ってくる。
両目は私からなくなった。
全身を痛みが襲う。体の震えはいつの間にか止まっていて、次第に意識が朦朧としてくる。
どこにいるかわからない男の声が聞こえた。
「それにしても、この子の血は綺麗な色ねぇ、新しい着色料にぴったり!」
(着色料、何のことだろう……)
(あぁ、そう言えば、面接の時に渡された飴玉がとっても綺麗な赤い色をしていたような…)
私の意識が完全になくなったのは、それから2日後の事だった。