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第壱話――シュバルツの凶悪犯―― ②

 雑踏ひしめく市街地――D7地区。

 大破した黒塗りの車の上で、一人の少女が座っていた。歳はおそらく十歳前後と言った所だろうか、金色の短髪を風に揺らしながら少女は微笑を浮かべていた。そんな彼女の表情とは対照的に、絹を裂くかのような悲鳴が周囲で響き渡る。

「い……いてぇ……」

 ギィッ、と壊れて開いたドアから一人の男が這い出してきた。そして少女に対して叫び声を上げる。

「て、てめぇ! 一体何をしやがるんだ!!」

「この子が居たの! もう少しでひいちゃう所だったの!」

 少女は笑顔で腕の中に抱えられていた子猫を突き出した。

 男の額に青筋が走る。

「あぁ!? 知ったことか! この車は三皇会のもんだぞ!」

「三皇会ってなーに? 美味しいの?」

 少女がキョトンと小首を傾げると、男がフッと失笑を浮かべる。

「まぁ、知らねぇなら無理はねぇ……。とでも言うと思ってんのかクソガキがァッ!」

 男が激昂して黒光りする拳銃を懐から取り出し、その銃口を少女へと向けた。

「危ないの」

 男が引き金を引くより早く少女が懐へと飛び込み、その右手をしなる鞭のように振るっていた。

「……あ?」

 まるで、剣の達人が鋭利な長剣を居合したかのように、男の手にあった拳銃が銃身が二つに分かれていた。

「な……!」

「邪魔なの」

 少女がそう言って、男の身体をドンッと押した。

「――ッ!」

 瞬間、男の身体が凄まじい勢いで吹っ飛んだ。隣のビルのコンクリートに男の身体がめり込み、蜘蛛の巣状の亀裂を走らせる。男が血反吐を吐き出してガクッと頭を垂らした。

「危ない所だったの!」

 少女はそう言って腕の中の子猫に頬ずりをした。


 そこへ歩み寄る男が一人――。


 その男の気配を察知して、少女が目を見開いた。そして子猫をそっと地面に置く。

 子猫がたったったと逃げ出した。

「誰なの?」

「……フォート=レングス」

 フォートがそう言って、足を止めた。少女を見据えて軽く前かがみになる。

「……強いの」

 少女も前かがみになった。

 瞬間、少女の目前に居たフォートの姿が消えた。少女はとっさに自分の首の後ろへと手を出す。

「っ……!」

 少女の右手が、彼女の首元を狙ったフォートの手刀を正確に捉えられていた。少女の足元の地面が大きく凹み、衝撃波が周囲の物質を小刻みに揺らす。

「……マジかよ」

 フォートは、自分の渾身の手刀が捉えられたことに驚きを隠せないで居た。少女がくるりと反転してフォートの腕を掴む。

「……ッ!」

 そのまま少女がフォートを持ったまま回転し始めた。

「うぉおおっ……!」

 腕を離されるその瞬間、フォートが逆に少女の腕を掴んだ。吹き飛ばされるフォートに引っ張られるように少女の身体も同時にぶっ飛んだ。

「っ……!」

 弾丸のような速度で飛び立つ、瞬きさえ許されないような時間の切れ目でフォートは腕づくに少女を自分の盾にした。そのままビルの壁へとぶち当たる。ビルの壁は容易に木っ端微塵になり、そのまま幾つものビルの壁面を貫通した。

 土煙が上がる中でフォートはゆっくりと立ち上がる。

「ケホッ、ケホッ、これは流石に効いただろ……サイボーグ少女」

「……アハッ」

 少女がガバッと起き上がった。その顔は新しい玩具を与えられた子供のようにさえ見える。フォートは嘆息した。

「……嘘だろ?」

「どうしたの? エルヴィ」

 スモーキーが電話口に問いかけると、慌てたようなエルヴィの声が響いた。

「やべぇよやべぇよ、とにかくやべぇよ!」

「……ほんとにどうしたの、要領を得ないよ? らしくない」

 スモーキーがたしなめるようにそう言って煙草を取り出し、口に咥えた。

「あ、あぁ。すまん。サイボーグ少女と親分が今交戦をしているんだ、その少女が問題なんだ」

「どう問題なの?」

「アール=カルトルリカと今一緒に居るか?」

「うん、ちょうど今『商談』が終わった所だよ」

 電話口からエルヴィが生唾を飲む音が響いた。

「……そこに居る、アール=カルトルリカの妹だ」

「は?」

 スモーキーが間抜けな声を出した。口元からポロリと煙草が落ちる。

「そのサイボーグ少女が、アール=カルトルリカの妹なんだ!」

「…………は?」

 スモーキーは足で煙草を踏み潰しながら、思わずこめかみを押さえた。

「……何で?」

「知らねぇよ! とにかく、D-7地区に急いで行ってくれ!」

「分かった! 火急に向かうよ」

 そこでスモーキーは通話を切った。それと同時にアールが電話を切ったのが視界に映る。

「アール!」

 スモーキーが名を呼ぶと、アールが金色の前髪を乱雑に掻き揚げながら舌打ちをした。顔だけ見ると小さな卵型で、まるで少女のようだ。

「テメェに気易く名で呼ばれるほど私は落ちぶれちゃいないつもりなんだが?」

「そんなことを言っている場合じゃないんだ!」

「何だ? 要件を簡潔に言え。私は仕事で、これからD-7地区に向かわなくちゃいけねぇんだ」

 D-7地区、フォートとサイボーグ少女が交戦している所だ。おそらくそれが理由で警察のアールに出動命令が下ったのだろう。

 スモーキーはふぅ、と一息ついた。

「驚かないで聞いて欲しい。君の妹が、いつの間にかサイボーグになっていたんだ。そして今、僕らの親分と命をかけて戦闘しているんだ」

「……は?」

 アールが不思議そうな声を出した。

 理解できない情報を受け取ると人の目は本当に点になるのか、とスモーキーはその時思った。

「そうじゃあ、僕行くから!」

 スモーキーはそう言ってバイクにまたがった。エンジンはかけっぱなしになっている。

「ちょっと待て! もう少し説明をしろ! 簡潔にとは言ったがあまりにも説明が――」

「行けば分かるよ! D-7に!」

 スモーキーはバイクのアクセルを勢い良く捻った。

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