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伸ばした手

エル・ハルツ・クロラック。

二人の少女がレイフォルクに到着した。

エルとサクリである。

クロラックを出立して早三週間。

無論、徒歩の強行軍だ。

サクリの手も借りて何とか着いた。

ここにエルの望み人がいるかもしれない。

天の剣の鞘は置いてきてしまった。

エルは少しだけ後悔する。


「関所の人を騙して申し訳ないですが」


街の門に構えるステータスカードの門番。

予めエルが用意したダミーのステータスカードの真偽までは判別できまい。


「仕方ありません。エル様のレイフォルク訪問が民衆に慰安旅行などとまくしたてられてしまってはまずいですからね」


サクリの言葉に確かに、とエルは思う。

ただでさえ皇族は贅沢なのだから。


「変装はバレないでしょうか」

「大丈夫でしょう。外見からではエル様に結びつく情報はありません。一部の者には気付かれるかもしれませんが」


私もフォローします、とサクリは言う。

そのサクリの言葉は有難い。

エルは朗らかに笑みを漏らす。

ただサクリの鎧と容姿は目立つ。

サクリも有名な騎士だ。

そこから特定されないようにエルは願う。

いざとなれば、しらを切ればいい。


「皆様には面倒なことを言ってしまったのかもしれませんね」


エルは俯いてそう言った。

クロラックからレイフォルクに移動することを決めた際にエルが秘密裏に出した指示。

エルの言葉はそれを差していた。


「クロラック本城に駐屯する兵はアマデウス宮に移動せよ、ですか。私は適切な指示だと思いますが。アマデウス宮にも武器の貯蔵はあるのでしょう? 問題はないはずです」

「ええ、武器はともかく負担はかけてしまいます」


エルが所有する子皇族二割の軍団。

流石に彼らをクロラック本城に放置しているわけにもいかないので移動の指示を出す。

拠点の名はアマデウス宮。

かつてのクロル皇妃の拠点の一つである。


「エル様はクロラック本城に戻る気はあるのですか?」


サクリの言葉にエルは首を振った。


「いいえ、お父様の元を抜け出した時点で礼節もあったものではありません。今後の拠点は完全にアマデウス宮に依存する考えです」


エルはそう言い切った。

元々は陰謀を含みエルは本城にいたのだ。

もはやその段階ではないのだから。


「ならば負担なぞ軽いものです。元々はエル様の優しさに惹かれて集まった兵力。それを負担と思う者は皆無でありましょう」


例え気休めでもサクリの慰めは嬉しかった。


「ありがとう、サクリ」

「いえ、それでエル様。レイフォルクにまで来ましたが私達の目的はなんでしょうか」


旅の道中でもエルはサクリにそれを言うことはなかった。それは言えない。


「すみません、サクリ。私自身思考が纏まっていないのです。とりあえず勇者召喚に関わる探し人がここにいると捉えてもらえれば」


関わるというよりその本人をエルは探しているが、そこまでは伏せておく。

勇者の情報は皆無でなければならない。

あまり外で詳しい話は避けたい。

サクリもエルの心情を汲み取った。


「分かりました、エル様。その方の外見の情報などはありますか?」

「いいえ申し訳ないですが、情報はありません。最悪、捜索範囲は下町にまで及ぶでしょう」


よくあるスラム街である。

エルの最大の懸念は勇者の財力だ。

召喚は確かに成功した。

エルにはその手応えがあった。

だが魔法を断ち切られた。

その後、勇者はもしかして一人でレイフォルクを彷徨っているのかもしれない。

お金もなしに。

最悪のケースである。


「呼び出した挙句に放置って。私はもしかしたら鬼畜の所業をしているのかも」


エルは怯えながら震える。

見事にバグっていた。

珍しいエルの表情にサクリの顔に朱が差す。


「憂い気なエル様の表情......ああ至高です。やはり剣の道を修めていて良かった」


割と呑気な二人がレイフォルクを歩む。

だがサクリは薄々気付いていた。

後ろから迫り来る強大な魔力。

目を細めてサクリは覚悟を決めた。

しかし二人は気付かない。

街中の人が少なくなり始めたことに。

軍神隊の哨戒。

サクリもそれが何かまでは分からなかった。


*****


栗生 学良も呑気に買い物をしていた。

レイフォルク周辺魔物の調査率、約七割。

魔素の扱いに関しても同時進行で調査していたが、そちらの結果は芳しくなかった。


「最近の僕は主婦か」


一人で食材を買い込む栗生。

何だか虚しい。

そんな中、ふと足をとめた。


「この気配は......」


栗生は瞳を丸くする。

少し強い魔力を街中から感じる。

そして更に後方に尋常じゃない大きい魔力をいくつか感じた。

だが前者二つは栗生にとって小事。

もう一つ、清らかな魔力を感じる。

薄く儚げな魔力。

それを手繰り寄せるように栗生は手を伸ばす。

栗生の脳裏があの娘を幻視する。

いつか届きたかったあの子の姿に。

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