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予感

昼。魔方陣を天の剣で断ち切った三日後。

僕たちはいつもの宿屋に戻っていた。

召喚魔法にエルという皇女。

それにクロルの死に僕が魔素を扱えること。

謎が多すぎる。何から解決すればいいのか。

匙は絶対に投げないが、嫌になるな。

前は魔王を倒すという目的があった。

それだけに邁進すれば良かった。

今はそれだけではない。謎まで山盛りだ。

クロラックに行けばましになるか。

今はそれを何より願う。


「それでクロラックにはいつ出発するんだ。馬車の手配はするのか? 私は馬車の手配にかけては一流でな。それは任せておくといい」


やけにドヤ顔でイレスが言う。

馬車で行く気満々のようだが、危険だ。

あれは視界が遮られる。

気配を辿り続けるのは疲れるからな。

徒歩が望ましい。


「僕の全財産を小分けしきり、近辺の魔物についての情報が解りきったら出発だろうな」


いつもそうやって出発してきた。

時間がある時は現地の調査は欠かさない。

それが旅の基本だ。

時間は有り余っているからな。


「馬車はどうなのだ」

「使わない予定だが」

「そうか......残念だ」


イレスは馬車が好きなようだ。

僕もこの世界に来た頃は好きだった。

だがあれは酔う。もう二度と乗りたくない。

イレスにはあとで馬車でも贈るか。

いや散財だな。流石にやめておく。


「それであの魔方陣は何だったのだろうな。キミ、面倒ごとに巻き込まれてるのか? 魔法省に行かないと言うし、キミの正体が山賊や盗人の類でないことを何より祈りたいが」


僕の中のイレスはどんなイメージなんだ。

前も同じようなことを言ってたぞ。

前は魔族だったが。

からかってみたくなってきた。


「僕の正体がもし山賊だったら?」

「そしたら私も山賊デビューになるのかな」


なんだそりゃ。

大学デビューみたいに言わないで欲しい。

イレスの答えが可笑しくて少し笑う。


「むっ。私は真面目だぞ」

「ああ、すまない。だがイレスに山賊というイメージがどうしても合わなくてな」


山賊といえば追い剥ぎだ。

そんなことをさせるわけにもいかない。


「こほん。まあそれはともかくとしてだね。キミ、レイフォルクも物騒になってきたぞ」


物騒? 話の流れ的に野盗でも増えたのか?


「何が物騒なんだ?」

「風の噂だが何でも軍神がこのレイフォルクに赴くらしい。デマの域を出ない情報だが」


軍神? 建御雷神みたいだな。

随分と仰々しい名前じゃないか。


「軍神? それって人間だよな?」

「まさか、キミ。軍神を知らないのか?」


知らん。誰だ。

イレスが頭を抱える。


「本当に知らないようだな。軍神とはクロラック第一皇女の近衛騎士だ。彼の紛争や魔族討伐戦での戦績スコアは他の追随を許さない。騎士の到達点であり、憧れの的とされている。私はあまり関心はないが」


彼というからには男か。

馬鹿強い騎士ってことだな。

剣剣剣トライナイトクラスだろうか。

何の用でこんな辺境に来るんだか。

レイフォルクはぱっと見田舎だぞ。

クロラックに比べたらだが。


「生憎と僕は騎士の情報には疎くてな」

「キミはあれほどに剣が優れているのにか」

「ああ。僕は一度足りとも騎士という存在に憧れなんか抱いたことはなかった」


これだけは確信して言える。


「そうか。だが軍神を知らないのは騎士に疎いというより、世の中に疎いぞキミ。内乱の事といい、世界の情勢には気を払うことをオススメするよ。私が言えたことでもないが」


そういえば地球にいた頃もニュースはあんまり見ていなかったな。


「確かに情報は大事だな。それにしても軍神か。レイフォルクで何かあったのか?」

「そこまでは分からないよ、クリュウ。だがあの魔方陣の事が気にならないか?」


気になるといえばなるが。


「その軍神って奴と前の魔方陣のことが関係あるってことか? 流石にないと思うがな」


ん? いや待て。軍神というのは皇女の騎士だろう?

勇者召喚は皇族が行うのが通例。

もしかしてあの魔方陣はその皇女が?

あの魔方陣は勇者召喚の魔法。

見間違えるわけがない。

だとしたら僕は予想以上にやばいのだろうか?

分からんな。憶測の域を出ない。

だが頭には留めておくか。

或いは激動の日は近いのかもしれない。


「イレス。クロラックで勇者召喚が行われたなんて情報はあったりするか?」

「いいや何も。都市伝説で勇者召喚の日取りが決まったなんて噂もあったがな。勇者召喚の情報は公開されないのが常らしい。歴史上では確かに皇族が勇者召喚をしたらしいが」


そうだよな。

民衆には成功した結果のみを伝えるのが国。

勇者召喚の情報なんて流れるわけがないか。


「何でそんなことを聞いたんだ?」


イレスが僕に問いかける。


「何となくだよ。とりあえず僕は買い物に出かけるとでもしよう。一緒に行くか?」


僕もイレスに問いかける。

話は誤魔化し気味だったが。


「ああ、暇だからな。キミの荷物持ちでもこの私が買って出るとしよう」

「僕は男だ。女に荷物は持たせたくないが」

「生憎、私はキミに白金貨二枚分の借りがあるんでな。その借りは返さなければいけない」


律儀だな。


「そうか。寝覚めが悪いと思うのならそれもいいだろう。んじゃ準備が出来たら落ち合おう」

「了解した」


イレスが僕の部屋から出て行く。

僕は宿屋の窓越しに日差しを受けて思う。

近付いてくる、波乱。

僕はその時に何かを見つけられるだろうか。

蚊帳の外はもう嫌なんだ。

だから僕は。

拳を握りしめた。

僕は誰もいない部屋で天の剣を展開する。


「お前には苦労をかける。だが魔王を倒す剣はお前って決めているんだ。だからまだ耐えていてくれ。それが僕とお前の絆だろう」


魔力を込めてもいないのに天の剣が優しく輝く。数多の敵を斬り伏せてきた僕の相棒。

世界で最も頼れる僕の最強の切り札だ。


「ありがとう、天のアイギス


ぼくは立ち上がる。

一先ずは買い物だ。

今夜の献立を考えつつイレスと落ち合おう。

天の剣を収納しつつそう思った。

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