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今度は自分で

クロラック本城の一室。

そこに銀のドレスを着た白い少女が居た。

少女の周りに人影はない。

少女の名前はエル。

エル・ハルツ・クロラック。

正当なる血統を持つ第二皇女である。

ルイスやミルエルが試練に臨む中、エルもまた暗黒の時代を終わらせるために、という名目で勇者召喚に臨もうとしていた。


「私は力が欲しいわけではありません」


一人でその言葉を再確認する。

武力は人を狂わせる。

狂わないためにその言葉をエルは誓う。


「私はあくまで平和のために」


そう言わないといけない。

言い続けないといけない。

理想を追い求めるというのはそういうこと。

その為にエルは生きている。


「だから私は、勇者を求めます」


強い瞳でエルは言い切る。

魔方陣は描いた。

勇者の遺物は捧げた。

天のアイギスの鞘である。

伝説の勇者とエルを繋ぐ絆。

黄金の日々に生きていたその勇者。

どれだけ時が経とうとも、いつだってエルはクロルの教えを忘れたことがなかった。

エルはその勇者の名前を知っている。

勇者召喚のための素材は遺物。

本来の素材は不純物でしかないと断じる。


「暗黒の時代を駆け抜ける勇者よ。在りし日の貴方の姿を今、黄金の日々の再現を!!」


エルは高らかに言い切った。

クロルが語っていた勇者の英雄譚。

エルは無邪気にそれに手を伸ばす。

それはきっと黄金の果実。

エルは分かっていた。

ルイスのことも、ミルエルのことも。

このままでは何も変わらない。

エルには力も意思もない。

ルイスには皇帝になる意思がある。

力で平和をもぎ取る覚悟がある。

ミルエルには無欲な自我がある。

ミルエルはただ未来を求める。

その一点にのみ飽くなき欲がある。

エルには明確なビジョンが何もない。

ただ理想を描くだけだった。

でもそれでは駄目だった。

エルの代わりに現実を見据えてくれる強い瞳とただ未来を突き進む強い力。

そんな勇者がエルには必要だった。

かつてのクロルがそうだったように。

ハルツの名の宿命が如く、手を伸ばす。

青い眩い光芒が部屋を支配した。

魔力が魔素のように部屋に充満する。

魔法は、作用した。

エルに疲れはなかった。

何かが断ち切れる音が、した。

棒立ちとなったエルは自身の震える手を。


「断ち......切られた......?」


エルは二つの不純物を感知した。

鞘は魔方陣の上に鎮座している。

だが確かに一瞬、繋がった。

一人はルイス、もう一人は。


「ルイス姉様......? 貴方も......?」


勇者を求める声を間近でエルは聞いた。

召喚魔法がぶつかり合った。

同じ勇者を召喚しようとしたのだろう。

エルとルイスの魔法がぶつかり合ったのだ。

相反する召喚はエルが競り勝った。

だが、断ち切れた。

断ち切られた。


「私では貴方に見合わないのでしょうか」


悲しさで震える手をエルは見る。

助けを求めた手をエルは振り払われた。

きっと勇者に。

何が駄目だったのだろうか。

暗愚に求め続けたから?

甘えた子供のように助けを求めたから?

現実から目を背けたから?


「きっと、全部だ」


エルは一人呟き、うなだれる。

エルは何かに気付く。ようやく気付いた。

エルは顔を上げる。瞳は決意に満ちる。


「私、きっと今迄逃げていたんですね」


優しく育てられたエル。

才能もあった。頭も良かった。

挫折なんて経験したこともなかった。

ルイスのように軍を率いて手を血に汚したこともなければ、ミルエルのように後ろ指を指されながら生活していたわけでもない。

ただ求め続けているだけだった。

ただ後ろから声を掛け続けているだけ。

それでは何も変わらない。

きっとそんな事を言われた気がする。


「クロラックの内乱を終わらせるために。魔王を倒し、暗黒の時代を終わらせるために」


エルは魔法が作用した場所を思い返す。

レイフォルク。

決して離れてはいない。

けれど勇者が仮に異世界に居たとしても。

今のエルには見つけ出す気概がある。

クロラック本城で声を掛け続ける段階ではもうなかった。エルには『あの』父もいる。

勇者召喚には、失敗した。

エルでも分かる。

自分の利用価値は低下した。

ここはもう危ない。

すぐにでも殺されるわけはないが。

三皇族の均衡を崩されるわけにはいかない。

エルは覚悟を決める。


「責めてミルエル君やルイス姉様が勇者召喚にちゃんと成功していますように」


少なくともエルはルイスの邪魔をしてしまった。エルの焦りと危機感は募る。


「私って間が悪いんだから、本当に」


自身の目立つ銀の髪を隠すためにバンダナを持っていく。口元を隠すために顔は俯き。

脱出用に準備していた粗末な服を着た。

鏡を見る、今のエルは町娘に見える。


「こういうのちょっと夢だったんですよね」


少しだけ愉快になりながらエルは足を運ぶ。

己の命を守るだけではない。

今度はちゃんとめぐりあうために。

エルはレイフォルクへと向かう。

そう決めた。

軍神、ゼロ、皇女。

そして勇者栗生。

意思が混ざり合う。

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