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神様の宴  作者: 大山椒魚
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ヒステリーな進士しんし東郷とうごうはるが私のところに来た日の夜、さっそく暁が現れた

宮女に与えられた部屋に勝手に忍び込んで来る不届き者だがそれが王太子なら、この後宮で文句は言えない


「何の用ですか?」


だかといって態度に出さないわけではない。六年の付き合い(付きまとわれたら)ある程度態度も砕けるというものだ

声を低く冷たく言ったつもりだが気にした様子もなく暁は窓枠を超えてきた


「椿に会いに」


私の目を真っ直ぐ見つめる鋭い瞳は漆黒。同じく艶やかな黒い髪を後ろで纏めている

出会った時は子供だったが、今では二十歳の怜悧な美貌の青年になった

随分キメ顔で囁いてくれたが、今までの勘違いによる人違いのアタックの数々は残念すぎて甘いであろうセリフにも何も感じない


ため息が自然と零れる

さっそく本題に入ろうか


「暁様、貴方がお探しの初恋の君が進士になっているようですよ。今日、お会いしました。可愛らしい方ではありませんか、私の所ではなく彼女の所へ行った方がよろしいのでは?」

「お前会ったのか!?」

「ええ」

「………妬いたか?」

「は?」


意味不明な発言に思わず生意気に返してしまったら、眉間に深いしわを寄せて暁は睨みつけてくる

東郷春の言葉からして何度か二人は会ったことがあるようだったが、まだ勘違いしているのか。王太子様は救いようのないバ……ゴホン、本当に猪突猛進な方だ

間違いであっても私を初恋の相手だと思って来たのだ、今更本物の相手が現れても素直に認められないのだろう


「そろそろ素直にならないんですか?暁様」

「それは俺の言葉だ。椿こそいい加減素直になったらどうだ」


つかつかと私に歩み寄り手を伸ばしてきたが、それが頬に触れる前にペチリと叩き落とす

暁は不満げに唇を尖らせるが可愛くないぞ


「私は疲れているんです。お帰りください」

「嫌だ。琵琶を弾け」


部屋の隅に置いている琵琶を指して図々しく人の寝台に腰かけた王太子様。たまに押しかけて来ては何曲か催促していく。私は後宮の梨園に属する宮女だ。梨園とは王宮での宴会や催しなどに楽を奏でる楽士達を統括管理する機関だ

現世での私は音楽の才能があるらしく梨園ではそこそこいい腕前をしていると思う。前世で壊滅的な音痴だった事を考えたら神様は私に同情してくれたのだろう………フッ


暁のリクエストは正直メンドクサイ

だが、そうすれば早く帰ってくれるので渋々琵琶を手に取った


椅子に腰かけ、曲を奏でる

さて、どうやって誤解を解いて平穏な生活を手に入れようか

王太子に気に入られては色々と面倒だし家の者に寵愛だなんだと騒ぐのを抑えるのも限界がある







**********************************************







次の日

午前のお勤めも終わり庭園の木陰で休憩している所に珍しいお客が来た


「椿様、少し……よろしいでしょうか?」

「ええどうぞ。確か貴女は、未吉みよしあやめ様でしたわよね?」


何度か会ったことがある程度の人だ

何の用だろう?取りあえず隣をすすめてハッとする

今は芝生の上にそのまま座っているがそんなことをする宮女は自分くらいなものだ。失礼だったかと言い直そうとしたが、その前に彼女は何の頓着もなく芝生に腰かけた


「突然申し訳ございません。前々から椿様とお話ししてみたかったんですの」

「まあ、嬉しいわ」


大きな猫を被ったしおらしい口調だが、事実嬉しいのだ!

あの王太子様の所為で悪目立ちしている私はかなり浮いている。いじめのような事はないが親しく話す相手はいないといっていい………あれ?私ボッチ?

いや、いいんだ……私には美味なお菓子達がついている!ほら今日も頂いて来た焼き菓子がふところ

おや?更にむなしい気がするのは何故だ?


ハッと物思いから帰還すると未吉みよしあやめが私の顔を食い入るように見つめてくる

食べカスでもついてる?


「…チョコレートは♪」

「め・〇・じ♪」


重い沈黙が流れた


懐かしのリズムと共にチョコレートは♪なんて聞かれたら答えちゃうよね?


「やっぱり!!貴女、日本人の生まれ変わりね!!」

「へ?はっええ??」


呆然とする私の手を握り、菖は顔を輝かせている

というか………え?


「貴女も?」

「そうです!私も元日本人でこの『神様のうたげ』という舞台に転生したんです!」

「『神様の宴』?」



なんだそれは?そこを舞台に?


興奮気味に転生仲間、あやめが言うにはこの神支国は日本の大人気恋愛小説の世界だというのだ

世界背景から、登場人物までそっくりそのまま同じらしい


『西安椿』私以外は


「わあー、私は恋愛系の小説とか読まなかったからなぁ。漫画とかは好きだけど」

「もう!アニメ化や漫画化だってしてたのに」

「あはは、多分チェックしてなかった」


私も菖も砕けた口調なのは仕方ない。聞けば、同じ年くらいに転生したそうだ

喜々として菖は私の知りえないこの世界の事を話してくれた


「それで、この国の王家と十一家は干支えとをモチーフにしてるの。苗字に漢字が入ってるでしょ?」

「ああ!そういえば。辰濃たつの家とか未明ほのか家とか」

「そうそう!」


ちなみに菖の未吉家は未明ほのか家の分家にあたる

王家を含め十一家にはそれぞれ分家があるのだ。そういえば一般市民には十二家の字を使うことは許されていなかった

というか、世界観にそぐわず国民の名前は日本風だったのは日本の小説がもとだからか。転生なんてものを経験してしまうと割と何でも受け入れられてしまうな…


そして何より


「本当の『神様の宴』では西安椿は性格のひねくれた性悪女。幼い頃に出会った王子とヒロイン。ヒロインと同じ赤い目なのを利用して王子を誑かし、婚約者になったのをいいことに権力を振りかざす。別名『毒椿どくつばき』のはずだったんだけど…………」


菖は困った顔をしたが



「はぁああああああああ!?」
















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