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神様の宴  作者: 大山椒魚
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それはうららかな日差しの下、唐突に起こった


「なんなのよ!アンタの所為であかつきがあたしになびかないわ!」


愛らしい容貌の少女は今、憤怒に顔を歪めている

訳の分からない言いがかりに唖然として危うく口にしていた蒸しパンを落としそうになった。危ない危ない


「アンタが裏で手をまわしてる事はわかってんのよ!あたしのハッピーエンドを邪魔するつもりなら容赦しないからね!!この毒椿!!!」


ギラリと睨みつけてきた大きな瞳は私と同じ珍しい赤い色

言いたい事だけ言い捨てて少女は去って行った


はて?毒椿とは何のことだ?私のあだ名か、なら許さんぞ!


嵐のように過ぎ去った少女にポカンとしたが最後の毒椿よりも引っかかるセリフがあった


『あたしのハッピーエンド』


まさか、と西安せいあん椿つばきは思った


「あいつも転生者か!?」







***************************************








私、転生しました



はい、私は電波ではありません

これは夢でも妄想でもありません。私に起こった現実であります


現世での私の名前は西安せいあん椿つばき

この神支国しんしこくの宮女を務めております


転生前、前世の私は地球の日本という国で大学生をやっていた。多分、死んだのだ

おそらく事故でだったと思うが死因ははっきり覚えていない

その事を思い出したのは、ちょうど五歳の時のことだ。私は流行病にかかり三日三晩、熱にうなされた。その時の影響で瞳は赤くなり、ついでに前世の記憶も蘇った


いきなり精神年齢が二十歳も増えてたのはいいとして、困ったのは現世での世界観だ

神支国しんしこくという国は古い中国王朝にゲームなんかの中華ファンタジーを織り交ぜたような世界だった。電気も水道もない人力の世界で十六歳まで生きてきて、カルチャーショックは数知れず

助かったのは、生れついた家が中々の名家だったためお金に困ったことはない点だ。お金はあるに越したことはない!


故に私はお嬢様!オホホホ、としてる間もなくこちらの礼儀作法を叩きこまれる日々……お嬢様って大変

その作法は私を名家のお嬢様らしく王宮に宮仕えさせる為だった

十歳の子供をこき使いやがって。だか、実家には生れてこの方さんざん世話になっているし宮仕えすれば珍しいお菓子も食べられるかも、と聞いて二つ返事で了承いたしました

甘いものは正義です


同じような名家の幼い女の子達に混じって宮仕えして直ぐのこと、少しだけ年上であろうやけに目鼻立ちの整った男の子に庭園で出会った

その男の子は私と目があった瞬間、目を見開いて突然抱きついて来た


「やっと見つけた!……ずっと、会いたかった…」


感極まってるとこ悪いけどボク、苦しいって

身じろいだらさらにキツク抱きしめて来たが、この蝶よ花よと大切にされてきた華奢な身体では限界だ

と、考えた私は容赦なく謎の男の子を突き飛ばした


少年は尻餅をついて呆然とこちらを見上げて来た

そこへ冷たく一言


「いきなり何すんの」

「………おっ俺のことを覚えてないのか?」

「人違いでは?」

「いやっ!その赤い瞳は忘れない!!」


ものすごい剣幕で詰め寄ってきたがこんな目立つ顔の少年に心当たりなどない


「でも私は覚えがありません。さようなら」


追いすがるように伸ばしてきた手を振り払い私は今日のオヤツはなんだろうかと考えていたが、後ろで少年は叫んだ


「俺だ!あかつきだ!……本当に忘れてしまったのか!?」



それが今後、しつこく付きまとって来るあかつきとの邂逅だった



その時は気付かなかったが暁は最も厄介な一族だった

暁のフルネームは辰濃たつのあかつき神支国しんしこくにははっきりとした階級がある

十二の大家、その頂点に位置する辰濃たつの家は神支国しんしこくの王家であり、他十一家は国の主な役職についている

暁は辰濃家の長子。つまり王太子である


…………後宮にいた時点で気付けばよかった

完璧にナメタ態度とっちゃたよ


そういえば、宮仕えの挨拶の時に玉座の傍にいたかも

お腹空いてて王太子を眺めるどころではなかった

不敬罪、お家取潰し、切腹か!!と、内心ハラハラしていたがそんなことなく暁少年はしつこく私を追掛けてきた


どうやら幼い頃に出会った赤い瞳の少女が初恋の君らしいのだが私は出会った覚えがない

前世を思い出す前は瞳は赤くなかったのだし、確実に人違いだ


何度人違いだと言っても信じず、六年がたった春

新しく王宮に官吏として登用された進士【配属先が決まる前の新人官吏の事】の中に異例の新人官吏が入った。噂では最年少で科挙かきょ【官吏の登用試験の事】に合格し、更に数年ぶりの女官吏の登用なのだそうだ


そして極めつけが、その少女は珍しい赤い瞳なのだ



暁の初恋の君ってその子なんじゃね?


ヤッホーイ!これで解放される、と思って数週間後

冒頭の言いがかりに戻るとさ……………


『あたしのハッピーエンド』


この世界では発されることのない言葉をあの少女、東郷とうごうはるは言った

よくわからないが彼女は私と同じ転生者だろう

彼女が暁の初恋の君でそれを覚えているとしたら、彼女に間違えられている私を疎ましく思うのも分かると言えば分るが……完全に暁の所為だ

そして、裏で手をまわしてるや毒椿などといった罵倒はなんなんだ?

普通に腹立つ


いや、それもこれもあのバカツキのせいだ

今度来たらシメテやる



私はこの後起こる騒動など思いもせず、つまみ食い中だった蒸しパンをもう一度かじり始めた













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