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閑話「手紙」

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 ここは魔大陸。

 この星の南極に広がっている人外魔境。

 新たな魔獣が産まれては消える天然の蠱毒。

 何度街を作ろうとも、魔獣の波に消えるような恐ろしい土地である。


 その魔大陸で唯一の都市『魔導城塞都市』は魔王の強力無比で莫大な魔力、他の大陸の魔法技術からすると異質としか言い様のない世界最新の技術、そしてその研究を支える命知らずの冒険者達の持ち帰る魔獣の素材によって成り立っている。


 そんな魔大陸の安全地帯(荒くれ者が多くて他の大陸からすると全然危険)の城壁のほど近く、建物かどうかも疑ってしまうボロ小屋の中。

 酒樽を抱えて寝ている大男がいる。

 この男の名前はギルバルト。他の大陸の冒険者ランクS(最高ランク)でないとギルド登録すら拒否される魔大陸冒険者ギルドにおいて、最高ランクの一番星という稀有な人材だ。ちなみにこの一番星。広い世界の中でも10人しかいない。

 現在の魔王ですら二番星である。

 そんな彼だが今日を機に魔大陸から姿を消す事になる。

 それは一枚の手紙が原因だった。




「おーいギル?起きろー!!」


 いつの間にかボロ小屋の中にいた壮年の小奇麗な男性が声をかけるが起き気配はない。

 着ている白衣がギルバルトの静かな鼻息でゆれている。

 男性はため息をひとつ吐いたあと、空中に魔法陣をギルバルトを取り囲むように展開。

「起きないのが悪いんだからな?」と一言掛けると躊躇せず魔法を撃ち込んだ。

 降り注ぐ青白い炎や雷、不可視の風の刃etcetc...


 小屋の中は魔法の威力で舞い上がった土埃で数センチメートル先も見えない。


 壮年の男性は懐から一枚の紙を出すと、魔力を注ぎ込められた魔法で部屋の中の土埃を風で外に追いやった。紙は灰にでもなったかのようにボロボロと崩れて落ちる。


 部屋の中が見渡せるようになると魔法で穿たれた穴にはギルバルトの欠片すら見当たらない。

 壮年の男性が部屋を見渡していると、外から咳き込む声が聞こえる。


「ゴホッ!!ぺっ!!あー畜生」

「なんだ外に出てたか」

「何だってんだ!!魔法なんざ寝てる人間に打ち込みやがって!!」

「お前が起きないから悪い」

「もっと他に穏便なやり方があったろうが!!」

「きっちり退避してたじゃないか?」

「あーそうだ!きっちり退避して扉の前で警戒してたら追い討ちに土埃までぶつけて来やがって!!あれか!?喧嘩か!!買うぞ!!」

「売っとらん。ギルドにお前宛ての手紙が届いている。それにこれから実験の素材を集めて貰うぞ」

「はぁー。ふぅー。わかった。あと次やったら殺す」

「おー恐い」

「おらさっさとギルドに行くぞ。テメェの金でしこたま飲んでやる」

「お手柔らかに」




 ギルバルトがギルドに着く頃には日が中天に差し掛かっていた。

 ギルドのドアを開けて中を見渡すが閑散としている。

 真っ直ぐギルドカウンターに向かい手紙を受け取った。

 後は2階の酒場で一杯引っ掛けながら手紙の中身を確認して、魔獣の討伐に向かう心算だった。


 2階に上がると直ぐに見慣れた顔が見えてくる。


 和服を着崩して肩を露出した、黒髪の妙に色気のあるグラマーな竜人の女性。瞳は金色で蛇のようになっている。威圧感抜群。それさえ無ければ絶世の美人なのだが...


 聖騎士を思わせる白銀の全身甲冑。顔を見たのは数度しかない。



 褐色の肌に更に黒を塗り込むように布を巻き付けたような服の男性。しかし、髪の毛は真反対の白髪。糸のような細い目からは何を考えているか窺えない。



 そしてギルバルトの後ろから白衣の壮年の男性が現れる。



 ギルバルトは仲間がいるいつものテーブルに向かい、いつも座っている椅子に勢い良く腰を下ろした。


「おいマーリン、さっきの魔法の礼に麦酒一杯奢れ」

「しこたまじゃなくて良いのか?」

「テメーの高尚な実験とやらが終わったらしこたま飲んでやるよ」

「へいへい。大将の気が済むなら安い物さ」


 そういって白衣の壮年・マーリンはカウンターへ向かって歩き出す。


「なあにぃ?また酷い起こされ方したの?」

「あの野郎寝てる人間に向かって魔法ぶっぱなしやがったんだ」

「あらあら。あたしがその猛った気持ちを鎮めてあげましょうか?」

「止めろアサヒ。太腿をさするな。俺は女は死んだ女房だけと決めてんだ」

「つまんなーい」

「ケッ!その気もねぇーくせに」

「そんで大将。その紙は?」

「うおっ!ヴォルテール!!気配なく近づくなって言ってんだろうが!!」

「ごめんごめん」

「あーなんか息子からの手紙みてーだな。えーと、なんだと!?」

「どしたん大将?」

「ヴォルテール、お前この短剣欲しがってたな。やるよ。ミルディン、お前には守護の指輪だ」


 そう言って、ギルバルトは腰の短剣を外して糸目のキースに押し付け、指から指輪を引き抜くと白銀の甲冑ミルディンに指輪を投げた。

 ミルディンは一言も言葉は吐かなかったが、慌てた様子でガシャガシャと指輪をキャッチした。ヴォルテールは珍しく目を開いて呆けている。


「どうしたの?ギルが人に物をあげるなんて」

「アサヒ、お前はこの宝玉欲しがってたな。やるから頼みを聞いてくれ」

「へ?た、頼みって?」

「俺を黄金の草原まで送って欲しいんだ」

「べ、別にいいけど何があったかぐらい言いなさいよ」

「孫がな...産まれたんだ」

「へ? ま、孫?」

「孫だ」

「お、おめでとう?」

「ああ、ありがとう。だからな、引退する」


「「引退!!!?「ガシャ!!?」」」


 皆口々に考え直せだの、引退までする必要は無いだの言って貰った物を返したり押し付けられたりしていると麦酒を持ったマーリンが帰ってきた。


「なんの騒ぎだ?」

「ちょっとマーリン!!ギルが孫が出来たからって引退するっていうのよ!!」

「大将ぉー考え直してくださぁいよー」

「ガシャガシャガシャガシャ!!!」

「嫌だ!辞める!!孫と一緒に暮らす!!」

「マーリンからも言ってやってよ!」

「ギル。本気か?」

「俺はこんななりでも一応は草原の民だ。風は囁いてくんねーが草原に帰る時が来たんだよ」

「そうか。ギル、世話になったな。パーティは解散か」

「すまんなマーリン。実験には付き合えそうにはない」

「気にすんな、この都市の城壁は試算でも100年は崩れん。その間にお前より強い冒険者を見つけるさ。陛下には上手く言っておく。さっさとどことなり行っちまいな」

「おう。孫が育ったら遊びに来るさ」


「そんじゃ、パーティ「明けの明星」は解散だ。鍛えたくなったら草原にきな。孫と一緒に扱いてやるよ」


(((お孫さん大丈夫か?(ガシャガシャ!?))))





 その時ククルス君2歳、突如体が震え、その勢いで舌を噛んだ。



 舞台は変わる。



 ここは竜たちの孤島群。

 ひとつの島も船ではたどり着けない。全ての島が絶壁に囲まれているからだ。

 空を飛ぶ手段が無いと入る事の叶わないこの島たちは、隔離された土地柄、特殊な動植物が数多生息している。

 そしてその生態系の頂点に君臨するのが竜である。

 高い知能を持つ竜は、島々の他の知的生命体にとって畏怖と信仰の対象であり、狭い島の領土で共生する友でもある。









 そんな孤島群のひとつ、一際大きな島のちょうど真ん中辺りにそれは大きな遺跡がある。

「龍神の塔」と呼ばれるこの遺跡、塔と名がついているが、上には精々十数mしかない。この遺跡、地下に果ての見えない程長く塔状に続いているから塔と呼ばれているのだ。

 かつて滅んだとされる古代文明の名残を求めて多くの冒険者と考古学者が訪れるが、塔の地下の探索が開始されてから600年、未だ塔の最下層は発見されず、またどのようにして滅んだか、どんな文明だったか解明されていない。




 そんな遺跡の数km先に遺跡の研究をしていた学者たちが使った建物が始まりの学び舎がある。


 その中の研究室のひとつに書類とよく分からないガラクタに埋もれて眠っている、くたびれた白衣を着た小さな少女。

 彼女の名はシーマ。

 ジーンの妻であり、ククルスの母方の祖母である。



「教授ー?いますかー?お手紙届いてますけどー?」

「んん?んー?なにー?」

「お手紙!!届いてますよ!!!」

「誰からー?読んでー」

「夫さんからですよ!!お孫さんが生まれたんですって!!!」

「んー」

「...」

「あー、そこの机の上にさぁー。はぁー。古代文明の文字についての考察まとめてあるからー。論文にして委員会に出しといてー。よっこいしょっ。あー。からだいたいー」

「えっ!教授!!お帰りになるつもりですか?!困りますよ!!せめて引き継ぎ位ちゃんとしてって下さいよ!!!」

「えー?あー、あたしこれから休職届け出してくるからー。あとよろしくー」

「ちょっと!!?待ってくださいよ!!はやっ!!追いつけねぇ!!!教授ぅー!!!!!」




 見事に助手をまいたシーマはその容姿には似合わない煙草に火を点け、懐から何やら機械を取り出した。

 カチャカチャと作業をする事数分、懐に入るサイズだったそれは何故だか数百倍の体積に膨れ上がり、彼女を乗せて浮き上がると空へ緩やかに飛んでいく。


「あ、休職届け出すの忘れたー。まーいっかー。くーちゃん草原までよろしくー」

なんとなくふわっと浮かんで書いた。

近いうちに出そうと思う。

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