子鬼、キレる。
机もなければ、椅子もない。
目立ったものは、部屋の角に一箇所だけ木の板で囲ってあるトイレだけ。
俺は土の床にペタんと座っている。
さて、宿屋に着いた筈なのに俺は今世界樹の根元にある留置場的な施設にいる。
な、なにを言ってるかわからry
ふぅ。
別に謎の精神攻撃で時間を飛ばされたりした訳ではない。
なんのこっちゃない。
宿屋で訳のわからないエルフに囲まれて、色々あってキレる10代を地でいって魔法を放ち、衛兵さんのご厄介になりました。
つーか、ホントにあれだよ。
早く飯食いたい。腹へった。
あ、なんかまたイライラしてきた。
そもそも、こっちの都合も考えずに捲し立てるように絡んできたエルフが悪い。
「ククルス・アーヴィングで良かったかな? すまないが宿屋の件の詳しい話が聞きたいので、こちらの部屋に来てくれ」
衛兵風のエルフが隣の部屋に招く。
まぁ、俺も悪い。なんせ、暴れた。
洗いざらい喋ってお咎めを受けて、みんなのところに早く帰ろう。
そんで、飯を食おう。
事の顛末は、こうだ。
荷物を割り当てられた部屋に置いて、ドヴァンと部屋を出て一階の食堂に向かっていたのだ。
一階に下りると、ミラーさんが早速商売の話を数人のエルフとしていたようで、グラスボードの詳しい原理が知りたい研究者っぽいエルフに説明を求められた。
ドヴァンは先に食堂に入って行った。
この時点では全然怒ってなんかいなかった。
つらつらと機能や原理の話をしていると、黒いローブを着たエルフ四人組が凄い勢いで入ってきて、俺に抱えられたヨトゥンを見るなり「白夜様だ!」とか、あーだこーだ言った後、俺の腕からヨトゥンを奪おうとした。
この時点で怒りとびっくりがそこそこ。
無論、ヨトゥンは名前を与えた契約精霊だと説明し、ヨトゥンからもそれが真実だと告げられる。
黒ローブ達はそれを聞いて唖然とした様子だったが、何を思ったのか「相応しくない」とか「契約を破棄しろ」と迫った。
ふつふつと怒りがこみ上げてきたが、まぁ理由があるのだろうと思い、向こうの言い分をまだこの時点では聞こうと思っていた。
どれ、何故ヨトゥンを欲するのかと黒ローブに聞こうと思った矢先に第三のエルフ集団が現れた。
青みがかった銀色の金属鎧を着こんだ、騎士風の三人組。
俺の角を見るなり、頷き合って黒ローブと俺の間に立ち、俺に「鬼族よ、さるやんごとなきハイエルフ様がお前を呼んでいる。一緒に来てもらうぞ」と言って腕を掴む。
それを聞いた黒ローブ共は我が意を得たりとヨトゥンを狙い、止めようとしても腕を捕まれて動けず、むかっ腹にきて鬼の力を発動。
騎士風のエルフ三人組の足を凍らせてすぐさま腕を解き、黒ローブ四人組の服を精霊語で凍らせてバラバラにし、最初の研究者エルフが呼んだ衛兵が駆けつけてお縄である。
やっぱり俺は悪くないよね?よね?
そんな俺の主観を衛兵さんに話した。
衛兵さんも呆れ顔だ。
とりあえず衛兵さんが向こうのエルフ2グループの言い分を俺に話してくれた。
黒ローブエルフ共は錬金術を研究してる奴ららしい。
過去にヨトゥンが召喚されていた時、ヨトゥンが彼らに錬金術を習い、錬金術を使って自身の身体を錬成。
これが精霊院の目に止まり、彼らは研究室と潤沢な予算を手に入れた。
しかし、彼らだけでは精霊か宿る身体を錬成するに至らなかった。
頼みの精霊は限定的な召喚で、既に精霊の庭に帰ってしまい、何度呼び出そうと応じてくれない。
時間だけが過ぎ、予算は年々削られていき、そろそろ研究室を追い出されるという所で俺とヨトゥンを見かけた他のエルフの話を聞いて突撃して来たというのが流れ。
そんで騎士風のエルフ。
彼らはハイエルフに仕えるモノホンの騎士様。
ハイエルフが俺を呼んでいたのは本当のよう。
ハイエルフの名前を出せば余程の事がない限りエルフは黙ってついて行くのだが、如何せん俺はエルフの常識に疎い草原の民。
タイミングが悪かったのもあって、足を凍らされる。
黒ローブ共は契約精霊を拐かそうとした罪で、10年間の研究禁止。
研究大好きエルフ達にはかなりの重い刑だとか。
騎士エルフはお咎め無し。
俺はいくら大変な状況だったとはいえ、宿屋の中で人に対して魔法ぶっぱなしたので1日留置場で反省しろとの沙汰である。
という訳でまたさっきの部屋に戻ってきた。
家族には説明が行ってるようだ。
はぁ。
腹へった。
衛兵さんの話だと、夕飯は出るみたい。
もはやそれだけが楽しみだ。散々過ぎる。
今の俺は十数歳のお子様だ。
痛けりゃ泣くし、腹へったらイライラくらいするだろ?
転生して通算の年齢では完全に中年だが、精神年齢が身体に引っ張られてるんだ。
そうに違いない。
この体というか、ククルスとしての人生に魂が馴染み始めたのかもね。
言い訳にしか聞こえないのは自分でもわかってるけど。
宿屋の出来事を衛兵さんに説明してから2時間くらいしただろうか。
ガチャリと扉が開いた。
油の香りが部屋に流れ込む。
前世では嗅ぎなれた匂いだ。
衛兵さんにがお盆を床に置く。
大きめの木の皿には、何かの肉の塊を生野菜と一緒にパンで挟んだもの。
その横に見た目完全にフライドポテトな揚げ物。
コップを覗けば透明な液体に気泡が漂い、何やら甘い香り。
え?
は、ハンバーガー!?
しかもセット!?
炭酸!?
遅くなりました。




