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続・猪ベーコンを作ろうと思っていたんだが

 季節は秋である。


 あ、ちなみに暦とかは地球と大体同じだった。

 一年は365日、閏年はない。

 祝い事は秋の黄金の月のみで、新年あけましてとかは草原の民にはないみたい。



 そう、今は秋の黄金の月。

 病の風は薄まってきたようで、庭先への外出まではオッケーサインがでた。

 黄金の月は風の神が始祖様の狩りを手伝った月らしく、ここ黄金の草原北部に多くの人が集まって大狩猟祭りが開催される。

 俺が産まれてからは病の風のせいで開催されなかったが、匂いが薄まってきたため今年は開催するらしいのだ。

 父ちゃんは子供らしからぬ目で愛用の鉈を研いでいるし、母ちゃんは涎を口の端にちょっと覗かせて香辛料などを買い込んでいる。


 しかし、俺には祭りどころではない!

 俺は前世での因縁にケリをつける!!

 そうだ! 猪ベーコンを作るのだ!!


 食卓にあがる肉はつぶさに観察していたが、ちょっとサッパリとした豚肉みたいなのが稀に現れるのだ。

 母ちゃんと父ちゃんに聞いたところ毛皮の茶色い2本の牙が立派な鼻息の荒いパロルという生き物らしい…

 間違いない奴だ!! 奴に違いない!!

 そして、大狩猟祭りのターゲットは件のパロル。


 これは神が俺に与えたもうたチャンスにほかならない。

 作れるっ!転生込みっ…三年越しのベーコンをっ!!

 そうと決まれば下準備だっ!!



 ターゲット1 母 アイナ


「かあちゃん」

「あら、なあにククルス?」

「おれ、おまつりのおにくで、とおちゃんとかあちゃんと風のかみさまに料理つくりたい」

「まあ。それはいいわね。どんなのを作るの?」

「んーとねー、おにくをしおとあのからいやつでつけて、けむりでにおいつけてにてほすの!!」

「???」

「だからぁ」

「とりあえず、お父さんにお肉貰えるように交渉したら?」

「もらえたらしおとからいやつつかっていい?」

「ええいいわよ。ただし作る時はお母さんかおじいちゃんがいる時にね?」

「うん。わかった」



 ふぅ。

 父ちゃん次第だな。父ちゃんにさえ攻略できれば行けるだろ。しかし燻製とかしないのか?ベーコンの調理法で完全に頭にはてなマーク浮いてたな母ちゃん。可愛かったけど。



 うし。じゃあ父ちゃんを玄関で出待ちすっかー。




 ターゲット2 父 カルロ


「ただいまー」

「とおちゃん!!おかえり!!」

「うおっ。どうしたククルス?父ちゃんに用か?」

「とおちゃん。おまつりのおにくで料理つくりたいからとれたらちょっとちょうだい。あとおさけ」

「おー、肉は良いけど酒はなぁ。酒も料理に使うのか?」

「うん」

「うーん」

「きっとおさけにもあうよ!」

「よーし、わかった。せっかくのお祭りだしな。そのかわり、美味しいの作れよ?」

「うん!」

「で? どの辺の肉だ? 鼻は母ちゃんの煮込みで使うからだめだぞ?」

「は、はな? えーと、おにくはあばら!」

「あばらな。わかった。じゃあ父ちゃんデケーの獲るから期待してろよー」

「あーい」



 さすが父ちゃん。ちょろい。

 さて後は匂いのいい木が必要だ、これはじいちゃんに聞こう。実験とか好きそうだしな。





 ターゲット3 祖父 ジーン


「やぁククルス。アイナから呼んでるって聞いたけど、またわからないとこでもあったかい?」

「じいちゃん、もやしたときにいいにおいの木をざがしてるの。てつだって!」

「燃やした時にいい匂いのする木かい? 一体何をするんだい?」

「料理するの」

「料理? あー確か魔大陸の保存食の作り方でそんなのがあったねぇ。面白そうだ。よし、おじいちゃんとこの辺の木をちょっとだけ火にくべてみようか」




 煙に燻されること数日、大体目星は付いたけど、じいちゃんの方が木の匂いについて考察やら実験やらはじめて止まらない…

 とりあえずこのやたら皮が剥ける白樺っぽいネロルの木を細かくしておこう。



 準備は終わった!

 後は祭りを待つだけだ!




 俺は今、母ちゃんに連れられて祭りの会場に来ている。

 地味に家の周りから外に出るのは初めてだ。

 木製のデカイテーブルやかなりの数の椅子が並べられ、会場の周りは若草色の布で囲われている。

 狩りの結果を待つ奥様方(小学生)やその子供達(どう見ても弟)がわいわいがやがや話に花を咲かせている。


 向こうの方が騒がしい、どうやら狩りの第一陣が帰って来たようだ。


 さあ来い猪!

 ベーコンにしてやるぜえええええ?

 えっ? え? ええぇえええ!?


 え? なにあれ? あれがパロル?

 思いっきり! 猪サイズのマンモスじゃん!!

 え? 食卓に上がってたのってあれ?


 まじかぁ…


 まあいいや、マンモスだろうがベーコンにしてやるぜ!


 ちなみに父ちゃんは牛位のサイズのパロルを仕留めて帰ってきた。


 その後は奥様方が血しぶき上等!って感じで解体と調理をして、やんややんや騒ぎながら肉を喰らい酒を飲み歌い踊り、日がくれる頃子供達は返された。

 父ちゃん達はまだ騒いでいるのだろう。

 マンモスは焼いても漫画肉にはならんかった。残念である。



 翌朝、起きると父ちゃんはまだ帰って来てなかったが、納屋にはきちんとアバラブロックが吊るされてた。


 さぁ俺にとっての本番はこれからだ。


 下ごしらえを始めよう。


 じいちゃんに手伝って貰ってアバラブロックを木の桶に下ろし、とりあえず血抜きだ。


 軽く水洗いしたら塩をまぶし重石を乗せて、地面を掘って作ってある家の食料庫に一晩寝かせる。脂身が結構多かったが、前に食べた時は割とサッパリしてるイメージなので削ったりせずそのまま。


 翌日、出てきた水と血の混合液を捨てて、ドワーフ謹製のフォークでブスブスと刺して成型をすませる。刺しとくと味も染みやすいので早く喰いたい俺は断然刺す。

 前世では人によっては刺さずに、細胞を傷つけず旨みを逃さないなんて方法もあったが知ったことか。



 次に塩をすり込む。特に骨の跡は念入りに。砂糖が無いので父ちゃんに分けて貰った酒をアルコール飛ばしてこれもすり込む。念入りに。

 そんで各種香辛料、ハーブをすり込む。ファンタジー謎ハーブ。危険な香り。


 そんでもって前世ならポリ袋だが、そんな物ファンタジー世界には無いので革袋で代用。突っ込んで、空気を抜く。次やるときは魔法で真空調理を目指そう。


 これをもう一度食料庫に突っ込んで1週間寝かせる。熟成期間だ。おいしくなーれ。




 毎日裏返し、1週間たった。

 長かった…腹へった…

 だがまだ食えん。


 塩漬けが終わったので、今度は水にさらして塩を抜く。大きさ的に5時間かな?


 塩抜きが終わったので、今度は革袋ごと肉を茹でる。

 お湯の温度は測れないのでフィーリング。超とろ火で沸騰しないように1時間茹でる。


 おー肉がピンクでキレーだね。涎がとまらん。


 さて、肉を取り出して水分をよく拭き取り、乾燥だ。

 糸を通して納屋に吊る。虫除けで荒い麻の布で囲っておこう。


 ちょっと想定より肉がデカいので、気持ち長めに半日以上乾燥したら燻す。

 長い……


 さーてモクモクしまっせー

 この日のためにじいちゃんと燻製用の木箱を作っておいた。


「じいちゃんいぶすからてつだってー」

「おーいよいよか。よしよしまかせてククルス」


 燻製箱に肉を吊るして煙をたく。決して火が出ないように。

 サイズ的に2時間半かな? もくもくもくもく燻す。


 燻し終わったらちょっと切り分けて味見だ。


 んー。キツめの燻香と口の中に溶けだす脂の旨み。後味をサッと謎ハーブが爽やかな香りで駆け抜ける。あぁ、カリカリに炙ってパンに挟みたい。


「じいちゃんあじみ」

「はいどーも。んー。これはいいねぇ!お酒の摘みになりそうだ」

「おーククルス出来たのか?父ちゃんにも一口くれ」

「あい」

「おー!うまいなぁ!アイナにも持っていってやろう」


 さて、後は食料庫で吊るして冷まそう。1回冷ますと味が落ち着くんだ。



 後日パンに挟んで風の神様にもお供えした。

 翌年から我が家ではベーコンが秋と冬の代名詞になった。





 遊楽と風の神の加護→遊楽と風の神の愛子 Rankup!


パロル


三種族の大陸の平野部、北部山間部に生息、魔大陸では近似種が家畜化されている。

見た目は完全にマンモス。しかしサイズは猪程。最大で牛程。

雑食性だが、黄金の草原付近は好物の果物が有り余る程あるためそればかり食べる。その為肉に臭みが少なくあらゆる料理に向く。味は豚肉に似ている。

サイズが小さいためか知能はそこまで高くない。鼻は筋肉質で珍味。


なお、現実の象は筋ばって大味らしい。鼻だと思っているのは実際には上唇の部分と鼻の複合物。アフリカ等の市場で買えるとのこと。食べたい…

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