子鬼、後悔する
なんとか今日中にあげれた
朝方、夜の番でドヴァンに起こされた。
白んできた空を見上げて、息を肺いっぱいに吸い込む。
焚き火の前に腰を下ろして、昨日の鹿について考える。
猟師としては最悪だ。
獲物に手傷を負わせて、逃がすなんて。
しかしあの時、他にやりようが有っただろうか。
氷の腕はあまり持続しない。
あれより強力な魔法になると、どの道、手傷を負わせる事になる。
あのまま逃げたら、遠からず抜け出されてまた襲ってきたかもしれない。
あれが最善だったと言えるだろうか。
自問するが答えは出ない。
もう一度、自分の能力を見直してみよう。
きちんと自分の手札を理解出来ていれば、次はこんな気分にならなくて済むかもしれない。
自分に対しての鑑定の結果に、更に意識を向けて鑑定をかける。
まずはこの世界に産まれるきっかけとなった、ヤマサチヒコの加護だ。
「狩猟神の加護(異)」
説明
天皇の祖父とも言われる、ヤマサチヒコの加護。
人に近いタイプの神のため、人の狩りの腕前に効果を及ぼす。
狩りの上達が早くなり、弓や罠の設置にプラス補正。
また、山の中では気配を察知されにくい。
陸上、空中の獲物に恵まれる反面、逸話から釣りにはマイナスの補正がかかる。
海に出ると稀に時の感覚が狂う。
うん。
マイナスでかくね?
釣りダメかー・・・
あれ? でもドヴァンと魚捕ってたけど。
もしかして針が付いてるとダメな感じだろうか。
釣りの補正であって、漁のマイナス補正では無さそうだ。
しかし、こうなると海が怖いな。
ええい!
次だ! 次行ってみよー!
「遊楽と風の神の愛子」
説明
草原の民と交わったと言われる、フィロエの加護。
五感全てが風を明確に感じるようになる。
匂いで危険を予知し、音で方向を判断し、肌に触れる風で近距離の攻撃を避けるなど、上手く扱えばあらゆる危険を回避できる。
「愛子」は、フィロエの付けた称号のようなものであり、加護の効果には関係しない。
これは役に立つ。
というか立っている。
実に暗殺者向けの加護だ。
フィロエ様ありがとうございます。
「豊穣と食の神の熱望」
説明
太陽を司る、カルナスの加護。
光射す場所では飢える事が無くなる。
カルナスは新たな味を熱望し、あなたに期待している。
有事の際には活躍しそうな加護だな。
熱望って・・・
社かなんか見かけたらお供えしよう。
次は怖い。
なにせあのイケメン神だ。
俺をバットで打って転生させた、いけ好かんあいつ。
「輪廻と時空の神の畏怖」
説明
戯れるように魂を操るという、ウィルトの加護。
どのような効果があるかは不明。
成人した鬼族には大抵、この畏怖が加護として付く。
ウィルトは申し訳なさそうに貴方を見ています。
くっそ役立たずだな!?
ていうか、俺の記憶が正しければ、最初の方は「戯れ」だったような?
鬼族に畏怖が付くってことは、地獄関係に弱いのかな?
しかし不明は無いだろうよ。
申し訳く思ってんなら、初めからすんな!!
そして爆ぜろ!!
加護はこんなものか。
次は気になるスキルを見ていこう。
「平々凡々」
中級までのスキル習熟速度が速くなる代わりに、上級からは習熟が遅くなる。
「病の舞踏」
踊る事で病を操る事ができる。熟練する程に効果の幅が広がる。
「必殺の極意」
一撃で仕留める攻撃にプラス補正。
「斬鉄」
極めると鉄を容易く斬ることが出来るようになる。更に上のスキルに昇華する事もある。
「舞踏歩法」
踊るように戦場を駆ける歩法。円運動が滑らかになる。極めると予想もつかない動きが出来る。
うーむ。
「平々凡々」は便利な反面、器用貧乏になりそうなスキルだな。
「病の舞踏」に関しては、戦闘以外の扱い方がありそうだ。
「必殺の極意」、「斬鉄」、「舞踏歩法」は、鍛えれば今後の戦闘に役に立つだろう。
しかし、魔法関連は少なかった。
しかも、扱えているものばかりで発展性を感じない。
これは移動中ヨトゥン先生に相談するべき案件だな。
みんな揃って朝御飯を食べて、グラスワゴンに乗り込んだ。
おそらく今日の夕方には、街に着くだろうとじいちゃんは言っていた。
ドヴァンがグラスワゴンの屋根の上で警戒を担当。
俺が運転だ。
ヨトゥンを膝に乗せて森を進んでいく。
「ヨトゥン。魔法をもう少し鍛えたいんだ。細かい操作とか、長く魔法を行使する方法とか」
ヨトゥンは膝の上で向き直り、俺と目をあわせる。
「ククルス殿は魔力も豊富で、出力も高いので、普通に戦闘する分には今のままで良いのでは?」
「人相手ならそれでいいさ。だけど、獲物相手ならそうは行かないだろう。魔大陸以前の問題だ。食べない獲物は出来れば傷つつけたくないし、殺したくない」
ヨトゥンは膝から降りて、俺の隣にペトンと腰を下ろした。
「狩人の矜持というものでしょうか?」
「そんな大層なもんじゃないよ。ただの我侭さ。我侭を言うなら、それを納得させる実力が要るだろう?」
「なるほど。では、久方ぶりにわたくしが稽古を付けましょう。ですが、ククルス殿は焦っているように見えます。そのような時は何をしても上手くは行きません。今は旅を楽しみましょう」
「そうだな。うっし! エルフの食材が俺を待っている!」
「ククルス殿の料理の幅がまた広がりますね。その料理だけでも、他のどの精霊よりわたくしは幸せな時を過ごしていると思えてきました」
「なーに。これからもっと美味いものが食えるだろうさ!」
グラスワゴンは進んでいく。
森をひたすらに進み、日が暮れる手前には、世界樹の天辺が見えなくなってきた。
少し速度を上げて、街を目指す。
やがて、木で出来た大きな門が見えてくる。
驚いた事に、門の外側には枝が茂り、木が生きたまま門の形を成しているという事がわかる。
見上げないと門の天辺が見えなくなる頃には、門の横に詰所のような建物が見えてきた。
詰所にグラスワゴンを寄せる。
じいちゃんとミラーさんが詰所に向かい、日が沈みきった時、門が開きはじめた。
光る球が無数に浮かび、木とコンクリートのような物でできた建物を照らしている。
窓からは優しげな光が漏れ、夜だというのにエルフの人々が行き交う。
グラスワゴンが通れる分だけ門が開くと、革鎧に身を包んだ一人のエルフの衛兵が近づいてきた。
「ようこそ、精霊と学問の都『エルヴァニア』へ。我等から分たれた小さき輩よ、存分に旅の疲れを癒して下さい。宿は大通りを進んで左手、スウェルティアという星のような花を看板にあしらった『安らぎの竜胆亭』がお勧めです」
「ありがとうございます。そこに行ってみます。貴方に良き風の囁きがありますよう」
「貴方々の疲れを水が流しますように」
グラスワゴンで大通りを進んでいく。
完全に日が沈んだせいか、他に馬車などは居ない。
スイスイと進んでいくと、衛兵の言った通り、花をあしらった看板の宿屋が見えた。
じいちゃんが先に宿に入り、しばらくする店員が馬車などを停める場所へ案内してくれた。
ゾロゾロと子どもの団体さんで宿に入り、部屋を決めて行く。
じいちゃんとばあちゃん。
エイミーとセシリー。
俺とドヴァン。
ミラーさんは個室。
といった部屋割だ。
一度荷物を部屋に下ろして、一階に併設している食堂へ向かう。
さぁ!!
俺の戦い(食事)はこれからだ!!!
打ち切りじゃないよ?




