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子鬼、断てず。

遅れたぜー

 まだ獣たちには動く気配はない。

 何故狼が鹿に従っているのかは解らない。

 魔獣でなにか特性があるのかもしれないな。


 今のうちに鑑定しておこう。

 鹿さん美味そうだしねぇ?



 名称・・・・・古代鹿

 種族・・・・・動物

 状態・・・・・宿主(侵食率18%)


 説明

 人型の生き物が生まれるより昔から存在するといわれる鹿。

 太古の壁画などにも描かれる。

 魔大陸以外の森部に生息している。

 警戒心が強く、人前にはなかなか姿を表さない。

 角はオスのみが持ち、縄張り争いなどに使われるため頑強。

 毛が固く、生半可な刃は通さないと言われる。そのため、冒険者の防具の内張りなどに使われる。

 狩人の間ではこれを狩ると一人前だと言われている。

 一定の香草ばかりを食べるので、独特の香りの肉を持ち、脂肪が薄く緑色がかっていることから、狩人の間で「若草肉」と呼ばれて親しまれている。

 後ろ足の蹴りが強力で、狼などは余程大勢で囲まなければ、撃退されることもある。



 美味そうだな。

 狩る。

 だがしかし、水晶のような角の事が鑑定に無かった。

 おまけに狼の事も不明か。

 侵食率とか不穏な言葉も垣間見えた。

 角に意識を向けてに鑑定しようかな。


 しかし、獣は待ってくれない。


 狼三匹が先行してこちらに向かってくる。

 ドヴァンがグラスワゴンと獣たちの間に陣取って盾を構える。


 鹿が鼻息を1つ鳴らして視線を送ると、三匹の狼がドヴァンを囲んだ。


「ヨトゥン! エイミーを頼む。ドヴァンは三匹抑えられるか!?」

「かしこまりました」

「やってみる!!」


 ヨトゥンは大人版サイズに変わって、エイミーを抱きすくむ。

 ドヴァンは闘牛士のように盾を構えて、槍先を盾の陰に隠す。


「セシリー! グラスワゴンを少し離しておけ! 俺とドヴァンで抑える!!」

「わかった」


 魔法陣を3つ展開する。

 氷の槍が生成され、鹿側の残った三匹に狙いをつける。

 グラスワゴンの動き出しに合わせて槍を発射して飛び降りる。

 滞空中に解体用のナイフを2本、両手で投げて精霊語でアシストをかける!


『風よ! 獲物に食らいつかせよ!!』


 イメージは某アニメのホーミングレーザーだ。

 アニメのようにカクカクと曲がるわけではないが、俺の下手な投擲だけよりはマシだろう。

 着地したら、すぐに木の陰に身を寄せて気配を断つ。

 闇魔法で浮き上がり、木の枝に飛び移って状況を確認する。


 ドヴァンは三匹を相手にしても、ヒラリと躱している。余裕がありそうだ。

 狼共は興奮しているのか、連携も取れていない。

 俺の狙った狼は、一匹が躱した氷の槍が、地面で砕けて飛び散った破片で足を負傷。

 一匹が破片に混じって飛来したナイフに喉元をやられて倒れている。

 最後の一匹は健在だ。


 鹿は破片を躱したのか、少し後ろに下がっているが、悠然と立っている。


 俺は魔法陣を作り出し、鹿と狼のいる範囲に氷の破片をガトリングのように放つ。

 少し撃ったら木を移動して、同じように繰り返しながら鹿にプレッシャーを与える。


 鹿は機械のように正確に、氷の破片が降る範囲を抜けて、放った俺の方を見据える。

 ゾッとするような、生気の薄い目が俺を見つめる。

 おかしい。生き物の目ではない。

 無機質な感じが拭えない。ロボットのような、人形のような。


 残る狼二匹は、無差別に降り注ぐ氷の破片で倒れたようだ。

 鹿の視線を切るために、木をランダムに移りながら近づいていく。



 鹿はどうやら俺を見失ってくれたようだ。

 この隙に怪しい水晶の角に鑑定をかけてみよう。



 名称・・・・・ヤドリセキエイ

 種族・・・・・魔獣

 状態・・・・・良好


 説明

 ゴーレムの亜種と考えられている、寄生型の魔獣。

 目撃例が少なく、その実態はあまり知られていない。

 宿主の身体を侵食し、作り替える性質を持つ。

 作り替えられた部分は、鉱物が混ざる為に頑強で粘り強く、刃物などは殆ど通さない。

 また、ガラスや水晶のように見えるが、魔力が通っているため魔法鉱物のような状態で砕けにくい。

 宿主の頭付近に取り付いていると、宿主本来の行動とかけ離れた動きをする事がある。

 核に相当する結晶があり、それを砕く事で倒す事が出来るが、大概体内にあるために、討伐は困難。

 残った鉱物部分は、魔道具の素材として高く取引されるが、稀に種結晶と呼ばれる核の分け身が潜んでいるので注意が必要。

 これに寄生された生物は魔獣として扱われるため、冒険者ギルドでは討伐を推奨している。

 また、本来の宿主の状態より強力になるため、討伐の難易度が高くなり、ランクが1つ上がる。




 あー。

 そうきたかー。

 寄生か。流石に食うのはやばいかな。

 くっそ、やる気が一気に削がれたな。

 撤退だ、撤退しよう。

 追われないように、最低限足だけ怪我させよう。

 寄生されているとはいえ、鹿は生きてるから、食べないなら殺さない方向で。


 俺は静かに木から降りて、鹿を見る。

 後ろ足は危険だ。前世でも鹿のキックは恐いものだと教わったしな。

 前足を切りつけるか。いや、搦め手でいこうか。

 全力で魔法使うと殺してしまいそうだから、拘束系を使おう。


 魔法陣は見えている可能性があるので、精霊語で対応しよう。

 イメージは氷の腕だ。一本でも足を止められると、やりやすさが増す。


『地に留めよ、氷の腕』


 ゆっくりと、しかし確実に四本の腕が作られる。

 鹿が氷特有のパキリとした音で気づいた時にはもう遅い。

 氷の腕が各足を狙い、手のひらを開いてからガッシリと掴む。


『氷よ、地に留める楔となれ』


 追加の精霊語で地面との繋がりを強化。

 右の後ろ足だけ逃れたようだが、概ね成功といったところ。

 氷の腕は、ふくらはぎをガッチリと掴んでいる。

 ゆっくりと歩いて、鹿の所へ向かう。


 鹿は身じろぎをして抜け出そうとしているが、そうはいかない。

 直剣を鞄から取り出して、鞘から抜き放つ。

 左の後ろ足、人間でいうとアキレス腱にあたる部分に刃を当ててスライドする。

 皮をプツリと裂く音と、肉を裂く感触。ワイヤーが切れたような反発感があった。

 腱を切れたようだ。

 しかし、いつもの訓練の癖で残った刃渡りをスライドしてしまう。

 腱を切った反発感の後にきたのは、荒いセラミックにナイフの刃を当てているような、ゴリリとした嫌な感触。


 おかしい、骨くらいなら斬れる自信はあったのだが・・・

 傷口に目を凝らすと、小さな水晶の破片の様な物がくっついている。


 うえっ!?

 骨をコーティングしてんのか!!

 しかし、骨を断つつもりは無かったとはいえ、斬れないとは情けない。

 精進だな。帰ったら訓練頑張ろう。


 直剣を鞘にしまい、鞄に収納してドヴァンの応援に行こうかと歩きだそうとすると、鹿が鳴いた。


 前世の鹿のような、鳥みたいに甲高い鳴き声ではない。

 鉱物を震わせて合成音声を作ったような、異様な狼みたいな遠吠え。


 俺の目の前に一匹の狼が走ってくる。

 反射的に魔法陣を展開して氷の破片を無数にばら撒くが、傷なんて関係ないといった感じにそのままに俺に肉薄し、その顎を開く。


 咄嗟に俺は右腕を差し出すように開いた口に突っ込んだ。

 口が閉じる暇が無いよう素早く突っ込んだつもりだったが、腕に牙が食い込む。

 だが、それ以上は食い込む事はない。

 狼は腕を吐き出したそうにビクリと喉を震わせるが、抜いてやるつもりはない。

 左手で残る最後の解体用のナイフを抜いて、脇の骨の間に滑り込ませるように突き込む。


 狼はビクリと身体を震わせて、徐々に身体の力が抜けていく。

 ゆっくりと左手で口を開いて、これ以上傷がつかないよう右腕を抜いていく。


 あー、やばかった。

 狼の口のサイズが思ったよりも小さくて助かった。

 大人サイズだったら、腕が入らなかっただろうし、口が大きかったら噛み切られてたかもなー。


 鹿が機械のように遠吠えを繰り返してしているが、周りに狼は居ないようだ。

 水属性の魔法で傷口を洗い流し、血の流れを整えて、活身術の自己治癒力強化で細胞を活性させて傷を塞いでいく。


 鬼化して身体能力をあげて、狼の死体を森に放る。

 道に死体があると、他の獣がよってくるからね。


 ドヴァンの方へ行くと、申し訳なさそうな顔で迎えられた。


「ごめん、抑えきれなかった・・・」

「呼び戻されたんだからしょうがねぇよ。それより速く野営地見つけねーと。思ったよりも時間かかったしな。鹿も拘束してるだけだから、早めにグラスワゴンに戻ろうぜ」


 二人でグラスワゴンに向かって歩く。

 ヨトゥンに抱えられたままエイミーが寄ってきて声をかけてきた。


「お兄ちゃん大丈夫!?」

「おー。ギルじいと戦うよりはましだったぞー?」

「服破れてるよ! 怪我したの!?」

「大丈夫だ。もう治ったから」

「もう!」


 グラスワゴンに乗り込んで野営地を探した。

 見つけた頃には日は沈みきる直前だった。

 急いで火を起こして、テントを張って、料理をする。




 今日は疲れたから手抜きです!


 ペミカンを知ってるだろうか?

 カナダやアメリカの原住民、インディアンの保存食だ。

 干し肉とドライフルーツなどを細かく刻んで混ぜ、油で固めた物だ。

 肉や野菜、ドライフルーツに決まった物は無いそうだ。

 バイソンとか入ってる事もあったとか。


 今回用意したのは、少し趣が違うけどね。


 兎の干し肉とクラミア草(ニンニク代わり)、カオイモ、謎ネギを細かく刻んで混ぜて、塩とペパの実(胡椒代わり)で味付け。兎の油で炒めたのを冷やして油で包み込んだ物だ。

 家で作って小分けに革袋に入れて鞄に収納してたんだ。


 今日はコイツを使う。


 鍋にペミカンもどきを入れて火にかけて油を溶かす。

 油が溶けたら鍋を傾けて油を捨てる。そのまんまだと油っぽいからな。

 軽く炒めたら小麦粉をまぶして更に炒め、牛乳を入れて煮込んだ。

 塩で味を整えたら完成!!


「ペミカンもどきシチュー」でござりまする。


 具材が細かいので、焼いた硬焼きパンで掬うようにして齧り付く。

 あんまり出汁が出なかったので少し薄いが、鹿のせいで働かされたからめちゃくちゃ美味く感じる。


 味?

 ニンニクの効いたシチューかな。

 本来はシチュー用に作ったんじゃ無いんだけどね。

 俺的にホワイトシチューにはあんまりニンニクは合わないと思う。

 まあ腹減ってるとなんでも美味いよ。



 今日はこれで休もう。

 夜の番はセシリーが速い時間を担当してくれる。

 テントに入って横になると、すぐに目蓋はとじてしまった。


鹿はまだ食わせんよ!

ヒャッハー!

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