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外伝「豆」

そう言えば節分の話かいてないなぁと思って書いた。


昨日のPVさんじゅうまん……( ゜д゜)ハッ!

そして、一時的ではありますが総合日間ランキングで1位でした。

読んでくれた皆さんありがとうございます!

 節分という行事を日本人なら知っているだろう。


 豆に「魔を滅する」と字を当てて、日本の魔の象徴たる鬼に向かって豆をぶつける「豆まき」は、日本の子供なら一度は体験したはずだ。


 転生者の影響か、はたまた地獄の鬼の影響か。

 異世界にも節分の豆まきは存在する。

 普段は島を出ない鬼族達(鬼の制御が出来る成人だけだが)が、その日ばかりは島を出て他の大陸各地に現れる。




 ここは人族の大大陸中央部。

 争いが絶えず起こる血の大地、その東側にあるチケウ連邦という国。

 戦災孤児が集められた傭兵孤児院「白馬の練兵所」の中に、火の聖剣を携える者がいる。


 法騎士ロウナイトスレッガー。


 後ろに流したくすんだ金髪。

 優しげな瞳と高い身長、青い全身鎧に身を包み、女性に対するキザな言動で人気を博す、人族の最大戦力とも称される傭兵。

 傭兵ギルド「白馬」の副ギルド長であり、孤児を集め、人族の大大陸で生きて行けるように鍛える白馬の練兵所の所長でもある。

 人族の子供達の憧れにして目標でもある彼もまた、かつては戦災孤児だった。


 そんな彼も、今日ばかりは冷や汗を流す。

 子供達に麻袋を用意させ、練兵所の門の前で腕を組み、鬼を待つ。


「……豆ぇ、食わねぇか?」


 突如として背後から声が聞こえる!

 スレッガーは前に転がり、背後を睨む。

 そこには、鬼がいた。

 二メートルはあるであろう長身。白髪混じりの髪からは、普段は見せない二本角が禍々しいオーラを放つ。


「今年も来ましたね、ギルバルト師匠。ミルディンは元気ですか?」

「あいつなら魔大陸でなんとかやっているだろう」

「風の噂で冒険者を引退したと聞きましたが?」

「おう! 孫が産まれてな! 俺に似て戦闘の才能がある。それよりスレッガー? わかってるんだろう? 豆ぇ食わねぇか?」

「毎度この時期の豆は孤児院的には助かりますが、その度に俺に戦闘訓練させるのはいかがなもですかねぇ」

「いつもどおり、俺に豆を当てたら追加の豆を孤児院に置いていく。さぁ豆を食え!」



 元とはいえ一つ星冒険者の腕から放たれる豆は豪速だ。

 油断なく躱すスレッガー。子供達は落ちた豆を嬉しそうに拾う。

 左右のフェイントに合わせ、スレッガーが火の聖剣の力で陽炎を纏う。当てられた熱で豆の甘味が増す!!

 攻防の内に豆をキャッチしたスレッガーは、豆を投げきったギルバルトの隙を狙う。


「ちょいこっち、ちょいこっち……そこ!!」


 陽炎を纏わせ、複数に見える豆がギルバルトを襲う。

 しかし、ギルバルトは腕を振った風圧で押し返した!


 と、そこでギルバルトの頭にコテンと豆が上空から落ちてきた。


「ははは、なんてお上手なんでしょう、僕」


 おどけた様子でスレッガーは笑う。


「お? おう。相変わらずお前の頭の中はどうなってるかわからねぇな。ほれ、追加の豆だ。しかし、いつ投げたんだ?」

「師匠が背後に現れて、前転した時上に投げたんですよ」

「そうか、なるほどな。お前は俺が教えたのに全然戦い方が俺と被らねぇな。ま、強い弟子がいて俺は鼻高々だかな! ハッハッハ!!」


 こうして毎年、白馬練兵所の食料事情はこの時期だけ良くなる。

 しかし、和やかな雰囲気で豆をまかれている所は、人族の大大陸ではここだけである。

 街の方では豆がまかれているとは思えない悲鳴が数多聞こえる。

 人族の大大陸の荒くれ者には「豆まきの時期の前から悪い事はするな」と言われているくらい、凄惨な豆まきが各地で起こっているのだ。


 ほら、あの盗賊も豆で目を打ち抜かれ、泡を吹きながら倒れていく。

 ほら、あの悪どい領主も貯めた金貨が豆に変わって発狂している。


 人族の大大陸もこの日だけは戦争が起こらない。







 三種族の大陸は深い雪に包まれている。

 その中を妙齢の美鬼、リリー・マルレーンが子供達と楽しそうに練り歩く。


「「「「「鬼は内!!! 福も内!!!」」」」」


 彼女達が豆をまいている雪の下は畑だ。

 草原の民は最近まで続いた病の風のせいで豆まきが出来なかった。

 草原の民達にとって豆まきは夏の恵を実らせるための大切な行事だ。

 歌うように決まり文句を言いながら畑の上を練り歩く。


 エルフの大森林では、この時期だけ作られる豆酒と豆を交換する。

 ドワーフ連邦では、煎り豆をつまみに大宴会が行われ、赤髪の鬼と飲み比べる。


 そんな光景を頭に浮かべたリリーは、ふとひ孫の事を思い出す。


「今頃クク坊は地竜公のところかねぇ」






 竜たちの孤島群の中の一つ。

 最も赤道に近い「地竜の島」という、緑が生い茂り様々な植物が育つ島に、鳥のような動物を抱えた小さな鬼とメガネをかけた美しい鬼が下り立った。


 地竜の中でも最も歳のいった個体は、長いまどろみから目を覚ます。

 かの竜こそは地竜公。

 体は小山のように大きく、土色の鱗の隙間からは植物が生えている。

 翼のないずんぐりとした体型は、脂肪などではなく膨大な筋肉で支えられている。


「素朴でおいしい」

「おいおい、セシリー? 食いすぎるとまく分が無くなるぞ?」

「大丈夫。マイ豆」

「マイ豆って……どんだけだよ」



『来たな、鬼よ。今年は何を望む?』


 今まで山だと思っていた者が口を開いた。

 少し動揺したものの、目的を告げる。


「地竜公様の尻尾を一部貰いたい」

『我が尾を得てなんとする?』

「無論、食します」

『ほお。異な事を。そのような申し出は初めてだ。よかろう、それでは儀を始めよう』


 地竜公が尻尾を払い、木をなぎ倒す。

 地竜公との豆まきは、地竜公の逆鱗に豆を当てるという形だ。

 それまでに地竜公が鬼を倒すか、鬼が逆鱗に豆を当てるかの勝負である。


 ククルスは、鞄の紐を解いてグラスボードに乗り、闇の魔法陣を強く起動して高く飛び上がり、地竜公の背中へと飛び出す。


 セシリーは離れたところで座り込み、ハムスターのように頬に豆を詰め込んで咀嚼している。


 ククルスは、背中の上を飛び、尻尾の妨害をよけつつ鞄から大量の豆の雨を降らす。

 数打てば当たる作戦だ。


『今年の逆鱗は背中ではないぞ』


 そう言って、地竜公は今度は命属性の魔法で植物を操り、グラスボードを捕まえようとする。


「ヨトゥン! 迎撃頼んだ!!」

「わかりましたククルス殿!」


 無数の魔法陣が展開され、氷の刃が迫る植物を切り裂いていく。

 ククルスはその間に、風の魔法陣を作成。設置、起動。

 風が複雑に吹き荒れ、落ちた豆を巻き上げて地竜公の体にぶつけられていく。

 その内の一つが腹の部分の逆さに生えた鱗の隙間にはまった。


 ボンッと煙が出て地竜公の姿が消える。

 風の魔法陣から止まらず吹き荒れる風が煙を晴らすと、そこにはうつ伏せに寝そべった茶髪の偉丈夫が見える。

 彼は立ち上がると土を払い、飛んでいるククルスを見た。


「これで儀は終了である。良くぞ我が逆鱗の魔を払った」

「ありがとうございます」

「しかし、良いのか? 普通は魔を払った逆鱗を持ち帰るであろう?」

「食こそが、我が求道故に」

「そうであるか。ならば良かろう。竜身に戻るゆえ、持っていくがいい」


 そう言うとまた、ボンッと煙をだして地竜公は山と見紛う姿に変わった。

 ククルスに尻尾を向けると、ボトリと尾の先を自ら切り離した。


『持ってゆけ。来年は黒竜公であったな。奴は我のようには行かぬぞ。心して鍛錬せよ』

「は! では、貰い受けます」

『うむ、ではな』




 竜たちは普段、島の魔力を少しずつ吸い上げながら過ごしている。

 これは島の生態系が崩れないようにと、自らの体の維持のためだ。

 そうして居ると逆鱗と呼ばれる逆さに生えた鱗が生え始め、余剰な魔力が貯まるのだ。

 竜たちにとって豆まきとは「ガス抜き」のようなものである。戦う必要は無いのだが、竜たちは何故か戦いたがる。


 獄卒達の末裔である鬼族が育てた豆は、とある製法で炒ると本当に魔を滅するのだ。

 鬼たちは毎年孤島を持ち回り、竜の逆鱗の魔を払う。

 



「本当は、地獄の鬼と現世の悪い鬼を混同するなって怒った獄卒達が逆に豆をぶつけたのが、この世界の豆まきの始まりなんだけどね。地球じゃ地上に出れないからねぇ」


 どこかで骨がそう笑った。

おう、兄ちゃん

豆ぇ食わねぇか!?


悲しいけどこれ、豆まきなのよね

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