子鬼、妹のために作る
昨日の夜からアクセス数が異様に増えてるのは何故だ!?
当社比三倍から一時的に十倍……
さて、次の春からエイミーは学び舎に通う事になるだろう。
今まで本を読むことはおろか、言葉も聞き取れなかった彼女。
かなり勉強しないと、同年代には追いつけまい。飛び級は本人の意志に任せるが、とりあえず同年代と同じくらいの知識を得てもらおうと思う。
ちなみにエイミーが言葉を喋れるようになったので、小さなお祝いを俺の帰還と合わせて行った。
こちらはパンが主流なので、鬼ヶ島食材でアヒージョや、トリッパなどを作ってみた。鬼ヶ島食材がまだまだ鞄に入ってるので、今後セモリナ(粗い小麦粉)なんかも作ってパスタに挑戦しようと思う。
お祝いではエイミーはかなりキョドってた。まぁ、しょうがあるめぇ。家族とは言え喋る事も出来なかったんだから。
その点うちの家族はかなり大らかというか、楽天的というか、そんな感じなので、エイミーをめちゃくちゃ可愛がっていた。転生者なんぞどうでもいいといった感じ。
セシリーだけは質問に答えるだけで、黙々と食べていた。
さて、お勉強である。
エイミーは四則計算は余裕なようなので、簡単な関数の問題をやらせてみたりしてる。
中学校なんぞ遠い昔だったから、なかなか俺自身覚えてないけどね。
この世界には国語関連の学問はあまり発展してないので、コイツはパス。学び舎でもやらない。
理科関連はかなりきっちり教える。魔法にも関わるし、何より俺が好きだし。
エイミーは教え始めると結構食いつきが良かった。所々掻い摘みながら、周りの自然現象や、前世の道具を説明していると疑問が解消されるのが面白いようだ。テレビの仕組みとか面白いよね。
歴史などの社会系をエイミーは苦手とした。
流石俺の妹。俺も苦手だった。
歴史に関しては「斜め見」させて、教えてる。これは俺の前世の先生に教わったもの。
単純に暗記ではなくて、先に普通に説明したあと、細かく説明されてない部分などを、なんでこうなったと思うか聞いたり、俺の意見を聞かせたりして、想像を膨らませて面白おかしくやっている。
前世の先生曰く「プロレスはヤラセだから面白い。だからなんでこんな試合になったかって邪推するのが俺の楽しみ方だ。陰謀論みたいなのは人気があるから、勉強にも使えると思ってな。」との事。
そうやってストーリー的に考えている内に大筋の内容を覚えてしまえという作戦である。
これをやっていくうちにエイミーからも質問が飛んできたりするようになったので、とりあえず成功だろう。
さて、実技も教えなきゃいけない。
アサヒさんが居れば良かったんだが、彼女は俺が鬼ヶ島で寝ている間に孤島に帰ったそうだ。
これは主に魔法だ。近接戦闘を教え始めるとギルじいがまたやらかすかもしれないので、遠距離主体の魔法技能を教えている。
風属性と、父ちゃんから遺伝した火属性だ。
しかし、ここで問題が一つある。
エイミーは精霊契約をしていないのだ。去年の冬に召喚士さんが来たらしいのだが、彼女はその時喋れなかったために契約出来なかった。
他の子ども達が契約してる中、一人だけ精霊が居ないのはイジメの原因になる。
お兄ちゃんはそんな事許しませんよ!!
と、言うわけでじいちゃんと相談してみよう!
「じいちゃん、エイミーに精霊契約させてあげたいんだけど」
「うーん。次に来るのは四年くらい後だしね」
「おう! ククルス! そんじゃあ、旅の練習としてエルフの大森林に行けばいい」
「ギルじいはこう申しておりますけど、じいちゃんはどう思う?」
「あー、そろそろグラスボードも草原にまわりきったみたいだし、交易として行ってみようか。僕とククルスとエイミー、それにドヴァン君も呼んでみようか」
「……私も付いてく」
「うおう。 何故俺の後ろに。セシリーも追加かな」
「あー、後エルバ家から付いてくるかもね。草原の商売はエルバ家が取り仕切っているから」
「そんじゃあ、六人か。グラスボードも積むことを考えると一個大型のを作った方がいいかな。馬車みたいなやつ」
「そうだねぇ。それじゃあギルバルトさん、申し訳ないけどまた素材頂いていいかな?」
「孫のためになるんだ。いくらでも使っていいぞ!」
「そんじゃあ、じいちゃんと俺とヨトゥンで懐かしのグラスボード製作といきますか」
とりあえず製作だ!
つーわけで、大型グラスボードを作る訳だが、今回は重量が更にシビアになるだろう。
アダマンタイトもそんなに残っているわけではない。
三人で協議した結果、魔法陣部分と、そこから伸びる配線のような部分をアダマンタイトにして、他の部分は木と鉄で補う事になった。
まず、底の部分を大きな鉄の板でつくる。これはいつもの感じに緩やかに傾斜させ、四隅に着地した時のバランスを考えて足を付ける。そんで、板の魔法陣を配置する部分に印をつけて、くり抜く。ここをヨトゥンに錬金術でアダマンタイトをはめ込んで貰い、そこから配線を伸ばす。
上に木製の車輪のない箱馬車のようなパーツを付けて固定。
御者台の部分と室内に内側から配線を伸ばして魔石と一緒に固定する。
魔石はきちんと闇と風の転換型と貯蔵型両方を取り付けた。
更に、全高が高くなっているため、後ろと横の木製の部分にも内側から配線を通して魔法陣を設置した。これで普通に乗る分には倒れないだろう。
木製の部分を白く塗装して、御者台と扉を緑色に塗装。
ガラスが高かった……日差しを防ぐため、内側から薄い木の板を下ろせるようにしてある。
最後に、アーヴィング家の家紋(これを刻むまで家紋の存在を知らなかった)を横面に人の頭くらいのサイズで刻んで完成!
試運転がてら、家族総出でピクニックを提案。
弁当を俺と母ちゃんで作って乗り込んだ。
ギルじいは、重量オーバーだから自前のグラスボードだけどね。
速度は馬車より少し上程度。最初は横風であおりを受けて少し揺れたが、なれるとカウンターで横の魔法陣を吹かせて抑えられた。
魔力の消費ははっきり言って多い。二時間くらいで交代するといいかもね。
川辺に着いた。
簡単に準備をして、みんな思い思いに過ごしている。
エイミーは母ちゃんと花冠なんか作ってるみたいだな。
俺? 俺は昼飯を増やすべく釣りですよ。釣竿は小枝を払った簡単な竿に、糸を結んで、針はヨトゥン先生に作ってもらった。
餌はその辺の石をひっくり返して捕まえた虫。
セシリーも興味を示したので、隣り合って釣っている。
「……ククルス、これは海でも使える?」
「海の魚はデカイから、もうちょっとちゃんと作らないとダメだな」
「そう。釣れたらどうするの?」
「新鮮な内に塩振って串焼きだな」
「おいしそう」
「おっと! うっし、一匹目〜」
「……ククルス、引っ張ってる。どうすればいい?」
「お? 軽いやつなら、俺みたいにこうクイッと上げちまえばいい」
「ククルス、上がらない」
「おお? 大物か!? よし、俺も手伝うぞ!!」
二人でそこそこ長く格闘していると、川辺に引き寄せられたので、氷魔法で頭だけ凍らせてゲットした。
昔ドヴァンと釣りした時の登竜魚の亜種で臥龍魚という、平べったい魚だった。
めちゃくちゃ重くて捌くのも大変でございました。
簡単に油であげたものと、スープに使わせていただきましたよ。
火を通したマグロみたいな、しっかりとした歯ごたえと、たんぱくでさっぱりとした味の美味しい魚だった。
エイミーも残さず食べていた。
セシリーは変わらず黙々と食べていた。
さて、試験運転も問題ないし、帰ったらまた三人で問題点なんかをあげていこう。
みんな食事が終わって、片付けを済ました。
俺は燻製でも作ろうとまた釣りを始めた。
「……ククルス」
「うっ。セシリーか、どうした」
「ククルスはこれからどうするの?」
「あー。エイミーがちゃんとしたら旅に出て美味い食物探すかな。セシリーこそ、俺にいつまでついて来るつもりだ?」
「……前にも言った。ずっと」
「ずっとって言ったってなぁ」
「迷惑?」
「んなこたぁないけどさ」
「死んだお母さんが言ってた」
「なんて?」
「セシリーは料理も洗濯も得意じゃないから、どっちか出来るようになって、後はどっちかが上手い旦那さんを見つけなさいって」
「それは俺と結婚したいって事か?」
「ククルスは料理がとても上手。それに強いから食べるのに困らない」
「まぁ、それはそうかもしれんが」
「ククルスの料理はほっとする。孤児院の子供達にも優しかった。優良物件」
「んー。あれだ。まぁ、ゆっくりな。俺も悪い気はしないから」
「……うん」
セシリーの頬が赤い気がしたが、西日に照らされてすぐにわからなくなった。
前世込み、彼女いない歴=年齢な俺としては、不安がいっぱい、夢もいっぱいってところだ。
沈黙の中水音だけが響いているが、なんだかそれも心地がいいと感じた。
トリッパ
イタリア語で食用に切り出した胃の事。ハチノス。
もしくはイタリア風のモツ煮の事をさす。
作中のトリッパはトマト(作中のね)で煮込んだモツ煮。
したゆでしたモツをワインや香味野菜と一緒に煮込む。
パスタやパン、サラダにも使えて応用がきく。
アヒージョ
スペイン語でニンニク風味を意味するオリーブオイル煮込み。
ニンニクと鷹の爪を入れたオリーブオイルを熱して香りと辛味を移し、そこに具材を入れて煮込む割と簡単なお料理。
その他に、アンチョビをオリーブオイルに溶かすパターンなんかもある
味の染み出た油にバケットを浸してたべると美味しいと僕は思います。
海老やお肉、キノコなど中の具のバリエーションは多い。




