子鬼、妹と語る。
章管理初めてみた。
草原だ。
懐かしい風景が広がっている。
セシリーを連れて家の方へ歩くと、ギルじいとドヴァンらしき少年が激しい戦闘をしているのが見える。
ドヴァンは盾で受けているのだが、受け流す方に特化したのか、流れるような円運動でギルじいの攻撃を躱しているようにすら見える。
あれは危険だ。勢いを殺しにくい突撃系の攻撃なら、真横から槍が一つの動作の様に滑らかに敵に突き刺さるだろう。怖い。
どうやら一息つくようなので、近づいて声をかける。
「ただいまー」
「お? おう! ククルス! 予想より速かったな! 流石俺の孫だ!」
「ククルス?」
「ただいまドヴァン。お土産の鬼ヶ島の食べ物の種あるぞ。あ、こっちはセシリー。鬼の仲間だ」
「ククルス、一発殴らせて」
「へ?」
ドヴァンは言うなり俺の頭の上から拳鎚を落とした。痛いでござる! 拳鎚は殴るの範囲か? あ、こいつ俺より身長高くなってやがる!!
「まったく、止めたのに行っちゃうし、挙句怪我して他の島に四年も居るんだもの。まぁ、とりあえずこれで許してあげるよ」
「はいはい。俺が悪うごさいました」
「はぁ、なんだか気が抜けちゃったよ」
「おう、ドヴァン、今日は修行は良いからククルスと家に行ってろ。俺はジーンさんの手伝い行ってくるからよ」
「わかりました師匠、ご指導ありがとうございました」
「おう! ククルスも後でな!」
「あいよ。そんじゃ行くか、ドヴァン、セシリー」
「ん」「わかった」
そこからは速かった。ドヴァンのグラスボードに乗せてもらったからだ。
セシリーはたいして高くもないのに下を見ている。
すぐに家が見えてきた。
たった三年(寝てる分も合わせると四年だが)見てないだけで、なんだか胸に来るものがある。やだ、私の涙腺脆すぎ!?
ドアを開けると、母ちゃんはテーブルの上で編み物をしている。父ちゃんは床にタライを置いて、その中で解体用のナイフを研いでるみたいだ。
母ちゃんが俺を見るなり、走りよってきて俺に抱きついた。
「ククルス! ククルス、ククルス、ククルスぅ〜。お母さん心配したわぁ〜」
「ただいま母ちゃん」
「おう。無事に帰ったみたいだな」
「父ちゃんもただいま」
セシリーを紹介したり、鬼ヶ島の事を語ったり、最近の草原の事を聞いていると、エミリーの話題になった。
どうやら言葉を話さないらしい。たまになにか喋ったと思えば良く分からない言葉で、じいちゃんと相談したら もしかして:転生者
という結論に至って、俺の帰りを更に心待ちにしてたらしい。
俺はエミリーの様子を見に、元は俺の部屋だった子ども部屋へ向かう。
懐かしいドアを開けると、ルフの羽根布団の上をコロコロと転がる可愛らしい女の子がいた。父ちゃん譲りの淡い金髪に、母ちゃん譲りの緑色の綺麗な瞳をしている。コロコロと転がり、端で止まった所で俺と目が合う。
『ぺ、ペンギンだ!』
これは確定だろう。ヨトゥンを見てペンギンと言った草原の民は一人もいない。
俺はエイミーへ近づいて日本語で声をかけた。
『初めまして、エイミー。俺は君のお兄ちゃんのククルスだ』
言葉が通じると思ってなかったのか、驚いた様子でエイミーは俺を見上げている。
このまま質問しよう。
『エイミー、君は日本から生まれ変わってきたのかい?』
『うん。そうなの。言葉も解らなくて、中学校にいたはずなのに…』
説明の途中から泣き出して聞き取りにくかったが、どうやら日本から転生してきたのは間違いないらしい。
しかし、俺のような場合と違い、死んだ後気づいたらエイミーになっていたとのこと。
これは普通の事なのだろうか?
あの軽いけど、仕事になると人が変わる地獄の獄卒達が見逃すとは思えない。
まぁ、しかし、このままでは可哀想だ。
俺の言語知識を転写しよう。俺はエイミーをあやしながら耳元で囁く。
『エイミー、魔法でここの世界の言葉を喋れるようにしてあげる』
『っぐ…えっぐ…え゛?』
『少し寝てしまうけど、起きたら喋れるようになっているよ。おやすみ、エイミー』
エイミーは気を失った。
さて、考えられる事は多々あるが、俺は地獄に連絡を取る手段をひとつだけ持っている。
「ヨトゥン、これを人の頭蓋骨の形にしてくれ」
「わかりました。しかし、ククルス殿、それを作ってどうするので?」
「なに、子供好きの骸骨にちょっと質問するだけさ」
俺がヨトゥンに渡したのは、ギルじいが折った俺の角。
何かに使えるかなと思って取っておいたが、トゥルダク様の依代にするなら打って付けだろう。
あの人、地球で依代燃やすと病にかかりにくくなるチベットだかインドあたりの神様だからな。
流石にヨトゥンは優秀で、すぐに作り上げてくれた。
俺は鬼の因子に魔力を注ぐ。
そして依代にも魔力を注ぐ。
語りかけてみよう。
「こちら現場のククルスです、何やら妹が転生者のようなんですが、このような事はよく起こるのでしょうか? スタジオに聞いてみましょう。地獄スタジオのトゥルダクアナウンサー?」
カタカタと依代の頭蓋骨が動き出す。何故か窪んだ眼窩から光が出て、モニターの様に空中に投影しだした!?
モニターの中にはスタジオのようなセットが組まれ、マイクを前に座る骨と、若干頭が見切れてる、厳つく目の鋭い大男が無理やり着たようなスーツで座っている。
『はい、こちらスタジオのトゥルダクです。いやー、こんな事あるんですかねぇ。専門家の方に聞いてみましょう。地獄と魂の事ならなんでもござれ! 鋭い眼光とうねる黒髪で今巷で大人気の専門家、閻魔大王さんです。閻魔さん、どうなんでしょうか?』
『なんだこの茶番は……童。その者の地球での名前を言え、それでこちらから照会をかける』
「は、はい。棟方 結衣ちゃんです。俺の前世の地元にある学校の生徒みたいなんで、A県H市だと思います」
『ふむ。……四年前に階段から落ちて死んでおるが、魂は行方不明であるな。稀にあるとこだが、次元の穴から落ちたのやもしれん。しかし、これは管理責任の問題でもある。そちらに魂が行ったのであればこちらに一報寄越すのが礼儀だろう。その娘はそのままそちらで生きるといい。余はそちらの世界の責任者に問い詰めてやろう。なに、妹を心配する兄がわざわざ地獄に連絡を寄越したのだ、何かしらその妹に恩恵がある様脅してやる。グァッハッハッハッハ! 久しく面白い事など無かったからな! 本気で行ってやる』
「あ、ありがとうございます!」
『よい、家族は大事にするのだぞ? では余は他の仕事がある故、これで行く』
『以上、閻魔大王さんでした。なんか大事になっちゃったけど、妹さんには悪い様にならないから心配しないでククルス君。あと、その依代部屋に置いとくと病よけになるから、妹さんの部屋に置いておくといいよ。じゃ、次があるかわからないけどまたね』
「トゥルダク様もありがとうございました!」
依代の眼窩から光は消えた。
なんか自分からふざけといてアレだけど、疲れた。
依代は後で神棚でも作ってそこに置いておこう。
おや、エイミーが目を覚ますようだ。
「おはよう、エイミー。言葉はわかる?」
「あ、う。 おはようございます」
「よかった。わかるみたいだね」
「なんで? まほう?」
「そうだよ。お兄ちゃんは言葉は自力で覚えたけどね」
「う。だって、えいごもちゃんとしゃべれないのに…」
「まぁ、いいさ。これからお兄ちゃんが魔法と勉強を教えてあげるから」
「う。べんきょう、にがて」
「大丈夫、だって、お兄ちゃんの妹なんだから」
彼女には勉強の仕方から教えないといけないだろう。
そもそも勉強は勉強と考えた時点で義務感が出てやる気が出ないのだ。
前世は中学生のようだし、今は四歳だ。まだまだ頭は柔らかい。
楽しい勉強法を教えよう。
氏族長もやってもらわないといけないしね。




