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外にださしてもらえないんだが

 3歳になった。

 ククルス は ねんがん の じ を おぼえた!


 という訳で、なんでか外に出してもらえないためもっぱら本を読んで過ごしている。



 一度父ちゃんに「なんで外に出ちゃいけないの?」と問いかけたら、「ここ数年は病の風が吹いているからだ」との返答。


 病の風ってなんぞ?

 疫病とかかな。

 いや、父ちゃんにこのまま聞こう。

「やまいの風ってなに?」

「んー、父ちゃんはあんまり詳しくないからとりあえずこの本を読め。わかんない所は母ちゃんに聞け」


 と「草原の民解体新書」なる本を渡された。


 幼児に渡すには難しすぎませんかねぇ…


 それを読んでいた俺を見た母ちゃんが「ククルスは難しい本を読めるんだねー」とにこやかに笑いかけた数日後、大量に本を持った子供が俺の部屋にせっせと本を運び出した。

 俺の部屋に本棚2つが完成すると運んでいた子供(小四サイズ)は俺に声をかけてきた。


「ククルスは覚えて無いかもしれないけど、君が生まれた頃に一度来たんだ。僕はジーン、君のおじいちゃんだよ」

「じいちゃん?」

「ああ、えーと、ククルスのお母さんのお父さんだ」


 そう言って笑いかけた。優しい目元と銀ぶちメガネ、サラリとした金髪は短く整えられている。


「いや、しかし我がアーヴィング家に本を読むような子供ができるとは。アイナは外で遊んでばかりで録に勉強はできなかったし。カルロ君なんか冒険者なんかしてたせいか、あまり氏族会議とかは得意じゃないみたいだし。いっそ分家に継がそうかとも思っていたんだが。ククルスが居るならあと百年は頑張ろうかな」


 百年って…

 そういや寿命300歳くらいだっけ。無駄にスペックたけーな草原の民。

 ん? そういや母ちゃん側のじいちゃんなのに「我がアーヴィング家」って言ってたな。


「じいちゃん」

「ん?なんだい?」

「父ちゃんむこ?」

「むこ?ああ!婿ね。そうだよ。ククルスはその歳で婿なんてわかるのかー」


 まじか。父ちゃん入婿か。


「父ちゃんの方のじいちゃんとばあちゃんは?」

「カルロ君のお母さんは人族でね。亡くなってしまった。お父さんの方は今は旅に出ているよ」


 ん?


「じいちゃん、そーげんのたみとほかの人たちでも子供できる?」

「ほうほう。ククルスは頭がいいね。その答えは手に持ってるその本の中ほどに書かれているから、読んでみるといい。実はその本、おじいちゃんが若い頃に書いたんだ。全部読んで感想を聞かせてほしいな。とりあえずいっぱい本は持ってきたけど欲しいのがあったら、お母さんに言えばおじいちゃんが持ってくるよ。ホントは外に出て遊びたいだろうけど、ククルスが5歳になる頃まで病の風は止みそうにないんだ。それまでうちの中で知識を蓄えておくといい」


 ちなみにいま手に持ってる本は例の解体新書だ。分厚くて読みづらい事もあって、まだまだページは残されている。病の風とやらの事もあるし、当面は魔法の訓練とこの本の読破につぎ込もう。







 四ヶ月経ってやっと解体新書を読み終わった。


 草原の民について大体の事を理解したと言っていいだろう。



 草原の民の始まりはこうである。


 遠い昔のある時、ドワーフの若い集団とエルフの若い集団がかたや地すべりで、かたや大嵐でとても広い草原に迷い込んだ。


 山や森では感知能力の高い彼等だが、その草原は豊かではあるが故郷の山や森が見えないほど広かった。宛もなくさ迷ううちに二つの集団は出会った。

 草原の広さに辟易とした彼等は協力して村を切り開き、疲れを癒すために共に暮らした。

 そうしているうちに、多くの純血の子供達と数名のハーフの子供達が生まれた。


 ドワーフ達は諦めていた。自身の寿命では故郷の山にはたどり着くまいと。

 エルフ達は達観していた。子供が育ってから森に帰ればいいと。


 そうして長い時間が経ち、最初のドワーフの集団は皆その村で息を引き取った。

 エルフ達は困惑した。純血のドワーフの子供達は成長し、ドワーフの死を山に伝えるために決死で山を目指すというのに。純血のエルフの子供達は旅に耐えられるだけの成長をし親子で森に帰る準備をするというのに。


 ハーフの子供達は未だに子供のままなのだ。


 最初はドワーフの血で身長が低いのかと思った。しかし親のドワーフが死んでも見た目は子供のままだった。

 次にエルフの血で若いままなのかと思ったが、いくらなんでも若すぎる。


 ドワーフの子供達が旅立った。


 エルフは気味悪がり、ハーフの子供達を置いて森に帰った。



 残されたハーフの子供達は親の真似をしながら生活していたが、子供扱いされていたため碌に畑も耕せず、狩りも出来なかった。

 1人、また1人と餓えに倒れ、やがて3人の子供だけが残った。


 1人はドワーフの血を濃く引いて土の魔法の才能があった。なんとか畑を耕し糧を得た。


 1人はエルフの血を濃く引いて水の魔法の才能があった。川で魚をとり、果樹に水をまいてなんとか糧を得た。


 1人は土も水も才能が無かった。餓えを誤魔化す為に風の音に合わせて歌を歌って過ごした。



 才能のない少年は今日も糧を得られず、草原に倒れこみ風の音に歌いかける。

 ふと、風が答えた気がした。

 歌いかける。

 風の音が少女の声に変わった。


 少女は風の神だった。

 金髪を束ね、花のように笑い、歌を愛する。それは可愛らしい神だ。


 少年は彼女に一目惚れした。



 風の神と歌い合った次の日から、少年は風の流れがわかるようになった。

 糧を得るため獲物を追うと、風が囁きかける。

 あの獲物は臆病の風が吹いている。君に気付いていると。

 あの獲物は喜色の風が吹いている。慢心していると。


 少年はその日初めて獲物をとった。


 感謝の歌を風に歌うと、少女神が笑いかける。


 餓えを脱した少年は色々な気持ちを風に歌いかけた。

 少女神と共にいる事が多くなった。


 何時しか二人は結ばれた。


 土の才能が高い少年の元に共に育ったドワーフの少女が帰ってきた。

 何時しか二人は結ばれた。


 水の才能が高い少女の元にふらりと旅人が居着いた。

 何時しか二人は結ばれた。



 子供も沢山生まれ、村は活気に満ちた。



 この3人の子供達が草原の民の始祖である。

 風の神アルヴィと契りを結んだアーヴィング家。

 土の才能が高いドボル家。

 水の才能が高いエルバ家。



 これが草原の民を導く三氏族であり、俺の苗字はアーヴィング。

 つまり風の神様の直系だ。先祖が神様って…

 スキル特典貰わなくてもチートまっしぐらだった。



 解体新書には他の種族から見た草原の民についても書かれていた。

 高名な冒険者曰く、彼等は何処の国、どこの街、どこの村にも必ず1人いる。

 街娘曰く、いつの間にか居なくなり、別の草原の民になっていた。

 吟遊詩人曰く、普段は穏やかな彼等だが、怒ると恐ろしい。草原の民を奴隷狩りしていた国は三日で滅んだという内容の、有名な歌がある。

 酒場の亭主曰く、酔うと何でもかんでも風に例えて他の種族にはさっぱりわからない。



 草原の民はその約300年もの寿命のうち半分以上は旅に出ていて、伴侶を見つけたり打ち込む物が無くなると帰って来て子育てするのが普通らしい。

 たまに、村から出ずに子供を育ててから旅立つ事もあるらしい。


 種族全体的に風の魔術適性が高い草原の民。

 アーヴィング家に近しい人達は特に風を読む事に長けていて、総じて狩りが上手い。

 また吹き抜ける風が運ぶ匂いなどで近隣の疫病や飢饉等が解るらしい。

 そう、ここで「病の風」である。

 病の風とは近くで疫病が流行っているのだとか、戦の気配があるだとか、総じて良くない事の前兆らしい。草原の民は昔からこの病の風が吹いていると子供を守る為に家から出さないようにしてるらしい。


 あくまでも前兆であり、この時点ではなにが起こるかはわからないみたいだ。また、病の風が止まり前兆のみの場合もあるとじいちゃんは言っていた。

 我が家の直系やそれに近しい分家には「風の血統」というスキルを持って産まれる。

 これは風の魔術適性の最高峰であり、魔術を極めると天変地異が起こせるとか起こせないとか。

 はいはいチート。


 ちなみにこの前母ちゃんが掃除で窓を開けた時は少し嫌な匂いがした。

 あれが病の風なのだろう。


 他にドボル家の治める地帯に生まれると総じて土の加護を、エルバ家の治める地帯に生まれると水の加護を得るという。



 地理的な話で、この草原は三種族の大陸という所にある。

 他に魔大陸、人族の大大陸、竜たちの孤島群などが主だったところ。


 三種族の大陸は東にドワーフ連峰、西に精霊の大森林があり、その間に俺の住んでいる黄金の草原がある。大陸は南以外山に囲まれており、黄金の草原の南端にのみ港がある。四季があり、世界地図で言うと北より。黄金の草原の黄金は貴金属の黄金ではなく、秋の「黄金色に輝く麦穂」から。また商人の間では食料の取引が出来ると、その産出量と低い値段、良い品質から「黄金以上に儲けが出る」だからだとか。


 この大陸では戦争が起きないのも特色だ。

 人当たりのいい草原の民が受け皿になっているため交易が盛んで、じいちゃんによると草原の民がこの大陸にいる限り戦争は有り得ないと断言していた。

 地図上一際大きい人族の大大陸は戦争ばかりで、三種族の大陸では戦争中の国家には輸出しないという方針らしい。

 人族が団結しちゃって他大陸侵略とかされたら真っ先に狙われそうだけど…

 まぁ。そうそうないか。


 黄金の草原は北をアーヴィング家が治め、牧畜と狩猟を生業としている。

 南はエルバ家が治め、港の管理と漁業を。他の大部分をドボル家が治め、農業を生業としている。

 人口は三万人前後で、人口比はアーヴィング家2、エルバ家1、ドボル家7である。


 特産は良質の小麦、農閑期の手慰みで作られる織物など。



 交配に関してはどの種族とも子供をもうけることができる。

 男が草原の民なら子は草原の民になり、女が草原の民だと子は相手の種族になるとか。

 なんだよそれすげーなファンタジー。




 しかし、いつになったら病の風は止むのだろうか。

 じいちゃん曰く俺が5歳になる頃には止むらしいが…


 あんまり悪い事が起きないといいけど…


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