いざ地獄!! なんだが。
キングクリムゾン!!!
曲長すぎだよね。
鬼ヶ島に来てから三年たった。
鬼の因子が目覚めたお陰か、見た目はたいして変わらぬお子様ボデーなのに、この世界の人族の成人男性位の力はあるようだ。やったぜ。
これならなんとかパロルなんかも引き摺れそうだ。
折れてた角は普通に生えてきた。黒いピカピカの螺旋角。
聖剣教会の一室に暮らしているのだが、リリーおばあちゃんがやたらと言葉遣いや身だしなみについて言及するので、流石に矯正した。ちょっとだけ。
午前中は教会内の掃除と朝食、昼食を担当し、午後は修行に努めた。
鬼ヶ島は鬼族しかいない本島と、血が濃くなりすぎないように外と交流する為の交易島とに別れている。
俺は大概本島に居るけどね。歳が高めのシスターさんとかが血走った目で交易島へ毎晩向かうのを見ていて、どこも変わんないなぁとか思った。
鬼族は基本島から出ないらしい。郷土愛にあふれていて、みんな優しい。見習え人族。
食材に関しては色々とあった。
鬼ヶ島は小麦製品の無いヨーロッパみたいな食生活なのだ。
オリーブみたいな鮮烈な香りの油を樹液で出す松のような木「サラサの木」や、秋刀魚サイズの「小太刀魚」を塩漬けにして発酵させたまんまアンチョビの「イストフ」、黄色で酸味の強いトマト「黄色汁茄子」、草原で使ってたペパの実の亜種で唐辛子のような「レッドペパ」など。あと、ひよこ豆みたいな「ひな豆」。
友達も出来た。
教会の引き取っている子供達だ。俺みたいに突然目覚めるパターンや、突如角が生えるパターンで、ほか大陸から集められた子供達だ。何故かみんな不幸な境遇。
凛とした美しい顔立ちに銀縁メガネ。黒髪を後ろに秘書っぽく丸く纏めている。側頭部の二本角が異様だがとっても美人なセシリー。見た目に反して食いしん坊キャラだけどね。十四歳。
明るい顔立ちに、褐色の肌、白い髪を短く整えた牛角の元気少年カーグ。十歳。
主にこの2人と仲良く遊んでる。一人は飯の催促かもしれないけど。
鬼族は鬼の因子の制御ができるようになると成人扱いなので、この二人と一緒にリリーおばあちゃんに制御の修行をつけてもらっている。
さて、修行は闇属性の細やかな魔力制御から始まり、魔力の圧縮、角に魔力を注ぐ、鬼化の制御などだ。
鬼は死者の国という、本来この世界にはない所の存在であるため、闇属性の領分であり、感情と魔力を引き金に力が発現する。その為、鬼族は全ての人が闇属性を持っている。
鬼の力は強く、それを制御するために進化した形が角である。
角は制御器官であり、鬼の象徴で強力な武器だが、明確な弱点でもある。
角が折られると力の制御を失い、俺みたいに長く昏倒する。角はまた生え始めるけどね。
鬼化とは始祖の鬼の力を発現し、姿が一時的に変わる現象だ。凄く魔力と精神力を持っていかれる。
俺の場合は瞳が赤くなって、黒いモヤモヤが身体にまとわりつく。闇属性魔法を考えただけで行使できる。それと身体能力、とりわけ俊敏性が凄く上がる。
セシリーなんかは雷纏ったり、カーグは髪が赤くなってすごいイケメンに変身する。爆ぜろ。
あと、リリーおばあちゃんの非常に厳しい講義と実戦の魔法講座で、空間拡張と時間停止の紋章の刻まれたカバンの制作と、空間回廊の魔法を習得いたしました。
鬼ヶ島の特産品たるいっぱい入るカバンの時間停止バージョンです。
空間回廊は、行ったことのある場所に目の前の空間を一時的に繋ぐ魔法です。
そんで今日これから、成人の儀式たる、鬼との対話が始まる。
別に危険な事は無いらしい、なんか始祖の鬼と普通に問答してお終いだそうだ。
たまに力を示せって鬼も居るみたいだけどね。でも、負けてもいいんだってさ。死ぬような事にはならないって。
つーわけで、リリーおばあちゃんの所にゴー!
「…ククルス。」
「うおう! なんだ、セシリーか」
「ククルス、儀式成功したらこの前の黄色いお餅作って」
「きなこか? 別にいいよ」
「ほんと? がんばる」
「おーっす! 二人とも! これから儀式だな!」
「相変わらず声がデカイな」
「元気は俺の数少ない取り柄だからな!」
「…カーグ、うるさい。はやく行こう」
リリーおばあちゃんの居る、大司教の執務室の前に来た。大司教ってイマイチ偉いのかどうか分からん。
「失礼します」「…しつれいします」「失礼しまぁーっす!」
「ああ、もうそんな時間か。ククルス、セシリー、カーグ、座りなさい。これから儀式を行う鬼穴の山頂に向かうよ。準備はいいんだね?」
「大丈夫です」「大丈夫」「バッチリだぜ!」
「それじゃ、特別にゲートを開いてあげよう。儀式が終われば、お前たちは大人だ。好きなようにすればいい。だけど、自分のやった事には責任を持つんだ。いいね? それじゃ、ゲートを開くよ」
黒い回廊へ続く扉が、魔法陣から現れる。
俺たちはリリーおばあちゃんに続いてその扉を潜った。
二十メートル程進むと回廊の終わりに扉が見える。
扉を潜るとそこは山の頂上で、赤い大きな社が建っている。
「ここは、わたし達の先祖が亜人だった頃、死者の国への穴が空いていた所さね。この辺りは死者の国への穴が空いていた影響で、鬼の因子に魔力を注ぐと一時的に始祖の鬼様への道が開かれる。始祖の鬼様と語らい、戻ってくればあんたらは立派な鬼族の大人さね。さ、社に入って頑張ってきな。ククルスから行くといい」
「行ってきます、リリーおばあちゃん」
俺は社の扉を開き、中に入る。
目をつむり鬼の因子に魔力を注ぎ、地獄への道を開く。
『入っておいで』
声に目を開くと、社の中に赤黒い岩の道が見える穴が空いている。
俺は、一つ喉を鳴らすと、その穴に向かって歩き出した。
痛みに悶える声が聞こえる。人を呪う怨嗟が渦巻く。
気を強く持って、ひたすら歩いていると、見上げるほど大きな黒い門が見えてきた。
牛頭の鬼と、馬頭の鬼が槍と斧を俺に向けて問いかける。
『『ここから先は死者の国。生者たるお前が何用で来た』』
これへの答えは教えてもらった。
「我、大恩ある始祖たる鬼への御目通りを願う」
『『あい解った。我等どちらかが案内仕る。理由を述べて選べ』』
え?理由? 選ぶの?
えーと…
「我、前世の記憶を持つ者なり。前世では午年生まれであった故、馬頭鬼殿にお願いしたい」
『午年って地球の子? どこ生まれ?』
軽いっ! 急に軽いわ!?
「あ、えーと、日本の北の方です」
『へぇー。いいよ、ついて来て』
馬頭鬼さんの後ろについて歩く。
周りは見ない。なんでって? めっちゃグロイ表現を原稿用紙500枚くらい使いそうな風景が広がってるから。
『えーと、ここを真っ直ぐ進むとトゥルダク君の家があるから。骨の飾りが玄関にあるからすぐわかると思うよ。ちなみに好きな馬は? あと、今日これから他に鬼族の子くる?』
「鬼族はあと二人来ます。好きな馬は…寒立馬ですかね?」
『おぉー。あいつ等ゴッツくてカッコイイよね。二人ね。わかった。帰りは多分、トゥルダク君優しいから送ってくれるよ。それじゃねー』
なんだろう。硬い口調で話すより疲れた。
もう早く終わらせよう。
真っ直ぐ歩くとシルベィニアファミリア(なんかマフィアっぽいよね)な感じのお宅発見。周りが燃え盛ってるのに燃えないのは耐火設計だからですかね?
玄関に骨も確認。
いざノック!
『カタカタカタカタ! オレサマオマエマルノミ!』
ノックしたら横の骨がカタカタ言ってなんか怖いセリフはいてるんですけどぉ!?
畜生! 合体すっぞこらぁ!
『ごめん、ふざけ過ぎたね。入っておいで。鍵は空いてるよ』
とりあえず深呼吸。
ドアを開ける。
出迎えたのは黒い某有名海外バンドのTシャツと、ボロボロのジーンズを無理やりベルトで留めて着ている骨だった。
『やぁ、ククルス君だね。一回君の身体を借りたから知ってるよ。さ、中に入って』
「あ、はい」
骨の案内で家の中に入る。うん。なんだろうね普通に最新家電とかあるよ。
お掃除してくれるロボットがいるよ。
『さ、座って。あ、何飲む? 』
「ア、オカマイナク」
『ああー、今骨なのに飲み物飲めんのかよって思ったでしょ?』
(そこまで考えつかないぐらい色々おかしいだろ!?)
『じゃあ、ククルス君の精神衛生のために生前の姿になりますかね』
そういうと骨は黒いモヤモヤに包まれた。
モヤモヤが晴れると、褐色の肌に黒い髪の、いかにも中東やインド辺りの青年って感じの見た目になった。
『さて、初めましてククルス君。僕はトゥルダクの元になった一人の名も無き青年さ。あ、ククルス君って前世はゲームする人? トゥルダクじゃわかんないかな?』
「あーと、ククルスです。初めまして。えーと、玄関のネタのゲームはやってました。たしかインド辺りの病気払う人形でしたっけ?」
『そうそう。トゥルダクはインド辺りの死神兼病気そのものでね。ヤーマラジャ様、あ、日本だと閻魔様かな? に仕えてるんだ。昔の人が病気が流行った時に考えたお話に病気で死んだ僕の体験なんかも混ざって一応神様になってる。地獄にはほとんど居ないんだけど、ククルス君と波長が合ってね』
「波長ですか?」
『そう。一応この人格の事は夢で見せたけど、僕は責任の取れない馬鹿な大人が大嫌いなんだ。特に子供を大切に出来ない奴はね。ククルス君の前世もちょっとそういう所あったでしょ?』
「あー。正直それが怖くて彼女とか作る気になれませんでした」
『ある意味正しいけど、人の営みとしては間違いだよね。そうゆう恐怖を植え付けた境遇、つまり捨てた親が悪いんだけどね。今世では好きな子が出来るといいね』
「そうですね。今回はいい家族が居ますから。出来れば孫の顔は見せたいですね」
『その意気だ。この前はごめんね、人さらいでしかも子供をさらう場面だったから思わずやっちゃって。今後はならないから大丈夫。君のおじいさんにも謝っておいて』
「わかりました」
『さて、じゃあ、問答だ。あんまり固くならなくてもいいよ。なんて答えようと構わない』
「はい」
『問う。汝にとって死とはなんぞや』
「うーん、平等で不平等。そして恩恵ですかね」
『なるほど。問う。人は生まれた時、悪か、善か』
「悪ですね。だからこそ自覚して行動を正す」
『わかったよ。ありがとう。そして最後にお願いしたい』
「何ですか?」
『君は料理が得意だろう? これからの人生で飢えた子供がいたらできるだけでいい、振舞ってやってくれないかな?』
「当たり前です。だって僕もそうされたから食べるのが好きなったんですから」
『そうか、ありがとう。 それじゃ、道を開くよ。そこを通れば社に一瞬で着く』
「そうですか。ありがとうございました」
トゥルダクが開いた黒い穴に入る。
『あ、そうそう。前世の君の貯金は遺言書通り養護施設に寄付されていたよ』
そうか。よかった。
トマトに当たる物を考えて、ナス科だったなと思い当たる。
人族の成人男性の膂力は平均すると80kgを持ち上げれるくらいかな。
戦争してる人が多いから力強め。
ククルス君は背が低いから引き摺るしかないですけどね。




