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実習1日目なんだが……

 狩猟実習。

 獲物を狩るのを通じて仲間との連携や、学ぶだけでは得られない経験、旅の中で飢えても自活出来るよう学んで欲しいと言うのが目的らしいよ?

 全行程三泊四日。持ち込んだ食材と狩った獲物だけで過ごす。


 俺は完全にうさ肉パーティ合宿なテンションですけどね。

 しかし、楽しい気持ちとは裏腹に鼻につく匂いが最近増してきた。

 うちの家族や北部の風の神に近い血統の人達は大分警戒をしている。

 じいちゃん曰く、病の風ほどではないが嫌なものが近づいている。しかも匂いの濃度が上がる感覚が近いから、もし到達するなら近日中。


 しかし、今日これからの実習は決行の模様。

 気を抜かずに行こうか。


 実習は大狩猟祭りの会場になった北の山の前の草原で現地集合。

 各々グラスボードで飛んできたり前日から運んでいた荷物で野営の準備したりしております。


 俺は皆より先についたようなので、ササッと手頃な石を運んで簡易竈を形成。

 乾いた木の枝を集めておこう。あ、ドヴァンきた。


「早いねククルス」

「ウサギいっぱい捕りたくてな」

「あとの三人は南部だからもう少しかな」

「テントは俺らじゃ張れないからなぁ。他のことやってよう」

「うん。それじゃあ僕も枝集めてくるよ」

「あいよー」



 暫く枝を集めていると三人組がやって来た。


「やっぱり南部からだと遅くなっちゃうね。ごめんね二人とも」

「もうだいたいテント張るだけしかやる事ないな」

「先生に報告一番乗り出来るね!」


 三人組はテキパキテントを組み立てて、五人で先生に報告。

 暫く装備の点検や、談笑をしながら待つと先生からお呼びがかかる。

 ずらりと並ぶ十本の生徒の列。


「それではこれより、狩猟実習を行います。これはこれから旅立つ貴方達が旅先で困らないようにするための練習です。何か困った事があったら、まず班員と相談してください。それで答えがでなければ他の班に聞いてください。先生に頼るのは最終手段です。旅先に先生は居ませんからね。では、各々旅先の野営だと思って始めてください」



 班員は自分のパーティ。他の班は一緒に野営している他のパーティってとこか。

 俺達の班は自分達のテントの前に戻ると狩りの行程や野営の寝起きの順番を決める。


「だいたいこれでいいかしら」

「あー、みんなに俺から保存食のプレゼントだ。鞄に入れておいてくれ」

「わぁー。甘い匂いがするよ! これなんだろうねバーニー?」

「これはあれじゃないか? 他大陸のお菓子ってやつ? 」

「他大陸のお菓子ってすんごい高いじゃない! ククルス君どうしたの!?」

「それは小麦粉と水と砂糖、それから乾燥して砂糖をまぶした果物が入ってる。俺が他大陸のお菓子を参考に作った。材料が足りないから結構硬いぞ。一週間は持つだろうから山に入って迷ったり、獲物が取れなかった時に食べてくれ。あくまでも大変な時に食べるもんだからな。おやつに食うなよ」

「わぁ! 甘くて美味しいよバーニー!!」

「アル! 今食べる物じゃないって!! 実習終わったら食べような」

「うん。後は残しておくよ!」

「砂糖だって市場に売ってないじゃない」

「エルバ家のミラーさんに頼んで買ったんだ。高いぞ?」

「ああ、試験のあれだね」

「そうそう。それより山に入ろう。ウサギちゃんが待ってる」



 一回目の狩りはアルとバーニーが留守番。

 山に入ってウサギを探す。

 発情期を秋に迎えるウサギが、体を持たせるために夏場に餌を求めて昼でも顔を出すそうだ。それを狙う。


「クリスは魔法禁止な。山火事になる」

「別に火魔法しか使えないわけじゃないわ。便利だから使ってるだけよ!」

「クリスさんは風魔法でお願いね」

「主様、あそこになにやら大型の獣が居ますが」

「うえ!? ありゃもっと海側の方にいる岸壁熊だろ! なんでこんな山の反対側に居るんだよ!!」

「危ないやつなの?」

「危ないね。土属性の技を使う魔獣だ。どうするククルス? 実習じゃあ相手にしなくていいけど、このままだと他の班に被害が出るかもよ」

「あいつ筋張ってめんどくさいんだよなぁ。まぁいいか」


『氷の荊よ、刺より血を吸い紅き花を咲かせよ』


 岸壁熊に精霊語で作った氷の荊が絡みつく。

 岸壁に巣穴を堀り、岩を纏う熊で接近戦は物凄くやりづらい。

 関節や顔の一部は岩が付いてないのでそこを荊の刺で刺す寸法だ。

 刺さって出る血は荊が凍らせて花を咲かせる。体温と血を奪いつつ体を拘束する。

 熊は最初こそ暴れて荊を壊すが、徐々に力が入らなくなっていき、最後には痙攣している。


 俺はササッと近寄り、その首を切り落とした。


「どうする? 今日の飯どころか三日間じゃ食いきれないけど」

「仕留めたんだから持って帰りましょ? 他の班と分ければいいと思うわ」

「ククルスはウサギが食べたかったんだね。顔に書いてるよ。皆に振舞って明日から兎にすればいいじゃないか」

「あー……しょうがねぇからくま肉パーティに変更だな。ドヴァン、皮だけ剥いどくからお前のグラスボード取ってきて」

「了解。それじゃ後でね」



 落とした頭は埋めておく。

 闇魔法で軽くして、近くの頑丈そうな木にロープで後ろ足を吊るす。

 闇魔法を解くと枝がかなりしなった。

 面倒なので腹を縦に裂き、匂いの移らない肝はさっさと外し、後ろ足の内側を骨に沿って切り、肛門周りとその他の肝を纏めて落とす。

 これで臭くはならないだろう。岩のついた皮を丁寧に剥がす。

 敷物が出来そうな皮が一枚剥げたところでドヴァンが到着した。


「皮は使い道がねぇから埋める。肝も埋める。肉だけだな」


 魔法で肉をグラスボードに載せる。野営地にゴー。



「今日の狩りはお終いね」

「はぁ。ウサギちゃん……」

「ククルス、仕留めたクマを美味しく食べるのも狩った者の勤めだよ」

「わぁーってる。クリスは着いたら他の班に話して鍋を借りてきてくれ。俺達の班の鍋だけじゃ足りない。ドヴァンは土魔法で竈を増設な」

「了解しました炊事長殿」

「頼みましたよ土木長殿」

「私は? なんかないの?」

「突撃兵長?」

「攻城長?」

「なんで二人より物騒なのよ! 二人の方がよっぽど物騒なのに!」

「しがない料理人志望に何を言うかね」

「しがない料理人は熊を仕留めないわよ」

「二人ともそろそろ着くよ」


 野営地に着いたので支度を始める。

 肉を吊るして骨から外す。

 岸壁熊は岩をくっ付けているせいか筋が固い。

 肉の塊にしては細かく包丁を入れて柔らかくなるよう努める。

 肉全体に塩をふって塗り込み下味を付ける。

 くま肉は脂身から良い出汁がでるので、脂の多い所を均等に鍋に割り振る。

 赤身はひたすら包丁を入れる。2cm程の正方形にして、軽く面を焼き、

 鍋に放る。

 灰汁や血の残りを取りながら鍋を煮込み、出汁が出てきたので家で自作して持ってきたホワイトソースを注ぎ、牛乳を入れる。

 他の鍋で煮ていたカオイモ、葱っぽい野菜をクマ鍋に投下。

 少し煮込んで「岸壁熊のサイコロシチュー」の完成。


 一応魔獣肉だけあって、肉自体の味はいいが、やっぱり即席なのでなんか足りない。

 熟成させてぇ。干し肉はアウトだな。硬すぎになる気がする。


 他の班に振舞う代わりにウサギの串焼きを頂いた。

 柔らかいけれど、不思議と噛みごたえがあり、まさに肉食ってる! って感じ。



 おやつに風魔法と氷魔法で簡単なアイスクリームを作ったり、班対抗で模擬戦したり、火を囲んで歌を歌ったりしながら夜を過ごした。


 俺の火の番は明け方なので、寝てしまおうとテントに入ろうとすると、北からひときわ強い風が吹いた。


 また、あの鼻につく匂いがする。


 山を睨む。

 何かの遠吠えが聞こえた気がするが、それ以降は聞こえない。

 少しの間、山を見ていたが特に変わった様子もない。

 匂いは薄くなった。気にするのをやめてテントに入り、眠った。



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