入舎と実習準備なんだが
さて、これから学校に通う訳だが、果たして学ぶことがあるのだろうか。
言ってはなんだが、俺とドヴァンはそこそこのハイスペックだ。
生まれ持った能力と、努力して手に入れた能力が合わさって、同年代では並ぶ者が居るやもしれんが少ないだろう。
そこで、通う意義がないか考えてみる。
友達を作るのはいいかもしれない。
これから産まれるであろう兄弟のために教え方を学ぶのもいいかもしれない。
そんなこんな考えていると、いつの間にか入舎式は終わっていた。
「ククルス君とドヴァン君はこちらへ来てください」
そんな声が聞こえて来たのでそちらに向かう。
そこには人生二人目のエルフが立っていた。残念ながら男性。無論イケメン。工兵! 爆破対象を視認した!
「これから一年間最終クラスを担当するキラです。君たちはとても優秀だと聞いてるよ。よろしくね」
「「よろしくお願いします」」
「他の子達は先に教室に行っているから。最終クラスは二階の一番手前だよ。私について来て」
学び舎の階段は東端にあり、そこを登ってすぐの教室が俺たちの一年間通う教室のようだ。
爆破対象は教室の扉の前で立ち止まる。
「私が先に入るから、呼んだら入ってきて。そしたら自己紹介してね」
そういって扉を開けて中に入っていく。ちなみにスライド式ではない。外開きの普通のドア。結構ガッチリしてるようで、開けっ放し状態のままになっている。
「それじゃあ二人とも入ってきて。」
入口の地球との差異に面をくらっていたら呼ばれてしまった。
中に入ると五十人ほどの生徒、それに黒板の代わりだろうか黒い岩を平たく切って荒く研磨したような物が教壇側の壁になっている。
一クラス五十人は前世ではマンモス校扱いだったような気もするが。先生大変そうだな。
「それではククルス君から自己紹介をお願いします」
「四年分飛び級で今日からこのクラスに入る事になった、ククルス・アーヴィングです。よろしくお願いします」
「同じく飛び級で今日からこのクラスの仲間になります、ドヴァン・ドボルです。よろしくお願いします」
「先生! 飛び級は三年分までじゃないんですか!?」
「この二人は試験で満点をとったのですが、それに加えて魔法知識の試験で君たちが去年習った魔法陣よりも進んだ内容の物を書いて提出しました。技能試験でも壁を壊すほどの魔法を放ち、なおかつ複合属性魔法を扱っていましたので、他の先生方と協議した結果異例ではありますが四年分の飛び級となりました」
なにやらざわざわと生徒達が騒ぎ出した。
「お静かに。ですが五歳な事には変わりません。年上のあなた方がいろいろ教えてくださいね。いいですか?」
「「「「「はーい」」」」」
「よい返事です。では、お二人はまだ身長が低いので前の席を2つ開けてください」
ガタガタと数人の生徒が席を移る。
最前列中央の二席が開けられた。教壇の真ん前とかサボれないじゃん。
「ではお二人も席についてください。と、言っても今日は授業はありません。これで今日は何も有りませんので、帰る皆さんは気をつけて、遊んでいく皆さんは暗くなる前にうちに帰ってくださいね」
それを皮切りに俺たちは質問攻めにあった。
早熟な草原の民なので見た目よりも皆精神年齢が高く、中学校三年生くらいのレベルの会話が飛び交った。
どうやらここを卒業してから成人までの約五年間は、旅立つための準備やこれから就くであろう仕事の準備などを主にするらしい。
気の早いやつはこの期間から旅立つのだとか。
基礎的な一般教養や魔法の技術などは四年間のうちに覚えるらしく、最終クラスは旅のための自衛手段としての戦闘技能や旅の知識、つまりこれなら他大陸に行っても最低限やって行けるだろうってレベルまでの能力を付けるための一年らしい。
戦闘技能も個人の能力を鑑みて個人レッスンなどもするとか。
俺たちは戦闘に関しては魔大陸でもなければ最低限やって行けるレベルに達しているので戦闘関連の授業は自由参加だとのこと。
ただ、キラ先生としては多人数との連携なども学べるのでなるべく出て欲しいとのこと。
これなら別に一年間退屈な時間を過ごすといわけではなさそうだ。
自由な時間もそこそこあるようだし、じいちゃんに最近せっつかれている「風神祭り」の準備でもしながら学生ライフを満喫しようかな。
「つーわけでじいちゃん。風神祭りの事を話し合おうか」
「やっとやる気になったんだねククルス。グラスボードもぼちぼち草原に行き渡ってきたからミラーにどやされていたんだ」
「一時期に纏まってギルじいとかリリーおばあちゃんが来たからなぁ」
「ククルスが産まれてからここ最近は特に忙しかったからね」
「これから兄弟が産まれればまた騒がしくなるよ」
「そうだね。それで? どんな風なお祭りにするんだい?」
「そうだな……とりあえずグラスボードで競技者の速さを競う部門と、風の神に捧げる歌のうまさを競う部門なんか浮かぶんだけど」
「なるほど。歌はわかるけど速さはどう競うんだい?」
「障害物なんかを置いた道を作るんだ。その道を一番に駆け抜けた人が勝ち。それを繰り返して勝った人達だけで最後競争すればいい。あと、真っ直ぐな道を作ってグラスボードの性能の速さ対決なんかも面白いかもね」
「なるほど。グラスボードの性能対決はまだ早いね」
「そんで、その道の周りに席を置いて皆で見るんだ。お酒や簡単な料理なんかも売ればいい」
「ふーん。ミラーが飛びつきそうだね。他になんかないのかい?」
「そうだなー他には……」
そんなこんなしてると時期は夏になった。
学校でドヴァンと合体魔法を試してみようとか、砂糖の使い道や前世の知ってる食べられる植物なんかの話をしながら昼の休憩にご飯を食べてる時である。
「ねぇ、ククルス君。ドヴァン君」
「ん?えーと……」
「ククルス、クリスさんだよ」
「さんなんか付けなくて良いわ。それより二人とも、狩猟実習の班は決めた?」
「狩猟実習? そんなのあったっけ?」
「ごめんねクリスさん、ククルスは食べ物が絡まないと物覚えが悪いんだ」
「自覚はある。ああ、あれだろ?北の山の手前で野営の準備して山に狩りに入る奴だろ?」
「そう! その実習の班、私達の班に入らない? あと二人なの。それに二人が居ると心強いわ」
「あー、忘れてたぐらいだから俺はいいけど。ドヴァンは?」
「僕も別に約束とかはないからいいよ」
「やった! それじゃあ班申請の紙に名前を書いてもらうから、今日の授業が終わったら教室に残ってて。ついでに他の二人とも顔合わせしてもらうわ」
「あーい。了解でーす」
「わかりました」
「それじゃあお願いね!」
この時からだろうか。
なんだか鼻につく匂いが風に乗って流れてくるようになった。
それは北から吹いている。
その時の俺は飯の味が変わってしまい少しだけ苛立っただけだったが。
授業が終わった。
そのまま座ってドヴァンと談笑していると三人の生徒が寄ってきた。
「二人とも。知ってるかもしれないけど、バーニーとアルよ」
「バーナムだ。気軽にバーニーでいいよ。二人には戦闘技能の授業でけっこうやられてるから自己紹介はいいよ。よろしく」
「アルフォンスだよ。僕も気軽にアルって呼んで。二人が同じ班なら頼もしいよ」
クリスは赤毛の髪を腰まで垂らしたストレートヘアの気さくな感じの女の子。魔法陣から火の魔法をガトリングみたいに連射する戦闘スタイル。精霊は火属性の小さなトカゲ。
バーニーはくすんだ金髪を少し伸ばした背が高めの好少年だ。戦闘技能の授業で草原の民には珍しく斧を使って戦っていたのでよく覚えてる。精霊は土属性の一つ目の小鬼。
アルは黒髪を刈り上げた背の低い少年だ。いたずらっ子な感じ。たしか短剣を使ってたっけ。精霊は風属性のフクロウだ。
みんな精霊は中級だとか。
そのあと話をすると三人は幼馴染みなんだとか。
アルだけは2歳年下で、二人と離れたくないから飛び級したんだって。
クリスマスだと危険な匂いがするが、夏だし、まー大丈夫だろう。
そのあとは数日間簡単な連携訓練や、野営に使う物の準備なんかをした。
本番は三日後である。
勿論ククルス君謹製調理バッグ(簡易版)もバッチリだ。
ギルじいに直剣を借りて、母ちゃんがいつの間にか仕立てたパロルの皮のベストを着込んだ。
軽くギルじいと模擬戦するが問題ない。
今回の獲物はうさぎだ。
体長50cmほどのウサギが夏には巣穴から餌を求めて出るらしい。
たくさん捕るぞー!
ウサギ
本来のうさちゃんは山にあんまりいないけど、異世界なんで許してください。
草食で夜行性。一部は虫も食べるらしいよ。耳は動く。ベテランのウサギになると口がバツマークになるとか。
割と色んな地域で食べられている、日本だと日の丸肉という名前で秋田で養殖してた気がする。
肉は鶏肉に近いとも言われる。柔らかい。海外のプレスハムに粘着材としてたまに入ってる。
筆者はトマト煮込みがオススメ。




