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閑話「ベーコン」

短め。

今日はもう一話夜に上げる予定。


 魔大陸には猪人(オーク)という獣人族がいる。

 これは遠い昔に絶滅した知恵ある魔獣カタラクトボアが、縄張りに侵入した獣人を孕ませた事から始まった種族だ。

 彼等は厚い筋肉と毛皮を持ち、種族の生まれを恥として貞操を固く守る高潔な種族だ。魔王配下の近衛騎士にはそれなりの数の猪人が居ると聞けば、その高潔な精神も解っていただけると思う。

 そんな彼らが始祖たるカタラクトボア以外に恥と感じ、敵愾心を燃やす種族がいる。


 かつて魔大陸の魔獣や暮らしに恐れをなし、猪人から分れ他大陸に移り住んだ豚人(レッサーオーク)という種族だ。

 彼等は猪人と違い厚い毛皮や筋肉を持たず、醜く太り、食い意地が汚く、性欲が強い。そして何より悪事をこのむ。

 しかし、そんな種族が他大陸に住めるはずもない。現住の種族に追い出されてしまい殆どは死滅した。


 そう。争いで溢れる人族の大大陸以外には。











 人族の大大陸南部の西側に、廃坑になった鉱山が数多く存在する。

 そこを根城に豚人は行商人を襲い、村を襲い、時には国からの依頼で人を攫う。

 人族の大大陸の各国では体のいい汚れ仕事を押し付ける役として討伐などはされない。また、いくら猪人の劣化した豚人とはいえ、人族の身体能力には勝っている。

 そんな理由から彼等は数百年生き延びてきた。


 しかし、そんな彼等の命の殆どは今日尽きる。


 一人の小さな(どうじ)によって。
















「大変ですお頭!!!」


 そんな声で俺の情事は中断された。腹立たしい。攫ってきた女を放り投げ、声を掛けてきた子分に苛立ちをぶつけるように怒鳴る。頭目というのは恐怖と威厳が大事なもんだ。


「てめぇ!! ヤってる最中は声をかけんなって言わなかったかぁあ!!! あぁああん!! 大したこと無かったらおめぇは今日の晩飯にすっからな!!!」

「す、すんません! 」

「いいから言えよこらぁ!!」

「ひっ! え、えーと、隣の山の帝国に雇われてる盗賊団が壊滅しました!!」

「エルランか!? サデオ帝国に雇われてんならこの近辺じゃなにもされない約定だろうが!?」

「そ、それが……ぼ、冒険者ギルドが俺達を正式に魔獣指定したそうなんす!!」

「フゴッ!!!? な、何人だ!!! 何人の冒険者にやられた!!!」

「て、偵察の奴が言うには小さな角の生えた子供一人って……」

「子供一人……? 草原の民か? 草原の民一人っぽっちじゃエルランがやられるとは思えねぇんだが……それに角だと?」

「はい。草原の民のような見た目らしいんですが、額に黒い小さな角があったと……」

「鬼族の子供か? しかし、そんな冒険者の情報はないぞ……ま、待てよ! どうやってエルラン共は殺られてた!?」

「く、首をキレイに切られてたと……それと……エルランの居た坑道の奥には骨しか無くて……その、骨も鍋に入ってたって……」

「嘘だろ!? 奴は魔獣専門なはずだ!! いや、今の俺らは魔獣扱いか!! 畜生!! やばいっ!! 逃げるぞ!!!」



 俺は荷物を纏め子分の声も聞かず逃げる準備をする。

 鎧を装備し始めると、悲鳴と耳に障る甲高い笑い声が聞こえてきた。


「う、嘘だろ!? もう来たってのかよ!!」


 俺は鎧も中途半端に剣をもって攫った女共を入れる隠し牢屋に逃げ込む。

 汚い麻布をかぶり震えながら入口を見据える……

 やがて笑い声が近づき、止まった。


 まるで柔らかいものを切るかのように入口を塞いだ岩を反りのある剣が縦、横と通過する。

 ドスンと岩が倒れ、光が差すとそこには黒い角を携えた、子供が一人立っていた。竜たちの孤島群から流れてくるカタナとかいう反りのある剣と、それよりはそりは少ないが似たような刀身、鍔はなく、柄も細い、子供の身長を有に上回る剣を両手に持っている。


 く、首切り童子……


 突如現れ、彗星のように冒険者ランクを駆け上がり、魔大陸に渡った冒険者。

 大概の魔獣の首を落とし、肉は絶対に市場に流さない。

 草原の民だと言われているが、鬼族と同じく額に角を持つ。

 噂では携える二本の剣のうち一本は魔剣であり、血を吸う度けたたましい笑い声をあげるという。


 やばい。

 はやくいなくなれ。

 首切り童子は部屋を見渡すと、攫った女共の鎖を外していく。

 ざり、ざり。

 足音が近づく。

 ざり、ざり。

 頼む、通り過ぎてくれ。

 ざり、ざり。

 足音が止まる。俺は覚悟を決めて剣を握る。

 首切り童子の剣の先が布を引っ掛け取り払う。


「みいつけた」


 俺は勢いよく剣を振り上げ!! 降ろす!!!

 キンッ

 ボトリ……

 首切り童子が俺を見下ろしている。

 ああ、そうか……剣ごと切られたのか……

 暖かい何かが顔にかかる……


「お゛……に゛……」

「なにを言ってるんだ、昔から童子は鬼と子供と神仏の名前だろう」


 何を言っているかワカラナイ。

 視界がアカクソマル

 ダメダ……













 かくして豚人は少数を残し世界から忘れられる。

 その少数もいずれ消えるだろう。


 かつて豚人の一部を預かる盗賊の頭目だった物は、煙に燻されている。

 目を爛々と輝かせて肉の完成を待つ童子は何やら手帳に文字を書き、そのあとに呟いた。


「猪の人はいい人ばっかりだったから、まぁこれで前世の悔いは無くなったという事にしよう。しかし、猪本体は絶滅かぁ……」

オーク食べる作品もあるし、言葉の通じるオーク食べてもいいよね?


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